チョウチンアンコウは、深海にすむアンコウの仲間です。頭からのびた「提灯(ちょうちん)」を光らせ、暗い海で獲物をおびきよせます。オスとメスの大きさが極端に違うことでも知られます。ただし、よく語られる「オスがメスに合体する」話は、正確には近い仲間の一部で見られるものです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:条鰭綱 Actinopterygii
- 目:アンコウ目 Lophiiformes
- 亜目:チョウチンアンコウ亜目 Ceratioidei
- 科:チョウチンアンコウ科 Himantolophidae
- 属:チョウチンアンコウ属 Himantolophus
- 種:チョウチンアンコウ Himantolophus sagamius
和名・英名
- 和名:チョウチンアンコウ(漢字で「提灯鮟鱇」)
- 英名:Pacific footballfish(太平洋のフットボール魚の意味)
名前の由来と、指す範囲
「チョウチンアンコウ」の名前は、頭の上にある光る器官が、提灯(ちょうちん)のように見えることに由来します。丸くふくらんだ体つきから、英語では「フットボール魚」と呼ばれます。和名の「チョウチンアンコウ」は、本来は1つの種を指す名前です。ただし、頭に提灯を持つ深海のアンコウの仲間全体を、まとめて「チョウチンアンコウ(の仲間)」と呼ぶこともあります。以下では、種としてのチョウチンアンコウを中心に、仲間に共通する特徴もあわせて見ていきます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | メスは体長 最大46cmほど・オスは数cmと非常に小さい |
|---|---|
| 分布 | 太平洋を中心とした世界の深海。日本の近海でも記録がある |
| 生息環境 | おもに水深200〜800mほどの暗い深海(中層) |
| 食べもの | 肉食(深海の魚や、エビ・イカなどの小動物) |
| 保全状況 | 情報が少なく、数などはよく分かっていない |
深海に暮らす、アンコウの仲間

泳ぎ回るより、待ちぶせ
チョウチンアンコウは、アンコウの仲間の魚です。そのなかでも、深海で暮らす「チョウチンアンコウ亜目」というグループに入ります。光のとどかない深海は、食べものの少ない世界です。あちこち泳ぎ回ってえさを探すと、多くのエネルギーを使ってしまいます。そこでチョウチンアンコウは、あまり泳がず、暗やみでじっと獲物を待ちかまえる暮らしを選びました。丸くふくらんだ体は、速く泳ぐのには向きませんが、待ちぶせには十分です。
小さな目と、大きな口
暗い深海では、目でまわりを見わたすことは、あまり役に立ちません。そのためチョウチンアンコウの目は、体のわりに小さめです。目にたよるかわりに、提灯の光でえものを引き寄せる作戦をとっています。いっぽう口は大きく、あごにはするどい歯がならびます。近づいた獲物を、この大きな口で逃さずとらえます。
頭の提灯で、獲物をおびきよせる

提灯の正体は、変化した背びれ
頭からのびる提灯は、背びれの一部が変化してできたものです。細い棒のような部分を「イリシウム」、その先の光るふくらみを「エスカ」と呼びます。もともとヒレだった部分が、長い進化のなかで釣りざおのような形に変わりました。チョウチンアンコウは、このエスカを暗い海でチラチラと動かして光らせます。その光に、小さな魚やエビが引き寄せられます。近づいてきた獲物を、大きな口で一気に飲みこみます。光る釣りざおで魚を釣るような狩りです。
光るのは自分ではなく、バクテリア
エスカの光は、チョウチンアンコウ自身が作り出しているのではありません。エスカの中には、光を出す「発光バクテリア」がすみついています。この小さなバクテリアが放つ光を、チョウチンアンコウは借りているのです。バクテリアはすみかを得て、魚は光を得る、たがいに助け合う共生の関係です。かつては魚が自分で光ると考えられていましたが、研究によって、体の中の細菌が出す光と分かってきました。
提灯を持つのはメスだけ
この光る提灯を持っているのは、メスだけです。オスには、提灯がありません。深海で獲物をとらえ、狩りをするのはメスの役目です。オスは、まったく別の生き方をしています。この大きな違いが、次に見るオスとメスの姿につながります。
大きな口と、丸のみの体
チョウチンアンコウの仲間は、大きな口とよく広がる胃を持ちます。深海は、いつでもえさにありつける場所ではありません。次のえものにいつ出会えるか分からない世界です。そのため、めったに来ないチャンスを、絶対にのがさない体になっています。口と胃は大きくふくらみ、自分と同じくらい、ときにはそれ以上の大きさの獲物さえ丸ごと飲みこめます。少ないチャンスで、できるだけ大きなえものをとらえるための、深海ならではの体のつくりです。
オスとメス ― 極端に違う姿
メスに比べて、オスはとても小さい
チョウチンアンコウは、オスとメスの大きさが極端に違います。メスは体長46cmほどになりますが、オスはわずか数cmしかありません。オスには提灯もなく、狩りをするための大きな口もありません。オスの体は、広い深海でメスを見つけ、子孫を残すことに特化しています。この仲間のオスは、大きな鼻でメスのにおいをたどると考えられています。暗く広い深海で相手に出会うのは、それほど難しいことなのです。
「オスがメスに合体する」のは、仲間の話
チョウチンアンコウの仲間には、とくに有名な話があります。オスがメスの体に噛みつき、そのまま一生はなれない、というものです。やがてオスの体はメスと溶け合い、メスから栄養をもらって生きる「体の一部」になります。ただし、この極端な合体は、チョウチンアンコウ亜目のすべてで起きるわけではありません。ミツクリエナガチョウチンアンコウ科など、一部の仲間で確かめられているものです。種としてのチョウチンアンコウ自身では、オスの確実な標本が少なく、くわしいことは分かっていません。有名な話ほど、どの仲間の話なのかを分けて見る必要があります。
鍋の「アンコウ」とは別もの
「アンコウ」と聞くと、鍋料理や、あん肝を思いうかべる人も多いはずです。しかし、食用になるアンコウは、キアンコウなどの別の種です。これらは、チョウチンアンコウと同じアンコウ目の仲間ですが、科も種も違います。食用のアンコウは、比較的浅い海の底で暮らし、体も大きく育ちます。いっぽうチョウチンアンコウは、暗い深海にすむ、提灯を持った別の魚です。深海性で数も少なく、チョウチンアンコウが鍋の食材として食卓に上ることはありません。
どこで見られる

水族館では飼えず、標本で見る
生きたチョウチンアンコウを、水族館で飼うことはとてもむずかしいものです。深海の高い水圧や、暗く冷たい環境を、水そうで再現するのは簡単ではありません。そのため、ふだん目にできるのは、博物館などにある標本がほとんどです。ホルマリンなどで保存された体や、白い骨格が展示されています。
浜辺の打ち上げと、映画のモデル
ときおり、弱った個体が海岸に打ち上げられ、大きなニュースになることがあります。アメリカの海岸で、まるまるとしたチョウチンアンコウが見つかり、話題になったこともあります。また、映画『ファインディング・ニモ』に登場する、提灯を光らせる深海魚のモデルとしても知られます。暗い深海には、まだ多くの謎を残した魚たちが暮らしています。
参考
- Wikipedia(英語版)「Anglerfish」「Pacific footballfish」(分類・発光・雌雄差・寄生の範囲)
- Wikipedia(日本語版)「チョウチンアンコウ」(Himantolophus sagamius の分類・発光細菌)
- 各国の自然史博物館・海洋研究機関の資料(深海アンコウ類の生態・標本)


