コモリガエルは、南米の水の中にすむ、平べったい体のカエルです。メスが背中の皮ふで卵を育て、子ガエルが背中から次々と出てくるという、驚きの子育てで知られます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:両生綱 Amphibia
- 目:無尾目 Anura
- 科:ピパ科 Pipidae
- 属:ピパ属 Pipa
- 種:コモリガエル Pipa pipa
和名・英名
- 和名:コモリガエル
- 英名:Surinam toad(別名 star-fingered toad)
別名・学名の由来
別名は「ピパ」で、学名の Pipa pipa に由来します。「ピパピパ」と呼ばれることもありますが、これは学名の読みで、同じカエルを指します。和名の「コモリ(子守)」は、背中で子を育てる習性にちなんだ名前です。英名の Surinam toad(スリナムトード)は、分布する南米の国スリナムからきています。もう一つの英名 star-fingered toad は、前足の指先が星のような形をしていることにちなみます。ちなみに、実験動物として有名なアフリカツメガエルも、同じピパ科の仲間です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 オス最大約15cm・メス最大約17cm(メスがやや大きい・カエルとしては大型) |
|---|---|
| 分布 | 南米(アマゾン川流域を中心にブラジル・スリナム・ベネズエラなど)とトリニダード島 |
| 生息環境 | 流れのゆるい、酸性でにごった水の中(沼・よどみ・季節的な水たまり) |
| 食性 | 肉食よりの雑食(小魚・水生昆虫・ミミズ・甲殻類など) |
| 保全状況 | IUCN: LC(軽度懸念) |
木の葉そっくりの平たい体

枯れ葉に化ける平たい体
コモリガエルの体は、まるで押しつぶされたように平べったく、頭は三角形をしています。大きいメスで体長17cmほどと、カエルとしてはかなりの大型です。目はとても小さく、体の色も茶色っぽいので、水底に沈んだ枯れ葉や朽ち木にそっくりです。じっとしていると、生きものだと気づかないほど周りにとけ込みます。
舌も耳の穴もない顔
この顔には、ふつうのカエルにあるものがいくつもありません。まず舌がなく、音を聞くための鼓膜(こまく)も見当たりません。目は小さく、にごった水の中ではあまり役に立たないようです。そのかわり、体の表面には魚と同じ「側線(そくせん)」という感覚器があり、水のわずかなゆれから獲物や敵の動きを感じ取ります。前足の指先には星のような形の突起があり、これも獲物さがしに役立ちます。
濁った水の底で暮らす

酸性のよどんだ水を好む
コモリガエルがすむのは、流れのゆるい、にごった水です。落ち葉がたまって茶色くなった沼やよどみ、雨のあとにできる季節的な水たまりなどでよく見つかります。こうした水は、落ち葉から出る成分のせいで酸性にかたむいていることが多く、透明度も高くありません。見通しの悪い水の中こそ、枯れ葉に化けた待ち伏せがいちばん生きる場所なのです。
陸ではほとんど動けない
コモリガエルは、一生をほとんど水の中で過ごす完全な水生のカエルです。平たい体と、横に大きく張り出した手足は、水をかいて進むのに向いています。その一方で、陸に上がるとぎこちなく、ほとんど動けなくなってしまいます。ふつうのカエルのようにぴょんと跳ねることはなく、水中の暮らしに体をふりきって特化した姿だといえます。
待ち伏せて水ごと吸い込む狩り

星形の指で獲物を探る
コモリガエルは、自分から追いかけ回すのではなく、水底でじっと待ち伏せる狩りをします。えさになるのは、小魚・ミミズ・水生昆虫・甲殻類などです。口に入るものは何でもねらう、日和見(ひよりみ)なハンターだといえます。にごった水では目がたよりにならないので、前足の星形の指と体の側線で、近づいた獲物の気配をさぐります。そして獲物がじゅうぶん近づいた、まさにその瞬間に動きます。
体をふくらませて一気に吸い込む
舌のかわりは「吸い込み」
舌のないコモリガエルは、舌で獲物をからめ取ることができません。そのかわりに使うのが、口を大きく開いて水ごと吸い込む方法です。獲物のそばで口を一気に開くと、口の中の圧力が下がり、水と一緒に獲物が中へすべり込みます。この口を開く動きは、わずか12〜24ミリ秒ほどで起きるといわれます。
体じゅうを使って口を広げる
強い吸い込みを生むために、コモリガエルは胴全体を使って口の中を広げます。研究では、内臓が体の後ろへ体長の3分の1ほどもずれ動くと報告されています。胴のふくらみは、休んでいるときの1.5倍にもなるそうです。体じゅうを使ってここまで大きくふくらむ四足動物は、コモリガエルのほかに知られていないともいわれます。吸い込みそこねないよう、前足で獲物を口へかき込むこともあります。
背中で子を育てる ―「コモリガエル」の由来

宙返りしながら卵を背中へ
オスはカエルらしい声で鳴きません。かわりに、のどの骨を鳴らして「カチカチ」という金属のような音を出し、1秒に4回ほどのリズムでメスを呼びます。ペアは水底からうき上がり、宙返りするように弧をえがきながら泳いで産卵します。このときオスが卵をメスの背中に押しつけて受精させます。直径6.5mmほどの卵は、やがてメスの背中の皮ふに沈み込み、一つずつ小さな部屋におさまっていきます。背中がハチの巣のような穴だらけに見えるのは、このためです。
オタマジャクシにならず子ガエルへ

卵は、メスの背中の小部屋の中で育ちます。おもしろいことに、水を泳ぐオタマジャクシの時期がありません。背中の中でカエルの姿にまで育ち、12〜20週ほどかけて、体長2.5cmほどの子ガエルになって背中から次々と出てきます。子ガエルが出ていったあと、メスは背中の古い皮をはがして、もとのなめらかな姿に戻ります。そして、また次の繁殖にそなえます。水の中で子を守り育てる、コモリガエルならではの子育てです。
「気持ち悪い」と言われるのはなぜ?
コモリガエルは、ネットで「気持ち悪い」「恐怖症になる」と言われることがあります。その理由は、子育て中の背中の見た目です。小さな穴がびっしり並ぶ様子は、細かい集合体が苦手な人には強烈に映るようです。じっさい、集合体をこわがる心理は「トライポフォビア」と呼ばれ、コモリガエルはその代表例としてよく挙げられます。とはいえ、その穴の一つ一つが、子を守るためのゆりかごなのです。
どこで会える? 飼える?
一部の水族館で見られる
日本でも、両生類の展示に力を入れた一部の水族館や動物園で、飼育・展示されていることがあります。あの平たい体や、背中の子育てのあとは、写真で見るより実物のほうがずっと見ごたえがあるはずです。近くの施設の展示種を調べてみると、思いがけず出会えるかもしれません。
飼うのは上級者向け
ペットとして流通することもあります。ただし一生を水の中で暮らすカエルなので、水質や水温の管理が欠かせません。とくにアンモニアを多く出すため、水がよごれやすく、こまめな水かえが必要です。強い光をきらう性質もあり、飼育にはそれなりの設備と知識がいります。気軽に飼うというより、腰を据えて向き合いたい相手です。

参考
- IUCN Red List:Pipa pipa の評価(2023年・LC・分布と生息地への脅威)
- Fernandez, Irish & Cundall (2017)「How a Frog, Pipa pipa, Succeeds or Fails in Catching Fish」Copeia(吸い込み摂食のしくみ)
- Animal Diversity Web:Pipa pipa(形態・食性・繁殖の解説)
- Rabb & Snedigar (1960)「Observations on Breeding and Development of the Surinam Toad」Copeia(背中での産卵と発生の観察)
画像出典
アイキャッチ画像: User:Stan Shebs, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons


