チュウゴクモクズガニ

甲殻類・軟体動物

チュウゴクモクズガニは、中国や朝鮮半島の川で暮らすカニです。「上海ガニ」の名で秋の高級食材として知られます。一方、ヨーロッパや北アメリカでは生態系を乱す外来種になりました。日本では特定外来生物に指定され、生きたままの持ち込みが禁じられています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:節足動物門 Arthropoda
  • 綱:軟甲綱 Malacostraca
  • 目:十脚目 Decapoda
  • 下目:短尾下目(カニ下目) Brachyura
  • 科:モクズガニ科 Varunidae
  • 属:モクズガニ属 Eriocheir
  • 種:チュウゴクモクズガニ Eriocheir sinensis H. Milne Edwards, 1853

和名・英名

  • 和名:チュウゴクモクズガニ(中国藻屑蟹)
  • 通称:上海ガニ(上海蟹)
  • 中国名:中華絨螯蟹、大閘蟹
  • 英名:Chinese mitten crab

「ミトン」も「藻屑」も、はさみの毛から

英名の mitten crab は、毛に覆われたはさみを手袋のミトンに見立てた名前です。中国名の中華絨螯蟹も「毛の生えたはさみを持つカニ」という意味です。和名のモクズガニ(藻屑蟹)は、同じ毛を海藻のくずにたとえています。

中国でよく使われる大閘蟹の「閘」は、水門を表す字です。語源には諸説があり、かつてカニ売りが「水門蟹」と呼んでいたからとする説明もあります。日本ではかつてシナモクズガニと呼ばれ、1976年ごろから今の和名が使われるようになりました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ甲羅の幅3〜10cmほど。脚は甲羅の幅の約2倍の長さ
原産地朝鮮半島西岸から中国の沿岸部。長江の流域が中心
生息環境川や湖、河口。繁殖のときは海へ下る
食べ物水草や水生昆虫、貝、小魚などを食べる雑食
外来種としての分布ヨーロッパ各地、北アメリカなど。日本では定着は確認されていない
日本での扱い特定外来生物(2006年2月から)
保全状況IUCN:未評価(NE)。世界の侵略的外来種ワースト100の一つ

毛の生えたはさみと、4つの棘が並ぶ甲羅

手のひらほどの体に、長い脚

いちばんの特徴は、はさみを覆う濃い色の毛です。成長すると、はさみの内側にも外側にも柔らかい毛がびっしり生えます。

体は人の手のひらほどの大きさで、甲羅の幅は3〜10cmです。脚は甲羅の幅の2倍ほどの長さがあり、他のカニと比べて細長く見えます。主な産地の長江では、甲羅が青緑色をしています。はさみは金色で、毛は黄色みを帯びます。

地面の上のチュウゴクモクズガニのオス。はさみが濃い色の毛に覆われている
Christian Fischer, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

在来のモクズガニとの見分け方

日本の川で暮らすモクズガニは同じ属の近い仲間で、毛の生えたはさみなど全体の姿がよく似ています。国立環境研究所の侵入生物データベースは、次のような違いを挙げています。

チュウゴクモクズガニモクズガニ
甲羅の凹凸強いチュウゴクモクズガニより弱い
額(目の間)の棘鋭いチュウゴクモクズガニより鈍い
甲羅の側面の歯はっきりした4つの歯—
自然の分布中国・朝鮮半島日本各地の川
砂の上に残ったチュウゴクモクズガニの甲羅。側面にのこぎり状の歯が並ぶ
Michel Langeveld, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
モクズガニ
モクズガニははさみに毛が生えた川のカニ。上海ガニ(チュウゴクモクズガニ)の仲間で、川で育ち海へ下って繁殖する「降河回遊」の暮らし、秋の味覚、寄生虫の注意まで。

川で育ち、海へ下って一生を終える

長江を1,400km遡る

チュウゴクモクズガニは、一生の大半を川や湖などの淡水で過ごします。原産地の長江では、河口から1,400km上流でも見つかっています。本州の端から端に近い距離です。海沿いの田んぼに入り込むこともあります。

若いカニは川岸の泥に穴を掘って暮らします。水草や水生昆虫のほか、ゴカイの仲間や貝や小魚、死んだ生き物のかけらなども食べます。植物をよく食べる雑食で、稲の苗を食べることもあります。

オランダの川辺の地面を歩くチュウゴクモクズガニ
This image is created by user B. Schoenmakers at Waarneming.nl, a source of nature observations in the Netherlands., CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

秋に海へ下り、産卵を終えると死ぬ

8月の終わりに始まる川下り

8月の終わりになると、成体は餌場を離れ、川を下って海を目指します。体は移動の途中で繁殖できる状態に育ちます。秋の終わりには、河口の汽水域(海水と淡水が混じる水域)で交尾を始めます。先に着いたオスは、そのまま汽水域で冬を越します。

0.4mmの卵を抱え、川には戻らない

メスは交尾から24時間以内に産卵し、砂粒のように小さい0.4mmほどの卵を、腹の脚にたくさん抱えて守ります。ひと冬に交尾と産卵を2〜3回繰り返した親は、力を使い果たして死にます。生まれた川に戻ることはありません。

海でかえった幼生はプランクトンとして漂い、多くが魚などに食べられます。生き残った幼生は脱皮してカニに近い形のメガロパ幼生になり、泳いで河口から川を遡ります。

波打ち際の砂の上にいるチュウゴクモクズガニ
Claude Kolwelter, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

世界の侵略的外来種ワースト100に入るカニ

船のバラスト水に乗ってヨーロッパへ

ヨーロッパで公式に記録された最初の例は、1912年にドイツのアラー川で見つかった個体です。幼生が、船が重りとして積み込む海水(バラスト水)に紛れて運ばれたと考えられています。その後はイギリス、フランス、オランダから北欧のフィンランドまで分布を広げました。

北アメリカでもサンフランシスコ湾に定着し、東海岸のチェサピーク湾でも2005年に確認されています。この広がりから、国際自然保護連合(IUCN)の「世界の侵略的外来種ワースト100」に選ばれています。

最大2mの巣穴が堤防を崩す

このカニは川岸の土手に巣穴を掘り、その長さは最大2mに達します。大発生すると、巣穴が河口の堤防を削ります。ドイツでは漁網や在来の魚、ダムにまで害が及び、被害額は最大8,000万ユーロに上ったとされます。

餌をめぐる競争も起きています。イギリスでは、在来の絶滅危惧種であるザリガニが減った原因の一つに挙げられています。数が多く繁殖力も強いため、捕獲や移動を妨げる柵などの対策は、どれも大きな効果を上げていません。

オランダの海岸の岩の上にいるチュウゴクモクズガニ
Michel Langeveld, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

アメリカでは輸入そのものが違法

アメリカ合衆国では、生きたチュウゴクモクズガニの輸入・運搬・所持が法律で禁じられています。それでも食材としての需要は大きく、密輸が後を絶ちません。2019年秋には、シンシナティの港で、衣類や部品と偽って運ばれた3,700匹が押収されました。

日本では生きたままの持ち込みが禁止

2006年に特定外来生物へ

チュウゴクモクズガニは、2006年2月1日から外来生物法の特定外来生物に指定されています。規制の対象は、在来のモクズガニなどを除いた「モクズガニ属の全種」です。生きた個体の輸入・飼育・運搬・野外への放出は、原則として禁じられています。

中国の市場では生きた上海ガニが売られていますが、旅行者がそれを持ち帰ることはできません。指定の直後には、お土産として持ち込もうとする例が相次ぎました。九州地方環境事務所によると、税関を通れずに放棄されたものは、2006年11月20日までに19件357匹に上りました。環境省は、違反すると個人でも300万円以下の罰金などが科されることがあると注意を呼びかけています。国内の中華料理店は、正規の手続きを経て輸入された上海ガニを扱っています。

在来のモクズガニへの心配

環境省が禁止の理由に挙げるのは、日本のほぼ全域に定着できることと、移動する力の強さです。野外に定着すると、在来のモクズガニと住む場所や餌を奪い合うおそれがあります。飼育下では、両種が簡単に交雑する(種の違う親の間で子ができる)ことが報告されています。そのため、遺伝子の混じり合いも心配されています。

原産地の養殖場では、リケッチアという病原体による大量死も起きています。日本に持ち込まれた場合、この病気が在来のモクズガニにうつる可能性があるとされます。

国内ではまだ定着していない

2004年に東京都のお台場で生きた個体が見つかったことはありますが、定着は確認されていません。2024年度の環境省の調査でも、国内で侵入の報告はありませんでした。

秋の高級食材「上海ガニ」

10月はメス、11月はオスが旬

上海ガニは、上海や中国東部の料理で秋を代表する食材です。旬を表す言葉に「九円十尖」があり、旧暦の9月は腹の丸いメス、10月は腹のとがったオスがおいしいという意味です。新暦に直すと、10月がメス、11月がオスの旬にあたります。

腹の形は、オスが三角形、メスが幅の広い俵形です。料理では、メスの卵のもとになる「蟹黄」と、オスのみそ「蟹膏」が特に好まれます。

水槽のガラスに張りついたチュウゴクモクズガニを腹側から見た姿
user:Vassil, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

陽澄湖産と、その偽物

最も有名な産地は、江蘇省蘇州市の陽澄湖です。陽澄湖産は身が甘いとされ、高値で取引されます。2012年の水揚げは3,000トンでした。ところが「陽澄湖産」として売られた量は10万トンを超え、実際の30倍以上に上ったと報じられています。

他の産地のカニを陽澄湖の水に少しの間だけ浸け、陽澄湖産として売る偽装も出回っています。本物を示すため、はさみにタグを付けたり、甲羅にレーザーで印を刻んだりする工夫が行われています。

生のまま食べると肺吸虫のおそれ

淡水で暮らすカニは、肺吸虫という寄生虫の感染源になります。国内の肺吸虫症の患者を調べた報告では、原因の食べ物が分かった例の59%が淡水のカニでした。

2004年には、佐賀県唐津市の中華料理店で4人が感染しています。原因は、地元産のモクズガニを加熱せずに老酒に漬けた料理でした。寄生虫は十分な加熱で死ぬため、淡水のカニは生で食べず、よく加熱して食べるよう呼びかけられています。

カニ【総合】
横歩きや大きなはさみで知られるカニの仲間を、まとめて紹介します。10本のあし・エラ呼吸・脱皮などの体のしくみから、カラッパ・ワタリガニ・シオマネキなど科ごとの代表種、タラバガニがヤドカリの仲間である話まで、日本のカニを図鑑としてまとめます。

参考

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