アンゴラヤギは、全身を長い巻き毛でおおわれた家畜のヤギです。この毛からは「モヘア」と呼ばれる、つやのある高級な繊維がとれます。トルコのアンカラ地方が原産で、現在は南アフリカやアメリカなど、世界各地で毛をとる目的で飼われています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界
- 門:脊索動物門(せきさくどうぶつもん)
- 綱:哺乳綱(ほにゅうこう)
- 目:鯨偶蹄目(くじらぐうていもく)
- 科:ウシ科
- 属:ヤギ属(Capra)
- 種:ヤギ Capra hircus(アンゴラ種はその一品種)
和名・英名
- 和名:アンゴラヤギ
- 英名:Angora goat(別名 Mohair goat/トルコ語では Ankara keçisi)
別名・学名の由来
アンゴラヤギは、家畜ヤギ(Capra hircus)の一つの品種です。名前は、原産地であるトルコの首都アンカラ(Ankara)の古い呼び方「アンゴラ(Angora)」に由来します。長い歴史を持つ品種で、モヘアをとるために各地で改良・飼育されてきました。
西洋にこのヤギが伝わった古い記録の一つが、1555年の博物学者ピエール・ベロンの旅行記です。ベロンはトルコで出会った白いヤギの毛を「絹より繊細で、雪より白い」と書き残しました。アンカラの誇りでもあり、1938年から1952年までのトルコの50リラ紙幣には、このアンゴラヤギが描かれていました。
基本データ
| 体重 | オス約45kg、メス約35kg |
|---|---|
| 肩の高さ | オス約66cm、メス約51cm |
| 原産地 | トルコ(アンカラ地方) |
| おもな産地 | 南アフリカ・アメリカ(テキサス州)・トルコなど |
| 用途 | モヘア(毛)。肉もとられる |
| 毛の色 | 白が多い(黒・茶・灰色もいる) |
ふつうのヤギとくらべて特別に大きいわけではなく、体格は中くらいです。いちばんの違いは、体をおおう長い巻き毛にあります。
全身をおおう巻き毛(モヘア)

らせん状にちぢれた白い毛
アンゴラヤギの体は、細かくちぢれて、らせん状に垂れ下がる白い毛でおおわれています。この毛はつやがあってなめらかで、羊毛とはまた違った光沢が特徴です。毛はおもに白色ですが、品種の改良によって、黒・茶・灰色のモヘアをとる系統もいます。
多くの動物は、外側のかたい毛が長く、内側のやわらかい下毛が短くなっています。アンゴラヤギはこれが逆で、やわらかい下毛のほうが長くのびます。この長い下毛こそがモヘアのもとで、顔と足をのぞいた全身が、そのまま繊維の畑になっているわけです。
年に2回の毛刈り

のびる毛を年2回刈る
モヘアをとるため、アンゴラヤギの毛は年に2回ほど刈り取られます。毛はよくのびるため、こまめに刈っても次々と生えてきます。とくに若いヤギからとれる毛は「キッドモヘア」と呼ばれ、細くてやわらかく、最高級品としてあつかわれます。
つやがあり染まりやすい
モヘアは、羊毛よりもつやが強く、なめらかで軽いのが特徴です。染料がよくしみこんで鮮やかに染まり、じょうぶで型くずれしにくいという長所もあります。こうした性質から用途は広く、セーターやマフラー・ストールのほか、スーツの生地や家具の布地にも使われます。
カシミヤとの違い
モヘアはよく「カシミヤ」とくらべられます。カシミヤは別のヤギの下毛をくしで梳きとりますが、モヘアははさみで刈り取ってとります。1頭からとれる量はカシミヤよりずっと多く、そのぶん手に入れやすい高級繊維です。繊維の細さではカシミヤにゆずるものの、強いつやと丈夫さがモヘアならではの持ち味だといえます。
モヘアと「アンゴラウール」は別物

まぎらわしい2つの「アンゴラ」
名前がまぎらわしいのですが、「モヘア」と「アンゴラ(アンゴラウール)」は、まったく別の動物からとれる毛です。モヘアは、このアンゴラ「ヤギ」の毛を指します。いっぽう「アンゴラ」という名前の毛糸は、アンゴラ「ウサギ」の毛のことです。
見分け方は「ヤギかウサギか」
どちらも「アンゴラ」とつくため、よく混同されます。「モヘアはヤギ、アンゴラウールはウサギ」と覚えると見分けられます。手ざわりも用途も異なる、別々の素材です。
見た目と暮らし
ねじれた角と垂れた耳

アンゴラヤギは、オスもメスも角を持つことが多い品種です。とくにオスの角は長く、後ろへねじれながら伸びます。耳は横に垂れ下がり、おだやかな顔つきをしています。性格はおとなしく、人にもよく慣れます。ただし刈り取ったあとの体は寒さや雨に弱いため、飼うときには雨よけや寒さ対策が欠かせません。
赤ちゃんと群れ

アンゴラヤギは群れで飼われ、草や木の葉を食べて育ちます。ふつう1回の出産で1〜2頭の子ヤギを産みます。生まれた子ヤギは、ほかのヤギと同じように、まもなく自分の足で立ちます。やがて母親のあとをついて歩き回るようになります。子ヤギの毛は生まれつきちぢれていて、成長とともに長くのびていきます。
世界と日本での飼育

アンゴラヤギはトルコで生まれ、その後ヨーロッパやアメリカ、南アフリカへと広まりました。現在は、南アフリカとアメリカのテキサス州が、世界のモヘア生産の中心となっています。乾燥した温暖な土地が、この品種の飼育に向いています。
とくに南アフリカは、世界のモヘアのおよそ半分を生産する一大産地です。アルゼンチンやレソトも主な産地に数えられます。いっぽう原産地のトルコでは、1960年に600万頭以上いたアンゴラヤギがその後大きく減りました。貴重な品種を守るため、2003年には保全の取り組みも始まっています。
日本でも、一部の牧場や観光牧場でアンゴラヤギが飼育・展示されています。もこもことした巻き毛のすがたは人気があり、毛刈りの様子やモヘア製品づくりを体験できる施設もあります。
豆知識:長く国外に出せなかったヤギ
上質なモヘアがとれるアンゴラヤギは、原産地のトルコで長いあいだ大切にされ、国の外へ持ち出すことがきびしく制限されていました。そのため、ほかの国ではなかなか飼うことができなかったといわれます。やがて19世紀ごろに南アフリカやアメリカへ広まり、今では原産地のトルコよりも、これらの国の方が多くのモヘアを生産するようになりました。

参考
- FAO DAD-IS:家畜品種データシート「Ankara / Turkey(Goat)」(原産・体格・用途)
- Porter ほか (2016)『Mason’s World Encyclopedia of Livestock Breeds and Breeding』(品種の来歴・特徴・毛の性質)
- Oklahoma State University「Angora Goat」(家畜品種データベース)
- Wikipedia(英語版)「Angora goat」「Mohair」(歴史・生産・モヘアの用途)
画像出典
アイキャッチ画像: Drew Avery, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(本文中の各写真は、それぞれのキャプションに出典を記載)


