スクミリンゴガイは南米原産の大型の淡水巻貝で、ジャンボタニシの名で知られます。水面より上の稲や壁に鮮やかなピンクの卵を産み、若い稲を食べるため、各地の水田で駆除が続けられています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:軟体動物門 Mollusca
- 綱:腹足綱 Gastropoda
- 目:原始紐舌目 Architaenioglossa
- 科:リンゴガイ科 Ampullariidae
- 属:リンゴガイ属 Pomacea
- 種:スクミリンゴガイ Pomacea canaliculata
和名・英名
- 和名:スクミリンゴガイ(竦み林檎貝)
- 通称:ジャンボタニシ
- 英名:channeled apple snail/golden apple snail
リンゴガイは apple snail の直訳
和名のリンゴガイは、英名の apple snail を訳したものです。殻の縦と横の長さがほぼ同じで、黄色っぽい色合いがリンゴの実に似ていることにちなむとされます。
殻をよく見ると、巻きの継ぎ目がくぼんで溝のようになっています。もう一つの英名にある channeled も、「溝のある」という意味の言葉です。
ジャンボタニシだが、タニシの仲間ではない

ジャンボタニシは通称で、在来のタニシとは科が違います。タニシはタニシ科、スクミリンゴガイはリンゴガイ科です。名前のとおり大型の巻貝で、殻高4cmほどの個体はゴルフボールくらいの大きさがあります。
子の残し方にも違いがあります。タニシの仲間は稚貝をそのまま産みますが、スクミリンゴガイは卵を産みます。農林水産省の資料によれば、殻では見分けにくいものの、濃いピンクの卵塊があれば生息していると判断できます。
静岡・広島・石垣島・西表島にはラプラタリンゴガイも
日本にいるリンゴガイの大部分はスクミリンゴガイですが、一部の地域には近縁のラプラタリンゴガイも生息しています。農研機構の調べでは、確認されているのは静岡県・広島県・石垣島・西表島の4地域です。
この2種は、殻の形ではほとんど区別できません。そこで農研機構は、マルチプレックスPCRという方法で両種を簡易に見分けています。遺伝子のごく一部を増やして調べる手法です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 成貝は殻高2〜7cmほど(大きいものは8cmほど) |
|---|---|
| 原産地 | 南米のラプラタ川流域など |
| 日本での分布 | 関東から西の35府県で発生(令和4年) |
| 生息環境 | 水田や用水路などの淡水 |
| 食べ物 | 水中の植物や、分解された植物のかけら。若い稲、レンコン、イグサも食べる |
| 繁殖 | 年に20〜30回産卵し、1年に産む卵は3,000個以上 |
| 法令上の扱い | 特定外来生物ではない。植物防疫法の指定有害動植物、生態系被害防止外来種リストの重点対策外来種 |
水の外に産む、ピンクの卵

夜に水から上がり、稲の茎や水路の壁に産む
スクミリンゴガイは水の中で暮らす貝ですが、卵は水の外に産みます。メスは夜に水上へ出て、稲の茎や水路の壁など、水面より上の場所に卵塊を産みつけます。農林水産省の資料は、産む場所をふ化した稚貝が水中に落ちやすいところと説明しています。
卵塊は長さ3cm・幅1.5cmほどのものが多く、200〜300個ほどの卵からできています。産みつけられた卵は、約10日でふ化します。
卵は水の中ではふ化できない
水の外に産まれる卵は、水の中ではふ化できません。そのため、卵塊を水中に払い落とすことが駆除になります。濃いピンク色のうちは卵が水中で呼吸できないので、水路の壁から水中へ削り落とす方法も使えます。
黒っぽくなった卵は、水の中でもふ化する
ただし例外があります。ふ化が近づくと、卵は黒から白っぽい色に変わります。この段階の卵は水中でもふ化できるため、取り除くか押しつぶす必要があります。
目立つ色と、卵の中の防御物質
卵塊のピンク色は、カロテノイドという色素によるものと見られています。遠くからでもよく目立つ色ですが、この卵を食べる捕食者はほとんどいません。
神経に作用するタンパク質を含む
論文によれば、卵には神経に作用するタンパク質と、消化の働きを妨げる物質が含まれています。鮮やかな色は、それを周りに知らせる警告色だと考えられています。
素手で扱わないよう注意され、加熱で毒性を失う
農林水産省も、ピンクの卵には毒があるとして、素手で触らないよう呼びかけています。ただしこの毒はタンパク質でできているため、加熱すると毒性を失うことがマウスの実験で報告されています。
えらと肺で、水の中にも外にもいられる
夜に動き、昼は泥に潜る
活動するのは主に夜で、昼は泥に潜って休んでいる個体が多く見られます。雨の日には、田んぼのあぜを横切って移動することもあります。
水中はえら、空気中は肺のような器官

呼吸のしかたは二通りあります。水中ではえらで、空気中では肺のような器官で呼吸するため、水から離れても簡単には死にません。乾いた条件では、殻の口をふたで閉じて体の働きを落とし、長い期間を生きのびます。
0℃で25日、−6℃なら24時間ともたない
乾燥には強い一方で、寒さには弱い貝です。国立環境研究所の資料では、0℃では25日、−6℃では24時間以内に死にます。冬の間は土に潜って過ごし、泥に潜ると冬を越せる割合が上がるとされます。
2か月で親になり、1年に3,000個以上の卵
オスとメスは別々の個体で、メスのほうが大きくなります。農林水産省の資料では、オスは殻高20mm、メスは25mmほどで繁殖できるようになります。
条件がよければ、ふ化から2か月ほどで親になります。ただし成長の速さは環境しだいで、合わないと繁殖までに1年以上かかることもあります。メスは年に20〜30回、多いときは3〜4日に1度卵を産み、1年に産む卵は3,000個を超えます。
若い稲を、水の中に引き込んで食べる

田植えから3週間ほどが危ない時期
スクミリンゴガイは、水の中にあるものしか食べられません。そのため、若い稲の葉を水中に引き込んで食べます。
稲が食べられやすいのは、葉が3〜4枚までの時期です。葉が5枚になるとほとんど食べられなくなり、田植えから3週間ほどがその境目にあたります。この期間は、貝の動きを抑えるために水深を4cm以下に保つ管理が勧められています。
稲より、レタスやナスを好む
日本での観察では、殻高30mmの個体が1日に食べる量は約3gで、1円玉3枚分の重さにあたります。稲よりもレタスやナス、メロンといった野菜を好むとされます。
稲のほかにも、レンコンやイグサが被害を受けており、特に九州での被害が深刻です。愛媛県では、この貝のいる水田に水田雑草のコナギが見られないという観察もあります。
原産地では、分解された植物のかけらが主食
原産地のアルゼンチンでは、食べ方が少し違います。現地での観察では、主な餌は水中で分解された植物や生きものの細かいかけらで、新鮮な植物は多くありません。
1981年、食用として台湾から持ち込まれた
全国500か所の養殖場から、田んぼへ
日本に初めて持ち込まれたのは1981年で、食用を目的に台湾から輸入されました。水田の周りで養殖が始まり、全国で500か所もの養殖場ができています。
しかし消費者の好みに合わず、商品としての価値を失いました。廃業などで放置された貝が用水路や水田に広がり、野生化しています。令和4年の時点で、関東から西の35府県で発生が確認されています。
生では食べられず、素手でも触らない

もともと食用として持ち込まれた貝ですが、生で食べることはできません。人に害をなす寄生虫の広東住血線虫がいる場合があるためです。
この寄生虫が人に入ると、脳や脳を包む膜に炎症を起こすことがあります。農林水産省は、貝を扱うときはゴム手袋やトングを使い、素手で触ったら石けんで手をよく洗うよう呼びかけています。
特定外来生物ではないが、放してはいけない
制度ごとの扱い
スクミリンゴガイは、外来生物法の特定外来生物には指定されていません。その一方で、ほかの制度では対策の対象になっています。
| 外来生物法 | 特定外来生物ではない |
|---|---|
| 植物防疫法 | 稲の指定有害動植物 |
| 生態系被害防止外来種リスト | 重点対策外来種 |
| 世界の侵略的外来種ワースト100 | 選ばれている |
| 県の条例 | 滋賀県は飼育を禁止、愛知県は放すことを禁止 |
※ 特定外来生物は、外来生物法で規制の対象になる外来生物です。生態系被害防止外来種リストは、この法律の規制対象外の外来種も含めて環境省と農林水産省が選んだリストです。指定有害動植物は、国内に広がると農作物に大きな損害を与えるおそれがあるものです。特別な対策が必要だとして、植物防疫法で指定されています。
除草が目的でも、放すことは止められている
この貝が水田雑草を食べる性質を、除草に使おうとする試みもあります。ただし、管理している田から外へ逃げ出すことも考えられるため、意図して放すことは勧められていません。
農林水産省は公式のSNSで、除草が目的であっても放さないよう呼びかけています。まだ発生していない地域や、被害を防ごうとしている地域で放すと、周りの農地へ広がって悪影響を及ぼすためです。一度入り込んで広がると根絶は困難だ、とも述べています。
卵を落とし、網を張り、冬に耕す

一つの方法では足りない
対策は一つでは足りず、いくつかを組み合わせて使われます。国立環境研究所は、次のような方法を挙げています。
- 水田の取水口に網を張り、貝が入り込むのを防ぐ
- 苗を早めに植え、小さな苗でなく育った苗を使う
- 水の深さを管理する
- 冬の間に田を耕す
- 石灰窒素などの農薬を使う
- 銅の網やテープで、卵を産ませないようにする
天敵として、アヒルやスッポン
卵にはほとんど天敵がいませんが、貝そのものを食べる生きものはいます。国立環境研究所は、餌付けしたアヒルやスッポンを使う方法も、対策の一つとして挙げています。
参考
- 農林水産省「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の被害防止対策について」
- 国立環境研究所 侵入生物DB「スクミリンゴガイ」
- 農研機構「国内にはラプラタリンゴガイとスクミリンゴガイが生息する」
- Dreon ほか「Insights into Embryo Defenses of the Invasive Apple Snail Pomacea canaliculata: Egg Mass Ingestion Affects Rat Intestine Morphology and Growth」PLoS Neglected Tropical Diseases 8巻, 2014
- Wikipedia「スクミリンゴガイ」
画像出典
- Kyu3a, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- H. Zell, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- CHUCAO, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- CHUCAO, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- KENPEI, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- sakateka, Public domain, via Wikimedia Commons
- Kyu3a, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

