ミミイカ

ミミイカ・古典生態画 イカ・タコ類(頭足類)

ミミイカは、日本の内湾で見られる胴長わずか4cmほどの小型のイカです。丸い頭部の両側に半円形の大きな鰭を張り出し、その姿がまるで「耳」のように見えることが和名の由来になっています。昼は砂に潜り、夜になると出てきて小さな甲殻類を狩る臆病者です。腹側には発光器を持ち、月夜には自分の下向きの影を光で消してしまうという、体長のわりに手の込んだ暮らしぶりで知られています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:頭足綱 Cephalopoda
  • 亜綱:鞘形亜綱 Coleoidea
  • 目:ダンゴイカ目 Sepiolida(コウイカ目に含める分類もあり)
  • 科:ダンゴイカ科 Sepiolidae
  • 亜科:ミミイカ亜科 Sepiolinae
  • 属:ミミイカ属 Euprymna
  • 種:ミミイカ Euprymna morsei

和名・英名

  • 和名:ミミイカ
  • 英名:Mimika bobtail squid(ダンゴイカ類の総称は Bobtail squid)

別名・学名の由来

学名 Euprymna morsei はアメリカの動物学者アディソン・エマリー・ヴェリルが1881年に記載したもので、種小名 morsei は大森貝塚を発見したことで日本でも知られる動物学者エドワード・S・モースへの献名にちなむとされます。旧学名 Inioteuthis morsei(Verrill, 1881)や、後年に別種とされた Euprymna similis(Sasaki, 1913)はいずれも同種のシノニムとして扱われるようになりました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ胴長 約4cm(最大でも40mm前後の小型種)
分布本州南部~九州の内湾・朝鮮半島・中国沿岸・東南アジア(記録は分類学的な整理待ち)
生息環境水深の浅い砂底・砂泥底。瀬戸内海や九州北部の内湾に多い
寿命およそ半年〜1年(産卵後に死亡)
保全状況IUCN: DD(情報不足)

「耳」の名の由来と姿

半円形の大きな鰭

ミミイカ最大の見た目の特徴は、外套膜の左右に張り出す半円形の大きな鰭です。細長い胴を持つスルメイカやヤリイカの鰭とは違い、丸くふっくらとしていて、体長のわりに幅広く発達しています。この鰭が正面から見ると哺乳類の「耳」のように見えるため、和名にそのままの姿が写し取られました。

「ミッキーマウス」に見立てられる姿

丸い頭部と、両側に小さく張り出す耳ヒレの組み合わせは、ネット上でしばしば「ミッキーマウスに似ている」と話題にされる姿でもあります。実際の泳ぐ姿を上から見ると耳ヒレを波打たせながらゆっくりホバリングしていて、外套膜の玉虫色の光沢とあいまって独特のシルエットが際立ちます。ダンゴイカ科の仲間は総じて丸い体つきをしていますが、ミミイカはそのなかでも耳ヒレの発達が目立つ種のひとつです。

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見た目と体のつくり

玉虫色に光る体色

ミミイカの体色は、玉虫色の金色から紫色まで、光の当たり方でぐるぐると変化するのが特徴です。皮膚には大きな色素胞が並び、色素胞を瞬時に開閉することで暗く沈んだ体色にも、鮮やかな金属光沢にも切り替えられます。近縁のダンゴイカ類と同じく、この色変化は敵から身を隠したり、砂粒の背景に溶け込んだりする働きを担うと考えられています。

お腹に隠された発光器

シルエットを消す「カウンターイリュミネーション」

ミミイカは外套膜の内側、墨袋の上に一対の鞍状(サドル型)の発光器を備えています。この器官が下向きに柔らかい光を発することで、月夜の海面から差し込むわずかな光と自分の腹側の輝きが釣り合い、下から見上げる捕食者からは影が消えて見えるとされます。この隠蔽方法は「カウンターイリュミネーション(対抗照明)」と呼ばれ、外洋の魚類やイカ類にも広く見られる戦略の一つです。ミミイカが夜間の砂底近くを泳ぐ暮らしと、この発光器の位置は密接に結びついていると考えられます。

発光細菌との共生

ダンゴイカ類の発光器は、器官そのものが光るのではなく、なかに住まわせた発光細菌(Vibrio 属など)の生化学反応で光を出す仕組みが知られています。同属のハワイアンボブテイル Euprymna scolopes は宿主と共生細菌のモデル生物として世界的に有名で、ミミイカでも近年、共生細菌の系統や獲得の仕組みが研究の対象になっています。細菌との協力関係が個体の発光をつくり出しているという点で、ミミイカは「小さな体に凝った暮らしを詰め込んだ」種の代表例と言えます。

雄と雌の見分け

雄のミミイカは左第1腕が「交接腕(ヘクトコティルス)」として変形していて、腕の上半分の吸盤が太く柱状に変わり、それに交じって双列の突起が並ぶという独特の形をしています。雌にはこの変形が無いため、雄はこの腕を見ることで判別できます。ただし雌については、姉妹種である Euprymna berryi(ヒメダンゴイカ)と外形上ほとんど区別がつかず、体色や大きさだけで種を決めるのは難しいと報告されています。

生態と行動

生息と分布

ミミイカは本州南部から九州にかけての浅い内湾を主な生息地とし、瀬戸内海や九州北部の砂泥底で古くから知られてきました。分布域は朝鮮半島・中国沿岸・東南アジア沿岸まで広がると報告されている一方、温帯性の日本近海のみに限定的だとする見解もあり、属全体の分類学的な整理が現在も続いています。

昼は砂に潜り、夜に狩る

砂粒をまとうカモフラージュ

昼のミミイカは、腕を使って砂を体にかけながら砂底に潜り、目だけを出して身を隠す行動が観察されています。多くのダンゴイカ類に共通する行動で、体表の粘液に砂粒がまとわりつくことで、より背景と一体化するというわけです。ダイバーからは、砂の中でわずかに動く2つの目で、はじめて存在に気づかれる例が多いと伝えられています。

夜の甲殻類狩り

暗くなると砂から出て活動を始め、小型の甲殻類や小魚を狙って泳ぎ回るとされます。狩りには他のイカと同じく2本の触腕を使い、獲物までの距離を精密に測ってから瞬時に射出します。カウンターイリュミネーションと合わせ、光の少ない夜の砂底が本種の主戦場になっていると考えられます。

産卵と成長

砂粒に紛れる小さな卵

ミミイカは春から夏にかけて、砂粒や小石、貝殻の隙間に小さな卵をひとつずつ産み付けます。卵は乳白色でわずか数mm、表面に砂粒をまぶしたような姿になって周囲に紛れます。産卵場所は内湾の水深が浅い砂底で、他のダンゴイカ類と同じく、母親は特別な保育行動を行うわけではありません。

短命な1年の生活史

孵化した稚仔ははじめから親と似た姿をしており、砂に潜る行動を早い時期から示すことが知られています。寿命はおよそ半年から1年と短く、産卵を終えた個体は雌雄とも死亡します。小さな体で1年ぶんの生涯を全うするという、頭足類として典型的な短命の生活史を持つと言えます。

似た仲間との違い

ダンゴイカ類(ダンゴイカ科)との関係

「ダンゴイカ」という呼び名は、しばしばダンゴイカ科(Sepiolidae)全体をゆるく指す通称としても、そのなかの一部の種(ミナミダンゴイカ Sepiola birostrata など)を指す名としても使われます。ミミイカもこのダンゴイカ科に属する仲間の一つで、丸い体つきや半円形の鰭・砂に潜る習性など多くの特徴を共有しています。ミミイカの見分けは、耳ヒレの発達具合と胴長、玉虫色の体色を手がかりにするのが一般的です。

ホタルイカとの違い

「発光するイカ」という共通点から、ミミイカとホタルイカを混同する例があります。ホタルイカ Watasenia scintillans はホタルイカモドキ科に属するツツイカ類で、腕の先端や皮膚に無数の発光器を持ち、群れで海面に上がってくる外洋性の種です。ミミイカは内湾の砂底で単独に近い生活を送り、発光器も腹側の一対だけと限定的で、生息場所も行動もかなり異なります。同じ「光るイカ」でも、系統上は遠い別の系譜に属しています。

ブレナーミミイカ(近縁の姉妹種)

2019年、日本近海のミミイカ類の中から、遺伝的にも形態的にもミミイカと区別される新種として Euprymna brenneri(ブレナーミミイカ)が記載されました。従来ミミイカとして一括で扱われていた個体群の一部が別種と判明したもので、属内の分類はいまも整理途中にあります。「ミミイカ」と呼ばれてきた個体には、複数種が混在している可能性があると考えられています。

食材とペットとしての利用

瀬戸内海・九州北部のローカル食材

ミミイカは小型なため大々的な漁業対象にはなりませんが、瀬戸内海や九州北部の内湾では底引き網などの副産物として水揚げされ、ローカル食材として長く親しまれてきました。煮付け・素焼き・丸ごとの唐揚げなどが定番で、内臓ごと調理しても身に苦みが少なく旨味の濃さから根強いファンを持ちます。市場では春から初夏にかけて出回ることが多いとされ、地元では旬の味覚として扱われます。

水族館展示と飼育の難しさ

その独特の姿から水族館の展示種としても人気があり、鳥羽水族館や沖縄美ら海水族館、地方の小規模館などで見られる時期があります。ただし短命であること・砂底の環境を再現しにくいこと・生きた餌が必要であることなどから、家庭での長期飼育は難しい種にあたるとされます。専用の飼育設備を持たない場合は、水族館で展示されている個体をゆっくり観察するのが現実的な楽しみ方になります。

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参考

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