エゾオオカミ

絶滅動物

エゾオオカミは、かつて北海道にすんでいたオオカミです。本州にいたニホンオオカミよりずっと大きく、大陸のオオカミに近い姿をしていました。北海道の先住民であるアイヌの人々は、このオオカミを「ホロケウカムイ(遠吠えの神)」として敬っていました。ところが明治の開拓の中で家畜をおそう害獣とされ、毒や賞金を使った組織的な駆除によって、1889年ごろに絶滅しました。人間の手で、はっきりと滅ぼされてしまった動物の一つです。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:哺乳綱 Mammalia
  • 目:食肉目 Carnivora
  • 科:イヌ科 Canidae
  • 属:イヌ属 Canis
  • 種:タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)Canis lupus
  • 亜種:エゾオオカミ Canis lupus hattai

和名・英名

  • 和名:エゾオオカミ(蝦夷狼)
  • 英名:Hokkaido wolf / Ezo wolf

名前の由来

「エゾ(蝦夷)」は、北海道の古い呼び名です。つまりエゾオオカミは「北海道のオオカミ」という意味になります。学名の hattai(ハッタイ)は、北海道の動物を研究した動物学者・八田三郎にちなんで名づけられました。タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)の亜種の一つで、同じ日本にいたニホンオオカミとは、別の亜種にあたります。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ肩の高さ 約70〜80cm・体長 約1.2〜1.5m・体重 約25〜40kg(大陸のオオカミ並み)
分布北海道・樺太(サハリン)・千島(国後・択捉)※絶滅
生息環境森林・山地・原野
食べ物おもにエゾシカなどの大型の草食動物
絶滅した時期1889年ごろ(明治時代)
絶滅の原因明治の開拓による組織的な駆除(毒餌・賞金)

ニホンオオカミとの違い

エゾオオカミの剥製
剥製(北海道開拓記念館)。がっしりした大陸型の体つきがわかる(Katuuya, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

本州のオオカミより、ずっと大きい

日本には、二種類の野生のオオカミがいました。本州・四国・九州にいた「ニホンオオカミ」と、北海道にいた「エゾオオカミ」です。この二つは、大きさがかなり違いました。ニホンオオカミは、世界のオオカミの中でもとくに小さい種でした。いっぽうエゾオオカミは肩の高さが70〜80cmもあり、大陸のオオカミと同じくらいの大きさでした。足も大きく、あまりの立派さに、かつては「レックス(王)」という学名で呼ばれたこともあったほどです。

じつは、別の系統のオオカミ

大きさだけでなく、たどってきた道すじも違います。エゾオオカミは、氷期に陸つづきだった樺太を通って、大陸から北海道へやってきたオオカミの子孫でした。そのため、大陸のオオカミととても近い関係にあります。いっぽうニホンオオカミは、もっと古い時代に日本に渡って独自に小さく進化した、別の系統です。同じ「日本のオオカミ」でも、二つはルーツからして違う仲間だったのです。

ニホンオオカミ
ニホンオオカミは、かつて本州・四国・九州の山々にすんでいた、日本固有のオオカミです。オオカミの中でもいちばん小さい仲間の一つで、1905年を最後に姿を消し、絶滅しました。「大口真神(おおぐちのまがみ)」として神さまのように敬われた、日本人に...
エゾオオカミニホンオオカミ
すみか北海道・樺太・千島本州・四国・九州
大きさ大きい(肩高70〜80cm)とても小さい(世界最小級)
系統大陸のオオカミに近い独自に小型化した別系統
絶滅1889年ごろ1905年

北海道の頂点捕食者

エゾシカを狩る、群れのハンター

エゾオオカミは、北海道の自然の中で頂点に立つ捕食者でした。おもな獲物は、大型の草食動物であるエゾシカです。家族を中心とした群れをつくり、力を合わせてシカを追いつめる、かしこいハンターだったと考えられています。広い行動範囲を持ち、一日に数十kmを移動することもありました。深い雪の上でも動けるじょうぶな足を持ち、きびしい北の冬にもよく適応していました。

シカの数を調整する役割

頂点捕食者であるエゾオオカミは、エゾシカの数をほどよくおさえる、大切な役割をになっていました。弱った個体や年老いた個体を狩ることで、シカの群れ全体を健康にたもつ働きもしていたのです。同じ北海道にすむヒグマとは、ときに獲物の死骸をめぐって顔を合わせることもありましたが、ふだんは食べ物や暮らし方をずらして共存していました。エゾオオカミは、北海道の生態系をささえる、かなめのような存在でした。

アイヌと、狼の神「ホロケウカムイ」

北海道の先住民であるアイヌの人々にとって、オオカミは特別な存在でした。アイヌはオオカミを「ホロケウカムイ」、つまり「遠吠えする神」と呼んで敬いました。群れで力を合わせてシカを狩るオオカミの姿が、自分たちの狩りと重なって見えたからだといわれます。オオカミは、かしこく勇かんな狩りの神だったのです。アイヌの決まりでは、オオカミを毒や無駄な方法で殺すことは戒められていました。その肉や毛皮をむだにすると、オオカミがおこると信じられていたのです。人とオオカミが、たがいに敬いながら生きる関係が、そこにはありました。

明治の開拓と、絶滅

洋式牧場がやってきた

明治時代に入ると、政府は北海道の本格的な開拓を始めました。米づくりのかわりに、アメリカ式の大きな牧場をつくって、牛や馬を放し飼いにする計画です。このとき、アメリカから招かれた顧問エドウィン・ダンらが、牧場づくりを指導しました。広い放牧地に、たくさんの家畜が飼われるようになります。ところが、そこはもともとエゾオオカミがすむ土地でもありました。オオカミと家畜が、同じ場所でぶつかることになったのです。

シカが減り、家畜をおそうように

ちょうどこのころ、エゾオオカミの主食であるエゾシカが、大きく数を減らしました。1879年の記録的な大雪や、人による狩りが重なったためです。餌となるシカを失ったオオカミは、生きるために、放牧されている牛や馬をおそうようになりました。家畜を殺されて困った開拓者たちにとって、エゾオオカミは、退治すべき「害獣」と見なされていきます。こうして、人とオオカミの関係は、大きく変わってしまいました。

毒と賞金による駆除

開拓使が出した賞金

北海道の開拓を進める役所「開拓使」は、オオカミを退治した人に賞金をあたえるしくみをつくりました。オオカミを一頭しとめるたびにお金がもらえるため、駆除はいっそう熱心に行われます。こうして、各地でエゾオオカミが組織的に狩られていきました。

ストリキニーネの毒餌

もっとも大きな打撃となったのが、ストリキニーネという猛毒を使った毒餌です。アメリカ式の牧場では、家畜をおそう動物を毒でへらすやり方が取り入れられました。オオカミは群れで行動するため、一頭が毒餌を食べると、集まってきた仲間も次々と口にしてしまいます。そのため、いちどに多くのオオカミが命を落としました。かつてオオカミを毒で殺すことを戒めたアイヌの教えとは、正反対のやり方でした。

1889年ごろ、姿を消した

最後のエゾオオカミが捕らえられた場所
最後のエゾオオカミが捕らえられたと伝わる場所(北海道)(禁樹なずな, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

組織的な駆除がわずか十数年つづくと、あれほどいたエゾオオカミは、みるみる姿を消していきました。確かな記録としては、1889年ごろに絶滅したとされています。その後も1900年代の初めごろまで、山の中で遠吠えを聞いた、姿を見たという証言はありました。しかし、生きた個体が確かめられることは、二度とありませんでした。北海道のオオカミは、人間が来てからほんの短い間に、地上から消えてしまったのです。

絶滅が残したもの

エゾオオカミがいなくなった北海道では、その後エゾシカが大きく数を増やしました。シカを狩る頂点捕食者がいなくなったためです。増えすぎたシカは、農作物や若い木を食べ、森の植物のバランスをくずす原因にもなっています。この出来事は、頂点捕食者が一種いなくなるだけで、自然全体が大きく変わってしまうことを教えてくれます。近年は、ヨーロッパのようにオオカミをよみがえらせて自然を立て直そう、という議論もあります。ただし人の暮らしや家畜との折り合いなど、課題は多く残されています。

いまに残るもの

北海道大学のエゾオオカミ剥製
北海道大学に残るエゾオオカミの剥製。数少ない本物の一つ(William Harris, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

エゾオオカミが絶滅したのは、写真がまだ広まる前のことでした。そのため、生きた姿をとらえた写真はほとんど残っていません。いま本物を知る手がかりは、北海道大学などにわずかに残る剥製や骨、そしてアイヌの言い伝えです。北の大地を治めた誇り高いオオカミは、人間の都合によって、たった十数年で滅ぼされました。その記憶は、人と自然の関わりを考えるうえで、忘れてはならない教訓として語り継がれています。

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参考

  • IUCN Red List「Canis lupus hattai」(絶滅EX・1889年)
  • 環境省レッドリスト(エゾオオカミ=絶滅)
  • Wikipedia「Hokkaido wolf」英語版(本州のニホンオオカミより大型で大陸のオオカミに近い・肩高70〜80cm/樺太経由で渡来/アイヌはホロケウカムイ=遠吠えの神として敬い毒や無駄な殺しを戒めた/明治期にアメリカ式牧畜の導入とともにストリキニーネ毒餌と開拓使の賞金で駆除され1889年に絶滅)

画像出典

アイキャッチ画像: St. George Mivart (1890), Public domain, via Wikimedia Commons

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