ゴマフアザラシは冬の北海道にやってくるアザラシです。名前のとおり体には黒い斑が散りますが、生まれたばかりの子は真っ白な産毛に覆われています。その白い産毛は流氷の上で過ごす数週間で抜けてしまいます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:アザラシ科 Phocidae
- 属:ゴマフアザラシ属 Phoca
- 種:ゴマフアザラシ Phoca largha
和名・英名
- 和名:ゴマフアザラシ(胡麻斑海豹)
- 英名:Spotted seal(別名 Larga seal)
胡麻に見立てた斑と、ツングースの呼び名
和名の「胡麻斑」は体に散る黒い斑を胡麻に見立てたものです。英名の Spotted seal も、不規則な形の濃い斑から付いています。
属名の Phoca はアザラシを指すギリシャ語から来ています。種小名の larga のほうは、シベリアのツングース系の人々がこのアザラシを呼んだ言葉です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 オス170cm前後・メス160cm前後(150〜210cmとする資料もある)/体重 約80〜110kg |
|---|---|
| 分布 | ベーリング海・オホーツク海を中心に、北はチュクチ海、南は日本海・黄海まで。日本では北海道 |
| 生息環境 | 大陸棚の上で、季節によって氷に覆われる海 |
| 食べ物 | ニシン・スケトウダラ・タラ類などの魚と、イカ・エビ・カニ |
| 繁殖 | 1〜5月に氷の上で1頭を産む(時期は地域による)。授乳は2〜4週間ほど(3〜6週間とする資料もある) |
| 寿命 | 最長で30〜35年 |
| 天敵 | シャチ・ニシオンデンザメ・ホッキョクグマ・ヒグマ・オオカミなど |
| 保全状況 | IUCN: LC(低懸念・2016年評価) |
白いのは生まれて2〜4週間だけ
7〜12kgで生まれ、離乳までに3倍以上
メスは氷の上で1頭だけ子を産みます。生まれたときの体重は7〜12kg、体長は75〜92cmほどです。出産の時期は地域で幅があります。黄海では1月から3月の初め、オホーツク海の北部やベーリング海では3月下旬から5月にかけてです。
授乳の期間は2〜4週間とする資料が多く、NOAAは3〜6週間としています。その間に子は体重を3倍以上に増やします。
産毛は離乳とともに抜ける
新生児は白からクリーム色の産毛に覆われています。レヌゴと呼ばれる、長さ2〜3cmの密な毛です。ボーヴェングらの報告書によれば、産毛は生後2〜4週間で、乳離れとほぼ同じ時期に抜け落ちます。
抜けたあとには大人と同じ斑の毛が生えそろいます。水族館や港で見かける個体は、この換毛をとうに終えています。
分かっているのは「寒さを防ぐ」ほう
この産毛がなぜ白いのかは、よく「氷の上で目立たないため」と説明されます。ただしNOAAの報告書が挙げているのは、保温のはたらきのほうです。短い大人の毛より空気中での断熱に優れ、子が皮下脂肪をつけるまでの間、体温を保つと書かれています。
保護色のほうは、アラスカ州の一般向け資料が「そうかもしれない」と留保つきで触れる程度です。確かな裏づけは見当たりません。
陸で産むゼニガタは、白い時期がない
近い仲間のゼニガタアザラシは、産毛を母親の胎内で落として生まれます。産む場所が陸や岩場で、生まれてすぐ泳げます。氷の上で産むゴマフアザラシは、白い毛のまま外に出てきます。
換毛まで、めったに水に入らない
氷の上で生まれた子は、乳離れして換毛を終えるまで、水に入ることがめったにありません。離乳したあとの数週間も、潜り方や餌の探し方、捕らえ方を覚えるまでは氷に頼ります。生まれたその日に海へ入るアゴヒゲアザラシとは、育ち方が対照的です。
https://ikimono.02key.com/archives/6476

その年限りの三頭一組
オス・メス・子の3頭でまとまる
繁殖期のゴマフアザラシは、オスとメスと子の3頭でまとまって行動します。NOAAはこれをアザラシ科では珍しい性質だとして、「家族」や「三頭一組」と呼んでいます。その年の繁殖期に限った一夫一妻とみられています。
ただしこれは行動を見て分けた区分で、遺伝子で確かめられたものではありません。
交尾は子が乳離れしてすぐ
メスは子が乳離れするとすぐに交尾します。妊娠の期間は10か月あまりで、翌年また同じ季節に産むことになります。性成熟はほとんどの個体が5歳までに迎えます。
銀灰色に黒い斑が散る体
背と腹で模様が違う
体の地色は銀色がかった灰色で、そこに黒っぽい不規則な斑が全身に散ります。背中では灰色の地に黒いまだらがはっきり出て、腹側になるとまだらは少なくなります。地の色も薄めです。
斑の出方は個体差が大きいとされます。オスとメスで大きさや形が違うこともほとんどありません。

ゼニガタアザラシとよく間違えられる
近縁のゼニガタアザラシとは姿がよく似ています。生息する場所が重なるアラスカのブリストル湾などでは、2種が混じって休むこともあります。歯の数はどちらも34本です。

丸い頭に、犬のような細い吻
頭は丸く、口先が細くて犬の顔に似ています。体は小さめで、後ろのひれ足が推進力を生み、前の小さなひれ足が舵の役をします。
3つの群れと、氷を追う移動
3つの群れに分かれる
分布はベーリング海とオホーツク海を中心に、北はチュクチ海、南は日本海と黄海まで広がります。個体群は3つです。ベーリング海に約10万頭、日本海とオホーツク海にも約10万頭がいるとされます。遼東湾とピョートル大帝湾の群れは約3,300頭です。
黄海の群れを衛星で追った調査では、3,300kmを超える移動が確かめられています。
10月から11月に、氷とともに南へ
10月から11月にかけて、海氷の張り出しに合わせて南へ下ります。冬はベーリング海の流氷の上で過ごし、春に氷が退くと沿岸へ移ります。夏は海に出るか、岸に上がって休みます。
密に詰まった流氷の中には入らず、氷の縁のあたりを好みます。出産や換毛の時期には氷の上に集まり、氷がなければ陸に上がることもあります。

浅い海の餌と、少ない鳴き声
300mまで潜れるが、食べるのは浅い海
潜れる深さは300mほどまでとされます。ただし深く潜る種ではなく、餌場はほぼ水深200mより浅い大陸棚の上です。
子のうちはオキアミや小さな甲殻類が中心です。成長するにつれ、ニシンやスケトウダラ、タラ類などの魚を食べるようになります。イカやタコ、エビやカニも口にします。

普段はあまり鳴かない
声を出すことは少ないアザラシです。ただし換毛で群れているところに人が近づくと、唸る・吠える・うめくといった声を出します。鳴き声についてはまだ分かっていないことが多く、研究も進んでいません。
稚内・抜海漁港に来る冬
消波ブロックの上で休む
北海道では冬に、稚内市の抜海漁港などへゴマフアザラシがやってきます。防波堤の消波ブロックの上に寝そべる姿や、港内を泳ぐ姿を岸から見ることができます。
観察小屋は休止したまま
かつては港に観察小屋が置かれていましたが、2015年度から休止しています。その後に撤去され、現在は建物そのものがないという訪問記録が続いています。
稚内観光協会の案内も観察小屋には触れず、「冬季は除雪されない」と注意するにとどまります。
日本で名前を知られたアザラシ
1988年に生まれたゴマちゃん
森下裕美の漫画『少年アシベ』が1988年に連載を始めました。主人公が拾うゴマフアザラシの赤ちゃんが「ゴマちゃん」です。1991年にはテレビアニメになり、2016年からはNHK Eテレで新作も放送されています。

33歳まで生きた「立つアザラシ」
上越市立水族博物館にいた「ジョー」は、ひれ足を底につけて直立する姿で知られました。2005年ごろから地元で、2006年には全国の番組で紹介されています。
1980年におたる水族館から来た個体で、2011年1月に老衰で死にました。推定33歳でした。
水族館で見かける機会が多い
日本の水族館や動物園では、多く飼育されているアザラシです。ただし「最も多い」という順位を公式に示した資料は見当たりません。
絶滅の心配は小さいが、日本では摩擦がある
IUCNは低懸念のまま
IUCNレッドリストの区分は低懸念(LC)で、2016年の評価が最新です。2025年10月に北極のアザラシ3種の区分が引き上げられましたが、本種はその対象に入っていません。
※ 低懸念(LC)は、絶滅のおそれが小さいと判断された区分です。

正確に数えた調査はない
世界全体の頭数を正確に数えた調査はありません。地域ごとの推定を足すと20万頭あまりになります。一方でNOAAは、過去の文献から50万頭を超えると見積もっています。1970年代の40万頭という推定も、のちに多すぎたとみられています。数字は資料によって開いたままです。
周年定着する個体と、漁業被害
北海道では1990年代の後半から、礼文島や稚内の周辺で1年じゅう居着く個体が現れました。2000年代に入るとその範囲が広がります。北海道の「北海道アザラシ管理計画」は、定置網などにかかる混獲を課題に挙げています。
海氷の減少もこの種への圧力に挙げられています。南方の個体群は黄海と日本海で繁殖します。アメリカではこの個体群を、絶滅危惧種法にもとづき絶滅のおそれがある種(threatened)に指定しています。
関連ページ

参考
- NOAA Fisheries「Spotted Seal」
- Boveng ほか「Status Review of the Spotted Seal (Phoca largha)」NOAA Technical Memorandum NMFS-AFSC-200, 2009
- アラスカ州魚類野生生物局「Spotted Seal」
- 上越タウンジャーナル「水族博物館の立つアザラシ」
- 北海道「アザラシの管理」(北海道アザラシ管理計画)
- 稚内観光協会「稚内」
- Wikipedia「ゴマフアザラシ」
- Wikipedia「Spotted seal」(英語版)
画像出典
- Captain Budd Christman, Public domain, via Wikimedia Commons(アイキャッチ・換毛中の子)
- jomilo75, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(流氷の上)
- KENPEI, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(黒い斑)
- jomilo75, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(氷の上で休む)
- Александр Чегодаев, CC0, via Wikimedia Commons(魚をくわえる)
- Gant223, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(水槽を泳ぐ)
- jomilo75, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(海氷の上)


