ブチハイエナは、アフリカのサバンナにすむ、ハイエナ科でいちばん大きな動物です。全身にちらばる黒い斑点と、メスが群れを率いるめずらしい社会で知られています。かむ力は哺乳類でも屈指で、太い骨さえばりばりと砕いてしまいます。死肉をあさるイメージが強いですが、じつは自分で獲物を狩る、すぐれたハンターです。

分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:ハイエナ科 Hyaenidae
- 属:ブチハイエナ属 Crocuta
- 種:ブチハイエナ Crocuta crocuta
和名・英名
- 和名:ブチハイエナ
- 英名:Spotted hyena(スポッテッド・ハイエナ)
名前の由来
和名の「ブチ」は、全身にある黒い斑点(ぶち模様)からきています。英名のSpotted(斑点のある)も同じ意味です。属の名前 Crocuta は、その毛色に由来するとされます。ハイエナ科の中でいちばん大きく、いちばん数も多い、ハイエナを代表する種です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約95〜165cm・肩高 約80cm・体重 約45〜85kg(メスがオスより大きい) |
|---|---|
| 分布 | サハラ砂漠より南のアフリカ(サブサハラ) |
| 生息環境 | サバンナ・疎林・乾燥した草原 |
| 食べ物 | ヌー・シマウマ・インパラなど(狩り+死肉。骨まで食べる) |
| 寿命 | 野生でおよそ12〜20年 |
| 保全状況 | IUCN:低懸念(LC) |
見た目と、オスメスの見分け方
斑点と、まるい耳
ブチハイエナは、黄褐色の体に、黒い斑点(ぶち模様)が全身にちらばっています。この斑点は一頭ずつもようが違い、人間の指紋のように個体を見分ける手がかりになります。ハイエナ科のほかの3種ととくに違うのが、耳の形です。シマハイエナやカッショクハイエナの耳がとがっているのに対し、ブチハイエナの耳はまるみを帯びています。尻尾は短めで、先が黒いふさふさの毛でおおわれています。前あしが後ろあしより長いため、背中が後ろに向かって下がった、独特の体つきをしています。
オスとメスの見分け方
ブチハイエナは、オスとメスの見分けがとてもむずかしい動物です。メスがオスより一回り大きいのが、いちばんの手がかりになります。ただし、メスのからだにはオスとよく似た特殊なつくりがあり、見た目だけで性別を当てるのは専門家でもむずかしいのです。近づいてよく観察しないと、確実にはわかりません。
サバンナ最大の狩人

時速60kmで、獲物を追いつめる
ブチハイエナは「死肉あさり」のイメージが強いですが、じつは食べ物の多くを、自分たちの狩りでとっています。群れで力を合わせ、ヌーやシマウマ、インパラなどの大きな草食動物を追いかけます。時速60kmもの速さで、ときには何kmも走り続けて獲物をつかれさせ、仕留めるのです。この持久力のある狩りは、短い時間で勝負するライオンやチーターとは違う、ハイエナならではの戦い方です。
骨まで砕く、けたはずれのあご
ブチハイエナのあごは、哺乳類の中でもとくに強い力を持っています。幅の広いがんじょうな頭に太い筋肉がついていて、ほかの動物が食べ残した太い骨さえ、かみくだいてしまいます。じょうぶな胃で骨や皮まで消化できるため、獲物をほとんどむだなく食べつくします。この力のおかげで、ライオンなどが残した死骸もきれいに片づける、サバンナの掃除役にもなっています。
何を食べる ― ほとんど何でも
ブチハイエナは、とても幅広いものを食べる動物です。ヌー・シマウマ・インパラ・ガゼルといった草食動物を狩るほか、ライオンやチーターがとり残した死肉も食べます。骨や皮、ひづめまで消化できるため、獲物をほとんど残しません。ときには鳥や魚、昆虫、植物の実まで口にします。この「何でも食べられる」丈夫さが、きびしいサバンナで生き抜く力になっています。
ライバルと、なわばり
ライオンは、最大のライバル
ブチハイエナにとって、最大のライバルはライオンです。同じ獲物をねらうため、たがいの狩りを横取りし合う、深い争いの関係にあります。数で勝るハイエナの群れがライオンを追いはらうこともあれば、力の強いライオンがハイエナを殺してしまうこともあります。とくにライオンのオスは、ハイエナにとって非常に危険な相手です。子どもや弱った個体は、しばしばライオンにねらわれます。サバンナでくり広げられる両者の攻防は、何百万年も続いてきた、宿命のライバル関係なのです。
なわばりを「におい」で守る
ブチハイエナの群れは、広いなわばりを持ち、みんなで守ります。なわばりの境目には、体から出す白いクリームのような分泌物を、草の茎になすりつけて印をつけます。この「におい」は強く、遠くからでも仲間や他の群れに、ここがだれのなわばりかを伝えます。決まった場所にフンをためる「トイレ(ラトリン)」も、同じように目印になります。遠くまで響く「ウォーッ」という声も合わせて、群れはなわばりをしっかり主張しているのです。
メスが支配する、めずらしい社会
メスがオスより大きく、強い
ブチハイエナの社会は、多くの動物とは逆に、メスのほうがオスより大きく強いのが特徴です。「クラン」と呼ばれる群れは、多いときには数十頭にもなり、その頂点に立つのはメスです。順位は母から娘へと受けつがれ、生まれたときからおおよその地位が決まっています。オスは大人になると別の群れへ移り、そこではいちばん下の立場から始めます。メスがすべてを取りしきる、母系の社会なのです。
メスだけが持つ、特殊なからだ
オスそっくりのつくり
ブチハイエナのメスには、とてもめずらしい特徴があります。メスのからだの一部が、オスとよく見分けがつかないほど、よく似たつくりになっているのです。じつはブチハイエナは、メスがこうした「偽の生殖器」を持つ、ただ一種の胎盤(たいばん)を持つ哺乳類として知られています。
赤ちゃんもそこを通って生まれる
おどろくことに、赤ちゃんもこの細い通り道を通って産まれます。そのため、とくに初めての出産はとてもたいへんで、命がけになることもあります。「ブチハイエナのメスはすごい」といわれるのは、こうした体のふしぎがあるからです。
巣穴で育つ、赤ちゃん

ブチハイエナの赤ちゃんは、生まれたときから目が開いていて、歯まで生えています。これは肉食の哺乳類ではとてもめずらしいことです。子どもたちは地面に掘った巣穴(デン)で育ち、母親は自分の子どもだけに乳をあたえます。子どもは母親の順位を受けつぐため、地位の高いメスの子は、群れの中でも早くから大切にあつかわれます。強い母を持つかどうかが、その後の一生を大きく左右するのです。
声と、かしこさ
「ウォーッ」と「笑い声」で話す
ブチハイエナは、声を使ったやりとりがとても発達しています。「ウォーッ」と遠くまで響く声で、はなれた仲間とれんらくを取り合います。有名な「ヒヒヒッ」という笑い声は、楽しいときではなく、強い相手に追いつめられたり興奮したりしたときに出す声です。声は一頭ずつびみょうに違い、仲間はそれを聞き分けて、だれの声かを見分けているといわれます。
サルにもくらべられる知能
ブチハイエナは、見た目からは意外なほど、かしこい動物です。数十頭の群れの中で、だれが強くだれが弱いのか、複雑な順位関係をしっかりおぼえています。相手によって態度を変えたり、仲間と協力して問題を解決したりする力は、サルの仲間にもくらべられるほど高いといわれています。この高い社会的な知能が、きびしいサバンナで群れをまとめる支えになっているのです。
人との関係と、誤解
人になつく? 飼えるの?
「ハイエナは人になつくの?」と気になる人もいます。ブチハイエナはとてもかしこく、人に慣れることはありますが、基本的には野生の大型肉食動物です。強いあごと力を持つため、ペットとして飼うのは危険で、向いていません。一部の地域では人にならされたハイエナもいますが、それはとくべつな例です。野生のブチハイエナは、あくまで自然の中で、群れとともに生きる動物なのです。
「悪者」というイメージは誤解
ブチハイエナは、アフリカに広く分布していて、絶滅の心配は比較的少ない動物です。いっぽう、家畜をおそうことがあるため、人ににくまれて駆除されることもあります。映画『ライオン・キング』などのえいきょうで、「ずるい悪者」というイメージも広まりました。しかし本当の姿は、かしこいすぐれた狩人であり、母を中心に強く結びついた社会をつくる動物です。誤解の多い動物ですが、知れば知るほど、その奥深さにおどろかされます。


参考
- IUCN Red List「Crocuta crocuta」(低懸念LC・サブサハラアフリカに広く分布)
- Wikipedia「Spotted hyena」英語版(ハイエナ科最大/母系社会でメスがオスより大きく支配/メスは偽陰茎を持つ唯一の胎盤哺乳類で出産はそこを通る/時速60kmで長距離を追う持久狩り/においで縄張り標識/高い社会的知能)
- ハイエナ全般の出典は「ハイエナ(総合)」ページを参照
画像出典
アイキャッチ画像: Timothy A. Gonsalves, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


