コビトカバは、西アフリカの森にすむ小さなカバの仲間です。大きなカバとは違い、水の中よりも森の中で静かに暮らします。まるっとした赤ちゃんのかわいさで人気があり、2024年にはタイで生まれた「ムーデン」が世界中の話題になりました。
分類と学名
- 界:動物界
- 門:脊索動物門(せきさくどうぶつもん)
- 綱:哺乳綱(ほにゅうこう)
- 目:鯨偶蹄目(くじらぐうていもく)
- 科:カバ科
- 属:コビトカバ属(Choeropsis)
- 種:コビトカバ Choeropsis liberiensis
属名の Choeropsis(コエロプシス)は、古代ギリシャ語で「ブタに似たもの」という意味です。ずんぐりした体つきがブタを思わせることから、この名がつきました。カバ科の動物は、大きなカバとこのコビトカバの2種だけです。どちらもアフリカにすみますが、大きさも暮らし方も大きく違います。
基本データ
| 体長 | 約1.5〜1.8m |
| 体重 | 約180〜275kg |
| 分布 | 西アフリカ(リベリアが中心) |
| すみか | 熱帯雨林の森や湿地・川べり |
| 食べもの | 草・葉・木の実・シダなど |
| 活動時間 | 夜行性。日中は森の中で休む |
| 保全状況 | 絶滅危惧種(EN/IUCN) |
体重は180〜275kgほどで、大きなカバ(1.5〜3トン)とくらべると10分の1以下しかありません。同じカバ科でも、まるで別の動物のような大きさの違いです。
カバとくらべてみよう

カバの10分の1以下の大きさ
コビトカバは、大きなカバのおよそ半分の高さしかなく、体重は10分の1以下です。頭も体も小さく、まるっとした見た目をしています。名前に「コビト(小人)」とつくとおり、カバの仲間の中ではとても小さな種です。
森を歩くための体つき
すらりとした足と低い目・鼻
大きなカバが水中で暮らすのに合った体なのに対し、コビトカバは森の地面を歩くのに向いた体をしています。足はすらりと長めで、水面から目や鼻を出す必要が少ないため、目や鼻の位置も低めです。足の指は4本あり、やわらかい森の地面をしっかりふんで歩きます。
血の汗と、乾燥に弱い体
皮ふからは、大きなカバと同じように赤っぽい分泌液(ぶんぴつえき)が出ます。これは「血の汗」とも呼ばれますが、血でも汗でもなく、日やけ止めや消毒のはたらきをする液です。ただしコビトカバの出す量は少なめで、そのぶん乾燥に弱く、しめった森が欠かせません。
ひと目でわかる見分けポイント
- 大きさ…コビトカバは180〜275kg。カバ(1.5〜3トン)の10分の1以下。
- 目と鼻…コビトカバは低め。カバは水面に出すため頭の上にある。
- 暮らす場所…コビトカバは森の中。カバは川や湖の水辺。
- 群れ…コビトカバは単独。カバはオスがメスや子と群れをつくる。
森の中のひっそりした暮らし

単独で夜に活動する
コビトカバは、とても内気で用心深い動物です。大きなカバのように群れをつくらず、ふだんは1頭だけで暮らします。昼のあいだは倒れた木や茂みのかげでじっと休み、夕方から夜にかけて動き出します。森の中の細いけもの道を通りながら、葉や草をさがして歩きます。
草や木の実を食べる
コビトカバは草食です。夜のあいだに、落ち葉の下の若い葉や草・木の実・シダなどを食べます。大きなカバのように短い草原の草を食べるのではなく、森の中のやわらかい植物を選んで食べるのが特徴です。食べたものは、大きな胃の中で微生物の力を借りて発酵させ、栄養にします。
においで伝え合う
単独で暮らすコビトカバは、めったにほかの個体と顔を合わせません。そのかわり、フンをまき散らすようにしてにおいを残し、「ここに自分がいる」と間接的に伝え合っていると考えられています。声をかけ合わなくても、においを通じて相手の存在を知る仕組みです。繁殖の季節には、こうした手がかりをたどってオスとメスが出会います。
「幻の動物」と呼ばれた
森の奥にすみ、夜にひっそり動くうえに数も少ない動物です。そのためコビトカバは長いあいだ、なかなか人前に姿を見せませんでした。昔のヨーロッパの人々からは「幻の動物」と呼ばれ、本当にいるのか疑われた時代もありました。今でも野生のようすには、わからないことが多く残っています。
コビトカバの豆知識
いちばん近い親せきはクジラ
意外なことに、コビトカバも大きなカバと同じで、もっとも近縁な仲間は海にすむクジラやイルカです。カバの仲間とクジラは、大むかしに共通の祖先から分かれたと考えられています。森にすむ小さなコビトカバと、海の巨大なクジラが親せきだというのは、おどろきの事実です。
出産は水の中でも陸の上でも
大きなカバは水の中で赤ちゃんを産みますが、コビトカバは水の中でも陸の上でも出産します。より陸での暮らしに近いぶん、産む場所もやわらかく選べるようです。同じカバ科でも、こうした細かい違いがいくつも見られます。
赤ちゃんと子育て

生まれたときは5kgほど
コビトカバの妊娠期間は6〜7か月で、ふつう1回に1頭の赤ちゃんを産みます。生まれたばかりの赤ちゃんは、体重4〜6kgほどです。小型犬くらいの重さで、大人のコビトカバとくらべるととても小さく、まるっとしています。この赤ちゃんのかわいさが、コビトカバの人気の理由のひとつです。
水の中でもお乳を飲む
母親はとても子ぼんのうで、生まれてしばらくは、ほかの個体と会わないように子どもを守ります。赤ちゃんは陸の上だけでなく、水の中にもぐったままお乳を飲むこともできます。お乳を飲む期間は半年ほどで、そのあとも母親のそばでしばらく過ごしてから、やがて1頭で暮らすようになります。
世界の人気者「ムーデン」
2024年にタイの動物園(カオキアオ動物園)で生まれた赤ちゃん「ムーデン」は、そのかわいさで一気に世界中の人気者になりました。「ムーデン」はタイの言葉で「はずむ豚肉(ポーク)」という意味です。元気いっぱいで、ときどき飼育員さんにかみつこうとするやんちゃな姿も、たくさんの人に愛されています。
大人になるまで
赤ちゃんはお乳を飲んで、ぐんぐん大きくなります。5歳ごろには大人になり、体重も180kgを超えるほどになります。生まれたときは小型犬ほどだったのが、数年で軽自動車に近い重さまで育つのですから、その成長ぶりはおどろくほどです。飼育下では30〜50年ほど生きた記録もあり、意外と長生きな動物です。
どこで会える?

日本の動物園で会える
コビトカバは動物園での飼育に比較的よく慣れ、赤ちゃんが生まれた例も多くあります。日本でも、上野動物園(東京)などでその姿を見ることができます。過去には日本の動物園でも赤ちゃんが生まれ、親子の姿が話題になりました。野生では会うのがとても難しい動物なので、動物園はコビトカバに出会える貴重な場所です。
昼はねむっていることも
夜行性なので、昼間はねむっていることもあります。動きが少ないときも、しばらく待つと、のっそり歩く姿や水にひたる姿が見られることがあります。水場と陸の両方がある展示では、水にすっと入っていくようすを観察できることもあります。
数の少なさと保全

野生には2500頭未満
コビトカバは、西アフリカのリベリアを中心に、シエラレオネ・ギニア・コートジボワールの一部にすんでいます。かつてはナイジェリアにも別の亜種がいましたが、こちらは絶滅してしまいました。野生に残るコビトカバは2500頭未満と考えられ、IUCN(国際自然保護連合)は「絶滅危惧種(EN)」に分類しています。
いちばんの脅威は森林伐採
コビトカバにとっていちばんの脅威は、すみかである森が切り開かれてしまうことです。農地の開発や木の切り出しで森が減ると、コビトカバは暮らせる場所を失います。狩りにあうこともあります。今はリベリアなどで森を守る取り組みや、動物園での繁殖が進められ、この小さなカバを未来へつなごうとしています。
関連ページ

参考文献
- IUCN Red List「Choeropsis liberiensis」
- Wikipedia(英語版)「Pygmy hippopotamus」
- Animal Diversity Web「Choeropsis liberiensis」(ミシガン大学)
画像出典
アイキャッチ画像: Cliff from I now live in Arlington, VA (Outside Washington DC), USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(本文中の写真は各キャプションに出典を記載)


