クロベンケイガニは、河口や湿地の水際に住むカニです。アカテガニに近い仲間で、紫がかったはさみとがっしりした四角い体、荒い性質で知られます。海のそばの草地や泥地で、群れて暮らしています。
分類と学名
クロベンケイガニは、エビやカニと同じ十脚目のなかの、ベンケイガニ科に含まれます。カニのグループである「カニ下目(かにかもく)」に属する、本当のカニの仲間です。アカテガニやベンケイガニも、同じベンケイガニ科の身近な仲間です。以前はアカテガニと同じ属に入れられていましたが、2020年の研究で、クロベンケイガニ属という別のグループに分けられました。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 綱:軟甲綱 Malacostraca
- 目:十脚目 Decapoda
- 下目:カニ下目 Brachyura
- 科:ベンケイガニ科 Sesarmidae
- 種:クロベンケイガニ Orisarma dehaani
和名・英名
- 和名:クロベンケイガニ(黒弁慶蟹)
- 英名:―(決まった英名はとくにない)
名前の由来
「クロ(黒)」は、黒っぽい体の色にちなみます。「ベンケイ」は、同じ仲間のベンケイガニ類につけられた名で、その由来には諸説あります。がっしりとした体つきと荒い性質を、力の強い武蔵坊弁慶になぞらえたともいわれますが、はっきりとは分かっていません。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲羅の幅は最大4cmほど(アカテガニより大きい) |
|---|---|
| 分布 | 本州(宮城・青森以南)・四国・九州・南西諸島。朝鮮半島・台湾・中国南部にも |
| 生息環境 | 河口や川辺の塩性湿地・草地・泥地(水際の陸上) |
| 食べ物 | 植物・落ち葉・小動物など(雑食) |
| 抱卵期 | 7〜8月 |
| 近い仲間 | アカテガニ・ベンケイガニ |
紫がかったはさみと体
クロベンケイガニは、名前のとおり黒っぽい体をした、がっしりとしたカニです。アカテガニの赤いはさみに対して、こちらのはさみは紫がかった色をしています。

がっしりした四角い体
四角くて滑らかな甲羅
クロベンケイガニの甲羅は、両側のふちがほぼ平行で、全体に四角い形をしています。表面はなめらかで、甲羅の幅は最大で4cmほどになります。アカテガニより一回り大きく、体つきもがっしりしています。体の色は褐色から黒褐色までで、個体によって少し幅があります。
ふちの歯で見分ける
甲羅のふちには、目のすぐ外側に前を向いた歯が1本あります。しかし、それより後ろのふちには、はっきりとした歯がありません。よく似たベンケイガニは、目の下に小さな歯があるので、この点で区別できます。甲羅のふちにある歯の有無が、近い仲間どうしを分ける手がかりです。
紫がかったはさみ
はさみは左右がほぼ同じ大きさで、オスのほうが大きく発達します。色は先端が淡く、その手前が紫褐色から紫色をしています。表面には、淡い黄色の細かな粒が並んでいます。赤いはさみのアカテガニとは、はさみの色ではっきり区別できます。歩く脚には長い剛毛が多く生えており、これも近い仲間との違いの一つです。
海辺でよく見られる、よく似た三種のベンケイガニのなかまは、はさみの色と好む場所に違いがあります。
| 種 | はさみの色 | 好む場所 |
|---|---|---|
| アカテガニ | 赤 | 乾いた高い場所まで |
| クロベンケイガニ | 紫がかった色 | 湿った水際 |
| ベンケイガニ | 橙色 | 水際の湿った場所 |
水際の暮らし
クロベンケイガニが好むのは、水にほど近い湿った場所です。乾いた高い場所まで登るアカテガニとは、住み分けているように暮らしています。

湿った水際に住む
泥や岩の穴に潜む
クロベンケイガニは、海岸の塩性湿地や、川辺の草地・湿地で暮らします。活動していないときは、泥に掘った穴や岩の隙間に潜んでいます。水際が中心ですが、海から数kmも離れた場所で見つかることもあります。田んぼの畦に穴を開けて、水もれを起こすこともあります。食べ物は、落ち葉や藻、小さな動物などをとる雑食です。落ち葉を食べてこまかく砕くことで、干潟や湿地の有機物を分解する役割もはたしています。
川を泳ぐカニ
このカニは、川の流れの中を素早く泳げるのも特徴です。川底の木の葉や岩のまわりを動き回ります。陸を歩くだけでなく、水の中も上手に使いこなします。おもに夜に活動し、昼は隠れ家で過ごします。長い剛毛の生えた歩脚が、泳ぎや歩きに役立っていると考えられています。
群れと荒い性質
クロベンケイガニは、1匹だけでなく、群れて過ごすことが多いカニです。同じような場所に、たくさんの個体が集まって暮らしています。性質は荒く、人が近づくとはさみを振り上げて威嚇してきます。近い仲間のアカテガニと比べても、気の強いカニとして知られます。逃げるときは、いちばん近い穴や隙間へ、すばやく身を隠します。ひとつの隠れ場所の下に、複数の個体が集まっていることもあります。
海へ子を放つ
陸で暮らすクロベンケイガニも、子を残すときには水が必要です。アカテガニと同じように、生まれた子(幼生)を水中に放つ暮らしをしています。
夏に幼生を放つ
抱卵期は7〜8月
クロベンケイガニの抱卵期は、夏の7月から8月ごろです。交尾を終えたメスは、たくさんの小さな卵を腹の下に抱えて守ります。卵は、腹の下で幼生の姿になるまで育てられます。産む卵はごく小さく、その数が多いのが、ベンケイガニ科に共通する特徴です。数で勝負するように、たくさんの幼生を水へ送り出します。この時期になると、卵を抱えたメスが水辺の近くに現れます。
川辺でゾエアを放つ
やがてメスは、産卵期にだけ川辺へ行き、卵からかえった幼生を水中へ放ちます。放たれるのは「ゾエア」と呼ばれる、泳ぐ小さな幼生です。ゾエアは水の流れに乗って運ばれ、しばらく水中で育ちます。何度か脱皮をして姿を変えたのち、小さなカニになって陸へ上がります。陸で暮らすカニも、幼いころは水の中で過ごすのです。こうして各地の川の集団は、海でつながっていると考えられています。
アカテガニとの住み分け
クロベンケイガニとアカテガニは、同じベンケイガニ科の近い仲間で、同じような海辺で暮らします。ただし、アカテガニが乾いた高い場所まで進出するのに対し、クロベンケイガニは水際の湿った場所を好みます。同じ場所に住みながら、少しずつ違う環境を使い分けているのです。

人とのかかわり
クロベンケイガニは、河口や田んぼの近くで見られる、身近な水辺のカニです。すぐそばで暮らしているわりに、名前を知られていないことも多いカニです。
身近な水辺のカニ
クロベンケイガニは、都市を流れる川の河口などでも見られます。多摩川のような身近な川の下流でも、その姿が確認されています。街のそばの水辺にも暮らす、身近な生き物です。ふつうは食用にされませんが、田んぼの畦に穴を開けることから、地域によっては困った存在とされることもあります。天敵は、魚・サギ・イノシシ・イタチなどです。河口の干潟や川辺では、石や草のかげにひそんでいることの多いカニです。なお、かつて小笠原諸島から記録されたものは、よく似た別の種の見間違いだったと分かっています。
関連ページ


参考
- クロベンケイガニ(ja.wikipedia.org)分類・形態・分布・生態
- Schubart & Ng(2020)ベンケイガニ科の分類改訂(クロベンケイガニ属 Orisarma の新設)
- 日本産淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑(種解説・見分け)


