タイマイ

カメ類

タイマイは、鷹(たか)のようにとがった口と、瓦のように重なる美しい甲羅を持つウミガメです。この甲羅は「べっ甲(鼈甲)」と呼ばれ、昔からくしやめがねの高級な材料に使われてきました。でもそのために乱獲され、いまでは世界でもっとも絶滅が心配されるウミガメになっています。じつはサンゴ礁を守る大切な役割も持っています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:爬虫綱 Reptilia
  • 目:カメ目 Testudines
  • 科:ウミガメ科 Cheloniidae
  • 属:タイマイ属 Eretmochelys
  • 種:タイマイ Eretmochelys imbricata

和名・英名

  • 和名:タイマイ(玳瑁)
  • 英名:Hawksbill sea turtle(ホークスビル・シータートル)

名前の由来

和名の「タイマイ」は、甲羅を意味する漢字「玳瑁」をそのまま読んだ名前です。英名のHawksbill(ホークスビル)は、「鷹(hawk)のくちばし(bill)」という意味で、先のとがった口の形からきています。学名の imbricata は「瓦(かわら)のように重なった」という意味で、うろこが重なり合う甲羅の特徴をあらわしています。タイマイ属 Eretmochelys には、いま生きているのはこの1種だけです。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ甲羅の長さ 約60cm〜1m・体重 約40〜80kg(ウミガメの中では小さめ)
分布大西洋・太平洋・インド洋の、あたたかい海のサンゴ礁
生息環境サンゴ礁や岩礁のある浅い海(子ガメの時期は外洋)
食べ物おもにカイメン(海綿)。クラゲ・貝なども食べる
寿命野生でおよそ50年以上と考えられている
保全状況IUCN:深刻な危機(CR)/ワシントン条約 附属書I

「べっ甲」になった、美しい甲羅

上から見たタイマイの甲羅の模様
うろこが瓦のように重なる甲羅。後ろのふちがのこぎり状になる(Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

「べっ甲」はタイマイの甲羅からできる

「べっ甲はタイマイの何?」とよく聞かれますが、答えは甲羅です。タイマイの甲羅のうろこ(甲板)は、琥珀色と濃い茶色の美しいまだら模様をしています。これをみがいてつなぎ合わせたものが「べっ甲(鼈甲)」です。日本では長崎などで、くしやめがねのふち・かんざしといった高級な工芸品に使われてきました。あめ色に透ける美しさから、昔から世界中で愛されてきた素材です。

美しさが、乱獲の悲劇をまねいた

ところが、その美しさがタイマイを苦しめました。べっ甲を目当てにした乱獲が世界中で続き、数が激しく減ってしまったのです。いまタイマイは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで、いちばん危険なランクのひとつ「深刻な危機(CR)」に指定されています。これはウミガメの中でもっとも絶滅が心配される状態です。現在はワシントン条約(CITES)の附属書Iで、べっ甲をふくむ国際的な売り買いが禁止されています。

ウミガメとの見分け方

タイマイの顔とくちばし
鷹のくちばしのように、先がとがった口が見分けの決め手(Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

くちばしと、のこぎり状の甲羅で見分ける

タイマイはアオウミガメやアカウミガメと同じ仲間ですが、見分けるポイントがはっきりしています。いちばんの決め手は、口の形。名前のとおり、鷹のくちばしのように先がとがっています。さらに甲羅のうろこが瓦のように重なり、後ろのふちがのこぎりのようにギザギザになるのもタイマイだけの特徴です。ほかのウミガメより体が小さめで、サンゴ礁で見られたら、まずタイマイと考えてよいでしょう。

タイマイアオウミガメアカウミガメ
とがったくちばし丸い太く大きい
甲羅瓦状・後ろがギザギザなめらか赤茶色
おもな食べ物カイメン海草・海藻貝・カニ
すみかサンゴ礁海草の生える海沿岸・外洋

サンゴ礁を守る「カイメン食」

くちばしをサンゴ礁の隙間に向けるタイマイ
とがったくちばしで、岩の隙間にいるカイメンをつついて食べる(Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

食事の7〜9割がカイメン

タイマイのいちばんの特徴は、その食べ物です。おもに「カイメン(海綿)」という、岩やサンゴにくっついて動かない生きものを食べます。カイメンは食事のうち7〜9割をしめる主食で、これほどカイメンにたよって生きる動物はめずらしいのです。とがったくちばしは、岩やサンゴの狭い隙間に差しこんで、奥のカイメンをつつき出すのにぴったりの形をしています。ほかにクラゲや貝も食べます。

タイマイがいると、サンゴ礁が元気になる

カイメンを食べることには、大きな意味があります。カイメンは、ほうっておくと増えすぎて、サンゴの育つ場所をうばってしまうことがあります。タイマイがカイメンを食べて数をおさえることで、サンゴがのびのび育ち、いろいろな生きものがすめる豊かなサンゴ礁がたもたれるのです。タイマイは、サンゴ礁の健康を守る「庭師」のような存在といえます。

タイマイの意外なひみつ

食べると食中毒になることがある

「タイマイは食べられるの?」と気になる人もいますが、答えは「食べないほうがよい」です。タイマイは、毒を持つクラゲなどの刺胞動物も食べます。その毒が体にたまり、地域や時期によっては肉そのものが毒を持ってしまうことがあるのです。これを食べると食中毒を起こし、重い症状が出た例も知られています。美しい甲羅とはうらはらに、食べるには向かないウミガメなのです。

青緑に光る、初めて見つかった爬虫類

もうひとつおどろきの特徴があります。タイマイは、特別な青い光を当てると、体が青緑色に光って見える「生体蛍光」という性質を持っています。これはクラゲやサンゴなどで知られる現象ですが、爬虫類ではタイマイが初めて確認されました。海の中でどんな役に立っているのかは、まだよく分かっていません。ナゾの多い、ふしぎな生きものです。

産卵と、日本で会えるところ

熱帯の砂浜で卵を産む

夜、砂浜に上陸して産卵する

タイマイは、あたたかい熱帯の砂浜で産卵します。メスは夜に砂浜へ上陸し、うしろあしで穴を掘って、1回に100個ほどの卵を産みます。1シーズンに何回かに分けて産むこともあります。卵は60日ほどでかえり、赤ちゃんガメは夜のうちに海をめざします。

2〜3年に一度、生まれた浜へ帰る

メスが産卵するのは、毎年ではなく2〜3年に一度ほどです。そして、自分が生まれた浜へもどって産む「母浜回帰」の習性があると考えられています。ウミガメの赤ちゃんの性別は、ほかのウミガメと同じように、卵のときの砂の温度で決まります。

日本では沖縄などでまれに会える

タイマイは熱帯のウミガメなので、日本ではあまり多くありません。それでも沖縄諸島や八重山諸島など南西諸島の海では、サンゴ礁で泳ぐ姿がときどき見られます。あたたかい黒潮に乗ってやってくる個体で、日本の砂浜での産卵はほとんど記録がありません。水族館でも会うことができ、サンゴ礁の海を代表するウミガメとして親しまれています。

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日本のべっ甲文化史とCITES規制の転換点

江戸期から続く長崎のべっ甲細工

日本にタイマイの甲羅(べっ甲)が本格的にもたらされたのは、江戸時代の長崎からとされます。中国との貿易を仲介した唐通事(とうつうじ)を通じて、東南アジアや中国南部でとれたタイマイの甲羅が長崎に集まり、地元の職人たちがくしやかんざし、めがねのフレーム、帯留めなどに加工しました。べっ甲は熱を加えると柔らかくなる性質を持ち、薄く削って何枚も貼り合わせる「貼り合わせ」の技術で、透けるあめ色の美しい仕上がりを生みます。明治以降は東京や大阪にも職人が広がり、日本独自の高級工芸品として発達しました。長崎では現在も伝統工芸として続けられ、国の伝統的工芸品にも指定されています。

1993年に日本が「留保」を撤回し全面禁輸へ

タイマイの国際取引は、1975年に発効したワシントン条約(CITES)でごく早い段階から規制の対象になっていました。しかし日本は当初、伝統工芸への影響を理由にこの条約に「留保」の立場をとり、キューバなどからべっ甲を輸入し続けていました。世界的な批判が高まるなか、1993年に日本は留保を撤回し、タイマイは附属書Ⅰ掲載種として原則、国際取引が全面的に禁止されました。以後、日本国内では規制以前に輸入されて備蓄された甲羅を計画的に使うことで、伝統工芸を細々と維持する制度が続いています。職人の高齢化と後継者不足で技術継承は難しい課題とされ、代替素材(プラスチックや水牛角)への切り替えも進んでいます。

青緑に光る―2015年発見のバイオフルオレッセンス

ソロモン諸島でたまたま撮影された「光るタイマイ」

タイマイは、爬虫類ではじめて「バイオフルオレッセンス(生物蛍光)」が確認された種としても知られます。バイオフルオレッセンスは、青い光を当てると別の色(緑や赤)に光ってみえる現象で、深海のサメやサンゴでは古くから知られていました。2015年、海洋生物学者のデイヴィッド・グルーバー博士がソロモン諸島の海で夜間の撮影中、青色ライトを当てたタイマイの甲羅が鮮やかな緑と赤に光る様子を偶然撮影し、世界的なニュースになりました。爬虫類でこの現象が確認された例はそれまでなく、以後、他の爬虫類種でも同様の観察が試みられるきっかけになったとされます。

光る意味はまだ諸説あり

タイマイが光って見えるのは、体表の色素が特定の波長の青い光を吸収して、緑や赤の光として再放出しているためと考えられています。緑の蛍光はタイマイ自身の体組織由来、赤の蛍光は甲羅の表面についた藻類など別の生物由来の可能性も指摘されています。何のために光っているのかは、まだよくわかっていません。同種の個体を見分けるための信号、繁殖期のディスプレイ、サンゴ礁の光環境に溶け込む擬態など、いくつかの仮説が挙げられていますが、決定的な結論には至っていません。夜の水中で確認しにくい現象のため、観察例が積み上がるにはまだ時間がかかるとされています。

参考

  • IUCN Red List「Eretmochelys imbricata」(深刻な危機CR・ワシントン条約附属書I)
  • NOAA Fisheries「Hawksbill Turtle」(餌はおもにサンゴ礁のカイメン/鷹のくちばしのような口で岩の隙間の餌をとる/健全なサンゴ礁にすむ)
  • Wikipedia「Hawksbill sea turtle」英語版(甲長約1m・体重約80kg/カイメンが餌の70〜95%=spongivore/くちばしとのこぎり状の甲羅で見分け/甲羅がべっ甲bekkoの主原料/有毒な刺胞動物を食べ肉が毒化することがある/生体蛍光をもつ初の爬虫類)

画像出典

アイキャッチ画像: Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

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