シベリアマーモットは、モンゴルやシベリアの草原(ステップ)にすむ大型のマーモットです。「タルバガン」の名でも知られ、毛皮や料理に使われてきた一方で、ペストを運ぶ動物として歴史に名を残しています。乱獲によって数を減らし、今は絶滅危惧種に指定されています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:齧歯目(げっしもく) Rodentia
- 科:リス科 Sciuridae
- 属:マーモット属 Marmota
- 種:シベリアマーモット Marmota sibirica
和名・英名
- 和名:シベリアマーモット
- 英名:Tarbagan marmot / Siberian marmot / Mongolian marmot
別名「タルバガン」
この動物は「タルバガン」という別名で広く知られています。ロシア語の「тарбаган(タルバガン)」から来た呼び名で、もとはモンゴル系の言葉です。英語でもモンゴルマーモット・シベリアマーモットなど、地域の名で呼ばれます。名前の多さが、この生き物と人との付き合いの長さを物語っています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約45〜60cm |
|---|---|
| 体重 | 約4〜8kg(冬眠前に大きく増える。オスがやや大きい) |
| 分布 | モンゴル・南シベリア・中国北部(内モンゴルなど) |
| 生息環境 | 乾いた草原(ステップ)・標高500〜1,500m |
| 食べ物 | 草・葉・種子(完全な草食) |
| 寿命 | 野生で5〜7年ほど |
| 保全状況 | IUCN:絶滅危惧IB類(EN) |
※ 絶滅危惧IB類(EN)とは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで「近い将来、野生で絶滅する危険性が高い」とされるランクです。シベリアマーモットは2008年にこの区分になりました。
黄色いほおと厚い毛
ほおの黄色と毛の模様
シベリアマーモットの毛は、黄褐色から灰色がかった茶色をしています。よく見ると、灰色っぽい2本の帯のあいだに白っぽい帯が入り、独特の毛並みになっています。ほおが黄色っぽいのも特徴で、ほかのマーモットと見分けるヒントになります。背中は濃く、おなかは淡い色をしています。

毛の長さは季節で変わります。夏は1〜2cmほどですが、冬に向けて3cm近くまでのびて、きびしい寒さから体を守ります。乾いた草原の色にとけこむ毛色は、天敵から身を隠すのにも役立っています。
季節で大きく変わる体格
体長は45〜60cm、体重はおよそ4〜8kgで、オスのほうがやや大きめです。とくに体重は季節で大きく変わり、冬眠前には脂肪をため込んでずっしりと太ります。半年以上の長い冬眠を、この脂肪だけで乗りきるためです。
平地にすむ数少ないマーモット
マーモットの多くは高い山の上で暮らしますが、シベリアマーモットは低い平地の草原にもすみます。じつは平地で暮らすマーモットは2種だけで、もう1種は北米のグラウンドホッグ(ウッドチャック)です。高山のイメージが強いマーモットの中では、めずらしいタイプといえます。
草原での暮らし
直立して見張り、鳴いて知らせる
シベリアマーモットは昼に活動し、早朝から日暮れまで草原で食事や毛づくろいをします。見通しのよい草原では、後ろ足で立ち上がって周囲を見わたす姿がよく見られます。危険が近づくと、鋭い声で鳴いて仲間に知らせます。

おもしろいことに、この鳴き声は敵の種類によって変わります。空からおそうワシと、地上からせまるオオカミやキツネとで、鳴き方を使い分けているのです。声を聞いた仲間は、素早く巣穴へにげこみます。
家族でつくる群れ
基本は、繁殖するペアとその子どもからなる小さな家族の群れで暮らします。若い個体が見張りや巣穴の手入れを手伝うこともあります。ただし、アルプスマーモットほど強い助け合いは見られず、群れどうしの付き合いも少なめだとされています。
どこにすんでいる?
モンゴルを中心にした草原
シベリアマーモットは、モンゴルを中心に広く分布します。ロシアの南シベリア・トゥヴァ、中国の内モンゴルなどにもすんでいます。アルタイ山脈のあたりでは、近い仲間のハイイロマーモットと分布が重なっています。

すみかは、乾いた草原(ステップ)や、低木が点々と生える場所です。見通しがよく、巣穴を掘れる土があり、食べる草も多い環境を好みます。地面には出入り口をいくつも持つ巣穴を掘り、同じ巣穴を何年も使い続けます。
冬眠と繁殖
半年以上ねむる冬眠
冬眠は9月末〜10月はじめに始まり、翌年の4月ごろまで続きます。半年以上もの長い眠りです。冬眠中は体の働きがぐっと落ち、ためた脂肪だけで命をつなぎます。冬眠用の巣穴は夏のものより深く、寒さや温度変化から守られた場所につくられます。
年に1回、2〜6頭の子
繁殖は春、気温が上がる4〜5月に行われます。妊娠期間はおよそ30日で、5月末から6月はじめに、1回に2〜6頭の子が生まれます。子は約1か月で巣の外に出るようになり、夏の終わりには自分で行動を始めます。
野生での寿命は5〜7年ほどとされますが、個体による差が大きい生き物です。とくに若い個体は、初めての冬眠を越せずに命を落とすことも少なくありません。
食べものと天敵
シベリアマーモットは徹底した草食で、草原に生えるイネ科・キク科・マメ科の草を食べます。春から夏は新芽や葉を、秋には種子など高エネルギーの部分を多くとって、冬眠にそなえます。
天敵は、ワシミミズク・ステップワシ・イヌワシといった猛禽類のほか、オオカミやキツネです。これに対してマーモットは、出入り口の多い巣穴ネットワークで身を守ります。鋭い目と耳、鳴き声による警報も武器です。また、その巣穴はほかの小動物の隠れ場所にもなり、マーモット自身も草原を支える大切な食べものになっています。
人との深い関わり
毛皮と「ボードグ」料理
シベリアマーモットは、古くから毛皮や食用として利用されてきました。厚い毛皮は防寒に優れ、モンゴルやシベリアでは冬の衣類に重宝されました。脂肪は「マーモット油」として、関節の痛みなどに使う民間薬にもされてきました。

モンゴルには「ボードグ」という独特の料理があります。骨を抜いたマーモットのおなかの中に、火で熱した石を入れ、皮を袋のように縛って内側から蒸し焼きにするのです。狩りは、脂がのって太る秋に行われてきました。草原の暮らしと深く結びついた食べ方です。
ペストを運ぶ動物として
シベリアマーモットには、もう一つ忘れてはならない顔があります。恐ろしい伝染病「ペスト」を運ぶ動物なのです。マーモットのあいだで広がるのは、せきでうつる「肺ペスト」という最も危険なタイプです。
満洲ペストという大流行
1910〜1911年、中国東北部(満洲)で「満洲ペスト」と呼ばれる大流行が起きました。毛皮を目当てにした狩りをきっかけに広まり、6万人以上が亡くなったとされます。ペスト菌は、マーモットにつくノミ(タルバガンノミ)にかまれたり、肉を食べたりすることで人にうつります。
これは昔話ではありません。2019年にも、モンゴルで生のマーモット肉を食べた夫婦がペストで亡くなっています。野生のマーモットには、今も気をつける必要があるのです。
乱獲で絶滅危惧種に
かつては数の多い動物でしたが、毛皮や肉を目当てにした行きすぎた狩りによって、数を大きく減らしました。そのためIUCNは2008年、シベリアマーモットを絶滅危惧種(EN)に指定しています。身近で数が多いように見えても、実際にはしっかり守るべき生き物なのです。



参考
- IUCN Red List: Marmota sibirica(Clayton, E. 2016, 絶滅危惧EN・2008年評価)
- Wikipedia「Tarbagan marmot」(英語版・満洲ペスト/ボードグ/分布)
- The Guardian「Mongolian couple die of bubonic plague after eating marmot」(2019年)


