ムラサキダコは、外洋を漂って暮らす、変わったタコです。メスは腕のあいだに大きな膜を広げ、マントをまとったような姿になります。いっぽうオスは体長わずか2cmほどで、メスとのあまりに大きな差で知られます。さらに、猛毒のカツオノエボシの触手をちぎり取り、武器として使うことでも有名です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:軟体動物門 Mollusca
- 綱:頭足綱 Cephalopoda
- 目:八腕形目(タコ目)Octopoda
- 科:ムラサキダコ科 Tremoctopodidae
- 属:ムラサキダコ属 Tremoctopus
和名・英名
- 和名:ムラサキダコ(紫蛸)
- 英名:Blanket octopus(マントのタコ)
名前の由来
和名の「ムラサキダコ」は、体がむらさき色を帯びることに由来します。英語名の「ブランケットオクトパス(マントのタコ)」は、メスが広げる大きな膜にちなみます。学名の Tremoctopus は「穴のあるタコ」を意味するとされます。ムラサキダコ属には、4種ほどが知られています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | メス 最大2m・オス 約2.4cm(極端な差) |
|---|---|
| 分布 | 世界の暖かい海(亜熱帯・熱帯の外洋) |
| 生息環境 | 海面近く〜中層の外洋。サンゴ礁の海にも |
| 食べもの | 肉食(小魚・クラゲなど) |
| 特徴 | マント状の膜・極端な性的二型・カツオノエボシを武器に |
| 墨 | 持つ(敵をおどすのに使う) |
マントを広げる、外洋のタコ

大きな膜「ブランケット」
メスのムラサキダコには、背中側の腕のあいだに大きな膜があります。この膜こそ「ブランケット(マント)」です。ふだんはたたんでいますが、敵に出会うと大きく広げます。マントを広げると体が何倍にも大きく見え、相手をひるませる効果があります。この膜は千切れやすく、危険なときは一部をちぎって囮(おとり)にするともいわれます。海中で大きく波打つ膜は、外洋を漂うこのタコの象徴です。
むらさき色の体と、漂う暮らし
体は、青むらさきや赤むらさきに輝いて見えます。この色合いが、和名「ムラサキダコ」の由来です。多くのタコが海底で暮らすのに対し、ムラサキダコは外洋を漂って生きます。岩やサンゴのすき間に隠れず、広い海を泳ぎまわる遊泳性のタコです。世界の暖かい海に、広く分布しています。
オスとメスで、こんなに違う

メスは2m、オスは2.4cm
体重差は、最大4万倍
ムラサキダコは、オスとメスの大きさが極端に違います。メスは大きいもので体長2mに達します。ところがオスは、わずか2.4cmほどしかありません。体重の差は、少なくとも1万倍、大きいと4万倍にもなるとされます。体の大きさがこれほど違う動物は、ほかにほとんどいません。
マントを持つのは、メスだけ
あの大きなマントを持つのは、メスだけです。小さなオスには、マントはありません。よく写真で見かける「マントを広げたムラサキダコ」は、ほとんどがメスの姿です。小さなオスは、ふだん人の目にふれることもまれです。同じ種とは思えないほど、姿がかけ離れています。
なぜ、これほど違うのか
これほど極端な差が生まれた理由は、はっきりとは分かっていません。外洋には、身を隠す場所がありません。広い海で相手を見つけて子孫を残すには、メスが大きく育つことが有利だったのかもしれません。いっぽうオスは、小さいまま早く成熟する道を選んだ、とも考えられています。過酷な外洋の暮らしが、この大きな差を生んだ一因と考えられています。
カツオノエボシを武器にするタコ
毒の触手を、ちぎって使う
攻めにも、守りにも
ムラサキダコは、猛毒で知られるカツオノエボシを利用します。カツオノエボシの、毒を持つ長い触手をちぎり取るのです。そして、その触手を腕にかかげて持ち歩きます。敵を追い払うときにも、獲物を仕留めるときにも、この毒の武器を使うとされます。ほかの生きものの毒を、自分の道具にしてしまう知恵です。
毒に平気な、体のしくみ
では、なぜムラサキダコ自身は、その毒で傷つかないのか。この毒に強いとされますが、そのしくみはまだ解明されていません。この毒を武器に使うのは、おもにオスと若いメスとされます。大きく育ったメスは、マントを広げて身を守るため、毒の触手にあまり頼りません。体の大きさによって、身の守り方も変わるようです。
墨も使って、敵をおどす
身を守る手段は、毒の触手だけではありません。ほかの多くのタコと同じように、墨をはくこともできます。敵におそわれると、墨を出して目くらましにします。マントを広げ、毒の触手をかかげ、墨をはく。ムラサキダコは、いくつもの守りの手をあわせ持つタコです。
外洋の暮らしと、食べられる?

小魚やクラゲを食べる
ムラサキダコは、外洋やサンゴ礁の海で獲物をさがします。おもに、小魚やクラゲなどを食べるとされます。いっぽうで、大きな魚やクジラなどに狙われる立場でもあります。決まったすみかを持たず、海を渡り歩いて暮らします。広い海を漂いながら、餌をとり、敵から逃げる日々です。
食べられる? 食卓には縁がない
「タコなら食べられるのでは」と気になる人もいます。しかし、ムラサキダコが食卓に上ることは、ほとんどありません。外洋にすみ、数もそれほど多くないため、まとまってとれる魚ではないのです。市場に出回る食用のタコとは、事情が違います。ときおり網にかかることはありますが、めったに口にできないタコです。
命がけの繁殖
オスは腕を残して死ぬ
腕がちぎれて、メスに渡る
小さなオスは、繁殖のときに独特の行動をとります。精子の入った特別な腕を、自分の体から切りはなすのです。ちぎれた腕は、メスの体の中に残されます。メスはその腕を保管し、産卵のときに卵を受精させます。役目を終えたオスは、交尾のあとまもなく死ぬとみられています。
メスは10万〜30万の卵を抱える
メスが産む卵は、10万〜30万個。約10万個とする資料も多いようです。この卵を、腕のつけ根にまとめて産みつけます。メスはその卵のかたまりを、体につけたまま持ち運びます。卵がかえるまで、大きな体で守り続けるのです。小さなオスの犠牲の上に、次の世代の命がつながれていきます。
タコのなかまを、まとめて知る

参考
- Wikipedia(英語版)「Tremoctopus」(性的二型・カツオノエボシ・繁殖・分布)
- Wikipedia(日本語版)「ムラサキダコ」(マント・生態)
- 各水族館・海洋研究機関の解説(外洋性タコの生態)
画像出典
サムネイル画像: Jean Baptiste Vérany, Public domain, via Wikimedia Commons(19世紀の博物画・Tremoctopus violaceus)


