キンチャクガニ

甲殻類・軟体動物

キンチャクガニは、左右のはさみに1つずつ小さなイソギンチャクを持って暮らすカニです。甲羅の幅は、大きくても2.5cmほどです。暖かい海の浅い岩礁やサンゴ礁に住み、イソギンチャクを振りかざして身を守るほか、餌集めにも使います。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:節足動物門 Arthropoda
  • 綱:軟甲綱 Malacostraca
  • 目:十脚目 Decapoda
  • 下目:短尾下目(カニ下目) Brachyura
  • 科:オウギガニ科 Xanthidae
  • 属:キンチャクガニ属 Lybia
  • 種:キンチャクガニ Lybia tessellata (Latreille, 1812)

和名・英名

  • 和名:キンチャクガニ
  • 英名:Boxer crab(ボクサークラブ)/Mosaic boxer crab
  • 別名(英語圏):Pom-pom crab(ポンポンクラブ)

日本に住む、イソギンチャクを挟む4種

日本には、イソギンチャクを挟むカニが4種知られています。最もよく知られているのが、このキンチャクガニです。

  • キンチャクガニ Lybia tessellata
  • ヒメキンチャクガニ Lybia caestifera
  • ハタグモガニ Tunebia hatagumoana(旧学名 Lybia hatagumoana)
  • ケブカキンチャクガニ Polydectus cupulifer

ハワイに住む近縁の Lybia edmondsoni は、1970年に新種として発表されました。それまでは、キンチャクガニと同じ種として扱われていました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ甲羅の幅は大きくても2.5cmほど(1円玉より一回り大きい程度)
分布インド洋から太平洋の熱帯。日本では伊豆大島・八丈島・小笠原諸島と、奄美大島から八重山諸島
生息環境浅い海の岩礁やサンゴ礁。転石(転がった石)の下や、生きたサンゴの上
食べ物雑食。イソギンチャクの触手に付いた餌を取って食べる
保全状況IUCN:未評価(NE)

防御と餌集めに使うイソギンチャク

振りかざして敵を遠ざける

キンチャクガニは、はさみを左右に水平に広げ、イソギンチャクを持ったまま歩き回ります。敵が近づくと、イソギンチャクを突き出して相手を脅します。イソギンチャクの触手には、刺胞(しほう)という毒の針を打ち出す細胞が並んでいます。

緑色のサンゴの上で、両手のイソギンチャクを広げるキンチャクガニ
Hectonichus, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

イソギンチャクで餌を集める

自分のはさみでは餌を取れないため、イソギンチャクの触手で餌の粒を集めます。集まった餌は、顎脚(がっきゃく)という口の周りの小さな脚で取って食べます。イソギンチャクの毒で動けなくなった小さな生き物も食べるとされます。

カニに餌を横取りされるため、挟まれたイソギンチャクは自由に暮らすものより小さいままになるとされ、その姿は盆栽にたとえられます。

イソギンチャクを持つことに特化したはさみ

はさみは細く、普通のカニのような幅の広い形ではありません。指の先には小さなかぎが並び、イソギンチャクの体に軽く引っかけて落とさないようにしています。イソギンチャクを持っていないときも、穴掘りや防御、獲物の捕獲にはさみを使う姿は観察されていません。

サンゴの枝につかまり両手にイソギンチャクを持つキンチャクガニと、はさみの拡大の図
William Thomas Calman, Public domain, via Wikimedia Commons

脱皮のときは、イソギンチャクを一旦手放し、脱いだ殻から1つずつ取り戻します。体の手入れでは、片方のイソギンチャクを同じ側の一番前の歩脚(歩くための脚)で押さえます。そして空いたはさみで、顔の周りを掃除します。

挟んでいるイソギンチャクの種類

「カニハサミイソギンチャク」とカサネイソギンチャク

日本の図鑑では、キンチャクガニが挟むイソギンチャクは「カニハサミイソギンチャク」と呼ばれてきました。このイソギンチャクは、カニのはさみにある状態でしか見つかっていません。海外の図鑑では、サンゴ礁に普通に住むカサネイソギンチャクとして扱われることが多いです。両者の関係は、長くはっきりしていませんでした。

飼育実験とDNAの比較

外すと褐色に、持たせると白くなる

2012年、千葉県立中央博物館と阿嘉島臨海研究所の研究者が、飼育実験の結果を報告しました。カニから外して158日間(約5か月)飼うと、白かったイソギンチャクは褐色に変わりました。手のひら形の突起も現れ、野外のカサネイソギンチャクと同じ姿になっています。

逆に、野外で集めたカサネイソギンチャクをカニに持たせると、突起が消えて白くなりました。カニに挟まれることで、イソギンチャクの形そのものが変わっていたことになります。

DNAの比較と、兄島の別の系統

同じ研究者は、沖縄県の阿嘉島と小笠原諸島の兄島でカニから集めたイソギンチャクのDNAも比べました。阿嘉島のものは全て、カサネイソギンチャクと考えてよい結果でした。ただし兄島の2個体は別の系統に分かれ、まだ種が分かっていません。

鳥羽水族館の水槽では、自然に生えたセイタカイソギンチャクをキンチャクガニが挟んだ例もあります。周りに住む何種類かのイソギンチャクを使い分けている可能性があります。

サンゴの上にいるキンチャクガニ。はさみに白いイソギンチャクを持つ
Rickard Zerpe, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

近縁種で見られる、イソギンチャクの分裂と奪い合い

紅海の Lybia leptochelis での実験

紅海に住む近縁の Lybia leptochelis では、イソギンチャクの入手方法が2017年に調べられています。片方のイソギンチャクを取り上げると、カニは残った1つを2つに引き裂きます。裂かれた2つはそれぞれ再生し、やがて両手に完全なイソギンチャクがそろいました。

カニが持つ2つのイソギンチャクの遺伝子を調べると、どのペアも全く同じでした。1匹の動物が、別の動物に分裂による繁殖を起こさせていた珍しい例とされます。

持たないカニによる奪い取り

イソギンチャクを持つカニと持たないカニを出会わせると、2匹は争いました。ほとんどの場合、持たない側がイソギンチャクの全部か一部を手にしました。こうして得たイソギンチャクも、その後2つに裂かれました。

ボクサー・ポンポンという英名

グローブに見立てたイソギンチャク

英名のボクサークラブは、両手のイソギンチャクをボクシングのグローブに見立てた名前です。チアリーダーのような見た目から、英語圏ではポンポンクラブとも呼ばれます。

近縁種 Lybia edmondsoni の争い方

ボクサーの名は、仲間同士で争うときの動きがボクシングに似ていることにも由来します。ハワイの Lybia edmondsoni では、仲間同士の争いでもイソギンチャクを相手にほとんど当てません。相手から遠い方のはさみでイソギンチャクを振って見せ、体の接触は主に歩脚同士で起こります。イソギンチャクを使わない理由には、自分も傷つく恐れや壊れやすさなど複数の説があり、結論は出ていません。

生息場所と暮らし

模様で溶け込み、細い脚でしがみつく

キンチャクガニは、暖かい海の浅い岩礁やサンゴ礁に住むカニで、八丈島では転石の下で普通に見られます。砂や小石の海底では体の模様がよく溶け込み、生きたサンゴの上では細長い脚でしがみつきます。

甲羅は台形で、暗い色の線で区切られた模様がステンドグラスのように見えます。脚には濃い色の帯と白い点があり、短い毛がまばらに生えています。

岩の間に隠れるキンチャクガニ
Elisabeth Morcel, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

赤い卵を抱えるメス

メスは、赤い卵を腹に抱えて守ります。繁殖の詳しい仕組みは、まだよく分かっていません。

青いヒトデの上で、赤い卵を抱えたキンチャクガニ。イソギンチャクは片手だけ
Rickard Zerpe, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

水族館での展示

鳥羽水族館では、2014年に「へんな生きもの研究所」の水槽で1匹を展示していました。沖縄美ら海水族館の生き物図鑑にも載っていますが、2026年9月の時点では展示されていません。水槽では臆病で、照明を消した夜の方が見つけやすいとされます。

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参考

画像出典

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