ハシビロコウ

水鳥類

ハシビロコウは、アフリカの湿地にすむ大きな鳥です。靴のような巨大なくちばしを持ち、ほとんど動かずにじっと立ちつくす姿から「動かない鳥」として知られます。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:ペリカン目 Pelecaniformes
  • 科:ハシビロコウ科 Balaenicipitidae
  • 属:ハシビロコウ属 Balaeniceps
  • 種:ハシビロコウ Balaeniceps rex

和名・英名

  • 和名:ハシビロコウ(嘴広鸛=くちばしの広いコウノトリの意)
  • 英名:Shoebill(別名 whale-headed stork)

別名・学名の由来

学名の Balaeniceps rex は、ラテン語の「クジラ(balaena)」と「頭(ceps)」を合わせたもので、「クジラのような頭を持つ王」といった意味になります。英名の Shoebill は「靴のくちばし」の意味です。見た目がコウノトリに似ているため、昔はコウノトリの仲間とされていました。しかし今では、DNAなどの研究から、ペリカンやサギに近い仲間だと分かっています。いちばん近い親せきは、同じアフリカにすむハマーコップという鳥です。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ高さ 約110〜140cm(最大152cm)、体重 約4〜7kg、翼を広げると2.3〜2.6m
分布アフリカ中央部の熱帯(南スーダン〜ザンビアの大湿地)
生息環境パピルスの茂る、淡水の湿地や沼
食べもの肉食(肺魚・ナマズなどの魚が中心。カエル・ヘビ・ワニの子も)
寿命飼育下で30〜50年ほど(野生ではよく分かっていません)
保全状況IUCN: VU(危急)。生息数は5,000〜8,000羽ほど

「動かない鳥」と呼ばれるわけ

湿地にじっと立つハシビロコウの全身
Bildflut, Public domain, via Wikimedia Commons

何時間もじっと立ち続ける

ハシビロコウの最大の特徴は、その動きの少なさです。えものを待つあいだ、まるで銅像のように、ほとんど身じろぎもせず立ちつくします。動物園でも「本当に生きているの?」と思うほど動かないため、かえって人気を集めています。あまり動かないのは、なまけているからではありません。物音や人の気配に敏感で、じっとしていることが、狩りにも身を守るのにも役立っています。

待ち伏せて一瞬でとらえる

じっと立つのは、えものが近づくのを待ち伏せているからです。ハシビロコウは、においや音ではなく、おもに目で獲物をさがします。魚が水面に上がってきた瞬間、大きな体を折りたたむようにして一気にくちばしをふり下ろします。ねらいは正確で、およそ6割の確率で獲物をとらえるといわれます。ふだんの静けさとは対照的な、すばやく力強い一撃です。

靴のような巨大なくちばし

ハシビロコウの靴のような巨大なくちばしの横顔
Olaf Oliviero Riemer, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

鳥の中でも指折りの大きさ

名前の由来にもなった大きなくちばしは、長さが20cm前後もあります。これは今生きている鳥の中で、ペリカンや大型のコウノトリに次ぐ長さです。色は淡いピンク色で、灰色のまだら模様が入ります。先はかぎのようにとがっていて、つかまえた獲物をにがしません。幅も広く、ぶあついので、見た目にも大きな迫力があります。

大きな獲物もしとめる肉食

主食は肺魚やナマズ

ハシビロコウがいちばん好むのは、肺魚(はいぎょ)やナマズといった魚です。ふつうは15〜50cmほどの魚をとらえますが、記録では99cmもの大物をしとめた例もあります。あまりに大きな魚は、その場で切り分けながら、時間をかけて飲みこみます。酸素の少ないよどんだ水辺を好むのは、そこでは魚が息をしに水面へ上がってきやすく、待ち伏せに向いているからです。

ワニの子まで食べる

ハシビロコウは、魚だけを食べるわけではありません。カエルやヘビ、オオトカゲも食べます。ときにはワニの子どもまでねらう、はば広い肉食です。あの大きなくちばしのおかげで、ほかの水鳥より大きな獲物にも挑めます。水辺のカバが動くと、おどろいた魚が水面に浮くことがあり、それがハシビロコウの狩りを助けることもあります。

カバ
カバは、アフリカの川や湖にすむ大型の草食動物です。昼のあいだは水の中でのんびり過ごし、夜になると陸に上がって草を食べます。おだやかそうに見えますが、じつはアフリカでもっとも危険な動物のひとつに数えられています。分類と学名界:動物界門:脊索動...

大きな音を鳴らす「クラッタリング」

ふだんはほとんど鳴かないハシビロコウですが、まったく声を出さないわけではありません。上下のくちばしをすばやく打ち鳴らして、「タタタタ」と機関銃のような音を出すことがあります。これは「クラッタリング」と呼ばれ、あいさつや、なわばりを守る合図として使われます。ときには牛のような低い声や、ヒナがえさをねだるときの、しゃっくりのような声も知られています。ふだんは無口な鳥の、数少ない発声です。

群れず、単独で暮らす

アシの茂る湿地に1羽でたたずむハシビロコウ
Just chaos, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ハシビロコウは、基本的にひとりぼっちで暮らす鳥です。えさ場でも、たがいに20m以上はなれて狩りをします。数が多い場所でも群れをつくらず、それぞれが自分のなわばりを守って生活します。ペアも、繁殖のあいだだけ2〜4km四方ほどのなわばりを守ります。大きな体でぽつんと湿地にたたずむ姿は、この単独の暮らしから来ています。

子育てと、きびしい兄弟の掟

草の茂る湿地に立つハシビロコウ
パピルスの茂る湿地がすみか(Eric Inafuku, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

水に浮かぶ巣に卵を産む

ハシビロコウは、水面に浮かぶ植物で大きな台のような巣をつくります。ここに1〜3個の白い卵を産み、オスとメスが交代で30日ほどあたためます。暑い日には、卵の冷やし方に工夫があります。親鳥はくちばしいっぱいに水をふくんで巣まで運び、卵の上にそっと注いで温度を下げます。あの巨大なくちばしが、じょうろのように使われます。

育つのはふつう1羽だけ

卵は複数かえることもありますが、無事に育つのはたいてい1羽だけです。あとから生まれたヒナは、いちばん上の子が弱ったときの「予備」のような立場で、多くは育ちません。きびしいようですが、限られたえさで確実に一羽を育てるための、自然のしくみです。生きのこったヒナは105日ほどで巣立ち、一人前になるまでには3年ほどかかります。

日本で会える場所

動物園で展示されるハシビロコウ
Olaf Oliviero Riemer, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

各地の動物園で人気者

ハシビロコウは、日本の動物園でも会えます。おもに次のような園で飼育・展示されています。

  • 上野動物園(東京)
  • 千葉市動物公園(千葉)
  • 多摩動物公園(東京)
  • 神戸どうぶつ王国(兵庫)
  • 掛川花鳥園(静岡)

人をあまり気にせず、じっと立っていてくれることが多いので、写真を撮ったりじっくり観察したりしやすい鳥です。近くの園の展示を調べてから会いに行くと、あの迫力を間近で楽しめます。

ネットの人気者、ゲームのモデルにも

その堂々とした見た目と動かない姿から、ハシビロコウは2014年ごろからインターネットで人気を集めてきました。雨の中でカメラをじっと見つめる動画などが話題になり、今ではぬいぐるみやグッズも多く作られています。ゲーム『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』に登場する大きな鳥「ロフトバード」も、ハシビロコウをもとにデザインされたそうです。

数が減っている

ハシビロコウは、IUCNレッドリストで「危急(VU)」に指定されています。野生に生きるのは、5,000〜8,000羽ほどしかいないとみられます。いちばんの原因は、すみかである湿地が、農地の開発や水路づくりで減っていることです。さらに、卵やヒナを人にとられてしまうことや、火事による被害もあります。人の気配に敏感な鳥なので、巣に近づかれると、卵やヒナを置いて逃げてしまうこともあります。人が巣に近づくことも、繁殖のさまたげになるとされています。

参考

  • IUCN Red List:Balaeniceps rex(VU・生息数と脅威)
  • Wikipedia(英語版)「Shoebill」(大きさ・くちばし・狩り・繁殖・分布)
  • Animal Diversity Web:Balaeniceps rex(形態・食性・行動)
  • Mullers & Amar (2015)「Shoebill foraging behaviour in the Bangweulu Wetlands, Zambia」Ostrich(狩りの成功率・行動)

画像出典

アイキャッチ画像: Olaf Oliviero Riemer, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(本文中の写真は各キャプションに出典を記載)

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