ハナサキガニ

甲殻類・軟体動物

ハナサキガニは、北海道東部の根室や釧路の沿岸で暮らす、棘の多い大型の甲殻類です。名前に「カニ」と付きますが、タラバガニと同じくヤドカリの仲間に分類されます。茹でると鮮やかな朱色になり、根室を代表する味覚として知られます。

スポンサーリンク

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:節足動物門 Arthropoda
  • 綱:軟甲綱 Malacostraca
  • 目:十脚目 Decapoda
  • 下目:異尾下目(ヤドカリ下目) Anomura
  • 科:タラバガニ科 Lithodidae
  • 属:タラバガニ属 Paralithodes
  • 種:ハナサキガニ Paralithodes brevipes (H. Milne Edwards & Lucas, 1841)

和名・英名

  • 和名:ハナサキガニ(花咲蟹)
  • 英名:Spiny king crab/Hanasaki crab
  • 地方名:ハナサキ、コンブガニ(若い個体)、イソガニ(若い個体)

名前の由来は「地名」と「茹でた色」の2説

「ハナサキ」という名前については、2つの説が知られています。1つは、主な漁場である根室の地名「花咲」に由来するという説です。茹でると朱色に変わる様子を、花が咲くのにたとえたとする説もあります。どちらが正しいかは決まっていません。

英名の spiny king crab は「棘のあるキングクラブ」という意味です。タラバガニ科のカニは、英語でまとめて king crab と呼ばれます。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ甲幅・甲長とも約15cm。タラバガニより一回り小さい
分布ベーリング海南西部からオホーツク海、サハリン、千島列島。日本では北海道の納沙布岬から襟裳岬にかけての太平洋側と、根室半島のオホーツク海側
生息環境沿岸の浅い海。昆布の生える海域に多く、深くても水深200mほどまで
食べ物ナガコンブやピリヒバなどの海藻が中心とされる
成熟メスはふ化から約6年で成熟する
保全状況IUCN:未評価(NE)

「カニ」と呼ばれるヤドカリの仲間

タラバガニと同じ、異尾類のタラバガニ科

ハナサキガニは、ケガニやズワイガニのような短尾類(本来のカニの仲間)ではありません。ヤドカリと同じ異尾類に含まれ、タラバガニ科タラバガニ属に属します。

同じ属には、タラバガニやアブラガニがいます。3種とも北の海で食用に漁獲され、見た目もよく似ています。

国立科学博物館に展示されたハナサキガニの標本。脚と甲羅に太い棘が並ぶ
Daderot, CC0, via Wikimedia Commons
ヤドカリ【総合】
ヤドカリは貝殻を背負って暮らす甲殻類の仲間。成長に合わせた「宿替え」や殻の奪い合い、殻を捨てて育ったヤシガニ・タラバガニ、イソギンチャクとの共生まで。

タラバガニより小さく、棘は長い

近縁のタラバガニと並べると、いくつかの違いがあります。

ハナサキガニタラバガニ
大きさ甲幅・甲長とも約15cmハナサキガニより大きい
体の棘長いハナサキガニより短い
脚太く短いハナサキガニより長い
分布北海道東部など、狭い範囲より広い範囲
暮らす深さ水深200mほどまでの浅い海より深い海にも広がる
タラバガニ
「カニの王様」タラバガニは、実はカニではなくヤドカリに近い仲間。あしが8本に見える理由、ズワイガニとの違い、アブラガニとの見分け方まで。

逆ハート形の甲羅と、長く鋭い棘

後ろの中央がへこんだ甲羅

甲羅は後ろ側の中央が少しへこんだハート形で、逆さにしたハートにたとえられます。甲羅の横幅(甲幅)と縦の長さ(甲長)はどちらも約15cmで、大人の手のひらより一回り大きい程度です。

甲羅にも脚にも長い棘が数多く並び、脚そのものは太く短めです。全身を硬い殻と棘で固めた、守りの堅い体つきといえます。食べるときの殻むきには、キッチンバサミなどが使われます。

平らな台の上のハナサキガニを上から見た姿。ハート形の甲羅と棘の並んだ脚がわかる
Craford at Japanese Wikipedia, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

熱を加えると鮮やかな朱色に

ハナサキガニの殻は、茹でるなどして熱を加えると、鮮やかな朱色に変わります。

茹でて朱色になったハナサキガニ。脚と甲羅に鋭い棘が密に並ぶ
syvwlch, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

昆布の生える浅い海で、群れて暮らす

納沙布岬から襟裳岬にかけての沿岸

日本では、北海道の納沙布岬から襟裳岬にかけての太平洋側と、根室半島のオホーツク海側に分布します。国外の分布域は千島列島やサハリンを経て、ベーリング海の南西部まで広がります。タラバガニやアブラガニと比べると分布は狭く、暮らす深さも水深200mほどまでと浅めです。

体の大きさによって、暮らす深さが変わります。甲長6〜8cmほどの小型の個体が岸から水深30mまでの浅い所にとどまるのに対し、甲長9cmを超えると水深190mまで広がります。

倒木の上にいるハナサキガニを正面から見た姿
Pavel Smirnov, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ナガコンブやピリヒバを食べる

採集した個体を調べた結果から、ハナサキガニは主にナガコンブや、サンゴモの仲間のピリヒバを食べていると考えられています。ピリヒバは、体に石灰分を含む硬い海藻です。昆布の生える海で暮らすことから、若い個体はコンブガニとも呼ばれます。

ただ、海藻だけに頼るわけではなく、生息場所にあるものなら動物・植物を問わず餌にします。また、ハナサキガニは集団を作って暮らします。

若いうちは潮だまりにもいる

ふ化してから3年ほどは、潮が引くと海面から出る潮間帯で暮らします。この時期の稚ガニは、磯の潮だまりで見つかることもあります。その後は、水深50〜200mほどの海へ移ると考えられています。

つがいで産卵し、1年近く卵を抱く

脱皮したメスが、その場で卵を産む

産卵は6〜7月ごろ、沿岸の浅い海で行われます。オスとメスが1対1のつがいになると、メスは脱皮した直後に卵を産み出し、オスもすぐさま精子を放ちます。

交尾の前には、オスがメスのそばについて守る行動を取ります。周りにメスが多いときほど、この見張りに費やす時間は短くなると報告されています。

ふ化から成熟まで約6年

翌年の春、岸の近くで幼生を放す

産んだ卵はメスの腹の脚(腹肢)に付き、ふ化まで守られます。翌年の4月ごろ、卵を抱いたメスは岸に近づき、そこで幼生がかえります。卵を抱く期間は、1年近くに及びます。

2.2mmの稚ガニから、ゆっくり育つ

かえった幼生は海中を漂って育ち、6月にはカニに近い形のメガロパ幼生になります。7月を過ぎると、甲の長さがわずか2.2mmの、ゴマ粒ほどの稚ガニとなって海底に降ります。

稚ガニの甲長は、1年後に約10mm、2年後に約20mmです。メスが卵を産めるようになるのは、ふ化から6年ほど経ってからとされます。

オスだけを獲る漁が、繁殖を弱めていた

メスと甲幅8cm未満のオスは獲れない

北海道漁業調整規則は、ハナサキガニのメスと、甲幅8cm未満のオスを獲ることを禁じています。この決まりには、卵を産むメスを海に残し、水揚げを大きなオスに限る狙いがあります。

オスは精子を十分に持っているとされ、小さなオスを残せば繁殖は続くと考えられてきました。ところが研究が進むにつれ、ハナサキガニではこの考えが通用しないことが分かってきました。

残された小さなオスの精子が足りなくなる

オスが減り、メスへ偏った性比

大きなオスだけを獲り続けた結果、漁場のオスは小型になりました。オスとメスの数の比(性比)もメスへ偏り、残った少ないオスや小さなオスが多くのメスと交尾することになります。

獲る量が多かった年は、少なかった年に比べて、メスの繁殖の成績が明らかに落ちていました。卵巣に成熟した卵を持ちながら産卵していないメスや、受精率の低いメスが多く見つかっています。

繁殖期の終わりには4割のオスが精子を使い切る

水槽での実験では、交尾を重ねたオスほど、メスを産卵させられなくなりました。漁獲できるサイズぎりぎりのオスは、2匹目や3匹目のメスを産卵させられないこともありました。

ハナサキガニのオスは減った精子の回復が非常に遅く、繁殖期のうちにはほとんど元に戻りません。同じ甲殻類でも、ガザミの仲間には交尾後9〜20日で精子が戻る種がいます。精子を使い切って繁殖できなくなったオスは、繁殖期の中ごろで11.5%、直後には42.2%と4割を超えていました。

人工の稚ガニを放流して資源を支える

根室では1981年に、資源(獲れるカニの量)を守るための協議会ができました。以来、標識を付けた放流や生態の調査が重ねられています。1996年に設立された根室市水産研究所も、当初から稚ガニを育てる研究に取り組んできました。近年は、育てた稚ガニの8割以上が生き残るまでになりました。

2020年ごろには、毎年30万尾以上の稚ガニが地元の海へ放されています。根室市は2021年度以降、130万尾の稚ガニを生産する計画を立てました。

根室の夏を代表するカニ漁と食べ方

サンマを餌にしたかご漁

ハナサキガニは、釧路より東の沿岸、特に浜中湾から納沙布岬までの海で獲られます。漁に使うかごは底の直径が約90cm、高さ約40cmで、餌には地元の名物でもあるサンマを入れます。50個のかごを約700mの縄に結び、海底に沈めて引き揚げます。

漁期は海域や漁協ごとに決まっており、根室半島では例年4月1日から7月15日までとする漁協があります。初夏から秋にかけての水揚げは、根室や釧路の季節の風物詩とされます。根室では毎年「かに祭り」が開かれ、多くの観光客が集まります。

釧路の市場に並ぶ、茹でて朱色になったハナサキガニ
Midori, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

年2,000トンから100トン未満へ

1960年代には、年間2,000トンを超えるハナサキガニが水揚げされていました。その後に漁獲が減った要因には、200海里体制と沿岸の資源の減少が挙げられます。200海里体制は、沿岸から約370kmまでの海の漁を、その沿岸の国が管理する仕組みです。2000年以降の漁獲量は100トン未満で、最盛期の20分の1にも届きません。

煮ガニと鉄砲汁

一般的な食べ方は、丸ごと茹でた「煮ガニ」です。ぶつ切りにした脚を味噌汁に入れた「鉄砲汁」も作られます。脚が太く身も多い反面、油分が多く味の濃いカニと評されます。

水族館で見られる生きた姿

生きたハナサキガニは、北海道の水族館で展示されることがあります。2014年には、札幌市のサンピアザ水族館の水槽でも飼育されていました。

水槽の岩に登る生きたハナサキガニ
harum.koh from Kobe city, Japan, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
ケガニ
ケガニは、北日本からベーリング海にかけての冷たい海底で暮らす、全身を短い毛に覆われたカニです。北海道の代表的なカニですが、成長が遅いため甲長8cm以上のオスだけが水揚げされます。分類と学名分類階層界:動物界 Animalia門:節足動物門 ...
カニ【総合】
横歩きや大きなはさみで知られるカニの仲間を、まとめて紹介します。10本のあし・エラ呼吸・脱皮などの体のしくみから、カラッパ・ワタリガニ・シオマネキなど科ごとの代表種、タラバガニがヤドカリの仲間である話まで、日本のカニを図鑑としてまとめます。

参考

画像出典

タイトルとURLをコピーしました