ボブサンウミウシ

ボブサンウミウシの側面・橙ブロックと紫触角(オーストラリア Ningaloo) ウミウシ類

ボブサンウミウシは、体長17〜50mmの熱帯・亜熱帯インド太平洋の裸鰓類です。黄橙色の外套膜に鮮やかな青色や紫色のブロック模様が散らばり、周縁には白と黒の縞が入る独特の配色を持つ中型のイロウミウシです。学名は Goniobranchus roboi。1998年、アメリカの裸鰓類研究者テレンス・ゴスライナー(Terrence M. Gosliner)とデービッド・ベーレンズ(David W. Behrens)が、沖縄で採集された個体をもとに Chromodoris roboi として記載しました。種小名 roboi は採集者ロバート・F・ボランド(Robert F. Bolland)博士への献名で、彼の愛称「ボブ(Bob)」に日本語の敬称「さん」を付けた和名「ボブサンウミウシ」が付けられた、命名の由来と和名がリンクしたユニークな1種です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:イロウミウシ科 Chromodorididae
  • 属:Goniobranchus 属
  • 種:ボブサンウミウシ Goniobranchus roboi

和名・英名

  • 和名:ボブサンウミウシ
  • 英名:Tooth-edged chromodoris/Tooth-edged nudibranch
  • 旧学名:Chromodoris roboi

別名と名前の由来

和名の「ボブサン」は、種小名 roboi が献名されたロバート・F・ボランド(Robert F. Bolland)博士の愛称「ボブ(Bob)」に、日本語の敬称「さん」を付けた命名です。学名の種小名 roboi はロバート(Robert)の頭2文字「Ro」とボランド(Bolland)の頭2文字「Bo」を合わせた造語で、Gosliner と Behrens が「大胆で冒険的な人物へのオマージュ」として付けたと記載論文に記されています。ボランド博士は沖縄在住の裸鰓類愛好家で、1991年に本種のタイプ標本を採集したことで学名に名を残しました。属名 Goniobranchus はギリシャ語の gonio(角張った・角のある)と branchus(鰓)を組み合わせた造語で、鰓の構造に由来する属名です。もともとイロウミウシ属 Chromodoris に含められていましたが、2012年に Chromodoris 属が分割された際、本種は Goniobranchus 属に再分類されました。1998年、Gosliner と Behrens が沖縄産の標本をもとに Chromodoris roboi として記載した種です。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約1.7〜5cm(17〜50mm)
体色黄橙色〜黄色の地色/背面と体側に鮮やかな青色や紫色のブロック模様と黒帯が入る/地域による色調差あり(豪州産は橙色主体、日本産は青紫色斑が多い)
触角・鰓触角(rhinophore)は紫色で19〜22葉のひだ/二次鰓は5〜6葉と他種より少なめ、青黒色の軸に紫色の縁
形態外套膜の周縁は白色と黒色の縞模様(tooth-edged=歯状の縁の由来)
分布インド太平洋/日本(千葉県以南〜琉球列島)/オーストラリア(ロード・ハウ島、ニンガロー)/インド洋/西太平洋
生息環境岩礁域の転石帯や大きな岩の上/水深10〜40m(原記載では37〜50mの深場)
食性カイメン食(イロウミウシ科の一般的な食性)
寿命数か月〜約1年(イロウミウシ科全般)
保全状況IUCN未評価。分布域では観察例が報告されるものの、決して普通種ではない
ボブサンウミウシの上からの姿・別カット
Matthias Liffers, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

青紫のブロックと黒帯、白黒の歯状の縁

黄橙色の地色に青紫のブロック模様

放射状に並ぶブロック

ボブサンウミウシの背面は黄橙色〜黄色の地色に、鮮やかな青色や紫色の正方形〜長方形のブロック模様が放射状に並びます。ブロックの間は黒い色帯で埋められ、青と黒のコントラストが独特の視覚効果を作ります。この配色は他のイロウミウシ科では見られないパターンで、一目で本種と分かる識別点です。

地域による色調バリエーション

日本近海の個体では青紫色の斑が多く見られる傾向がある一方、オーストラリアのニンガローで撮影された個体では地色の黄橙色が強く、青紫色斑が控えめになるなど地域差が観察されています。ただしどの地域の個体も外套膜の周縁に白と黒の縞が入る点は共通し、周縁パターンで種の識別が可能です。

外套膜の縁は白黒の歯状の縞

tooth-edged=歯状の縁の由来

外套膜の周縁は白色と黒色の縞模様で縁取られ、黒縞が背面に向かって歯のように突き出す形状を作ります。英名の Tooth-edged chromodoris(歯状の縁のクロモドリス)はこの周縁パターンに由来する呼び名で、本種の視覚的な決定打の1つです。周縁の縞は個体差が少なく、色調バリエーションのある本種の中でも安定して観察できる識別ポイントです。

触角と5〜6葉の二次鰓

頭部から立ち上がる1対の触角(rhinophore)は紫色で、19〜22葉のひだが並びます。二次鰓は5〜6葉と Chromodoris 属や近縁の Goniobranchus 属の他種より少なめで、青黒色の軸に紫色の縁が入る配色です。鰓の葉数が少ないことも本種の識別特徴の1つになっています。

ボブサンウミウシ(静岡県伊豆の観察例)
Izuzuki Diver, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons(静岡県伊豆)

採集者ロバート・ボランド博士への献名

沖縄在住の裸鰓類愛好家が発見

1991年沖縄でボランド博士が採集

本種のタイプ標本は1991年に沖縄でロバート・F・ボランド(Robert F. Bolland)博士によって採集されました。ボランド博士は沖縄在住のアメリカ人の裸鰓類愛好家で、沖縄周辺の海域で長年にわたり多くのウミウシを記録してきた研究者です。

7年後の1998年に新種記載

7年後の1998年、この標本をもとにアメリカのゴスライナーとベーレンズが新種として記載しました。分子系統解析の進展により、2012年には旧属 Chromodoris から現在の Goniobranchus 属へ再分類されています。

「Ro+Bo」の造語と日本語の敬称

頭2文字ずつを合わせた種小名 roboi

種小名 roboi は「Robert」の頭2文字「Ro」と「Bolland」の頭2文字「Bo」を合わせた造語で、Gosliner と Behrens が「大胆で冒険的な人物へのオマージュ」として付けたと記載論文に記されています。

愛称「Bob」に日本語の敬称「さん」

和名の「ボブサンウミウシ」は、ロバートの英語圏での愛称「Bob(ボブ)」に日本語の敬称「さん」を付けた命名で、学名の献名先の敬称を日本の呼称に取り込んだ数少ない例です。学名と和名の両方で献名先の Bolland 博士を称える構造です。

カイメン食のGoniobranchus属

ボブサンウミウシはイロウミウシ科の一員として、サンゴ礁や岩礁のカイメン(海綿)を食べて暮らします。餌のカイメンから取り込んだ二次代謝物質を体内に蓄え、青紫と黄橙のブロック配色と合わせて、水深30m以深の深場でも捕食者から身を守る化学防御を持つと考えられています。派手な青紫と黄橙のブロック配色も、この化学防御を捕食者に知らせる警戒色の一種と見られる色使いで、色鮮やかなイロウミウシに共通する戦略に沿った配色です。原記載では水深37〜50mの比較的深い礁で採集されたことが記されており、深場のカイメンを主な餌にしていると考えられています。

雌雄同体で白い螺旋卵塊を産む

裸鰓類の例にもれず、ボブサンウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時には水深10〜40mの転石帯や大きな岩の上に白いリボン状の卵塊を渦巻状に貼り付け、原記載産地の37〜50mの深場でも同様の産卵行動が確認されています。孵化したベリジャー幼生は数週間プランクトンとして流された後、餌となるカイメンが豊富な水深30〜50mの深場に着底することが多く、産地によって橙型・青紫型の色調差が幼生期の海域から受け継がれる可能性が指摘されています。寿命は短く、深場で成長した個体が浅場に上がって産卵し、1年前後で世代交代するのがボブサンウミウシの生活史です。

千葉から琉球、西太平洋の深場に分布

日本では千葉県以南から琉球列島まで

日本近海では千葉県以南から伊豆半島(大瀬崎など)/紀伊半島/四国/九州/奄美大島/沖縄本島/八重山諸島までの温帯〜亜熱帯の岩礁域に分布します。原記載時のタイプ産地は沖縄で、日本近海の裸鰓類の中でも比較的深場で見つかる種です。伊豆半島の大瀬崎では水深32m前後の岩の上で観察された記録があり、水深20〜40mの転石帯や岩の側面が主な観察範囲になります。

海外分布と近縁のGoniobranchus属

海外ではオーストラリアのロード・ハウ島やニンガロー、インド洋、西太平洋各地から観察例が報告されています。Goniobranchus 属はインド太平洋を中心に約60種が知られる大きなグループで、日本近海には本種のほかにオトヒメウミウシ Goniobranchus kuniei やコイボウミウシ Goniobranchus reticulatus など多数の種が分布します。本種は青紫ブロック+黒帯+白黒の歯状縁というユニークな組み合わせで、属内でも識別しやすい1種です。

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本種の和名「ボブサンウミウシ」は、沖縄に長く在住したアメリカ人研究者 Robert F. Bolland(ロバート・F・ボランド)博士の愛称「Bob」に由来するとされます。ボランド博士は沖縄近海のウミウシを長年にわたって潜水観察し、私設サイトで写真と分類メモを公開してきたとされます。同サイトには多数のウミウシ類の写真記録が蓄積され、日本国内外の研究者や愛好家が沖縄産ウミウシを調べる際の一次的な参照先の1つとされています。和名にニックネームが用いられている点は、生物名としては珍しい成立ちの例と言えます。

水深37〜50mの深場に暮らす種

ボブサンウミウシは、レクリエーショナルダイビングの一般深度帯よりやや深い、水深およそ37〜50mの砂礫混じりの岩礁で観察されることが多い種とされます。この深度帯は光量が減り、テクニカルダイビングや減圧を要する潜水の対象となる領域で、遭遇機会が限られることから写真記録の蓄積が緩やかであることが指摘されています。ボランド博士による長期の潜水観察が本種の生息深度と分布の把握に大きく寄与したとされ、沖縄産ウミウシ相の研究史のなかで深場種を代表する1つとして位置づけられています。

参考

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