アルプスマーモット

齧歯類(ネズミ・リス)

アルプスマーモットは、ヨーロッパのアルプスなどの高い山にすむ、大きなリスのなかまです。リス科のなかでもっとも重い部類で、いわば「世界最大級のリス」です。家族の群れで暮らし、見張り役が「ピー!」と口笛のような大きな声を出して、仲間に敵の接近を知らせます。ネットで話題の「叫ぶマーモット」も、じつはこの声です。そして1年の半分以上を、仲間とぴったり寄り添って冬眠して過ごす、氷河期からの生き残りでもあります。

スポンサーリンク

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:哺乳綱 Mammalia
  • 目:齧歯目(ネズミ目)Rodentia
  • 科:リス科 Sciuridae
  • 属:マーモット属 Marmota
  • 種:アルプスマーモット Marmota marmota

和名・英名

  • 和名:アルプスマーモット
  • 英名:Alpine marmot

別名・学名の由来

「マーモット(marmot)」という名前は、「山のネズミ」を意味するラテン語(mus montanus)にさかのぼると言われています。名前のとおり、アルプス山脈を中心に、ヨーロッパの中央部から南部の高い山にすむ動物です。「ヨーロッパにいるマーモットはこの1種だけ」と紹介されることがありますが、これは正確ではありません。アルプスのほか、ピレネー山脈・ジュラ山脈・アペニン山脈・カルパティア山脈などにも分布しています。同じマーモット属には、アジアの高地にすむヒマラヤマーモットやシベリアマーモットなどの仲間がいます。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ頭胴長 約45〜55cm、尾 13〜20cm(リス科で最大級)
体重春は約3kg → 秋には7〜8kg近く(季節で大きく変化)
分布ヨーロッパの高山(アルプス・ピレネー・カルパティア など)
生息環境標高800〜3,200mの高山草原
食べもの草やハーブが中心(種子・昆虫なども)
保全状況IUCN: LC(軽度懸念)。1年の半分以上を冬眠

見た目

後ろ足で立ち上がったアルプスマーモット
毛は金色がかった茶色〜灰色がまじる。Giles Laurent, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ずんぐりした体と、季節で変わる体重

体はずんぐりと太く、四肢は短めで、尾は太くふさふさしています。毛の色は、金色がかった茶色から赤みのある灰色まで、いろいろな色がまじります。おもしろいのは体重の変化です。長い冬眠を終えた春にはやせて3kgほどですが、冬眠にそなえてたくさん食べる秋には、7〜8kg近くと倍近くにもふくらみます。リス科のなかでもっとも重い部類とされ、まさに「世界最大級のリス」です。

穴を掘るための、じょうぶな前足と歯

アルプスマーモットは、地面を掘るのがとても得意です。前足は短くて力強く、曲がったするどい爪がそなわっています。この爪で、つるはしでも歯が立たないほどかたい高山の土を掘り進めます。指のうち、親指だけは爪ではなく人のような平づめになっているのも特徴です。齧歯類らしく前歯(門歯)は一生のびつづけ、じゃまな小石なら、歯でくわえて取りのぞいてしまいます。

家族の群れで暮らす

群れと、見張り役

アルプスマーモットは、繁殖する1組のペアとその子どもたちからなる、家族の群れで暮らします。群れはいくつもの巣穴を共有し、力の強い繁殖ペアを中心にまとまっています。よそ者が入ってくると、尾を地面に叩きつける・歯をガチガチ鳴らす・においで縄張りに印をつけるなどして、相手を追いはらいます。仲よく見えて、なわばりを守る意識はとても強いのです。

「ピー!」と口笛で敵を知らせる ―「叫ぶマーモット」の正体

立ち上がって周囲を見張るアルプスマーモット
後ろ足で立ち上がり、あたりを見張る。CC0, via Wikimedia Commons

群れではよく、1頭が後ろ足で立ち上がり、あたりに敵がいないか見張っています。タカやキツネなどが近づくと、見張りは「ピー!」という大きな口笛のような声を、続けざまに鳴らします。すると群れの仲間はいっせいに巣穴へかけこみます。この警告の声は、空からおそう敵と地上からおそう敵とで鳴き方を変えていて、仲間はそれを聞き分けているといわれます。じつは、ネットで有名になった「叫ぶマーモット」の動画も、この警戒の叫び声なのです。おどけて叫んでいるように見えて、本当は「あぶない!」という真剣な合図なのです。

地下につくる大きな巣穴

何mも掘りすすむ巣穴

巣穴の入り口にいるアルプスマーモット
巣穴の入り口に立つアルプスマーモット。trldp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

アルプスマーモットの巣穴は、とても大がかりです。深さは3〜7m、通路の全長は10mをこえることもあり、出入り口もいくつもあります。掘るときは、前足で土を削り、後ろ足でその土を後ろへ押し出していきます。いったんできあがった巣穴は1つの家族で使い、次の世代がさらに掘りひろげて、代々受けつがれる複雑な地下の家になっていきます。

寝室もトイレもある

巣穴の中は、ただの穴ではありません。いちばん奥には、干し草や草の茎をしきつめた、ふかふかの「寝室」がつくられます。いっぽうで、行き止まりになったトンネルは「トイレ」として使い分けられています。巣穴は日当たりのよい南向きの斜面に掘られることが多く、敵から身を守るだけでなく、長い冬眠を安全に過ごすための大切なすみかになっています。

1年の半分以上を冬眠する

秋に太ってまるまるとしたアルプスマーモット
冬眠にそなえ、秋にはまるまると太る。Fulvio Spada, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

秋に太って、巣穴を閉じる

高い山の冬は、雪におおわれ、食べものがなくなります。そこでアルプスマーモットは、秋のうちにたっぷり食べて脂肪をたくわえ、早ければ10月ごろから冬眠に入ります。冬眠の前には、巣穴の中に古い草を運びこんで寝床をととのえ、入り口を土と自分のふんでしっかりふさいでしまいます。こうして外の寒さと敵を、地下でシャットアウトするのです。

心臓は1分に5回 ― 極限の眠り

呼吸も体温も、ぎりぎりまで下げる

冬眠中のアルプスマーモットの体は、おどろくほど「省エネ」になります。ふだんは1分間に200回ほど打つ心臓が、なんと1分にわずか5回ほどにまで落ちます。呼吸も、1分に1〜3回ほど。体温も、まわりの空気とほとんど同じくらいまで下がります。ただし、こおりつきそうな寒さになれば、体をこおらせないように心臓と呼吸を少しだけ速めます。こうしてたくわえた脂肪を、少しずつ使いながら、長い冬をやり過ごすのです。

みんなで寄り添って温め合う

アルプスマーモットの冬眠には、大きな秘密があります。彼らは冬眠のあいだ、家族みんなで体をぴったりと寄せ合うのです。おたがいの体温を分け合うことで、熱がにげるのをふせぎ、寒さを乗りきります。研究では、寄り添う群れが大きいほど、冬を生きのびる割合が高くなることが分かっています。とくに体の小さな子どもは、まわりの大人や兄姉に温めてもらうことで、はじめての冬を越しやすくなります。反対に、脂肪を使いきってしまうと、目を覚ますことなく命を落とすこともあります。これは若い個体に多いといわれます。

春の繁殖と子育て

寄り添う2頭のアルプスマーモット
寄り添ってあいさつを交わす2頭(社会性が高い)。EpsilonEridani, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

子を産むのは、群れの中心ペアだけ

繁殖は、冬眠から目覚めてすぐの春に行われます。早く生まれた子ほど、次の冬までに脂肪をたくわえる時間ができ、生きのびやすくなるからです。おもしろいのは、群れの中で子を産むのは、基本的に力の強い中心のメスだけということ。中心のメスは、ほかのメスが妊娠するとストレスをあたえるなどして、子を産ませないようにします。妊娠期間は33〜34日ほどで、一度に1〜7匹、ふつうは3匹ほどの子が生まれます。子どもは目が見えない状態で生まれ、数日で毛が生えそろい、40日ほどで乳ばなれします。

助け合って冬を越す

子を産めなかった若い個体は、群れを出ていかずに残ることがあります。すると次の冬眠のとき、その若者たちが、中心ペアの子どもたちに寄り添って体を温めるのです。つまり、自分は子を産まなくても、弟や妹を温めて生かすことで群れ全体を支えているのです。「産む役」と「温める役」で助け合う、みごとな協力のしくみです。子どもは夏の終わりには大人と同じ毛色になり、2年ほどで大人と同じ大きさに育ちます。

食べものと、生態系での役わり

草を食べるアルプスマーモット
前足で食べものをつかんで食べる。Hedwig Storch, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

高山の草を、両手で食べる

食べものは、イネ科の草やハーブなどの植物が中心です。若くてやわらかい草を好み、両手の前足でつかんで食べる姿は、とても愛らしく見えます。植物のほか、種子や昆虫、クモなどを口にすることもあります。暑さが苦手なので、活動するのはおもに朝と夕方。気温の高い日には、ほとんど食べに出てこないこともあります。それでも天気のよい日には大量に食べて、長い冬眠にそなえた脂肪をせっせとたくわえます。

タカのごちそう、そして「生態系のエンジニア」

アルプスマーモットは、高山の食物連鎖の中で大切な役わりをになっています。イヌワシやキツネ、オオヤマネコなどにとって、重要な獲物の一つだからです。いっぽうで、彼らが掘る大きな巣穴は、昆虫・小さな爬虫類・ほかの小動物のすみかにもなります。まわりの土や地形をつくりかえ、多くの生きものの暮らしを支えることから、アルプスマーモットは「生態系のエンジニア」とも呼ばれています。

人との関わり

アルプスの人気者

岩のそばから顔を出したアルプスマーモット
岩のそばから顔を出したアルプスマーモット。Bernie, Public domain, via Wikimedia Commons

アルプスの山を歩くと、登山道や牧草地でアルプスマーモットに出会うことがよくあります。後ろ足ですっと立ち上がった姿や、あの口笛のような声が愛され、観光地ではぬいぐるみやポストカードのモチーフにもなっています。スイスなどの山のイメージをかたちづくる、なくてはならない存在で、野生動物とのふれあいを楽しむエコツーリズムの主役の一つでもあります。

昔は狩られ、脂肪は塗り薬に

今では人気者のアルプスマーモットですが、昔は肉や脂肪を目当てに、さかんに狩られていました。とくに、その脂肪をとかした「マーモット油」は、リウマチや関節の痛みにきく塗り薬として古くから使われてきました。今も一部で狩猟は続いていますが、繁殖のペースがゆっくりなため、獲りすぎには注意が必要です。多くの国では法律で守られており、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは「軽度懸念(LC)」とされ、数はおおむね安定しています。

ペットにできる? 日本で会える?

「値段は?」「飼えるの?」と気になる人もいるかもしれませんが、アルプスマーモットは、気軽に飼えるペットではありません。野生動物として保護されているうえに、正しく冬眠させる必要があるなど、飼育はとてもむずかしい動物です。日本の家庭で見かけることはまずありません。マーモットの仲間に会いたいときは、飼うのではなく、動物園などで元気な姿を観察するのがおすすめです。

意外な豆知識

ヒマラヤマーモットとの違い

「アルプスマーモットとヒマラヤマーモットは、どう違うの?」と迷う人も多いようです。いちばんの違いは、すんでいる場所です。アルプスマーモットはヨーロッパの高山にすみ、ヒマラヤマーモットはアジアのヒマラヤやチベットの高地にすみます。大きさでは、ヒマラヤマーモットのほうがひとまわり大きく、体の色も黄色みの強い茶色が目立ちます。同じマーモット属の兄弟のような関係ですが、暮らす大陸が大きく違うのです。

氷河期からの生き残り

アルプスマーモットは、もともと氷河期の寒い草原で暮らしていた動物です。氷河期が終わってあたたかくなると、寒さの残る高い山へと追いやられ、そこで生きのびてきました。じつは、氷河期の気候にぴったり合わせて進化したため、その後の変化がとてもゆっくりでした。そのため、野生動物のなかでは遺伝的な多様性がもっとも低い部類とされています。今も高山で暮らすアルプスマーモットは、いわば「氷河期の空気」をまとった、生きた化石のような存在なのです。

マーモットの仲間全体についてはマーモットのページもどうぞ。

参考

  • Wikipedia(英語版「Alpine marmot」・日本語版「アルプスマーモット」):形態・生態・冬眠・繁殖・分布
  • Arnold, W. (1988) 冬眠中の社会的体温調節に関する研究(寄り添いと越冬率)
  • Ortmann & Heldmaier (2000) 冬眠時の体温・エネルギー調節に関する研究
  • IUCN Red List:Marmota marmota の評価(保全状況)

画像出典

Kuebi = Armin Kübelbeck, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

タイトルとURLをコピーしました