ダイオウイカは、深海にすむ巨大なイカです。長い触腕をふくめると、全長は12mをこえることもあります。バスケットボールほどもある大きな目や、かぎのついた吸盤を持ちます。生きた姿がはじめて撮影されたのは、ようやく2012年のことでした。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:軟体動物門 Mollusca
- 綱:頭足綱 Cephalopoda
- 目:ツツイカ目 Oegopsida
- 科:ダイオウイカ科 Architeuthidae
- 属:ダイオウイカ属 Architeuthis
- 種:ダイオウイカ Architeuthis dux
和名・英名
- 和名:ダイオウイカ(漢字で「大王烏賊」)
- 英名:Giant squid(巨大なイカの意味)
名前の由来
「ダイオウイカ」は、イカの王さまという意味の名前です。漢字では「大王烏賊」と書きます。その名のとおり、世界でも最大級のイカです。学名の Architeuthis は、「いちばんのイカ」を表す言葉からできました。タコやほかのイカと同じ、頭から足が生える「頭足類(とうそくるい)」の仲間で、貝と同じ軟体動物です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 最大12〜13m(触腕をふくむ)・体重 メスで約275kg |
|---|---|
| 分布 | 世界の海の深海。日本の近海(小笠原など)でも見つかる |
| 生息環境 | 水深およそ300〜1000mの深い海 |
| 食べもの | 深海の魚・ほかのイカなど |
| 寿命 | 数年ほどと考えられている(短命) |
| 天敵 | マッコウクジラ |
深海にひそむ、巨大なイカ

全長12mの体
ダイオウイカは、無脊椎動物(背骨のない動物)のなかで最大級です。胴(マントル)だけでも2mほどあり、長くのびる2本の触腕をふくめると、全長は12mをこえます。メスはオスより大きく、体重は275kgに達した例もあります。これは、路線バスの半分ほどの長さにあたります。深い海の暗やみに、これほど大きな生きものがひそんでいるのです。
ダイオウホウズキイカとの違い
「世界最大のイカ」には、もう一種の候補がいます。南極の海にすむ「ダイオウホウズキイカ」です。ダイオウイカは全長で上回りますが、ダイオウホウズキイカは胴が太く、体重ではこちらが上とされます。細長く長いのがダイオウイカ、がっしり重いのがダイオウホウズキイカ、と覚えられます。深海には、まだ大きさのくらべ方でなやむ巨大イカがいるのです。
バスケットボールほどの目
動物界でいちばん大きな目
ダイオウイカの目は、動物界でいちばん大きいといわれます。直径は27cmにもなり、バスケットボールほどの大きさです。黒目(ひとみ)だけでも、9cmもあります。これほど大きな目を持つ動物は、ほかにいません。深海の暗やみで、わずかな光ものがさずとらえるための目です。
なぜ、そんなに大きいのか
大きな目は、遠くのかすかな光を集めるのに役立ちます。深海の生きものの多くは、青白い光を放つ「生物発光」で光ります。ダイオウイカは、近づくマッコウクジラが水をかき乱して光る、その気配を遠くから察するとも考えられています。暗い海で敵をいち早く見つけることが、この目の役目のようです。
10本の腕と、かぎ付き吸盤

8本の腕と2本の触腕
ダイオウイカには、10本の細長い足があります。そのうち8本は「腕」で、いつも体のまわりにあります。残る2本は、とくに長い「触腕(しょくわん)」です。触腕はふだんちぢめていますが、獲物をとらえるときにすばやくのばします。10mちかくものびる触腕で、遠くの獲物をつかまえます。
吸盤のふちの、するどいギザギザ
腕や触腕には、たくさんの吸盤がならんでいます。ダイオウイカの吸盤は、ただ吸いつくだけではありません。吸盤のふちには、かたいギザギザの輪がついています。このギザギザが歯のように食いこみ、獲物をがっちりとつかまえます。マッコウクジラの体に丸い傷あとが残るのは、この吸盤のあとです。
カラストンビと、深海の食事
腕の付け根の中心には、かたいくちばしがあります。オウムのくちばしに似た形で、「カラストンビ」と呼ばれます。つかまえた獲物は、このくちばしで小さく切りさきます。さらに、歯のようなヤスリ状の舌ですりつぶして食べます。深海の魚やほかのイカを、こうしてとらえて食べています。
漏斗で水を噴き出して泳ぐ
イカの泳ぎは、魚とは大きく違います。体の下側には、「漏斗(ろうと)」というじょうご形の管があります。体に吸いこんだ水を、この漏斗からいきおいよく噴き出します。その反動で、ロケットのように後ろへ進みます。ふだんはゆっくり漂い、いざというときにこのジェットで一気に逃げます。漏斗の向きを変えれば、前にも後ろにも進めます。
ドーナツ型の脳
イカやタコは、背骨のない動物のなかでは、とても頭のよい仲間です。ダイオウイカの脳は、真ん中に穴の開いたドーナツのような形をしています。その穴を、食道(食べ物の通り道)がつらぬいています。そのため、大きなえものを丸のみすると脳をいためかねず、くちばしで小さく切ってから飲みこみます。深海での暮らしぶりには、まだ分かっていないことが多く残されています。
宿敵は、マッコウクジラ

深海にもぐって狩るクジラ
ダイオウイカにとって、いちばんの天敵はマッコウクジラです。マッコウクジラは、水深1000mをこえる深海までもぐれます。息を止めて長い時間もぐり、暗い海でダイオウイカをつかまえます。マッコウクジラの胃からは、たくさんのダイオウイカのくちばしが見つかります。消化されずに残るくちばしの数から、どれだけ食べているかが分かるのです。
クジラの体に残る吸盤の跡
いっぽうで、ダイオウイカもただ食べられるだけではありません。マッコウクジラの体には、丸い輪のような傷あとがよく残っています。これは、ダイオウイカの吸盤についたギザギザが、必死に抵抗してつけた跡です。傷の大きさから、さらに巨大なイカの存在を想像する人もいます。深海の暗やみでくり広げられる、巨大な生きものどうしの戦いです。人の目に見えないところで、この戦いは今も続いています。

クラーケン伝説と、生きた姿

船をおそう怪物「クラーケン」
ヨーロッパには、古くから「クラーケン」という海の怪物の伝説があります。巨大なタコやイカの姿で描かれ、船を海にひきずりこむと語られました。この伝説の元になったのが、ダイオウイカだと考えられています。ときおり浜に打ち上げられる巨大なイカの死がいが、人々に怪物を思わせたのでしょう。長いあいだ、ダイオウイカは謎につつまれた生きものでした。
生きた姿が撮影されるまで
ダイオウイカは、ほとんど死がいでしか見つからず、生きた姿は長い間の謎でした。生きた個体の写真がはじめて撮られたのは、2004年のことです。そして2012年、日本の小笠原の深海で、泳ぐ生きたダイオウイカの撮影に成功しました。日本の研究者とテレビ局が力を合わせた成果でした。銀色にかがやくその姿は、世界に大きなおどろきをあたえました。
食べられる? ― アンモニアの体
「あんなに大きいなら、食べられるのでは」と思う人もいます。しかし、ダイオウイカはおいしくありません。ダイオウイカの体には、アンモニアという成分がたくさんふくまれています。このアンモニアは水より軽いため、深い海で体を浮かせるのに役立ちます。うきぶくろのかわりに、体そのものを軽くしているのです。そのかわり、身はしょっぱく苦く、食用には向きません。スルメイカのようにおいしく食べることは、できないのです。
赤ちゃんと、短い一生
あれほど大きなダイオウイカも、生まれたときは数mmの小ささです。メスは、5kgをこえるたくさんの小さな卵を産むと考えられています。かえった幼体は、プランクトンのように漂いながら育ちます。そして数年で、一気にあの巨体へと成長します。大きな体のわりに、一生は数年と短いとみられています。深海での暮らしには、まだ分かっていないことが多く残されています。
どこで見られる
生きたダイオウイカを、水族館で飼うことはできません。深海の暗く冷たい環境が必要で、水そうの中では生きられないのです。そのため、目にできるのは、博物館などにある標本がほとんどです。国立科学博物館などでは、ホルマリンなどで保存された大きな標本を見られます。また、まれに海岸へ打ち上げられ、大きなニュースになることもあります。深海の王者は、今も多くの謎を残したまま、暗い海を漂っています。
参考
- Wikipedia(英語版)「Giant squid」(大きさ・目・触腕・浮力・撮影史)
- 国立科学博物館ほかの資料(標本・日本近海の記録)
- NHK・海洋研究機関の報告(2012年の生きた個体の撮影)
画像出典
サムネイル画像: EOL Learning and Education Group, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons


