ヒゲペンギンは、あごの下を横切る細い黒い帯が目印のペンギンです。この帯がヘルメットのあごひものように見えることから、この名前がつきました。見た目はかわいらしいのですが、実はペンギンの中でいちばん気が強い、けんかっ早い種としても知られています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:ペンギン目 Sphenisciformes
- 科:ペンギン科 Spheniscidae
- 属:アデリーペンギン属 Pygoscelis
- 種:ヒゲペンギン Pygoscelis antarcticus
和名・英名
- 和名:ヒゲペンギン
- 英名:Chinstrap penguin
名前の由来
ヒゲペンギンの名前は、あごの下を横切る細い黒い帯に由来します。この帯がヘルメットのあごひものように見えることから、英語では「chinstrap(あごひも)ペンギン」と呼ばれます。和名の「ヒゲ」も、この黒い帯をヒゲに見立てたものです。ほかにも黒い帯を輪に見立てた「ringed penguin」や、やかましい鳴き声にちなむ「stonecracker(石割り)penguin」など、多くの別名を持っています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約68〜76cm・体重 約3.2〜5.3kg(中型) |
|---|---|
| 分布 | 南極半島とまわりの島々(周極分布) |
| 生息環境 | 南極周辺の岩場の海岸と、まわりの海 |
| 食べ物 | オキアミ・小魚・エビ・イカ(海の中で捕る) |
| 寿命 | 野生でおよそ15〜20年 |
| 保全状況 | IUCN:軽度懸念(LC) |
あごの黒い帯がトレードマーク
黒い帯と白い顔
白い顔とあごの黒い帯
ヒゲペンギンは体長70cm前後、体重3〜5kgほどの中くらいのペンギンです。顔は白く、目のうしろまで白がのびています。目は赤みがかった茶色で、くちばしは黒く短めです。頭からせなかは黒く、あごの下を細い黒い帯が横切ります。この帯が名前の由来です。
ずんぐりした体と海のカモフラージュ
足はピンク色で、短くてずんぐりしているため、歩くとよちよちと左右にゆれます。背中の黒とおなかの白は、海の中で上や下から見つかりにくくするカモフラージュにもなっています。

そっくりな3種の見分け方
ヒゲペンギンは、同じアデリーペンギン属のアデリーペンギン・ジェンツーペンギンとよく似ています。見分けるコツは顔です。アデリーは目のまわりの白い輪、ジェンツーは頭の上の白い帯とオレンジのくちばし、そしてヒゲはあごの下の黒い帯が目印になります。あごに一本の線があれば、それがヒゲペンギンです。
じつはいちばん気が強いペンギン
愛らしい見た目とはうらはらに、ヒゲペンギンはペンギンの仲間でもっとも気が強く、攻撃的だといわれています。自分の巣に近づくものには、天敵の海鳥だけでなく、人間やほかの種類のペンギンにさえ立ち向かっていきます。相手が自分より大きくても、ひるまずにくちばしやつばさで応戦するほどの負けん気の持ち主です。南極という厳しい環境で、大切な卵とヒナを守りぬくために、この強い気性が役立っているのかもしれません。

1日1万回の「4秒うたた寝」
ヒゲペンギンには、とてもおどろく習性があります。子育て中の親鳥は、なんと1日に1万回以上も、たった4秒ずつの短い居眠りをくり返すのです。この超短時間の眠りは「マイクロスリープ」と呼ばれます。こま切れに眠ることで、卵やヒナをねらう天敵につねに目を光らせながら、1日の合計ではしっかりと睡眠時間をかせいでいます。しかも脳の右半分と左半分を交代で休ませることもでき、少しずつ賢く休む名人なのです。この発見は2023年に科学誌で報告され、大きな話題になりました。
南極での暮らしと子育て
ヒゲペンギンは、南極半島やまわりの島々の岩場に、大きなコロニー(集団繁殖地)をつくって暮らしています。ときには氷山によじ登る姿も見られ、氷と岩の世界にすっかり適応した南極の住人です。

石の巣と2個の卵
繁殖期になると、小石を丸く積み上げた巣を岩場に作ります。ふつう2個の卵を産み、オスとメスが6日ほどずつ交代で温めます。卵は約37日でかえります。この抱卵の交代のあいだ、片方の親は海へ出かけて栄養をたくわえ、もう片方が巣を守るという役割分担をしています。
ヒナの成長
生まれたヒナは、灰色のふわふわした綿毛におおわれています。20〜30日ほど巣で親に守られたあと、ヒナどうしが集まった「クレイシュ」という群れに加わります。その後、生後50〜60日ほどで大人の羽に生えかわり、はじめての海へと泳ぎ出していきます。
食べもの・天敵と保全
食べものと天敵
ヒゲペンギンの主な食べものは、南極の海にすむオキアミや小魚・エビ・イカです。餌をとるために、1日で海岸から80kmも沖まで泳いでいくこともあります。海でのいちばんの天敵はヒョウアザラシで、毎年これによって数が5〜20%も減るといわれています。陸では、卵やヒナをねらうトウゾクカモメやオオフルマカモメが天敵です。
数の多さと保全・会える場所
ヒゲペンギンは世界に約800万羽いるとされ、ペンギンの中でもっとも数が多い種のひとつです。そのためIUCNレッドリストでは「軽度懸念(LC)」とされています。ただし地球温暖化で餌のオキアミが減り、一部の繁殖地では大きく数を減らしています。エレファント島では、50年たらずで個体数がおよそ半分になったという報告もあります。日本では名古屋港水族館や横浜・八景島シーパラダイスなどで会うことができ、あの気の強い性格を間近で観察できます。



参考
- IUCN Red List: Pygoscelis antarcticus(軽度懸念LC・約800万羽/気候変動で減少傾向)
- Wikipedia「Chinstrap penguin」英語版(名前の由来・別名/Description=赤茶色の目・ピンクの足/Behaviour=最も攻撃的/Ecology=ヒョウアザラシで年5〜20%減)
- Libourel et al. (2023) Science「Nesting chinstrap penguins accrue large quantities of sleep through seconds-long microsleeps」(1日1万回超の4秒マイクロスリープ)
画像出典
アイキャッチ画像: Gordon Leggett, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


