ソデイカ

ソデイカ・ハワイで撮影された個体 イカ・タコ類(頭足類)

ソデイカは、日本近海に住む食用イカのなかで最大級の大きさに育つ大型のイカです。胴長は約1m、体重は20kg前後で、大きな個体では30kgに達するとされます。市場では「アカイカ」の名で流通し、回転寿司の白いイカとしてもよく目にする種です。ただし標準和名としてのアカイカは別の種を指すため、ソデイカは名前をめぐる混乱の代表格でもあります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:頭足綱 Cephalopoda
  • 目:ツツイカ目 Teuthida
  • 亜目:開眼亜目 Oegopsina
  • 科:ソデイカ科 Thysanoteuthidae(1科1属1種)
  • 属:ソデイカ属 Thysanoteuthis
  • 種:ソデイカ Thysanoteuthis rhombus

和名・英名

  • 和名:ソデイカ
  • 英名:Diamond squid / Diamondback squid / Rhomboid squid

別名・学名の由来

和名「ソデイカ」は、第3腕の保護膜を支える肉柱が分厚く、まるで着物の袖のように広がって見えることに由来します。市場での流通名は「アカイカ」が最も広く用いられ、そのほかにセーイカ(沖縄県)・タルイカ(日本海沿岸)・ベニイカやドータリイカ(島根県)・カンノンイカ(富山県)・メオトイカ・シンジュウイカ・オオトビイカなど、地方名が非常に多い種です。英名 diamond squid は、鰭を広げた姿が全体として菱形をなすところに由来し、学名の種小名 rhombus(ラテン語で菱形)と同じ意味です。ドイツの動物学者フランツ・ヘルマン・トロッシェルが1857年に記載しました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ胴長 約100cm、体重 20〜30kg
分布全世界の熱帯・亜熱帯外洋域(暖流に沿って高緯度にも分布・利尻島の漂着記録あり)
生息環境水深0〜250mの外洋。昼は深場、夜は表層近くへ移動
寿命約1年(産卵後に死亡)
保全状況IUCN: LC(軽度懸念)

「アカイカ」の商品名をめぐる混乱

市場でアカイカと呼ばれる大型イカ

ソデイカは、市場や飲食店では「アカイカ」の名で扱われることが最も多い種です。体色が鮮やかな赤色を帯び身が厚いこと、価格が手ごろなことから、回転寿司や量販店の刺身・寿司ネタとして幅広く流通しています。特に「アカイカ」の看板で並ぶ大きめのイカを見かけたら、その正体はソデイカである可能性が高いと言えます。

標準和名のアカイカは別種

一方、標準和名としての「アカイカ」Ommastrephes bartramii は、アカイカ科に属する外洋性の別種です。ソデイカとアカイカ(標準和名)はどちらも大型のイカですが、体形や鰭のつき方、分類上の位置が異なります。市場の呼び名と学問上の呼び名が食い違うため、料理店で「アカイカ」と出てきたときは商品名としてのアカイカ=ソデイカを指す場合が大半という事情があります。

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見た目と体のつくり

ソデイカの全身図・古典生態画
Comingio Merculiano (Jatta Giuseppe 所収), Public domain, via Wikimedia Commons

大きさと体色

ソデイカは食用イカとしては最大級の種です。胴長は約1m、体重は20kg前後で、大きな個体では30kgに達するとされます。体は鮮やかな赤色を帯び、筋肉質で砲弾のような紡錘形をしています。頭部は胴よりやや小さく、両側に開眼型の目を備え、発光器は持ちません。孵化直後の稚仔は無数の色素胞に覆われているのが特徴と知られています。

菱形の鰭と「袖」

菱形の鰭

ソデイカ最大の見た目の特徴は、外套膜の両側面に沿って走る大きな鰭にあります。鰭を左右いっぱいに広げた長さが胴長とほぼ同じで、体全体を上から見ると菱形をなします。英名 diamond squid、学名の種小名 rhombus、ともにこの菱形に由来します。ふだんの遊泳もこの鰭を波打たせて行い、大型のイカでありながら滑らかに水中を進むとされます。

袖のような保護膜(第3腕)

大阪市立自然史博物館のソデイカ標本
大阪市立自然史博物館, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

和名「ソデイカ」の由来は、第3腕の外縁に発達する肉柱と保護膜にあります。第3腕の両側に厚みのある膜が張り出し、腕を広げると和服の袖のようなシルエットになるため、この和名が付けられました。1科1属1種で他のイカと大きく形が異なるため、ひとたび全身が見えれば見間違うことはほとんどありません。

触腕・吸盤

10本ある付属肢のうち、8本は「腕」、残る2本は長く伸びる「触腕」です。触腕には4列の吸盤が並び、腕には2列の吸盤があります。ふだんは触腕を袋にしまい、獲物に届く距離で瞬時に射出して捕らえます。触腕の先端で獲物をつかみ、口器のとげとカラストンビで短冊状に噛み砕いてから胃へ送り込むという食べ方が知られています。

生態と行動

生息と垂直移動

世界の熱帯・亜熱帯外洋域に広く分布し、暖流の流れる海域ではより高緯度まで運ばれます。日本近海では黒潮・対馬暖流の影響下で分布が広く、北は北海道の利尻島まで漂着記録が残されています。生息水深は0〜250mで、昼間は深場に留まり、夜間は餌を求めて海面近くまで昇るという日周垂直移動を行うとされます。大きな群れは作らず、単独か2〜3尾で泳ぐ姿が観察されてきたという。

食性

ソデイカはマイクロネクトンと呼ばれる中層性の小型生物を主な餌にしますが、比較的大きな獲物も積極的に捕食します。外洋域ではハダカイワシ科・ヨコエソ科などの小型浮遊性魚類に加え、深海性魚類の稚仔や他のイカ類の若体、外洋性のタコ類などが胃の内容から確認されています。日本海ではスルメイカやマイワシに加え、ホタルイカモドキやヤリイカも餌に含まれるという。

「夫婦イカ」と呼ばれた行動

2尾で泳ぐ観察

ソデイカは大きな群れを作らず、しばしば2尾で寄り添うように泳ぐ姿が確認されてきました。この行動から「メオトイカ(夫婦イカ)」「シンジュウイカ(心中イカ)」といった情のこもった地方名が付けられ、漁師のあいだで語り伝えられています。

雌雄でない例も

ただし実際に釣り上げた個体を調べると、2尾の組み合わせが雌雄でない例も多いと報告されています。単純に「夫婦で回遊している」わけではなく、成熟個体どうしが小群を作ることが多い、と受け取るのが正確なところです。呼び名にこめられた漁師の観察眼と、後年の科学的な確認とをあわせて読むと、この種の暮らしぶりが立体的に見えてきます。

産卵と成長

ゼラチン質の巨大な卵塊

ソデイカのゼラチン質卵塊・地中海テネリフェ沖
Escanez A, Riera R, González A, Sierra A, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

ソデイカは特定の産卵場を持たず、暖海域では年間を通じて産卵を行うとされます。産み出される卵塊はゼラチン質の透明な袋状で、直径がおよそ1mに達するものも観察されています。1つの卵塊に含まれる卵の数は最大で7万6千個と報告されており、頭足類の卵塊としては非常に大規模な部類に入ります。海中を漂うこの巨大な卵塊は、たまたま出会ったダイバーからも「大型クラゲ状の透明な物体」として発見されることがあります。

わずか1年の寿命

平衡石や軟骨の解析から、ソデイカの寿命は約1年と考えられています。孵化した稚仔は速いスピードで成長し、1年のうちに胴長1m級まで達して産卵にいたるという、大型のわりに極端に短命な生活史が知られています。産卵を終えた個体は雌雄とも死亡し、次の世代に置き換わります。

樽流し立縄漁法と主産地

大田市場に並ぶソデイカ
Sundy Lyn, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

但馬発祥の「樽流し」漁法

1960年代前半までのソデイカの利用は小規模なものに留まっていました。海岸に流れ着いた個体を集める「イカ拾い」や、定置網で偶然かかるものの利用、集魚灯を用いた夜間の一本釣りが中心だったとされます。転機になったのは、兵庫県但馬地域の漁業者が開発した「樽流し立縄漁法」です。樽や桶を浮きにしてそこから疑似餌を付けた100mほどの糸を垂らし、潮に流しながらソデイカを釣り上げる方式です。これが但馬各地に広まったことで、それまで低活用だったソデイカ資源は一気に商業漁業の対象となりました。

沖縄・鹿児島への広がり

樽流しの技術は日本海沿岸から沖縄・鹿児島、小笠原の海域へと伝わり、1990年代に入ってからは沖縄県・鹿児島県で基幹漁業のひとつに成長しました。2014年時点で国内漁獲の約半分は沖縄が占め、ついで鹿児島県・兵庫県・鳥取県・京都府・福井県・島根県などが続くと報告されています。沖縄では「セーイカ」の呼び名で古くから食卓に上がってきました。

海外への伝播

日本の樽流し漁法を参考に、ニューカレドニア・クック諸島・フィジーでもソデイカ漁が試験的に行われてきました。モルディブでは水産省が若手漁業者向けにソデイカ用の延縄漁具を有償頒布し、セントクリストファー・ネイビスでは海洋資源省がソデイカ漁の能力開発ワークショップを実施した記録も残されています。日本発の漁法が、外洋の低利用資源を活かす手段として世界へ広がった珍しい例と言えます。

食材としてのソデイカ

ソデイカ(アカイカ)の握り寿司
RuinDig / Yuki Uchida, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

冷凍で柔らかくなる特性

生鮮なソデイカは身がやや固く、大味に感じられるとされます。ところが一度冷凍してから解凍すると、身が柔らかくなり、ねっとりとした食感と甘みが引き出されるという特性を持ちます。この扱いやすさと安定した供給量、比較的手ごろな価格から、回転寿司や量販店の刺身では欠かせない存在になっています。冷凍→解凍を前提に流通するイカとして、消費者の手元に届くころには食べごろに仕上がる仕組みになっているというわけです。

料理と切り方

刺身が最も一般的で、寿司ネタや冊売りでもよく見かけます。厚みのある身は繊維に沿って隠し包丁を入れ、薄めの削ぎ切りにすると口当たりが良くなります。加熱料理では揚げ物・焼き物・炒め物のいずれにも向き、甘みと食感を活かした天ぷらやバター焼き、フライも人気があります。菱形に張り出す鰭(「耳」と呼ばれる部位)は、コリコリとした食感で刺身や酢の物、下処理のあとに炒め物に用いられることが多いという。

他の大型イカとの見分け方

ソデイカと混同されやすい大型イカに、標準和名アカイカ Ommastrephes bartramii(アカイカ科)と、モンゴウイカ(カミナリイカ・ヨーロッパコウイカなど)があります。ソデイカは1科1属1種で、外套膜の両側面を全長にわたって覆う大きな菱形の鰭が最大の見分けポイントです。標準和名アカイカは鰭が小さく後端に片寄って三角状につくため、鰭の位置と広がり方で区別できます。モンゴウイカはコウイカ類で、体内に石灰質の分厚い「甲」を持つ点でソデイカとは大きく異なる仲間として知られています。

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参考

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