オオズワイガニは、ベーリング海やアラスカ湾を中心に、北海道の太平洋側にも生息するズワイガニの仲間です。2023年には北海道の日高沖に大群が現れ、刺し網を壊して漁業者を困らせました。北海道の南の海では、アラスカの約2倍の速さで成長することが分かっています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 綱:軟甲綱 Malacostraca
- 目:十脚目 Decapoda
- 下目:短尾下目(カニ下目) Brachyura
- 科:ケセンガニ科 Oregoniidae
- 属:ズワイガニ属 Chionoecetes
- 種:オオズワイガニ Chionoecetes bairdi Rathbun, 1924
和名・英名
- 和名:オオズワイガニ(大楚蟹)
- 英名:Tanner crab/Bairdi crab
ズワイガニの仲間で大きくなる「大ズワイ」
和名は、ズワイガニの仲間の中で大きくなることに由来します。学名の bairdi は、アメリカの動物学者スペンサー・ベアードにちなんだ名前です。カニの分類の第一人者だったメアリー・ラスバンが、恩師であるベアードの名を付けました。
アラスカでは Tanner crab の名で売られ、同じ属のズワイガニは snow crab と呼び分けられます。ただし、両種をまとめて snow crab として売ることもあります。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 北海道の南の海では、オスの半数以上が甲羅の幅11.3cm(大人の手のひらほど)で成体になる |
|---|---|
| 重さ | アラスカで漁獲されるオスは0.9〜1.8kg |
| 分布 | ベーリング海東部からアリューシャン列島、アラスカ湾から北米のオレゴン沖、カムチャツカ半島の西側。北海道の北見沖と太平洋沿岸 |
| 食べ物 | ゴカイの仲間・二枚貝・巻貝・カニなどの甲殻類・魚のかけら |
| 寿命 | 最大で14年ほどと推定されている |
| 保全状況 | IUCN:未評価(NE) |
ズワイガニによく似た北太平洋のカニ
口の形が「M字」なら、オオズワイガニ
オオズワイガニは、同じ属のズワイガニやベニズワイガニとよく似た、脚の長いカニです。姿だけではズワイガニとの区別が難しいものの、口の形を見れば簡単に見分けられます。農林水産省の資料によると、ズワイガニの口は横一文字の形で、オオズワイガニの口は「M」の字の形をしています。両者は別の種で、店では「ズワイガニ(バルダイ種)」の表記も認められています。
タラバガニがヤドカリの仲間なのに対し、オオズワイガニはズワイガニと同じく本来のカニの仲間(短尾類)です。短尾類は、短い腹を胴の下に折りたたんでいるカニのグループです。アラスカで漁獲されるオスはズワイガニの約2倍の重さがあり、大きなものは1Lの牛乳パック2本分に近い1.8kgになります。


アラスカから北海道まで広がる分布
主な分布域は、ベーリング海の東部からアラスカ湾を経て、北米西岸のオレゴン州の沖までです。アジア側ではカムチャツカ半島の西側に分布し、北海道でも北見沖や太平洋沿岸に生息します。1年の大半を、オスとメスは別々の場所で過ごしますが、どのように移動しているのかは解明されていません。
最後の脱皮で交尾するメス
匂いで呼び寄せ、柔らかい殻のまま交尾する
メスの初めての交尾は、成体になる最後の脱皮のときです。メスが出す化学物質(フェロモン)に引き寄せられたオスは、脱皮したばかりで殻の柔らかいメスを抱えて交尾します。殻の硬くなった年長のメスも成体のオスと交わります。ただしオスがいなくても、以前に受け取って蓄えた精子で産卵できます。

1年抱いた卵が、春のプランクトンの増える時期にかえる
アラスカのメスが1回に産む卵は8万5,000〜42万4,000粒です。卵は交尾から48時間以内に腹へ産み付けられ、1年かけて育ちます。ふ化のピークは4〜6月で、春にプランクトンが増える時期と重なります。卵からかえった幼生(子どもの時期)は、餌の多い季節に泳ぎ出します。
泳ぐ幼生の時期は63〜66日ほどで、その後は泳ぐ力を失って海底に降ります。アラスカでは、メスは約5歳、オスは約6歳で成熟します。
北海道の南の海では、アラスカの半分の期間で成体に
ふ化から3年で甲羅の幅11cmを超えるオス
北海道の南の太平洋(噴火湾から苫小牧の沖)では、1980年代に成長の調査が行われました。その結果、この海のオオズワイガニは非常に速く育ち、3年でオスの甲羅の幅が11cmを超えていました。
| ふ化からの年数 | 甲羅の幅 |
|---|---|
| 1年 | 3.3cm(オス・メス) |
| 2年 | 7.1cm(オス・メス) |
| 3年 | オス11.6cm、メス10.1cm |
成体になるまでの時間は、アラスカ湾北部のオオズワイガニの約半分です。日本海のズワイガニと比べると、約4分の1で済みます。北海道立総合研究機構(道総研)は、成長が速いのは水温が高いためと考えています。
成体になる大きさと卵の数
同じ調査では、成体になり始める甲羅の幅がオスで7.5cm、メスで7cmでした。半数以上が成体になる幅は、オスの11.3cmに対してメスは8.4cmと小さめです。卵の数は、甲羅の幅8.6〜12.1cmのメスで8万〜33万粒でした。
突然の大量発生と、邪魔者から食材へ
1985年、噴火湾から苫小牧に現れた稚ガニの大群
北海道の南の太平洋では、例年は刺し網(海中に張った網に魚をからませて獲る網)に少し混ざる程度のカニです。ところが1985年の春、甲羅の幅3〜5cmの稚ガニが一度に数多く現れ、カレイ漁の網にかかる邪魔者になりました。翌1986年には甲羅の幅8cm以上に育ち、その年に2,300トン、1987年に1,400トンが水揚げされています。一部はズワイガニの代わりとして、関西方面へ飛行機で運ばれました。
しかし1988年以降、漁獲量は一気に減りました。群れが増えた理由も消えた理由も、今もはっきりしていません。
2023年、日高沖の刺し網に大量にかかる
主に2021年生まれ、1年だけ突然生まれた群れ
2023年1月、北海道様似町の沖に仕掛けたスケトウダラ漁の刺し網に、オオズワイガニが網を埋めるほどかかりました。外すのに手間がかかり、漁具も壊れたため、地元の漁業協同組合が道総研に調査を頼みました。
測ったカニの甲羅の幅は平均8.6cmで、年齢は主に2歳(2021年生まれ)と推定されました。小さなカニが混ざっていないことから、ある1年に集中して生まれた群れと考えられています。水揚げが目立ったのは主に日高の東部(浦河からえりも)で、1980年代とは違う海でした。
小さく、売り先も決まらず安値に
当時、日高で獲れたオオズワイガニは、他のカニより安い値で取引されました。道総研は理由を二つ挙げています。一つはサイズの小ささで、もう一つは、これまでほとんど獲られてこなかったために売り先が決まっていないことです。
一方で、カニの身は季節とともに充実していきました。同じ海域のオスを1月と6月に比べると、甲羅の幅10cm台の平均体重は277gから341gへと2割以上増えています。地元の漁業者からも、春先より身の詰まった良いカニになったという声が聞かれました。

アラスカで大きな漁業を支えてきたカニ
1961年に始まり、獲りすぎで2度の禁漁
ベーリング海のオオズワイガニ漁は1961年に始まり、北太平洋の大きな漁業に育ちました。1976年に米国が自国の沖の漁業を管理する法律を作るまでは、日本や旧ソ連の船も多く獲っていました。しかし獲りすぎで数が急減し、1984年の水揚げは約540トンに落ちました。1986〜1987年には全面禁漁となり、1996年の不漁を受けて1997年に再び禁漁になっています。
身を苦くする寄生生物と「ビタークラブ病」
アラスカ南東部では1980年代半ばから、身が苦いという苦情が寄せられるようになりました。原因は、カニの体液の中で増えるヘマトディニウムという小さな寄生生物です。この病気は「ビタークラブ病(苦いカニの病気)」と呼ばれます。感染したカニは1〜1.5年ほどで死に、メスが抱える卵の数も大きく減ります。病気が進むと身が渋く、白っぽくもろくなって売り物になりません。アラスカ州魚類野生生物局は、この病気を、漁で獲れるオオズワイガニの数を減らす一番の脅威としています。



参考
- 北海道立総合研究機構 試験研究は今 No.980「日高海域に大量出現したオオズワイガニについて」(PDF)
- 農林水産省 ズワイガニ属(Chionoecetes 属)の見分け方(PDF)
- Alaska Department of Fish and Game「Tanner Crab Species Profile」
- Wikipedia(英語版)「Chionoecetes bairdi」
- WoRMS「World Register of Marine Species」Chionoecetes bairdi


