ケープペンギン

海鳥類

【鳥類図鑑】ケープペンギン

分類と学名

分類階層と学名の由来

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:ペンギン目 Sphenisciformes
  • 科:ペンギン科 Spheniscidae
  • 属:フンボルトペンギン属 Spheniscus
  • 種:ケープペンギン Spheniscus demersus
  • 和名:ケープペンギン
  • 英名:African Penguin / Jackass Penguin

学名の種小名「demersus」はラテン語で「潜る者」を意味し、水中での高い採餌能力を反映した命名である。

別名:アフリカペンギン/ジャッカスペンギン

ケープペンギンは、アフリカ南部に生息する唯一のペンギンであることから「アフリカペンギン」とも呼ばれる。さらに「ジャッカスペンギン」という通称は、ロバ(jackass)に似た鳴き声に由来しており、観察地ではこの愛称が用いられることもある。

属内での位置と近縁種との関係

ケープペンギンはフンボルトペンギン属に属し、近縁にはフンボルトペンギン(南米)、マゼランペンギン、ガラパゴスペンギンがいる。これらはいずれも温暖な沿岸域に分布する中型種であり、共通して体側に黒い斑点や白黒の帯状模様をもつ。遺伝的・形態的に近縁であるが、分布地域は明確に異なる。

形態的特徴

体格・羽毛配色・識別点

成鳥の体長は約60〜70cm、体重は約2.5〜4kgと中型で、白地の胸に点在する黒い斑点が個体識別の特徴となる。背面は黒色で、腹部は白色。顔から目の上を通り後頭部へ伸びる白い帯状の模様があり、目の後方にピンク色の皮膚領域がある。

くちばし・斑点模様・眼周囲の構造

くちばしは黒く、太くてやや湾曲しており、基部近くに白いラインが入る個体もある。目の上に位置するピンク色の皮膚部分は体温調節に関与する血管構造をもち、気温が高い時ほど赤みを帯びる。胸部の斑点模様は個体ごとに異なり、研究者による識別にも用いられている。

成鳥と幼鳥の外見的違い

幼鳥は斑点がなく、顔から喉にかけて灰褐色の羽毛に覆われ、白黒の模様が不明瞭である。くちばしも細く短く、目の周囲の皮膚も未発達で目立たない。成長とともに斑点が出現し、羽毛のコントラストも明瞭になっていく。

行動と生活特性

鳴き声とその機能(ジャッカス由来)

ケープペンギンの鳴き声はロバのいななきに似た大きな声で知られ、つがいの呼び合いやコロニー内での自己主張に用いられる。音声は長く太い声帯を通じて発せられ、他のペンギン類と比べても多様な音調を使い分ける。

陸上・水中での行動と移動様式

陸上では直立して歩行し、両足を交互に使ってバランスをとる。岩場や砂地を移動する際には腹ばいになって這うように進むこともある。水中では翼を使って推進する翼泳を行い、俊敏な動きで餌を捕らえる。平均の潜水深度は30〜60m、潜水時間は1〜2分程度である。

社会構造・つがい・コロニー内の役割

本種は終生つがい制をとることが多く、毎年同じパートナーと再びペアを形成する。コロニー内では巣の周囲に一定の縄張り意識を持ち、くちばしや翼による威嚇行動が観察される。鳴き声と姿勢で個体識別を行い、親子間でも音声による認識が行われる。

生息環境と分布

ナミビア〜南アフリカ沿岸の分布域

ケープペンギンは、アフリカ南西部沿岸に限定的に分布しており、ナミビアから南アフリカ共和国の東ケープ州にかけての海岸線および島嶼部に生息する。代表的な繁殖地にはダッセン島、ロベン島、ボルダーズビーチ(シモンズタウン)などがある。いずれも冷涼なベンゲラ海流の影響を受ける海域である。

繁殖地の特徴と立地選択

繁殖地は海岸線の岩場や砂浜、小規模な島嶼などに形成される。植生の少ない乾燥地や砂丘にも営巣するため、遮蔽のために岩陰や灌木の下を利用する例も多い。一部のコロニーでは人間の建造物(防砂壁や廃屋など)に営巣する個体も見られる。

気温と営巣環境の関係

本種は温帯性ペンギンであり、高温環境にも適応しているが、直射日光や高温による熱ストレスは繁殖成功率に影響を与える。そのため、近年は人工的な営巣シェルター(巣箱)を導入し、巣内温度の安定化を図る試みが進められている。

繁殖と育雛

巣穴の構築と材料

自然環境では、地面に掘られた浅い巣穴や岩陰に草・羽毛・枝などを用いて巣を形成する。砂地に巣を掘る場合、周囲の風や水による浸食の影響を受けやすいため、近年は人工巣の利用率が高まりつつある。

抱卵・ヒナの成長・独立までの流れ

通常2個の卵を産み、オス・メスが交代で抱卵する。抱卵期間は38〜42日程度。孵化後、親は交互に採餌に出かけ、巣内でヒナを保温しながら餌を与える。孵化からおよそ60〜90日で巣立ちを迎えるが、巣立ち後もしばらくは成鳥に同行して採餌を学ぶ段階が存在する。

親子の識別・個体間コミュニケーション

コロニーでは多くの個体が密集するため、音声による親子識別が重要な手段となる。親鳥は特有の鳴き声を用いてヒナを呼び、ヒナも応答する。この鳴き声は個体ごとに異なり、遺伝的・環境的要因で形づくられる。

食性と採餌行動

餌の種類と採餌時間帯

主な餌はイワシ類(Sardinops sagax)、アンチョビ類(Engraulis capensis)、イカ、オキアミ類などである。日中に海洋表層で活発に採餌し、獲物の分布が深くなる時期には潜水深度も増加する傾向がある。

潜水能力・距離と戦略

通常の潜水深度は30〜60m、長ければ100mに達することもある。採餌距離は繁殖地から平均20〜40km圏内であるが、非繁殖期には100km以上移動することもある。短時間・連続的な潜水を繰り返す「反復採餌」が主な戦略である。

外洋での移動パターン

非繁殖期や換羽期後には、より外洋へと分散する長距離回遊が観察されており、個体によっては数百km離れた海域に出現する例もある。近年の衛星タグ追跡では、潮流・水温・餌密度との関連が研究されている。

保全状況と脅威

IUCN評価と個体数の減少

ケープペンギンは、IUCNレッドリストにおいて「絶滅危惧種(Endangered)」に指定されている。20世紀初頭には200万羽以上の個体が記録されていたが、2020年代には約2万5千繁殖ペア程度まで減少したと報告されており、長期的な減少傾向が続いている。

漁業・気候・油流出の影響

最大の脅威のひとつは漁業による餌資源(イワシ・アンチョビ類)の枯渇である。商業漁業とペンギンの採餌域が重なることで、繁殖成功率が著しく低下する例が確認されている。加えて、海水温の上昇により餌の分布が変化し、ペンギンが遠くまで移動せざるを得なくなる問題も深刻である。また、過去には油流出事故による大量被害が発生しており、羽毛の防水機能が損なわれることで死に至る例が多かった。

保護政策と国際的取り組み

南アフリカ政府および各保護団体は、繁殖地の立入制限、人工巣箱の設置、衛星追跡による行動モニタリング、保護区の拡大といった対策を進めている。また、重大な油流出事故に対しては、ペンギンの洗浄・リハビリ施設が設置され、国際協力のもとで数千羽規模の救護が行われた実績もある。

 

研究トピック・豆知識

鳴き声の分析と個体識別

ケープペンギンの鳴き声は個体ごとに異なり、録音データを用いた音響解析により、親子・つがい間の識別が可能であることが示されている。ジャッカスペンギンの通称通り、音声は大型で通るが、細かい周波数成分に個体差がある。

人工巣設置の有効性と課題

気温上昇や植生の減少により、自然の陰や砂丘に巣を構築することが困難になっているため、プラスチックや木材による人工巣の設置が進んでいる。一部では成功率の向上が見られるが、内部温度管理や設置場所の選定が今後の課題である。

観光地としての影響と配慮

ボルダーズビーチやロベン島など、観光資源としての利用が進むコロニーでは、遊歩道の設置や観察距離の規制によって、ペンギンへのストレス軽減が図られている。持続的な観光と保護の両立がテーマとなっており、教育プログラムも併設される例が増えている。

形態と生態の所感

ケープペンギンは、赤道に最も近い分布域をもつペンギンのひとつとして、温帯〜亜熱帯環境への高い適応性を示す鳥類である。その一方で、餌資源や環境変動への感受性も高く、急速な個体数減少に直面している。巣穴掘り、音声識別、人工巣の利用といった点は、行動生態と保全科学の交点にあり、今後も注目される対象である。

 

ペンギン
ペンギンは飛べない海鳥として南半球に広く分布し、高い潜水能力と独自の繁殖行動を持つ分類群である。18種以上に分類される全種の特徴と進化・分布・保全状況を解説。
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