イノシシは、山や森に住む大型の雑食獣です。家畜のブタは、このイノシシを飼いならしたものにあたります。子どもは背中に縞模様があり、「うり坊」と呼ばれて親しまれています。かつての天敵オオカミが日本で絶滅したあとは数を増やし、田畑を荒らす動物としても知られるようになりました。力強くもあり、身近でもある、日本の代表的な野生動物の一つです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:偶蹄目(鯨偶蹄目)Artiodactyla
- 科:イノシシ科 Suidae
- 種:イノシシ Sus scrofa
和名・英名
- 和名:イノシシ(猪)
- 英名:Wild boar
ブタと同じ種
イノシシとブタは、同じ種にあたります。家畜のブタは、人がイノシシを飼いならし、長い年月をかけて改良したものです。世界各地でさまざまな品種が生まれ、体つきや性質は変わりましたが、もとをたどれば同じ野生の祖先に行きつきます。ひづめの指が偶数の偶蹄目で、シカやウシとも大きな仲間として近い関係にあります。イノシシは世界でもっとも広く分布する哺乳類の一つで、日本にも古くから住んでいます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約1〜1.5m・体重 約50〜150kg(オスが大きい) |
|---|---|
| 分布 | ユーラシア・北アフリカ(日本を含む) |
| 生息環境 | 森林・やぶ・農地のまわり |
| 食べもの | 雑食(木の実・根・タケノコ・ミミズ・小動物など) |
| 走る速さ | 短い距離で時速40kmほど |
| 寿命 | 野生でおよそ10年前後 |
| 保全状況 | IUCN: 軽度懸念(LC。数は多い) |
体の大きさは、住む地域によってかなり違います。北へ行くほど大きくなる傾向があり、日本のイノシシは大陸のものよりやや小ぶりです。全身は硬い剛毛におおわれ、背中には長いたてがみ状の毛が並びます。体の色は、こげ茶から黒っぽいものまでさまざま。がっしりとした肩まわりが、この動物の力強さを物語ります。
うり坊 ― 縞模様の赤ちゃん

「うり坊」の名と縞
マクワウリに似た縞
イノシシの赤ちゃんは、背中に薄茶と黒の縞模様があります。この縞が、マクワウリ(瓜)の実の模様に似ていることが名の由来です。だから子どもは「うり坊」や「瓜坊」と呼ばれます。落ち葉や木もれ日の中では、縞がまわりの光と影にまぎれ、身を隠す役に立ちます。まだ体の小さな子どもにとって、目立たないことが身を守ることにつながります。
縞は数か月で消える
うり坊の縞は、生まれてからずっと残るわけではありません。生後4〜6か月ほどで少しずつ薄れ、大人と同じ茶色い体へ変わっていきます。妊娠の期間はおよそ4か月で、一度に生まれるのはふつう4〜6頭ほどです。母親のあとを、縞の子どもたちが列になってついて歩く姿もよく見られます。春先には、この行列があちこちの森で見られるようになります。
体と、すばやい動き
牙と鼻
オスの立派な牙
イノシシの口もとには、上下に鋭い牙があります。とくにオスの牙は大きく、外へ向かって曲がって伸びます。これは犬歯が発達したもので、相手との争いや、身を守るときの武器になります。上下の牙がたえずこすれ合うため、いつも鋭く尖った状態が保たれるとされます。オスどうしは繁殖の時期に、この牙を使って激しく争うことも。
地面を掘り返す鼻
長くて丈夫な鼻先は、地面を掘り返す道具になります。土の中の根やミミズ、木の実を、鋭い嗅覚で嗅ぎ当てて掘り出します。畑や庭が一晩で掘り返されるのは、この習性によるものです。鼻先の力は強く、重い石やブロックを動かしてしまうこともあります。イノシシにとって鼻は、食べものを探すうえで最も頼りになる器官です。
走りも泳ぎも得意
ずんぐりした体つきに見えて、イノシシはすばやく動きます。短い距離なら、時速40kmほどで走ることができます。泳ぎも達者で、海をわたって離れた島へ移り住むこともあります。「猪突猛進」という言葉がありますが、実際には走りながら向きを変えることもでき、まっすぐ進むだけではありません。力とすばやさをあわせ持つことが、この動物の強みです。
暮らしと食べもの
何でも食べる雑食
イノシシは、植物も動物も食べる雑食です。主な食べものは、ドングリなどの木の実や草の根、タケノコ。季節によって、口にするものを変えていきます。ミミズや昆虫、カエル、小動物の死がいを食べることもあります。人の近くでは日中を避け、日が落ちてから畑に現れることが多いとされます。決まった行動範囲の中を、食べものを探して歩き回る暮らしです。
どろ浴びをする「ヌタ場」
イノシシは、泥浴びを好む動物です。泥浴びをする水たまりは「ヌタ場」と呼ばれます。体に泥を塗ることで、皮膚につく寄生虫を落とし、暑い時期には体温を下げる効果があると考えられています。泥を浴びたあとは、木の幹に体をこすりつけて余分な泥を落とします。同じヌタ場は、多くのイノシシがくり返し利用します。

群れと、天敵
メスと子の群れ

イノシシは、メスとその子どもたちで群れをつくって暮らします。この群れは、母親を中心とした家族のような集まりです。一方、大人のオスは、繁殖の時期をのぞいて単独で過ごします。子育てはメスが担い、うり坊たちを守りながら森を移動します。危険がせまれば、母親は子どもをかばい、牙を向けて立ち向かうことも少なくありません。
少なくなった天敵
かつての天敵はオオカミ
イノシシの天敵は、世界の多くの地域ではオオカミです。日本でも、かつてはニホンオオカミがイノシシを襲っていました。しかしそのニホンオオカミは、明治時代に絶滅してしまいました。大型の肉食獣が消えたことは、イノシシが数を増やした一因とされています。

今はほぼ天敵なし
今の日本では、大人のイノシシを襲う野生動物はほとんどいません。力の弱いうり坊は、クマや大型の鳥に狙われることがあります。しかし大人になると、大きな体と鋭い牙で、多くの敵を寄せつけません。人が狩る以外には、数を減らす自然の力が乏しい状態が続いています。これも、近年イノシシが増えている背景の一つです。
人とのかかわり
畑を荒らす動物として
数が増えたイノシシは、田畑を荒らす動物として問題になっています。イネやイモ、タケノコを狙い、一晩で畑を掘り返してしまうこともあります。近年は、山を離れて市街地に現れる例も各地で報告されています。驚いたイノシシが突進すると、人に大けがを負わせる危険もあります。各地では、柵を設けるなどして、農地を守る取り組みが進められています。
食材やえと(干支)として
イノシシの肉は「ぼたん肉」とも呼ばれ、なべ料理などで食べられてきました。皿に並べた肉が牡丹の花のように見えることが、この名の由来とされます。古くから狩りの対象で、人との関わりの長い動物です。十二支では「亥(い)」にあたり、日本では亥年の主役にもなります。身近でありながら力強くもある姿は、昔から人々の暮らしと結びついてきました。
参考
- Wikipedia(英語版)「Wild boar」― 分類・ブタとの関係・群れ・天敵・分布の各節
- 農林水産省「野生鳥獣被害防止マニュアル ―イノシシ―」― 生態・被害・対策の解説
- IUCN レッドリスト「Sus scrofa」― 分布・保全状況(軽度懸念)


