ハクビシンは、額から鼻すじにのびる白い線が目立つ、ジャコウネコ科の動物です。名前の「白鼻心」も、この白い模様に由来します。木登りが得意な夜行性で、都市の屋根裏にも住みつくため、アライグマとともに害獣として知られています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:ジャコウネコ科 Viverridae
- 属:ハクビシン属 Paguma
- 種:ハクビシン Paguma larvata
和名・英名
- 和名:ハクビシン(白鼻心)
- 英名:Masked palm civet
名前の由来
「白鼻心」は、額から鼻先へ白い線が通る顔つきに由来する漢名です。属するハクビシン属は、この一種だけで成り立つ単型の属です。英名の masked も、覆面をつけたような白い顔の模様を指しています。同じジャコウネコ科の仲間には、コーヒーで知られるジャコウネコなどがいます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長 約50〜60cm・尾長 約40〜50cm・体重 約3〜5kg |
|---|---|
| 分布 | インドから東南アジア・中国・台湾(日本にも分布) |
| 生息環境 | 森林(市街地や農地にも適応) |
| 食べもの | 雑食(果実を好み、小動物・昆虫・鳥なども) |
| 寿命 | 飼育下でおよそ10〜15年 |
| 保全状況 | IUCN: 軽度懸念(LC) |
白い覆面と樹上の暮らし

顔の白い覆面
額から鼻へ通る白い線
ハクビシンの最大の特徴は、額から鼻先へまっすぐのびる白い線です。目の上下にも白い斑があり、耳のほうまで広がって覆面のように見えます。体は灰色がかった褐色で、頭や足、尾は黒っぽく仕上がっています。同じ科の仲間に多い斑点や縞がなく、すっきりした毛並みをしています。
体と同じくらい長い尾
尾は40〜50cmと長く、頭から胴までの長さの3分の2をこえます。この長い尾は、枝の上でバランスを取るのに役立ちます。全身は細長く、胴が長いわりに足は短めです。木の上を移動するのに向いた、しなやかな体つきをしています。
木の上で暮らす夜行性
登るのが得意
ハクビシンは木登りが巧みで、多くの時間を樹上で過ごします。垂直に近い木の幹を登るのも得意です。細い枝や電線の上も、長い尾でバランスを取りながら渡っていきます。昼は木のうろや天井裏で休み、暗くなってから活発に動きます。ふだんは群れをつくらず、一頭で行動する夜行性の動物です。
肛門腺のにおい
ジャコウネコ科の仲間らしく、肛門の近くににおいを出す腺を持ちます。身の危険を感じると、この腺から強いにおいの分泌物を出して敵を遠ざけます。屋根裏に住みついた個体が、このにおいやフンで問題になることもあります。においは縄張りや仲間への合図としても使われるとされます。
果実を好む雑食

イチジクなどの果実が好き
ハクビシンは雑食ですが、なかでも果実を好んで食べます。イチジクやマンゴー、バナナのような甘い果実をよく口にします。熟した実の甘さを覚えると、同じ木に何度も通うことがあります。果実のほか、小動物や昆虫、木の葉なども食べる幅広い食性です。食べた果実の種を運ぶことで、植物の芽ばえを広げる役割も担っています。
屋根裏に住みつく害獣
天井裏をねぐらにする
木登りが得意なハクビシンは、家の屋根や壁のすき間から天井裏に入り込みます。暖かく雨風をしのげる天井裏は、子育ての場所にも使われます。繁殖は年に1〜2回で、一度に2〜4頭ほどの子を育てるとされます。夜になると天井を歩く足音がひびき、フンやにおいの被害につながります。市街地でも生きていける適応力の高さが、住みつきを支えています。
果樹や畑の食害
甘い果実を好むため、ブドウやモモ、カキなどの果樹園が被害を受けます。とくに収穫を控えた熟した実を狙うため、農家にとって厄介な相手です。畑の作物や生ゴミにも手を出すため、各地で対策が続けられています。捕獲や駆除は、法律にもとづいて許可を受けて行われます。
アライグマ・タヌキとの見分け
アライグマとの違い
夜に現れる中型の獣として、ハクビシンはアライグマとよく間違えられます。アライグマは尾に黒い輪もようがあり、目のまわりは黒い覆面に囲まれています。ハクビシンの尾には輪がなく、額から鼻へ白い線が一本通ります。体つきもハクビシンのほうが細長く、尾が体と同じくらい長い点も違います。

タヌキとの違い
ずんぐりしたタヌキとは、体つきと顔立ちで見分けられます。タヌキはイヌ科で、丸みのある体と短い尾を持ち、木登りは苦手です。ハクビシンは細長い体と長い尾を持ち、木の上を軽々と動きます。より小さく細長いイタチとは、体の大きさで区別できます。顔の白い線も、タヌキにはないハクビシンならではの目印です。

在来か外来か、そしてSARS

在来か外来かの議論
日本のハクビシンが昔からいた在来種か、外から入った外来種かは、長く議論されてきました。近年の遺伝研究では、台湾などから複数回持ち込まれた外来の可能性が高いとされます。江戸時代の記録に現れる、正体不明の「雷獣」の一部がハクビシンだったという説もあります。ただしアライグマとは異なり、特定外来生物には指定されていません。
SARSの中間宿主になった
2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)では、ハクビシンが注目されました。中国広東省の市場で売られていた個体から、SARSのウイルスが見つかったためです。野生動物からヒトへウイルスが渡る「中間宿主」の一つと考えられています。この出来事は、野生動物と人との距離を見直すきっかけの一つになりました。
参考
- Wikipedia(英語版)「Masked palm civet」― 形態・分布・食性・日本への移入・SARSの各節
- IUCN レッドリスト「Paguma larvata」― 分布・保全状況(軽度懸念)
- 環境省・各自治体 獣害対策資料― ハクビシンの生態と防除・農業被害


