ニュウドウカジカ

深海魚類

ニュウドウカジカは、深い海の底にすむ魚です。水からあげたときの、とけたような悲しい顔で「世界一みにくい生きもの」に選ばれ、一気に有名になりました。けれども、それは本当の姿ではありません。深い海の中では、ふつうの魚らしい形をしています。

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分類と学名

  • 界:動物界
  • 門:脊索動物門(せきさくどうぶつもん)
  • 綱:条鰭綱(じょうきこう)
  • 目:カサゴ目
  • 科:ウラナイカジカ科(Psychrolutidae)
  • 属:ニュウドウカジカ属(Psychrolutes
  • 種:ニュウドウカジカ Psychrolutes microporos

ニュウドウカジカは、その名のとおりカジカの仲間で、カサゴ目ウラナイカジカ科に入ります。英語では「ブロブフィッシュ(blobfish)」と呼ばれますが、これはニュウドウカジカだけでなく、よく似た深海のカジカのなかまをまとめた呼び名です。とてもよく似た近縁種に、スムースヘッド・ブロブフィッシュ(Psychrolutes marcidus)や、ブロブスカルピン(Psychrolutes phrictus)などがいます。

和名の「ニュウドウ(入道)」は、大きくてつるりとした坊主頭を思わせることからついたと考えられます。英語の「ブロブ(blob)」は「やわらかいかたまり」という意味で、ぷよぷよとした体つきをよく表しています。

基本データ

大きさ体長 約30cm前後
分布オーストラリアやニュージーランドなどの深海
すみか水深およそ600〜1,200mの、暗い深海の海底
食べもの目の前を流れてくる小さな生きもの(甲殻類など)
体のつくりゼラチンのようなやわらかい体。骨や筋肉は少ない
保全状況くわしい数はわかっていない(深海のため)

体長は30cmほどで、深海にすむため、野生のようすにはまだわからないことがたくさんあります。

「世界一みにくい」の正体

深海にいる生きたブロブフィッシュの仲間
深海での生きた姿(近縁のブロブスカルピン。水深1,459m)(NOAA/MBARI, パブリックドメイン

とけた顔は、水圧のせい

深海は、とても強い水圧

ニュウドウカジカがすむ深海は、水の重さでとても強い力(水圧)がかかっています。この魚のやわらかい体は、その強い水圧の中でこそ、ちょうどよい形をたもてます。地上での水圧の何十倍もの力に、うまく合わせた体なのです。

あげると、体がくずれる

ところが、あみですくって水面まであげると、まわりの水圧が急に弱くなります。すると、体がだらんとくずれてしまうのです。あの「とけた悲しい顔」は、水圧が下がったせいで生まれた、地上でだけ見られる姿でした。

深海での本当の姿

深海の海底にいるブロブフィッシュの仲間
海底でじっとする姿(近縁のブロブスカルピン)(National Marine Sanctuaries, CC BY 2.0

深い海の底にいるときのニュウドウカジカは、大きな頭とふっくらした体を持つ、ふつうの魚らしい形をしています。上の写真は、よく似た近縁のブロブスカルピンを深海で撮ったものです。ニュウドウカジカもこれと同じように、海底でじっとしています。「みにくい魚」というイメージは、水からあげたあとの姿だけを見た、かたよった見方だったのです。

深海に生きるからだ

ブロブフィッシュの体の形を描いた図
1926年に描かれた近縁種(Psychrolutes marcidus)の図。本来は魚らしい形(A. R. McCulloch, パブリックドメイン

ゼラチンの体で、ふわりと浮く

多くの魚は、体の中の「浮き袋」に空気をためて、水にうきしずみします。ところが深海の強い水圧では、空気の袋はうまくはたらきません。そこでニュウドウカジカの体は、ゼラチンのようなやわらかい肉でできていて、その重さは海水よりほんの少しだけ軽くなっています。おかげで、力を使わなくても海底の上にふわりと浮いていられます。

骨も筋肉も少ない

ニュウドウカジカは、しっかりした骨や筋肉があまりありません。ふつうの魚のように、力強く泳ぎ回ることはできないのです。けれども深海の底で、ほとんど動かずに暮らすこの魚にとっては、それで困りません。むだな体を持たない、深海ぐらしにぴったりのつくりといえます。

待って食べる、省エネの暮らし

泳ぎが苦手なニュウドウカジカは、えものを追いかけません。海底でじっとして、目の前を流れてくる小さなカニやエビのような生きものを、口を開けて待ち受けて食べます。食べものの少ない深海で、できるだけ力を使わずに生きる、省エネの作戦です。ゼラチンの体も、この「動かない暮らし」を助けています。

岩の上で卵を守る

ニュウドウカジカの仲間の繁殖は、まだよくわかっていません。ただ、近縁のブロブスカルピンでは面白い観察があります。メスが岩の上にたくさんの卵を産みつけ、そばに寄りそって守るようすが、深海で見つかっているのです。ほとんど動かない深海魚が、卵だけは熱心に世話をするのは、おどろきの発見でした。ニュウドウカジカも、似たような子育てをするのかもしれません。

ブロブフィッシュとの関係

ブロブフィッシュは深海カジカの総称

「ニュウドウカジカ」と「ブロブフィッシュ」は、どう違うのか気になる人も多いようです。じつは、ブロブフィッシュは深海にすむウラナイカジカ科の魚をまとめた呼び名で、ニュウドウカジカもそのひとつです。つまり「ニュウドウカジカ=ブロブフィッシュの一種」と考えると分かりやすくなります。

見分けは専門家でも難しい

「世界一みにくい生きもの」として有名になった写真の魚も、このニュウドウカジカの仲間だとされています。とてもよく似た種が何種かいて、見分けるのは専門家でも難しいほどです。まとめて「ブロブフィッシュ」と呼ばれるのは、そのためです。

人とのかかわり

食用にはあまり向かない

「ニュウドウカジカは食べられるの?」と気になるかもしれません。体のほとんどが水っぽいゼラチン質のため、食用にはあまり向かず、ふつうは市場に出回りません。深海の底引きあみに、ほかの魚といっしょにかかってしまうことはあります。

水族館やキャラクターで人気

日本では、深海生物をあつかう一部の水族館で、ニュウドウカジカが展示されることがあります。生きた深海魚を見られる、めずらしい機会です。また、あの独特の顔は「ゆるくてかわいい」と人気です。ぬいぐるみやイラスト・キャラクターにもなっています。2013年にはイギリスの「みにくい動物を守る会」のシンボルに選ばれ、世界じゅうで知られるようになりました。みにくいといわれた顔が、今では多くの人に愛されているのです。

参考文献

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