バンクーバーマーモットは、カナダのバンクーバー島だけにすむ、こげ茶色の毛が目印のマーモットです。一時は野生でわずか30頭ほどまで減り、世界でもっとも数の少ない哺乳類の一つとして知られます。動物園で育てて山へ帰す復活プログラムで、少しずつ数を取りもどしてきました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:齧歯目(げっしもく) Rodentia
- 科:リス科 Sciuridae
- 属:マーモット属 Marmota
- 種:バンクーバーマーモット Marmota vancouverensis
和名・英名
- 和名:バンクーバーマーモット
- 英名:Vancouver Island marmot
名前の由来
学名の「vancouverensis(バンクーバーエンシス)」は、すみかのバンクーバー島にちなんだ名前です。1911年にアメリカの動物学者スワースによって記載されました。名前のとおり、この島以外には自然にすんでいない生き物です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約65〜70cm(鼻先から尾の先まで) |
|---|---|
| 体重 | 約3〜7.5kg(季節で大きく変わる) |
| 分布 | カナダ・バンクーバー島だけ(固有種) |
| 生息環境 | 標高1,000m以上の高山の草原 |
| 食べ物 | 草・葉・花(完全な草食) |
| 寿命 | 野生で10年前後とされる |
| 保全状況 | IUCN:絶滅危惧IA類(CR) |
※ 絶滅危惧IA類(CR)とは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでもっとも危険度の高いランクです。「ごく近い将来に野生で絶滅する危険性が極めて高い」とされる生き物が入ります。
こげ茶色の毛と白い模様
チョコレート色の体がトレードマーク
バンクーバーマーモットのいちばんの特徴は、チョコレートのような濃いこげ茶色の毛です。胸や顔、鼻のまわりには白い模様が入り、暗い体色とのコントラストがはっきりしています。この色合わせは、ほかのマーモットには見られません。ひと目で見分けられる、この種ならではの目印です。

バンクーバー島で唯一のマーモットであり、島の外にすむ仲間とは見た目も遺伝子も暮らし方もちがっています。氷河におおわれていた島が、およそ1万年前に氷が引いたあと、この島だけで急速に独自の進化をとげたと考えられています。短い時間で島の環境に合わせて変わった、進化の生きた見本ともいえる存在です。
季節で体重が大きく変わる
この生き物は、季節によって体重が大きく変わります。冬眠から目ざめる4月末のメスは3kgほどしかありませんが、秋に冬眠へ入るころには4.5〜5.5kgまで太ります。オスはもっと大きく、7.5kgを超えることもあります。半年以上の冬眠でエネルギーを使い切るため、その前にたっぷり脂肪をたくわえるのです。
マーモットは冬眠のあいだに、体重のおよそ3分の1を失います。太った秋の姿と、やせた春の姿は、同じ個体とは思えないほどちがって見えます。
家族で助け合う暮らし
コロニーと見張り役
バンクーバーマーモットは、家族を中心とした小さな群れ(コロニー)で暮らします。繁殖するペアに、その年生まれの子どもや前年の若者が加わって一つの巣穴を分け合います。単独で暮らすことは少なく、たがいに協力しながら群れを守ります。

繁殖に加わらない個体は、見張りや巣穴の手入れを引き受けます。だれかが周囲を警戒することで、群れ全体が安全に採食できます。この助け合いのしくみが、きびしい高山で暮らすための知恵になっています。
口笛のような警戒の声
危険が近づくと、「ヒュー」「チー」といった高い声で鳴いて仲間に知らせます。マーモットの仲間が「口笛を吹くブタ(whistle pig)」と呼ばれるのは、この鋭い警戒音があるからです。敵の種類によって声の強さや間かくを変え、となりの群れにまで危険を伝えます。
音だけでなく、体を立てて見張る姿勢や、急に止まる動きも危険の合図になります。見通しのよい高山の草原では、こうした警戒行動が生き残りの決め手になります。
島の高山だけにすむ
標高1,000m以上の草原がすみか
バンクーバーマーモットがすむのは、標高1,000mを超える高山の草原です。とくに南から西を向いた、日当たりのよい斜面を好みます。こうした条件に合う草原は島にわずかしかなく、それがこの生き物の数が少ない大きな理由だと考えられています。

氷河が作った草原と、伐採跡地というワナ
本来のすみかは、氷河や雪崩(なだれ)によって木が育たず、草原のまま開けた場所です。ところが近年、人が森を切りひらいた伐採跡地にも巣を作るようになりました。一見、草原のようで居心地がよさそうに見えるためです。
なぜ伐採跡地が「ワナ」になるのか
問題は、伐採跡地では数年で木がふたたび生えそろってしまうことです。草原だと思って移り住んでも、すぐに森にもどってしまい、暮らせなくなります。研究では、こうした場所は子孫がうまく残らない「吸い込み穴(シンク)」のようにはたらき、かえって数を減らす原因になったと指摘されています。よかれと思える環境が、じつはワナになっていたのです。
冬眠と繁殖
1年の7か月ちかくを眠る
野生のバンクーバーマーモットは、1年のうち平均でおよそ210日、つまり7か月ちかくを冬眠して過ごします。だいたい9月末〜10月はじめに眠りに入り、4月末〜5月はじめに目ざめます。地上で活動できるのは、雪のない5か月ほどしかありません。
おもしろいことに、命を落とす危険は冬眠中よりも真夏の8月に高いことがわかっています。眠っているあいだは敵に見つからず安全で、活動する夏のほうが天敵にねらわれやすいためです。短い夏に食べて太り、長い冬を眠りきる。それがこの島の暮らしのリズムです。
隔年で2〜6頭の赤ちゃん
繁殖を始めるのは3〜4才ごろと、マーモットの中では遅めです。オスは1頭で複数のメスと繁殖することがあります。冬眠から目ざめてすぐに交尾し、妊娠期間は30〜35日ほどです。1回に生まれる子は1〜6頭で、多くのメスは毎年ではなく1年おきに出産します。
子どもが初めて地上に姿を見せるのは、7月のはじめごろです。短い夏のあいだにしっかり育ち、次の冬眠にそなえます。繁殖のペースがゆっくりなことも、数がなかなか増えにくい一因になっています。
世界一クラスの希少種を救う
なぜここまで減ったのか
数が激減した理由は一つではありません。おもな天敵はイヌワシ・ピューマ・オオカミで、森林の伐採によって天敵の動きや数が変わったことが、近年の減少の主な原因とされています。前に紹介した伐採跡地の「ワナ」も、数を押し下げました。
「文化」を失ったマーモット
もう一つ、興味深い説があります。社会で生きる動物は、ある程度の頭数がそろっていないと生きていけない、という考え方です(アリー効果)。見張りのしかたや群れでの動き方といった行動は、仲間から学んで受けつがれます。数が減りすぎると、この「マーモットの文化」が受けつがれなくなります。出会っても協力せず、けんかするようになるといいます。数の減少が、さらなる減少を呼んでしまうというのです。
32頭からの復活プログラム
バンクーバーマーモットは、世界でもっとも数の少ない哺乳類の一つです。2006年には、野生で確認できた成獣がわずか32頭になりました。2003年の調査では、島の4つの山にたった21頭しか見つからなかった年もあります。このままでは、野生から姿を消してしまう危機でした。

動物園で増やして、山へ帰す
そこで1997年、まず数頭がトロント動物園にあずけられ、絶滅にそなえた「遺伝子の救命ボート」が作られました。その後、カルガリー動物園などでも飼育繁殖が進みます。生まれた子は山へ放され、2003〜2010年だけで308頭が野生にもどされました。放された個体には発信機がつけられ、その後の暮らしが記録されています。
こうした「マーモット回復基金(Marmot Recovery Foundation)」などの努力で、2021年には野生の数が250頭ほどまで回復し、25のコロニーが確認されました。まだ油断はできませんが、いちど30頭近くまで落ちた種が、着実に数をもどしつつあります。狭い地域だけにすむ希少種を救う取り組みとして、世界からも注目されています。
知っておきたい豆知識
オリンピックのマスコットになった
絶滅が心配されるこの生き物は、ブリティッシュコロンビア州で自然保護のシンボルになっています。2010年のバンクーバー冬季オリンピック・パラリンピックでは、公式マスコット3体の「相棒」として登場したムクムク(Mukmuk)が、このバンクーバーマーモットをモデルにしています。地元アイスホッケーチームのマスコット「マーティ」も、この種がもとになっています。
カナダ版「グラウンドホッグデー」の予報係
アメリカやカナダには、冬眠明けのマーモット(ウッドチャック)が春の訪れを占う「グラウンドホッグデー」という行事があります。バンクーバー島では、回復基金のバンクーバーマーモットたちが、この春を占う予報係を務めています。2023年には、アメリカの絶滅危惧種シリーズの切手にもえがかれました。



参考
- IUCN Red List: Marmota vancouverensis(Roach, N. 2017, 絶滅危惧IA類の評価)
- Marmot Recovery Foundation(バンクーバーマーモット回復基金・公式サイト)
- Wikipedia「Vancouver Island marmot」(英語版・個体数の推移と保全経過)


