カブトガニは、干潟や浅い海の底にすむ生きものです。「カニ」と名前につきますが、じつはカニの仲間ではなく、クモやサソリに近い動物です。2億年以上ほとんど姿を変えていない「生きた化石」であり、その青い血が人の命を救う薬づくりに役立つことでも知られています。
分類と学名
- 界:動物界
- 門:節足動物門(せっそくどうぶつもん)
- 亜門:鋏角亜門(きょうかくあもん)
- 綱:カブトガニ綱(節口綱)
- 目:カブトガニ目
- 科:カブトガニ科(Limulidae)
- 種:カブトガニ Tachypleus tridentatus
日本にすむカブトガニの学名は Tachypleus tridentatus です。カブトガニのなかまは世界に4種だけで、日本のほかにアメリカ大陸やアジアの海にすんでいます。カニやエビ(甲殻類)ではなく、クモ・サソリと同じ「鋏角類(きょうかくるい)」というグループに入る、少し変わった動物です。
基本データ
| 大きさ | 甲らのはば 約30cm、尾を入れると全長約60cm |
| 分布 | 日本(瀬戸内海・九州北部など)、アジアの海 |
| すみか | 干潟(ひがた)や、浅い海の砂・どろの底 |
| 食べもの | 海底のゴカイや貝などの小さな生きもの |
| 体のなかま | カニではなく、クモ・サソリに近い(鋏角類) |
| 保全状況 | 絶滅危惧種(日本では天然記念物) |
大きな成体は、尾までふくめると全長60cmほどになります。オスよりもメスの方が大きく育ちます。
カニじゃない! 体のつくり

3つに分かれた体と、長い尾
カブトガニの体は、大きく3つに分かれています。かぶとのような丸い前の部分(前体)、その後ろのとげのある部分(後体)、そして細長い「尾剣(びけん)」というしっぽです。この尾は、するどそうに見えますが人をさす武器ではありません。ひっくり返ってしまったときに、地面をついて体を起こすために使います。
後体の左右には、動かせるとげが3対(左右で6本)ならんでいます。カブトガニの英語名「tri-spine(3本のとげ)」は、このとげからきています。前体の下がわには口があり、その前に「鋏角(きょうかく)」という小さなはさみがあります。このはさみは、クモやサソリが持つものと同じつくりで、カブトガニがクモの仲間である証拠のひとつです。大きなメスは、尾までふくめると全長80cm近くにもなります。
じつは目がたくさんある
カブトガニには、目がたくさんあります。甲らの上には大きな複眼(ふくがん)が左右に1つずつあり、そのほかにも小さな目が体のあちこちにあって、全部で10個ほどにもなるのです。尾の近くにも、光を感じる部分がそなわっています。暗い海の底で、わずかな光や仲間を感じ取るのに役立っていると考えられています。
クモやサソリのなかま
脚で食べものをすりつぶす
裏返すと、はさみのついたたくさんの脚がならんでいます。これはカニの脚ではなく、クモやサソリと同じつくりです。カブトガニには歯がなく、脚の付け根のギザギザで食べものをすりつぶしてから、まん中の口へ運びます。
本のようなうすいえら
脚の後ろには、本のページのようにうすく重なった「えら(書鰓)」があります。これで水中の酸素を取り入れて呼吸します。カブトガニは、このえらを動かして水をかき、上下さかさまになって泳ぐこともできます。カニに似ていても、体のつくりはまったく違う動物なのです。
オスとメスの見分け方
カブトガニは、オスとメスで体の大きさやつくりが違います。まず、メスのほうがオスよりひとまわり大きく育ちます。体が大きいメスほど、たくさんの卵を産めるためだと考えられています。
いちばんの見分けポイントは、いちばん前の脚の形です。オスは、大人になる最後の脱皮で、前の脚の先が「ボクシンググローブ」のようなかぎ形に変わります。これは、産卵のときにメスの甲らをがっちりつかむための特別な脚です。いっぽうメスの脚の先は、ふつうのはさみのような形です。産卵のとき、オスはこのかぎ形の脚でメスの後ろにしっかりつかまり、ペアになって砂浜へ向かいます。
青い血のひみつ

なぜ血が青いの?
わたしたち人間の血は赤い色をしています。これは血の中に「鉄」をふくむ赤い成分があるからです。ところがカブトガニの血には、鉄のかわりに「銅(どう)」をふくむ成分が入っています。この銅が酸素と結びつくと青くなるため、カブトガニの血は青い色をしています。
人の命を救う血
カブトガニの青い血には、ばい菌(細菌)の毒に触れると固まるという、とくべつな性質があります。この性質を利用して、注射する薬やワクチンに、体に害のある毒がまじっていないかを調べる検査薬がつくられています。世界じゅうの人が使う薬の安全を、カブトガニの血が支えているのです。そのため、この血はとても貴重で、高い値段で取り引きされています。
採った血はどうするの?

血をとるときは、カブトガニをつかまえて少しだけ採血し、生きたまま海へ返します。それでも弱って死んでしまう個体もいて、カブトガニにとっては大きな負担です。そこで近ごろは、カブトガニの血を使わずにすむ、人工の検査薬をつくる研究も進んでいます。この生きものにたよりきりにならない方法が、少しずつ広がりはじめています。
「生きた化石」と呼ばれるわけ

2億年以上、姿が変わらない
カブトガニの祖先は、恐竜が生きていたよりもっと昔からいて、その姿は2億年以上ほとんど変わっていません。大むかしの化石と、今のカブトガニがそっくりなので、「生きた化石」と呼ばれます。すむ場所である干潟の暮らしにぴったり合った体だったため、大きく変える必要がなかったのだと考えられています。
脱皮をくり返して育つ
カブトガニは、かたい甲らにおおわれているため、大きくなるには古い甲らをぬぐ「脱皮」が必要です。子どものうちは何回も脱皮をくり返し、少しずつ大きくなります。大人になるまでには、10年以上かかることもあります。ゆっくり育つ、長生きな生きものです。
暮らしと産卵

干潟で底の生きものを食べる
カブトガニは、ふだんは干潟や浅い海の底で暮らしています。砂やどろの中にもぐりながら、ゴカイや小さな貝などをさがして食べます。歯はなく、脚の付け根で食べものをすりつぶしてから口に入れる、変わった食べ方をします。
夏の大潮の夜に産卵する
夏になると、カブトガニは産卵のために砂浜へやってきます。多くは、潮が大きく満ちる「大潮」の夜です。メスの上にオスがつかまり、ペアになって砂の中にたくさんの卵を産みます。生まれた小さな幼生は、はじめは尾のない、まるい形をしています。この姿は、大むかしの海にいた「三葉虫(さんようちゅう)」という生きものによく似ていて、「三葉虫型幼生」と呼ばれます。カブトガニの古さを感じさせる、ふしぎな赤ちゃんの姿です。
なぜ絶滅の危機なの?

すみかの干潟が減っている
カブトガニは今、絶滅が心配される動物です。いちばんの理由は、すみかであり産卵場所でもある干潟が、埋め立てや開発でどんどん減っていることです。ゆっくり育つカブトガニは、いちど数が減ると、なかなかもとにもどれません。血をとるための利用や、地域によっては食用にされることも、数を減らす原因になっています。
日本では天然記念物
日本のカブトガニは数が少なくなり、瀬戸内海や九州北部の一部の海でしか見られなくなりました。そこで、いくつかの生息地は国の「天然記念物」に指定され、大切に守られています。岡山県笠岡市には、カブトガニを研究・展示する「カブトガニ博物館」もあり、この生きものについて学べます。カブトガニの生息地を守ることは、そこに暮らす多くの海の生きものを守ることにもつながります。


参考文献
- IUCN Red List「Tachypleus tridentatus」
- Wikipedia(英語版)「Horseshoe crab」
- Wikipedia(英語版)「Tachypleus tridentatus」
画像出典
アイキャッチ画像: Hans Hillewaert, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(本文中の写真は各キャプションに出典を記載)


