ヒメウミガメは、オリーブ色のハート型の甲羅を持つ、小さなウミガメです。じつは世界でいちばん数が多いウミガメで、いちばん有名なのが「アリバダ」という産卵。何万頭ものメスが、同じ浜にどっと押しよせて、いっせいに卵を産む大迫力の光景です。数は多いものの、乱獲や混獲で減っていて、大切に守られています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:爬虫綱 Reptilia
- 目:カメ目 Testudines
- 科:ウミガメ科 Cheloniidae
- 属:ヒメウミガメ属 Lepidochelys
- 種:ヒメウミガメ Lepidochelys olivacea
和名・英名
- 和名:ヒメウミガメ
- 英名:Olive ridley sea turtle(オリーブ・リドリー・シータートル)
名前の由来
和名の「ヒメ」は、小さくてかわいらしいという意味で、体が小さいことをあらわしています。英名のOlive(オリーブ)は、甲羅がオリーブの実のような緑がかった色をしていることからついた名前です。属の名前 Lepidochelys の仲間には、よく似たケンプヒメウミガメがいて、この2種だけが「ヒメウミガメ属」です。ヒメウミガメは、その2種のうち世界中に広くすんでいるほうのウミガメです。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲羅の長さ 約60〜70cm・体重 約35〜50kg(世界で2番目に小さい) |
|---|---|
| 分布 | 太平洋・インド洋・大西洋の、あたたかい海に広く分布 |
| 生息環境 | 外洋を広く回遊。産卵は熱帯の砂浜 |
| 食べ物 | 雑食。クラゲ・エビ・カニ・貝・海藻など何でも食べる |
| 寿命 | 野生でおよそ30年以上と考えられている |
| 保全状況 | IUCN:危急(VU)/ワシントン条約 附属書I |
世界でいちばん数が多いウミガメ

オリーブ色のハート型の甲羅
ヒメウミガメの甲羅は、上から見るとハートのような形をしていて、色は緑がかったオリーブ色です。この色が名前の由来になりました。甲羅の長さは60〜70cmほど、体重は35〜50kgくらいで、世界で2番目に小さいウミガメです(いちばん小さいのは仲間のケンプヒメウミガメ)。太平洋・インド洋・大西洋のあたたかい海に広くすんでいて、じつは世界でいちばん数が多いウミガメでもあります。
甲羅のうろこが多いのが目印
見分けるときのポイントは、甲羅のわきに並ぶうろこ(肋甲板)の数です。ほかのウミガメは左右のうろこの数がそろっていますが、ヒメウミガメとケンプヒメウミガメの仲間はうろこの数が多く、左右で数が違うこともあります。この「うろこが多くて不ぞろい」なところが、ヒメウミガメ属ならではの特徴です。丸っこいオリーブ色の甲羅と合わせて見ると、見分けやすくなります。
大迫力の集団産卵「アリバダ」

何万頭ものメスが、同じ浜に押しよせる
アリバダ=「みんなで到着」
ヒメウミガメでいちばん有名なのが「アリバダ」です。スペイン語で「到着」という意味で、たくさんのメスが同じ時期に同じ浜へどっと押しよせ、いっせいに卵を産む集団産卵のことです。その規模は世界のウミガメの中でもとびぬけています。メキシコのエスコビージャ海岸では、1シーズンに45万頭ものメスが産卵に来ると推定されているほどです。砂浜がカメでうめつくされる、まさに大迫力の光景です。
なぜ、いっせいに産むの?
これほど大勢でいっせいに産むのには、理由があります。卵やヒナが天敵に食べられても、数が多すぎて全部は食べつくされずに、たくさん生き残れるからです。数の力で命をつなぐ、ヒメウミガメならではの知恵といえます。
アリバダで有名な浜
アリバダが見られる浜は、世界でも数か所に限られています。とくに有名なのが、インド東部オリッサ州のガヒルマタ海岸と、中米コスタリカのオスティオナル海岸です。日本ではアリバダは見られませんが、世界の一部の浜だけで起こる、貴重な自然の営みです。
産卵と赤ちゃんガメ

1回に100個ほどの卵を産む
メスは砂浜に穴を掘り、1回に100〜110個ほどの卵を産みます。1シーズンに2〜3回産むこともあります。卵は45〜60日ほどでかえり、赤ちゃんガメは砂の中からはい出して、いっせいに海をめざします。ほかのウミガメと同じように、赤ちゃんの性別は卵のときの砂の温度で決まり、温度が高いとメスが多く生まれます。
雑食で、何でも食べる
ヒメウミガメは雑食で、いろいろなものを食べます。クラゲ・エビ・カニ・貝・海藻など、海にあるものを幅広く食べる、好き嫌いの少ないウミガメです。とくにクラゲをよく食べるため、増えすぎたクラゲの数をおさえる役割もあります。広い外洋を泳ぎながら、そのときにいる餌をじょうずに見つけて食べる暮らしをしています。
ケンプとの違いと、日本での記録
ケンプヒメウミガメとの違い
ヒメウミガメは、姉妹のような近い仲間のケンプヒメウミガメとよく似ています。いちばん大きな違いは、すみかと数です。ヒメウミガメは世界中のあたたかい海に広くすみ、数がとても多いウミガメです。いっぽうケンプヒメウミガメは、メキシコ湾のまわりだけにすみ、世界でもっとも数が少ないウミガメです。色も、ヒメウミガメのほうがオリーブ色、ケンプは灰緑色っぽく見えます。
日本でも、まれに見つかる
ヒメウミガメは熱帯のウミガメですが、日本の南の海にも、ときどき流れ着いた個体や若いカメが見つかります。ただし、日本の砂浜で産卵した記録はほとんどありません。日本の海でふだん見られるウミガメは、アオウミガメ・アカウミガメ・タイマイなどが中心です。世界にはこのヒメウミガメのように、大群で産卵するおどろきのウミガメもいることを覚えておくと、海がもっと楽しくなります。



アリバダはなぜ起きる?集団産卵の科学的仮説
「捕食者飽和(satiation)」仮説がいちばん有力
アリバダで一度に数十万頭ものメスが同じ浜に上陸する理由として、いちばん有力なのが「捕食者飽和(satiation)」仮説です。卵やふ化直後の子ガメをねらう天敵(カニ・海鳥・キツネ・野犬など)は、食べられる量に限りがあります。一つの浜で膨大な数の卵が一気に産まれれば、天敵が食べきれない分がかならず残り、集団全体として一定数の子孫を生き残らせることができます。1頭ずつばらばらに産卵するより、圧倒的な数の力で生存率を底上げする戦略と考えられており、ヒメウミガメ属(Lepidochelys)に特有の進化的適応とされます。
フェロモン説・月齢説と長期研究の現状
ではメスたちがどうやって「上陸のタイミング」を合わせているのかは、まだ完全には解明されていません。有力な補足仮説として、メス同士が化学信号(フェロモン)で同期をとる説、大潮の前後や新月・満月の周期にあわせているとする月齢説、風向きや水温の変化を手がかりにする説などが提示されています。メキシコ・オアハカ州のエスコビージャ浜、コスタリカのオスティオナル浜、インド・オリッサ州のガヒルマタ浜などが世界的に有名なアリバダの観察地で、大学研究者や政府機関が長期の個体数調査と衛星追跡を続けてきました。オスティオナルでは、初期のアリバダで産まれた卵の一部を地元コミュニティが伝統的に採取する代わり、それ以降の産卵と孵化を厳格に保護するという、地元漁協と協力した独自の管理制度が続いています。
エビ漁の混獲とTED(タートル・エクスクルーダー装置)
最大の脅威は乱獲より「混獲」
ヒメウミガメの数を実際に大きく減らしてきた要因として、卵の乱獲以上に大きいのが「混獲(こんかく)」の問題です。混獲とは、本来の漁の対象ではない生物が漁網にかかってしまうことをいいます。ヒメウミガメは沿岸の浅い海を広く回遊するため、エビをとるトロール網に絡まって溺れてしまう事故が世界各地で長く続いてきました。1頭ずつの被害は目立ちにくいものの、漁の規模が大きいため累計の被害数は膨大で、集団産卵で生まれた大量の子ガメが、成長して沖に出たあとエビ漁で命を落とす、という悪循環が指摘されてきました。
1980年代のアメリカ発「落とし戸」装置
この問題への対策として1980年代にアメリカで開発されたのが、TED(Turtle Excluder Device、タートル・エクスクルーダー装置)と呼ばれる仕組みです。トロール網の途中に金属の格子を斜めに取り付け、その上に脱出用の穴(落とし戸)を設けます。小さなエビは格子のすき間を通って網の奥へ進みますが、大きなウミガメは格子に当たって流れが変わり、脱出穴から自然に外へ出られる仕組みです。アメリカは1990年代以降、TEDを装備しないエビの輸入を制限する制度を導入し、この規制を通じて世界のエビ漁全体にTEDの装備が広がりました。ただし途上国の小規模漁業では、装置の価格やメンテナンスの負担から未装備の船が今も多く、ヒメウミガメの混獲は完全には解消されていません。
参考
- IUCN Red List「Lepidochelys olivacea」(危急VU・ワシントン条約附属書I)
- NOAA Fisheries「Olive Ridley Turtle」(世界で最も数が多く広く分布するウミガメ/アリバダ=同じ浜での数千〜数万頭の集団産卵/メキシコ・エスコビージャでは約45万頭が産卵/雑食)
- Wikipedia「Olive ridley sea turtle」英語版(世界で2番目に小さく最も数が多い/オリーブ色でハート型の甲羅/肋甲板が多い=属の特徴/インドのオリッサ・コスタリカのオスティオナルで大規模アリバダ)
画像出典
アイキャッチ画像: Bernard Gagnon, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons


