ムラサキダコ

甲殻類・軟体動物

ムラサキダコは、外洋を漂って暮らす、変わったタコです。メスは腕のあいだに大きな膜を広げ、マントをまとったような姿になります。いっぽうオスは体長わずか2cmほどで、メスとのあまりに大きな差で知られます。さらに、猛毒のカツオノエボシの触手をちぎり取り、武器として使うことでも有名です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:頭足綱 Cephalopoda
  • 目:八腕形目(タコ目)Octopoda
  • 科:ムラサキダコ科 Tremoctopodidae
  • 属:ムラサキダコ属 Tremoctopus

和名・英名

  • 和名:ムラサキダコ(紫蛸)
  • 英名:Blanket octopus(マントのタコ)

名前の由来

和名の「ムラサキダコ」は、体がむらさき色を帯びることに由来します。英語名の「ブランケットオクトパス(マントのタコ)」は、メスが広げる大きな膜にちなみます。学名の Tremoctopus は「穴のあるタコ」を意味するとされます。ムラサキダコ属には、4種ほどが知られています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさメス 最大2m・オス 約2.4cm(極端な差)
分布世界の暖かい海(亜熱帯・熱帯の外洋)
生息環境海面近く〜中層の外洋。サンゴ礁の海にも
食べもの肉食(小魚・クラゲなど)
特徴マント状の膜・極端な性的二型・カツオノエボシを武器に
持つ(敵をおどすのに使う)

マントを広げる、外洋のタコ

膜を広げたムラサキダコ
マントを広げたムラサキダコのメス(19世紀の博物画。Comingio Merculiano, Public domain, via Wikimedia Commons)

大きな膜「ブランケット」

メスのムラサキダコには、背中側の腕のあいだに大きな膜があります。この膜こそ「ブランケット(マント)」です。ふだんはたたんでいますが、敵に出会うと大きく広げます。マントを広げると体が何倍にも大きく見え、相手をひるませる効果があります。この膜は千切れやすく、危険なときは一部をちぎって囮(おとり)にするともいわれます。海中で大きく波打つ膜は、外洋を漂うこのタコの象徴です。

むらさき色の体と、漂う暮らし

体は、青むらさきや赤むらさきに輝いて見えます。この色合いが、和名「ムラサキダコ」の由来です。多くのタコが海底で暮らすのに対し、ムラサキダコは外洋を漂って生きます。岩やサンゴのすき間に隠れず、広い海を泳ぎまわる遊泳性のタコです。世界の暖かい海に、広く分布しています。

オスとメスで、こんなに違う

ムラサキダコの若い個体
海中を漂うムラサキダコの若い個体(R. L. Hudson, Public domain, via Wikimedia Commons)

メスは2m、オスは2.4cm

体重差は、最大4万倍

ムラサキダコは、オスとメスの大きさが極端に違います。メスは大きいもので体長2mに達します。ところがオスは、わずか2.4cmほどしかありません。体重の差は、少なくとも1万倍、大きいと4万倍にもなるとされます。体の大きさがこれほど違う動物は、ほかにほとんどいません。

マントを持つのは、メスだけ

あの大きなマントを持つのは、メスだけです。小さなオスには、マントはありません。よく写真で見かける「マントを広げたムラサキダコ」は、ほとんどがメスの姿です。小さなオスは、ふだん人の目にふれることもまれです。同じ種とは思えないほど、姿がかけ離れています。

なぜ、これほど違うのか

これほど極端な差が生まれた理由は、はっきりとは分かっていません。外洋には、身を隠す場所がありません。広い海で相手を見つけて子孫を残すには、メスが大きく育つことが有利だったのかもしれません。いっぽうオスは、小さいまま早く成熟する道を選んだ、とも考えられています。過酷な外洋の暮らしが、この大きな差を生んだ一因と考えられています。

カツオノエボシを武器にするタコ

毒の触手を、ちぎって使う

攻めにも、守りにも

ムラサキダコは、猛毒で知られるカツオノエボシを利用します。カツオノエボシの、毒を持つ長い触手をちぎり取るのです。そして、その触手を腕にかかげて持ち歩きます。敵を追い払うときにも、獲物を仕留めるときにも、この毒の武器を使うとされます。ほかの生きものの毒を、自分の道具にしてしまう知恵です。

毒に平気な、体のしくみ

では、なぜムラサキダコ自身は、その毒で傷つかないのか。この毒に強いとされますが、そのしくみはまだ解明されていません。この毒を武器に使うのは、おもにオスと若いメスとされます。大きく育ったメスは、マントを広げて身を守るため、毒の触手にあまり頼りません。体の大きさによって、身の守り方も変わるようです。

墨も使って、敵をおどす

身を守る手段は、毒の触手だけではありません。ほかの多くのタコと同じように、墨をはくこともできます。敵におそわれると、墨を出して目くらましにします。マントを広げ、毒の触手をかかげ、墨をはく。ムラサキダコは、いくつもの守りの手をあわせ持つタコです。

外洋の暮らしと、食べられる?

陸揚げされたムラサキダコの仲間
漁で捕らえられたムラサキダコの仲間(近縁の Tremoctopus robsoni。Lisa Bennett, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons)

小魚やクラゲを食べる

ムラサキダコは、外洋やサンゴ礁の海で獲物をさがします。おもに、小魚やクラゲなどを食べるとされます。いっぽうで、大きな魚やクジラなどに狙われる立場でもあります。決まったすみかを持たず、海を渡り歩いて暮らします。広い海を漂いながら、餌をとり、敵から逃げる日々です。

食べられる? 食卓には縁がない

「タコなら食べられるのでは」と気になる人もいます。しかし、ムラサキダコが食卓に上ることは、ほとんどありません。外洋にすみ、数もそれほど多くないため、まとまってとれる魚ではないのです。市場に出回る食用のタコとは、事情が違います。ときおり網にかかることはありますが、めったに口にできないタコです。

命がけの繁殖

オスは腕を残して死ぬ

腕がちぎれて、メスに渡る

小さなオスは、繁殖のときに独特の行動をとります。精子の入った特別な腕を、自分の体から切りはなすのです。ちぎれた腕は、メスの体の中に残されます。メスはその腕を保管し、産卵のときに卵を受精させます。役目を終えたオスは、交尾のあとまもなく死ぬとみられています。

メスは10万〜30万の卵を抱える

メスが産む卵は、10万〜30万個。約10万個とする資料も多いようです。この卵を、腕のつけ根にまとめて産みつけます。メスはその卵のかたまりを、体につけたまま持ち運びます。卵がかえるまで、大きな体で守り続けるのです。小さなオスの犠牲の上に、次の世代の命がつながれていきます。

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参考

  • Wikipedia(英語版)「Tremoctopus」(性的二型・カツオノエボシ・繁殖・分布)
  • Wikipedia(日本語版)「ムラサキダコ」(マント・生態)
  • 各水族館・海洋研究機関の解説(外洋性タコの生態)

画像出典

サムネイル画像: Jean Baptiste Vérany, Public domain, via Wikimedia Commons(19世紀の博物画・Tremoctopus violaceus)

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