コスタシエラ(テングモウミウシ)

コスタシエラの正面顔アップ・葉状ceratと触角 ウミウシ類

コスタシエラは、体長わずか3〜8mmの熱帯西太平洋のごく小さなウミウシです。緑色の葉状の背側突起(cerata)を密に生やす姿が羊の毛のように見え、白い顔と黒い目、耳のように立つ触角と合わせて「リーフシープ(葉羊)」や「シープスラッグ(羊ナメクジ)」の英名でSNSでも話題になった小型種になります。学名は Costasiella kuroshimae。1993年、日本の裸鰓類研究者市川光太郎が沖縄県八重山諸島の黒島で採集した個体をもとに記載しました。種小名 kuroshimae は「黒島」に由来し、日本語由来の学名を持つ数少ないウミウシです。餌の緑藻から取り込んだ葉緑体を体内に蓄えて光合成に使う「盗葉緑体(クレプトプラスティ)」の能力を持つことでも知られる、嚢舌目のなかまです。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 上目:嚢舌上目 Sacoglossa
  • 科:コスタシエラ科 Costasiellidae
  • 属:コスタシエラ属 Costasiella
  • 種:コスタシエラ・クロシマエ Costasiella kuroshimae

和名・英名

  • 正式和名:テングモウミウシ(天狗藻ウミウシ)
  • 通称:コスタシエラ/リーフシープ/シープスラッグ/葉羊
  • 英名:Leaf slug/Leaf sheep/Sea sheep

別名と名前の由来

正式和名の「テングモウミウシ」は餌の緑藻テングクサ(天狗草)の仲間に付くことに由来する呼び名です。ダイビング界隈やSNSでは属名の頭を取った「コスタシエラ」で通ることが多く、こちらの通称の方が知名度は高くなっています。属名 Costasiella はイタリアの動物学者オロンツィオ・ガブリエル・コスタ(Oronzio Gabriele Costa)に献名された属で、種小名 kuroshimae はタイプ産地の沖縄県八重山諸島「黒島(くろしま)」に由来します。1993年に日本の裸鰓類研究者市川光太郎が記載した種で、日本語由来の学名を持つ数少ないウミウシです。英語圏では葉のようなceratが羊の毛を思わせることから「Leaf sheep(葉羊)」「Sea sheep(海の羊)」と呼ばれ、SNSでは「ひつじのショーンにそっくり」として世界的にバイラルしました。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約3〜8mm(ホロタイプ4mm/最大10mm程度)
体色頭部は乳白色で眼の後ろに褐色の斑/触角は白く先端が黒色/背側突起(cerata)は緑色で先端がピンク〜赤紫
背側突起7列前後の葉状ceratが密に並ぶ(羊の毛のように見える)
分布熱帯西太平洋/日本(沖縄・奄美・八重山諸島)/フィリピン/インドネシア/マレーシア
生息環境湾内の浅いサンゴ礁域/緑藻アヴランヴィレア属(Avrainvillea)やミル属(Codium)の海藻上/水深2〜10m前後
食性Avrainvillea や Codium など特定の緑藻を選択的に食べる(食草性)
特殊能力盗葉緑体(クレプトプラスティ)=食べた緑藻の葉緑体を体内に保持し光合成に使う
寿命数か月〜約1年(嚢舌目全般)
保全状況IUCN未評価。分布域では観察例が多いが、冬季に餌の海藻が枯れると観察困難
コスタシエラの上向きの顔・羊のような姿
Alif Abdul Rahman, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

体長わずか3〜8mm、cerataが羊の毛のよう

顔は羊、体は葉っぱの毛玉

白い顔に黒い目と耳のような触角

頭部は乳白色で、眼の後ろに褐色の斑があります。頭のてっぺんからは細長い触角(rhinophore)が一対、耳のように立ち上がり、先端が黒色になるのが特徴です。頬にあたる位置にピンクの小斑が入る個体も多く、正面から見ると羊のショーンにそっくりな顔立ちに見えるのが人気の理由になっています。

背中の葉状cerataは緑と桃で7列

背中には葉状の背側突起(cerata)が7列前後、密に並びます。ceratの地色は緑で、先端はピンクや赤紫を差します。輪郭には淡青の縁取りが入り、色使いはとても華やかです。この葉状ceratの束が羊の羊毛のように見え、英名「リーフシープ(葉羊)」の直接の由来になっています。

数ミリのマクロ被写体

ホロタイプは体長4mm

市川光太郎が1993年に記載したホロタイプ(模式標本)の体長はわずか4mmで、最大でも10mm程度にしかならないきわめて小さな種です。ダイビングでは1cm玉サイズの被写体で、肉眼では海藻の上の緑の粒にしか見えません。ガイドが指差してくれないと通り過ぎてしまう存在で、マクロレンズと光量が必須になります。

ダイビング向けの人気マクロ種

フィリピンのアニラオやインドネシアのレンベ海峡などマクロ撮影で有名なダイビングポイントでは本種目当てのゲストが集まるほどの定番被写体です。日本でも奄美大島・沖縄本島・八重山諸島でシーズン中に観察でき、ダイビングガイドの多くが「見せたい生き物」の一つに挙げる小型種になっています。

コスタシエラの側面・葉状のcerata
Rickard Zerpe, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

葉緑体を盗み光合成する「クレプトプラスティ」

餌の緑藻から葉緑体を体内に取り込む

葉緑体だけを消化せずに取り込む

コスタシエラの最大の特徴は「盗葉緑体(クレプトプラスティ)」と呼ばれる能力です。餌の緑藻(Avrainvillea や Codium など)を食べる際、細胞から葉緑体だけを消化せずに背側突起のcerata細胞に取り込んで蓄えます。

数週間光合成を続けて糖を供給する

取り込まれた葉緑体はそのまま数日〜数週間光合成を続け、宿主のコスタシエラに糖などの光合成産物を供給する仕組みです。cerataが緑色なのは、この体内に並ぶ葉緑体の色が透けて見えているためです。

飢餓時の栄養源として働く

クレプトプラスティは餌が乏しい時期に光合成産物を利用できる「非常食」として働くと考えられています。同じ嚢舌目のレタスウミウシ Elysia chlorotica では葉緑体を数か月保持する例も報告されており、コスタシエラでも似た仕組みで飢餓耐性を高めていると見られる能力です。動物でありながら植物のように光合成を利用できるこの戦略は、生物学の教科書でも取り上げられる興味深い現象になっています。

コスタシエラが海藻の上に載る側面
Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(アニラオ・フィリピン)

Avrainvillea と Codium の緑藻に特化

コスタシエラは食性がきわめて狭く、緑藻類のなかでも Avrainvillea 属や Codium(ミル)属など特定のグループだけを選んで食べます。奄美大島の観察記録では水深2〜10mの湾内のミル属(Codium sp.)の葉体上に集まる例が多く、フィリピンやインドネシアでは Avrainvillea 属の海藻でよく見つかります。餌の海藻がある岩の上を海藻ごと覆うように群れる姿もダイビングで観察でき、複数個体が並んでいるところは羊の群れのように見えます。冬季に水温が下がって餌の海藻が枯れると本種の観察例も一気に減るため、シーズンは春〜秋が中心になります。

コスタシエラの2個体が並ぶ姿
alif abdulrahman, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

雌雄同体で数か月〜1年の短い命

嚢舌目全般と同じく、コスタシエラも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時には粘液の中に白い卵をひも状に並べて海藻の葉裏に貼り付けます。孵化した幼生(ベリジャー幼生)は数週間プランクトンとして海中を漂ったのち、餌の緑藻を見つけて着底し、稚ウミウシに変態するのが基本の発生様式です。寿命は数か月〜約1年と短く、盗んだ葉緑体の光合成能力もこの短い生涯の間に少しずつ落ちていくため、コスタシエラは常に新しい Avrainvillea や Codium の緑藻を食べ続ける必要があります。

沖縄・奄美から熱帯西太平洋へ

タイプ産地は沖縄県八重山諸島の黒島

コスタシエラのタイプ産地は沖縄県八重山諸島の黒島で、1993年の記載以降、フィリピン・インドネシア・マレーシアなど熱帯西太平洋のサンゴ礁域から次々に観察例が報告されています。日本国内では沖縄本島・奄美大島・八重山諸島(石垣・西表・与那国など)が主な観察地で、伊豆半島など温帯域まで北上した観察例は今のところ確認されていません。熱帯性の性格が強く、水温28℃前後の暖かい海が本種の主戦場になっています。

コスタシエラの分布図・熱帯西太平洋
Mohammed El Manfaloti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(分布図)

近縁のコスタシエラ属は複数種いる

コスタシエラ属(Costasiella 属)にはインド太平洋を中心に十数種が知られており、いずれも小型で緑色の葉状ceratを持ちます。日本近海では本種のほかに、体色や斑紋の異なる Costasiella iridophora(イリドフォラ)や Costasiella nonatoi なども観察されており、SNS映えする「羊」の姿は必ずしも本種だけの特徴ではありません。ただし黒島産の Costasiella kuroshimae こそが「元祖リーフシープ」として世界的に知られる存在で、日本のダイビング愛好家にとっても親しみのある種になっています。

コスタシエラの顔正面アップ・目と触角
Jun V Lao, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(アニラオ・フィリピン)

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参考

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