キバラマーモットは、北アメリカ西部の山にすむ、おなかが黄色い大きなリスのなかまです。額の白い斑点が目印で、英語では「ロックチャック(岩のマーモット)」とも呼ばれます。10〜20頭ほどのコロニーで暮らし、1頭のオスが数頭のメスと暮らす一夫多妻の社会をつくります。1年の半分近くを冬眠して過ごし、近ごろは温暖化で体が大きく、数も増えていることで注目されています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:齧歯目(ネズミ目)Rodentia
- 科:リス科 Sciuridae
- 属:マーモット属 Marmota
- 種:キバラマーモット Marmota flaviventris
和名・英名
- 和名:キバラマーモット
- 英名:Yellow-bellied marmot(別名 rock chuck/whistle pig)
別名・学名の由来
和名の「キバラ(黄腹)」・英名の Yellow-bellied(黄色いおなか)・種小名の flaviventris は、すべて黄色いおなかにちなんでいます。別名の「ロックチャック」は、岩場にすむことからついた呼び名です。また、口笛のような声で鳴くことから「ホイッスルピッグ(口笛ブタ)」というユニークな愛称もあります。同じマーモット属には、ヨーロッパのアルプスマーモットや、アジアのヒマラヤマーモットがいます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長 約47〜68cm、尾 13〜21cm |
|---|---|
| 体重 | 約1.6〜5.2kg(オスが大きい・秋に太る) |
| 分布 | 北アメリカ西部(アメリカ西部〜カナダ南西部) |
| 生息環境 | 標高2,000m以上の山岳草原・岩場など |
| 食べもの | 草が中心(昆虫や鳥の卵も) |
| 保全状況 | IUCN: LC(軽度懸念)。寿命は15年ほど |
見た目

黄色いおなかと、額の白い斑点
頭胴長は45〜68cmほどで、体はがっしりとしています。背中は茶色っぽい色ですが、おなか・のど・首の横は名前のとおり鮮やかな黄色をしています。もうひとつの目印が、両目のあいだ(額)にある白い斑点です。この白斑と黄色いおなかが、ほかの北米のマーモットと見分ける決め手になります。尾は赤みがかった茶色で、短くふさふさしています。体重はオスのほうが大きく、大きいものでは5kgほどにもなります。
穴を掘る前足と、じょうぶな頭
ほかのマーモットと同じく、キバラマーモットも穴掘りの名人です。前足は短くて力強く、曲がった爪で、かたい山の土を掘っていきます。頭の骨は頑丈で、あごの筋肉もよく発達しているため、かたい高山の草もしっかりかみくだけます。目や耳の位置も、立ち上がって見張るときに広く周りを見わたせる、都合のよいつくりになっています。
暮らしと社会 ― 一夫多妻のコロニー
10〜20頭のコロニーで暮らす

キバラマーモットは、マーモットのなかでもとても社会的な動物です。10〜20頭ほどが集まった「コロニー(集団)」をつくり、いくつもの巣穴を共有して暮らします。仲間どうしで巣穴を訪ね合ったり、鼻を近づけてあいさつをしたりします。若い個体がじゃれ合って取っ組み合うこともあり、にぎやかな社会生活を送ります。こうした群れの暮らしぶりは、じつは半世紀以上も研究者に見守られてきました。
1頭のオスと、数頭のメス
キバラマーモットの群れの特徴は、その結婚のしくみにあります。1頭のオスが、2〜4頭ほどのメスをまとめて守る「一夫多妻(ハーレム)」なのです。ヨーロッパのアルプスマーモットが、1組のペアを中心とした家族で暮らすのとは、ここが大きく違います。生まれたメスの子は、そのまま生まれた場所の近くに残ることが多いようです。オスの子は1歳になると巣穴を離れ、新しい土地で自分のメスたちを持とうとします。
「ピー」と口笛で危険を知らせる

コロニーでは、1頭が後ろ足で立ち上がって、まわりに敵がいないか見張ります。コヨーテ・キツネ・ワシなどの捕食者を見つけると、鋭い口笛のような声を出して仲間に警告し、みんなでいそいで岩のすきまに隠れます。「ホイッスルピッグ(口笛ブタ)」という愛称は、この声からきています。声のするどさによって、まわりを警戒するだけでよいのか、すぐに巣穴へ逃げるべきなのか。仲間はそれを聞き分けているといわれます。
岩の下の巣穴と、長い冬眠
岩の下に掘る巣穴

キバラマーモットは、巣穴を岩の下に掘ることを好みます。岩がふたのようになって、捕食者に見つかりにくくなるからです。巣穴には日常づかいのものと、冬眠用のものがあります。ふだんの巣穴は深さ1mほどですが、冬眠用の巣穴は、深さ5〜7mにも達します。1つのコロニーは、巣穴のまわりのおよそ2〜3ヘクタールをなわばりとして使います。
一生の80%を巣穴で過ごす
半年以上の長い冬眠
キバラマーモットは、なんと一生のおよそ80%を巣穴の中で過ごします。しかも、そのうちの60%が冬眠だというから、おどろきです。冬眠はふつう9月ごろに始まり、翌年5月ごろまで、半年以上も続きます。冬のあいだの食料はためこまず、秋のうちにたくわえた脂肪だけをたよりに、長い眠りをやり過ごします。標高が高い場所ほど、冬眠の期間は長くなります。
冬眠が「老化」を遅らせる?
キバラマーモットの寿命は15年ほどで、これは体の大きさのわりに、とても長生きです。その秘密は、長い冬眠にあるかもしれません。近年の研究では、冬眠が体の老化のスピードをゆるめている可能性が示されました。1年の多くを、体の働きをぎりぎりまで落とした眠りの中で過ごすこと。それが若さを保つことにつながっているのではないか、というのです。長く眠る動物ならではの、ふしぎな長生きの秘密です。
春の繁殖と子育て

春に生まれ、半分が冬を越す
繁殖は、冬眠から目覚めてすぐの春に行われます。繁殖の時期は2週間ほどと短く、メスは30日ほどの妊娠期間をへて、平均3〜5頭の子を産みます。子どもは巣穴の中で育てられ、生後4〜5週間で地上に出てくるようになります。ただし、生まれた子のうち最初の1年を生きのびられるのは、およそ半分だけです。きびしい高山の冬は、小さな子どもにとって、それほど大きなかべなのです。
食べものと、生態系での役わり

草を中心に、虫や鳥の卵も
キバラマーモットは、イネ科やキク科などの草を中心に食べる植物食ですが、ときには昆虫や鳥の卵を口にすることもあります。花や葉、茎の中から、栄養のある部分を選んで食べます。活動するのはおもに朝と夕方で、日中の暑い時間は巣穴で休みます。植物の育つ期間が短い高い山では、限られた時間のあいだに、しっかり栄養をとることが生き残りのカギになります。
巣穴が生態系をつくる
キバラマーモットが掘る巣穴は、自分たちだけのものではありません。使われなくなった穴は、ほかの哺乳類や爬虫類・両生類・昆虫などの、かくれ家や繁殖場所として再利用されます。また、土を掘りかえすことで土の通気性や水はけがよくなり、種子の移動にも一役買います。こうしてまわりの生きものの暮らしを支えることから、キバラマーモットは「生態系のエンジニア」と呼ばれています。
人との関わり

国立公園の人気者
キバラマーモットは、ヨセミテをはじめ、アメリカやカナダの多くの国立公園にすんでいます。標高の高い駐車場や展望台のまわりで姿を見せることも多く、その愛嬌ある姿は、登山者や観光客の人気者です。ただし、人が餌をあたえたり近づきすぎたりするのはよくありません。本来の暮らしが乱れ、病気や事故の原因になるからです。かわいくても、そっと見守るのがいちばんです。
車をかじる、こまった一面も
意外なことに、キバラマーモットは車に「いたずら」をすることで知られています。駐車場にとめた車のエンジンルームにもぐりこみ、ゴムのホースや配線をかじってしまうのです。とくにアメリカの一部の山の駐車場では、マーモットによる車のこわれが有名で、注意がよびかけられています。道路沿いの斜面に巣穴を掘ることもあり、人の暮らしとのつき合い方が、課題になっている地域もあります。
意外な豆知識
温暖化で「大きく」なった

多くの生きものが温暖化に苦しむなかで、キバラマーモットは変わった反応を見せました。気温が上がって雪どけが早まると、冬眠が早く終わり、活動できる期間が長くなります。その結果、しっかり食べて太れるようになり、体が大きく数も増えたことが報告されています。ただし、これがずっと続く保証はありません。気候の変化に、この先どう向き合っていくのかが注目されています。
半世紀つづく研究のスター
キバラマーモットは、じつは動物研究の世界では有名なスターです。アメリカのロッキー山脈にある研究所では、1962年から現在まで、同じ地域のコロニーがずっと調べ続けられています。これは、野生の哺乳類の研究としては、世界でもっとも長く続いているものの一つです。一頭ずつの性格や、仲間とのつき合い方(社会ネットワーク)まで細かく調べられていて、動物の社会を知る大切な手がかりになっています。
アルプスマーモットとの違い
よく似たアルプスマーモットとは、いくつかのはっきりした違いがあります。まず、すむ大陸が違います。キバラは北アメリカ、アルプスはヨーロッパです。見た目では、キバラの黄色いおなかと額の白斑が目印になります。そして社会のしくみも、キバラが一夫多妻のコロニーなのに対して、アルプスマーモットは1組のペアを中心とした家族で暮らします。同じ「マーモット」でも、暮らしぶりは意外と違うのです。くわしくはアルプスマーモットのページもどうぞ。
マーモットの仲間全体についてはマーモットのページもどうぞ。
参考
- Wikipedia(英語版「Yellow-bellied marmot」・日本語版「キバラマーモット」):形態・社会・冬眠・分布
- Ozgul ら (2010, Nature) 温暖化と体重・個体数の関係/Pinho ら (2022) 冬眠と老化に関する研究
- Armitage・Blumstein ほか:ロッキー山脈での長期研究(社会行動)
- IUCN Red List:Marmota flaviventris の評価(保全状況)
画像出典
アイキャッチ画像: Jon Sullivan, CC0, via Wikimedia Commons


