アオミノウミウシは、青い龍のような姿で知られる、体長3cmほどの小さなウミウシです。外洋の海面を、背中を下にして逆さまに漂って暮らします。えさにするカツオノエボシなどの毒針を体にため込み、それを使って身を守ります。そのため、美しい姿とは違い、触れると激しく刺される危険な生きものです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:軟体動物門 Mollusca
- 綱:腹足綱 Gastropoda
- 目:裸鰓目(らさいもく) Nudibranchia
- 科:グラウクス科 Glaucidae
- 種:アオミノウミウシ Glaucus atlanticus
和名・英名
- 和名:アオミノウミウシ(青蓑海牛)
- 英名:Blue dragon / Blue glaucus / Sea swallow
名前の由来
和名の「アオミノウミウシ」は、青い色と、背中に広がるミノのような突起にちなみます。「蓑(みの)」は昔の雨具で、体から突き出た房がそれを思わせます。英名の Blue dragon(青い龍)は、放射状に広がる突起を龍のひれに見立てた呼び名です。海面を飛ぶように漂うことから、Sea swallow(海のツバメ)とも呼ばれます。
ウミウシの仲間
ウミウシは、貝殻をもたない巻貝の仲間で、軟体動物に分類されます。「牛」の字がつきますが、牛とは関係がなく、頭の触角が牛の角に見えることにちなむ名前です。アオミノウミウシは、その中でも「裸鰓目(らさいもく)」というグループに入ります。背中に、羽毛のように広がる突起(ミノ)をもつのが、このグループの特徴です。多くのウミウシが海底をはう中で、アオミノウミウシは海面を漂う変わった暮らしをしています。

大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約3〜4cm |
|---|---|
| 分布 | 世界の暖かい海(温帯・熱帯)の外洋。日本の海岸にも打ち上がる |
| 生息環境 | 外洋の海面(水面を漂って暮らす) |
| 食べもの | カツオノエボシなど、毒をもつ刺胞動物 |
| 寿命 | およそ1年ほど |
| 危険性 | 体に毒をため込み、触れると激しく刺される |
青い龍のような姿
反対色のカモフラージュ
上は青、下は銀灰色
アオミノウミウシの体は、面によって色が違います。海面を漂うとき、空に向く側はあざやかな青色をしています。反対に、水中に向く側は銀色がかった灰色です。海面という場所に合わせて、上下で色を塗り分けたような体をもちます。この青色が、龍を思わせる見た目のもとになっています。青の濃さには個体差があり、光の当たり方でも違って見えます。

上下で色が違う理由
上下で色が違うのは、身を守るためだと考えられています。青い上面は、空から水面を見おろす鳥に対して、海の青さに紛れます。銀灰色の下面は、水中から見上げる魚に対して、明るい水面の色に紛れます。上からも下からも見つかりにくくするこのしくみは、「反対色(カウンターシェーディング)」と呼ばれます。
指のように広がるミノ
体の左右からは、6本の枝が伸び、その先が指のように細かく分かれています。この突起は「ミノ(cerata)」と呼ばれ、全体では数十本にもなります。放射状に広がるミノが、龍のひれや翼のように見えます。このミノには、身を守るための大切なはたらきがあります。ミノの中には、体の中を通る消化管が枝分かれして伸びています。食べたものの養分は、このミノの先まで運ばれるとされます。
小さな目と口
アオミノウミウシの目は、とても小さく、体の中にほとんど埋もれています。そのため、見た目からは目の位置が分かりにくい生きものです。口は体の下側にあり、獲物にかみついて食べます。えらは、多くのウミウシのように目立つ形ではなく、皮膚やミノの表面で呼吸していると考えられています。
逆さまに漂う暮らし
海面を漂う
胃の中のガスで浮く
アオミノウミウシは、泳ぎが得意な生きものではありません。胃の中に空気の泡をため込み、その浮力と水面の表面張力を使って、海面にぶら下がるように浮きます。自分から遠くへ移動する力は弱く、風や潮の流れに乗って運ばれます。海の表面を漂いながら暮らす、数少ない生きものの一つです。同じように海面を漂うカツオノエボシやギンカクラゲと同じ場所に集まり、そこで獲物にありつきます。
青い腹を上にして
海面に浮かぶとき、アオミノウミウシは腹側を上に向け、背中を水中へ沈めます。つまり、ふつうの巻貝とは上下が逆さまの姿勢で漂っています。あざやかな青色は、この上を向いた腹側にあります。逆さまの姿勢と反対色の体が組み合わさって、海面での身の守りが成り立っています。
おもな獲物
アオミノウミウシは、自分より大きな毒をもつ生きものを食べます。おもな獲物は、強い毒をもつクラゲの仲間、カツオノエボシです。ほかにも、ギンカクラゲやカツオノカンムリといった、海面を漂う刺胞動物を食べます。獲物のカツオノエボシは長い触手に強い毒をもちますが、アオミノウミウシはその毒を平気で食べます。獲物の刺胞が自分には効かないしくみをもつと考えられています。えさが少ないときには、同じアオミノウミウシどうしで食べ合うこともあると報告されています。

たまごとふえ方
アオミノウミウシは、一匹がオスとメスの両方のはたらきをもつ雌雄同体です。二匹が出会うと、たがいに精子を渡し合って受精します。卵は細いひも状にまとめて産みつけられ、流木や、食べたカツオノエボシの残がいなどにつけられることもあります。海面という足場の少ない場所で、工夫して子孫を残しています。
奪った毒で身を守る
獲物の毒針をためこむ
盗んだ刺胞を集める
カツオノエボシなどの刺胞動物は、「刺胞」と呼ばれる毒針の入った小さな器官をもちます。アオミノウミウシは、食べた獲物の刺胞を消化せず、体の中に取り込みます。取り込んだ刺胞は、ミノの先にある袋に集められ、たくわえられます。ほかの生きものの武器を奪って自分のものにするこのしくみは、「盗刺胞(とうしほう)」と呼ばれます。刺胞は獲物のものをそのまま使うため、アオミノウミウシ自身が毒を作るわけではありません。
もとの獲物より強く刺す
ためこまれた刺胞は、ミノの先に高い濃度で集まります。このため、アオミノウミウシの刺す力は、えさであるカツオノエボシそのものより強くなるとされています。小さな体ながら、外敵にとってはあなどれない相手です。奪った毒を集めて武器にする、変わった身の守り方をもつ生きものです。毒をため込むため天敵は少ないものの、海鳥やウミガメなどに食べられることはあるとされます。
人とのかかわり
アオミノウミウシは、風の強い日などに、日本を含む各地の海岸へ打ち上げられることがあります。打ち上げられた個体でも刺胞は生きており、触れると激しく刺されます。症状はカツオノエボシに刺されたときに似て、強い痛みや、吐き気をともなうこともあります。刺される危険があるため、打ち上げられていても手を触れないよう注意が呼びかけられています。近年は、海水温の上昇などにともない、これまで少なかった地域の海岸でも見つかる例が報じられています。千葉県など、日本の太平洋側でも打ち上げの報告があります。えさが特殊なため飼育はきわめて難しく、水族館でもめったに見られません。

関連ページ

参考
- Wikipedia「Glaucus atlanticus」(分類・形態・反対色・浮遊・盗刺胞・毒・生態)https://en.wikipedia.org/wiki/Glaucus_atlanticus
- Wikipedia「Kleptocnidae / 盗刺胞」(獲物の刺胞をためこむしくみ)https://en.wikipedia.org/wiki/Kleptocnidae
- Australian Museum「Blue Dragon (Glaucus atlanticus)」(分布・打ち上げ・刺す危険)https://australian.museum/learn/animals/sea-slugs/glaucus-atlanticus/
画像出典
- アイキャッチ:Sylke Rohrlach, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons(Blue dragon – Glaucus atlanticus)
- 青い体とミノ:Taro Taylor, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(Glaucus atlanticus 1)
- 打ち上げられた個体:Oskar Suth, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(Glaucus atlanticus australia.jpg)


