クマノミは、鮮やかなだいだい色に白い帯を持つ、暖かい海のサンゴ礁に住む魚です。映画『ファインディング・ニモ』のモデル、カクレクマノミもこの仲間です。毒を持つイソギンチャクの中で平気に暮らし、その触手を隠れ家にする不思議な習性で知られます。しかも、すべてオスで生まれ、必要に応じてメスへと性を変える変わった一生を送ります。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:条鰭綱 Actinopterygii
- 目:スズキ目 Perciformes
- 科:スズメダイ科 Pomacentridae
- 属:クマノミ属 Amphiprion
- 種:カクレクマノミ Amphiprion ocellaris(代表種)
和名・英名
- 和名:クマノミ(クマノミ属の総称)
- 英名:Clownfish/Anemonefish
名前の由来と「ニモ」
「クマノミ」は、スズメダイ科クマノミ属の魚をまとめて呼ぶ名前です。体の白い帯を、歌舞伎役者の顔の「隈取り」に見立てたのが名の由来とも言われます。狭い意味では、その名のとおりの一種を指すこともあります。映画で人気になったニモは、そのなかのカクレクマノミという種です。英名の anemonefish は「イソギンチャクの魚」という意味で、その暮らしぶりをよく表しています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約8〜16cm(種によって差がある) |
|---|---|
| 分布 | インド洋〜西太平洋の暖かい海(日本では南西諸島など) |
| 生息環境 | サンゴ礁のイソギンチャクの周り |
| 食べもの | 雑食(藻類・動物プランクトン・イソギンチャクの食べ残し) |
| 寿命 | 野生でおよそ6〜10年(飼育下で20年をこえる例も) |
| 仲間の数 | クマノミ属で約30種 |
イソギンチャクとの共生

なぜ毒に刺されないのか
体を覆う粘液の秘密
イソギンチャクの触手には、刺胞という毒針のしくみがあります。刺胞は、ふれた相手に細い毒針を撃ち込む、ごく小さなカプセルです。ふつうの小魚はこれに刺されてしびれますが、クマノミはその中を平気で泳ぎ回ります。体の表面を覆う特別な粘液が、イソギンチャク自身の粘液に似ているためです。刺胞は仲間だと思って毒針を発射せず、クマノミは刺されずに済むと考えられています。
生まれつきか、慣れて身につけるか
クマノミがこの粘液を生まれつき持つのか、慣れて身につけるのかは、まだ議論が続いています。飼育下では、体をそっとイソギンチャクにこすりつけ、少しずつ慣れていく行動が見られます。はじめは軽く刺されながら、体になじませているとも考えられています。どちらにせよ、毒の中に安全な住みかを見つけた点が、この魚の巧みなところです。
たがいに助け合う関係
クマノミが得るもの
クマノミにとって、イソギンチャクの触手は何よりの隠れ家です。毒を恐れる大きな魚は近づけず、天敵からしっかり守られます。イソギンチャクが捕らえた獲物の食べ残しを、おこぼれとして口にすることもあります。産卵の場所としても、イソギンチャクのそばは何より安全な場所です。
イソギンチャクが得るもの
いっぽうのイソギンチャクも、クマノミからいくつもの恵みを受けます。クマノミは、イソギンチャクを食べにくるチョウチョウウオなどを追い払います。ひれを動かして新しい海水を送り、酸素を行きわたらせるのも役目です。体につく寄生虫やゴミを取り除き、ふんが栄養になることも知られています。
組む相手は決まっている
クマノミの仲間が身を寄せるイソギンチャクは、10種ほどに限られます。多くの種は特定の1種としか組みませんが、クマノミと呼ばれる種のように、さまざまなイソギンチャクと組める例外もいます。相手のイソギンチャクがいない場所では、野生のクマノミは暮らしていけません。両者の結びつきは、それほど深いものです。
イソギンチャクのそばで食べる
クマノミは、イソギンチャクからあまり離れずに暮らす魚です。すぐ近くを漂う動物プランクトンや、岩につく藻をおもに食べます。イソギンチャクが捕らえた獲物の食べ残しも、大切な食べ物になります。遠くへ泳ぎ出さないため、天敵に狙われる危険も小さくおさえられています。
すべてオスで生まれる(性転換)

群れの順位とメスへの性転換
一番大きいのがメス
クマノミは、一つのイソギンチャクに小さな群れをつくって暮らします。この群れには、体の大きさによる厳しい順位があります。もっとも大きい一匹だけがメスで、2番目がその相手のオスです。残りの小さな個体は、まだ子を残さない未熟なオスとして順番を待ちます。体が大きいほど多くの卵を産めるため、群れで最大の一匹がメスの役をになうと考えられています。
メスが消えると起きること
クマノミは、すべてオスとして生まれ、必要になるとメスへ性を変えます。群れのメスが死んでいなくなると、繁殖していたオスがメスへと変わります。すると、順番を待っていた一番大きな若魚が、新しい繁殖オスに育ちます。脳のはたらきから生殖のしくみまで、順を追って変わっていく大がかりな変化です。一度メスになると、二度とオスには戻りません。
卵を守るのはオス
繁殖するのは、群れのなかで一番大きいメスと、2番目のオスの一組だけです。メスはイソギンチャクのそばの岩に卵を産みつけ、オスがそこに精子をかけます。産卵数は一度に数百から千個ほどで、世話をするのはおもにオスです。ひれで新しい水を送り、傷んだ卵やゴミを取り除いて守ります。孵化が近づくと卵は銀色に変わり、多くは夜のあいだにいっせいにかえります。かえった稚魚は、しばらく海を漂ったのち、自分のイソギンチャクを探して落ち着きます。
音を出してやりとりする
クマノミは、あごや体を使って「ポッ」「カチッ」という音を出す魚でもあります。音を鳴らすのは、おもに縄張りを守るときや、下位の個体を従わせるときです。順位の高い個体ほど、低い音を出す傾向があるとされます。声を持たないはずの魚が、音で群れの秩序を保っているわけです。
いろいろなクマノミ(種類)

ニモでおなじみのカクレクマノミ
もっとも有名なのが、映画のニモになったカクレクマノミです。あざやかなだいだい色に、黒くふちどられた3本の白い帯が入ります。全長は8cmほどと小柄で、おっとりした見た目が人気を集めています。なお、映画のドリーはナンヨウハギという別の魚で、クマノミではありません。
日本で見られる仲間
日本の海には、カクレクマノミのほかにも数種のクマノミが住んでいます。単に「クマノミ」と呼ばれる種は、体が黒っぽく、白い帯が2本入ります。赤みの強いハマクマノミや、背に1本の白線が走るセジロクマノミも知られています。種によって帯の数や色が違い、その模様が見分けの手がかりになります。飼育の世界では、色や模様を変えたさまざまな品種も作り出されています。
人とのかかわり
「ニモ」人気と乱獲
2003年の映画『ファインディング・ニモ』で、カクレクマノミは一躍人気者になりました。世界中で飼いたい人が増え、サンゴ礁で野生の個体が数多く捕られました。ある地域では、捕りすぎで数が8割も減った例もあるほどです。ニモを守ろうとした物語が、皮肉にも野生のクマノミを減らす一因になったとも言われます。
飼育とイソギンチャク
クマノミは丈夫で、海水魚のなかでは飼いやすい魚です。天敵のいない水槽なら、イソギンチャクがいなくても元気に暮らせます。近年は卵から育てる養殖も広まり、野生に頼らない個体が増えました。ただし縄張り意識が強く、ほかの魚を追い払うこともある魚です。卵からの繁殖はやさしくなく、稚魚を育てるには手間と経験がいります。
参考
- Wikipedia(英語版)「Clownfish」― 分類・共生・性転換・繁殖・飼育の各節
- Wikipedia(日本語版)「カクレクマノミ」ほか― 日本産クマノミの種と生態
- 各水族館・海洋研究の解説― イソギンチャクとの共生と性転換のしくみ
画像出典
サムネイル画像: Nhobgood Nick Hobgood, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons


