スベスベマンジュウガニ

甲殻類・軟体動物

スベスベマンジュウガニは、丸くてすべすべした甲羅を持つ、手のひらサイズの小さなカニです。見た目はふつうの食べられそうなカニですが、体にフグと同じような猛毒を持ち、「食べてはいけないカニ」として知られています。あたたかい海の岩場やサンゴ礁で暮らしています。

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分類と学名

和名・英名・学名

  • 和名:スベスベマンジュウガニ(滑々饅頭蟹)
  • 英名:Floral egg crab / Shawl crab
  • 学名:Atergatis floridus

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:節足動物門 Arthropoda
  • 綱:軟甲綱 Malacostraca
  • 目:十脚目(エビ目) Decapoda
  • 科:オウギガニ科 Xanthidae
  • 属:マンジュウガニ属 Atergatis
  • 種:スベスベマンジュウガニ Atergatis floridus

名前の由来

和名は「すべすべ」+「饅頭(まんじゅう)」+「蟹(かに)」からできています。甲羅の表面がつるつるとなめらかで、こんもり丸い形が和菓子の饅頭に似ていることが名前のもとです。触るとすべすべした手ざわりが、そのまま名前になった、めずらしいカニです。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ甲幅 約4cm(甲長 約2.5cm)=手のひらサイズ
分類オウギガニ科 マンジュウガニ属
分布房総半島以南〜沖縄(インド太平洋に広く)
生息環境あたたかい海の岩礁・サンゴ礁・転石帯(潮間帯〜水深10mほど)
食べ物海藻・貝・死骸・有機物など(雑食)
テトロドトキシン/麻痺性貝毒(地域で成分が違う)
注意食用禁止。加熱しても毒は消えない

テトロドトキシンは、フグが持つことで有名な強い神経毒です。ごく少量でも、しびれや呼吸の麻痺(まひ)を起こすことがあります。

すべすべの甲羅と見た目

饅頭のような丸い甲羅

甲羅の幅は4cmほど、甲長は2.5cmほどで、大きなカニではありません。甲羅はこんもりと盛り上がり、後ろがすぼまった、まさに饅頭のような形をしています。甲に対して脚が太く短い、ずんぐりとした体つきです。これはオウギガニ科のカニによく見られる形です。危険がせまると、丸くかたい甲羅を活かして岩のすき間にぴったり収まり、身を守ります。

スベスベマンジュウガニの標本
博物館の標本(オウギガニ科)。丸い甲羅の形がよくわかる(Daderot, パブリックドメイン, via Wikimedia Commons

レースのような網目模様

甲羅の色は、緑がかった茶色や赤褐色をしています。その上に、白や黄色の細い線がレースのように広がる、美しい網目模様が入ります。英名の「Shawl crab(ショールのカニ)」は、この模様がショール(肩かけ)に見えることから来ています。表面はつやがあってなめらかで、触るとすべすべしています。

フグと同じ猛毒を持つ

ぜったいに食べてはいけないカニ

スベスベマンジュウガニのいちばんの特徴は、その強い毒です。体にはフグ毒と同じ「テトロドトキシン」や、「麻痺性貝毒(サキシトキシン)」といった猛毒がふくまれます。食べると、数十分から2時間ほどでしびれや嘔吐(おうと)が始まり、重い場合は呼吸が麻痺して命を落とすこともあります。

この毒は、煮ても焼いても消えません。そのため厚生労働省などは、このカニを「食べてはいけない」とはっきり注意しています。見た目がふつうのカニに似ているので要注意です。海辺の観察や磯遊びで出会うぶんには問題ありませんが、持ち帰って食べるのだけは絶対にやめましょう。

毒は場所によって違う

おもしろいことに、このカニの毒は、すむ場所によって成分が違います。関東のあたりの個体は毒が比較的弱く、成分はフグ毒(テトロドトキシン)です。一方、沖縄など南西諸島の個体は毒が強く、成分は麻痺性貝毒(サキシトキシンやネオサキシトキシン)が中心です。同じ種でも、地域によって危険度が違うのです。

毒はどこから来るのか

じつは、この毒はカニが自分で作っているのではないと考えられています。フグと同じように、食べもの(プランクトンなど)や体の中にすむ細菌からもらった毒を、体にため込んでいるのです。ある調査では、毒はとくにハサミの付け根の太い筋肉に多く、胴体の筋肉にはほとんど無い個体もいました。どこにどれだけ毒があるかも、個体によって違います。

似た毒ガニに注意

あたたかい海には、スベスベマンジュウガニと同じオウギガニ科の毒ガニがほかにもいます。とくに「ウモレオウギガニ」は最も毒が強いとされ、「ツブヒラアシオウギガニ」なども毒を持ちます。過去には、こうしたカニを味噌汁にして食べ、2人が亡くなり3人が重症になった事故も記録されています。見分けるのはとても難しいので、「よく知らないカニ、とくにオウギガニ科は食べない」が鉄則です。

毒が知られるようになったわけ

スベスベマンジュウガニの毒が知られるようになったのは、1960年代のことです。奄美諸島で、カニを食べて人が亡くなる中毒事故が起きました。原因を調べるうちに、事故のもとになったウモレオウギガニだけでなく、スベスベマンジュウガニにも毒があるとわかったのです。それ以来、これらのカニは「食べてはいけないカニ」として、広く知られるようになりました。

どこにすむ・どう暮らす

あたたかい海の岩場やサンゴ礁

スベスベマンジュウガニは、房総半島より南から沖縄にかけての海にすみ、インド太平洋の広い範囲で見られます。すみかは、あたたかい海の岩礁やサンゴ礁、石がごろごろした場所です。水深はごく浅く、潮間帯から水深10mほどまでに多くいます。昼は岩やサンゴのすき間にじっと隠れ、夜になると出てきて活動します。

潮だまりのスベスベマンジュウガニ
潮だまりで見つかった個体(Was a bee, パブリックドメイン, via Wikimedia Commons

海のそうじ屋

食べものは幅広く、海藻・小さな貝・有機物のかけら・生きものの死骸などを食べる雑食です。動きはゆっくりで、夜に体を低くして餌をさがします。死んだ生きものも食べるため、海底の「そうじ屋」の役目も果たしています。強い毒のおかげで、ほかの生きものに食べられることも少ないと考えられています。毒を持つ生きものが海の食物網にどんな影響をあたえるのか、その研究の対象にもなっています。

繁殖と一生

卵を抱えて守る

繁殖はあたたかい季節に活発になります。メスは脱皮のあとにオスと交尾し、精子を体にたくわえてから、よい時期に産卵します。産んだ卵は、おなかの脚(抱卵肢)で数千個も抱えて守ります。卵の色はオレンジがかった赤色です。

卵からかえった幼生は、はじめは水中をただよう「ゾエア」という姿です。その後「メガロパ」という中間の段階をへて、小さな稚ガニになり、海底での暮らしを始めます。幼生のあいだに生き残れるのはごくわずかですが、無事に育った個体は、親と同じように岩かげでひっそりと暮らします。

知っておきたい豆知識

毒に強いカニもいる

毒を持たないイソガニというカニは、じつはフグ毒(テトロドトキシン)に対しては強い耐性を持つことが知られています。ところが、同じ猛毒でも麻痺性貝毒(サキシトキシン)には耐性がありません。同じ「猛毒」でも、成分によって効き方が違うという、おもしろい性質です。

毒は研究にも役立つ

こわい毒ですが、じつは科学の研究にも役立っています。テトロドトキシンなどの神経毒は、神経が信号を伝えるしくみを調べる研究や、新しい痛み止めの開発などに使われています。危険な毒も、正しく使えば人の役に立つことがあるのです。

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参考

  • Wikipedia「スベスベマンジュウガニ」(分類・毒成分の地域差・中毒事例)
  • 斎藤ほか「神奈川県および和歌山県産スベスベマンジュウガニの体内フグ毒分布」(2004)
  • Wikipedia「Atergatis floridus」(英語版・形態と分布)

画像出典

アイキャッチ画像: Was a bee, パブリックドメイン, via Wikimedia Commons

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