ヒマラヤマーモットは、ヒマラヤ山脈やチベット高原の標高3,000〜5,500mにすむ、世界でも指おりの高地で暮らす大型のマーモットです。大きな家ネコほどの体つきで、古代ギリシャでは「黄金を掘るアリ」の正体だったとも語られてきました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:齧歯目(げっしもく) Rodentia
- 科:リス科 Sciuridae
- 属:マーモット属 Marmota
- 種:ヒマラヤマーモット Marmota himalayana
和名・英名
- 和名:ヒマラヤマーモット
- 英名:Himalayan marmot
タルバガンに近い仲間
ヒマラヤマーモットは、モンゴルにすむシベリアマーモット(タルバガン)にとても近い仲間です。毛が短めで尾も短いグループに属し、2つの亜種が知られています。1841年に、ヒマラヤの毛皮をもとにイギリスの学者ホジソンが記載しました。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約45〜67cm(尾は12〜15cm) |
|---|---|
| 体重 | 約4〜9kg(秋は平均7kg超まで太る。マーモット最大級) |
| 分布 | ヒマラヤ〜チベット高原(インド・ネパール・ブータン・中国・パキスタン) |
| 生息環境 | 標高3,000〜5,500mの高山草原 |
| 食べ物 | 高山の草・葉・花(完全な草食) |
| 寿命 | 野生で10年前後とされる |
| 保全状況 | IUCN:軽度懸念(LC) |
※ 軽度懸念(LC)とは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「今すぐ絶滅する心配は小さい」とされるランクです。広く分布し数も多いためですが、地域によっては狩りで減っている場所もあります。
大きな家ネコほどの体
マーモット最大級の体格
ヒマラヤマーモットは、世界のマーモットの中でも最大級です。体長は45〜67cmで、大きな家ネコくらいの大きさがあります。体重は季節で大きく変わり、秋には平均で7kgを超えるほど太ります。長い冬眠にそなえて、脂肪をたっぷりため込むためです。

赤みがかった毛と黒い鼻すじ
毛は厚くふさふさとしています。背中は赤みがかった灰色で、耳・おなか・足は赤みのある黄色っぽい色です。鼻すじと尾の先が濃い茶色なのも見分けるポイントです。この分厚い毛皮が、氷点下になる高地の寒さから体を守ります。
高地の寒さに耐える体
ヒマラヤマーモットがすむ標高では、空気がうすく、気温の変化もはげしくなります。それでも活動できるのは、体のつくりに秘密があるからです。厚い毛皮に加え、うすい酸素でも体をめぐらせるしくみや寒さに合わせた代謝を身につけています。まさに「世界の屋根」で生きるために進化した体といえます。
世界の屋根での暮らし
標高5,000mを超える高山草原
ヒマラヤマーモットは、標高3,000〜5,500mという高い場所にすんでいます。森が生えられる高さより上、けれど万年雪より下の高山草原がすみかです。インドのラダックやカシミール・チベット・ネパール・ブータンなどで見られます。地上で暮らす哺乳類としては、世界でも指おりの高さにすんでいます。

大きなコロニーと深い巣穴
ヒマラヤマーモットは、コロニーと呼ばれる群れで暮らします。土のやわらかい良い場所では、30もの家族が集まる大きなコロニーになることもあります。巣穴は深さ2〜10mにもなり、コロニーの仲間はこの巣穴を分け合って、いっしょに冬眠します。

直立して見張り、鳴いて知らせる
昼に活動し、とくに早朝と午後に地上で食事や毛づくろいをします。見通しのよい草原では、見張り役が後ろ足で立ち上がって周囲を見わたします。敵が近づくと鋭い声で鳴き、仲間はすばやく巣穴へにげこみます。
冬眠と繁殖
7か月半もの長い冬眠
冬眠は秋の終わりから春先まで、平均で7か月半も続きます。1年の半分以上を眠って過ごす計算です。冬眠中の巣穴は深く断熱性が高い場所につくられ、群れそろって眠ることも多いです。体温や心拍、呼吸はぐっと下がり、ためた脂肪だけで命をつなぎます。
2才で親になり、2〜11頭の子
メスは2才ごろから子を産めるようになります。妊娠期間はおよそ1か月で、1回に2〜11頭というたくさんの子を産みます。出産は敵の少ない巣穴の中で行われ、子は安全な地下で育ちます。短い夏のあいだにしっかり育ち、初めての冬眠にそなえます。
食べものと天敵
ヒマラヤマーモットは草食で、高山に生えるイネ科やマメ科、セリ科の草を食べます。リンドウやサクラソウのような高山の花も口にします。短い夏のあいだに栄養価の高い新芽や若葉を選んで食べ、冬眠にそなえて太ります。
ユキヒョウやキツネにねらわれる
天敵は、ユキヒョウ・チベットオオカミ・アカギツネ、そしてイヌワシなどの大きな猛禽類です。開けた場所にすむため見つかりやすく、鳴き声の警報と出入り口の多い巣穴で身を守ります。ヒマラヤマーモットは、高山の生態系を支える大切な「草原の草食動物」であり、肉食動物の重要な食べものでもあります。

2019年、チベットスナギツネがマーモットにおそいかかる決定的瞬間の写真が、世界的な野生動物写真コンテスト「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」の大賞に選ばれました。おどろくマーモットとねらうキツネの表情が話題になった、有名な一枚です。
その受賞作は、こちらの記事(ナショナル ジオグラフィック日本版)で見ることができます。

人との深い関わり
「黄金を掘るアリ」の伝説
ヒマラヤマーモットには、とてもふしぎな言い伝えがあります。古代ギリシャの歴史家ヘロドトスは、「金を掘り出すアリ」の話を書き残しました。犬より小さくキツネより大きいその生き物が、砂とともに金を掘り出すというのです。

正体はマーモットだった?
フランスの学者ペイセルは、この「金を掘るアリ」の正体こそ、デオサイ高原にすむ黄金色のヒマラヤマーモットだと唱えました。マーモットが巣穴を掘るときに、地中の砂金もいっしょに掘り出していたのを、人々が「アリ」と伝えたというのです。地元のミナロ族には、実際にマーモットの巣穴から砂金を集める習わしがあったといいます。伝説と現実が重なる、ロマンあふれる話です。
観光地での餌付けという問題
インドのラダックなどでは、観光客がヒマラヤマーモットに餌をやる光景が増えています。しかし人から餌をもらううちに、警戒心がうすれてしまう個体も出てきました。その結果、野良犬や天敵に簡単につかまってしまうことが問題になっています。かわいくても、野生動物にむやみに餌をやらないことが、その動物を守ることにつながります。
チベット医学では、脂肪や胆のうが古くから薬に使われ、一部の地域では毛皮のための狩りも行われてきました。近い仲間のシベリアマーモットと同じく、この高原の生き物もペストと関わりが知られており、野生個体には注意が必要です。



参考
- IUCN Red List: Marmota himalayana(Shrestha, T. 2016, 軽度懸念LC)
- Wikipedia「Himalayan marmot」(英語版・分布/生態/黄金を掘るアリ伝説)
- Wildlife Photographer of the Year 2019(大賞「The Moment」Bao Yongqing)
画像出典
アイキャッチ画像: Siddhesh S Nimkar, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


