ゴマフビロードウミウシ

ゴマフビロードウミウシの正面姿・ふわもこの背中と触角 ウミウシ類

ゴマフビロードウミウシは、体長6mm〜2.5cmの日本近海の裸鰓類です。白い体に黒い胡麻粒のような斑点をちりばめ、ビロード(天鵞絨)のような手触りの背中と、黒白の縞模様の触角が持ち上がる姿から「シーバニー(Sea Bunny)」の愛称で世界的なSNSブームを巻き起こした小型種です。学名は Jorunna parva。1938年、日本の裸鰓類学者馬場菊太郎が紀伊国(現和歌山県)の個体をもとに記載し、種小名 parva はラテン語で「小さい」を意味します。日本では北海道から九州南岸まで太平洋沿岸に広く分布し、静岡県の大瀬崎など温帯のダイビングポイントでも観察できる身近な種になります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:ツヅレウミウシ科 Discodorididae
  • 属:ゴマフビロードウミウシ属 Jorunna
  • 種:ゴマフビロードウミウシ Jorunna parva

和名・英名

  • 和名:ゴマフビロードウミウシ(胡麻斑天鵞絨海牛)/別表記:ゴマフビロウドウミウシ
  • 英名:Sea bunny(シーバニー・海のうさぎ)

別名と名前の由来

和名の「ゴマフビロード」は、白い体に黒い胡麻粒のような斑点が散る様子(胡麻斑)と、ビロード(天鵞絨・velvet)のような柔らかそうな背中の質感を合わせた呼び名です。属名 Jorunna は北欧神話の女神ヨルンに由来し、種小名 parva はラテン語で「小さい」を意味する語で、ホロタイプ(模式標本)の体長がわずか6mmだったことに由来します。1938年、日本の裸鰓類学者として世界的に有名な馬場菊太郎(Kikutaro Baba)が紀伊国(現和歌山県)の個体をもとに Thordisa parva として記載し、後に Jorunna 属へ移されました。英名 Sea bunny(海のうさぎ)は2015年頃、日本の Twitter ユーザーが「うさぎに似ている」と投稿した写真がきっかけで海外へ広まったもので、その後の SNS ブームで世界でもっとも知名度の高いウミウシの1つになっています。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約6mm〜2.5cm(ホロタイプ6mm/観察例は10〜20mmが多い)
体色白/淡黄/稀に緑の地色に、黒い胡麻粒状の斑点を全身に散らす
背面カリオフィリディア(caryophyllidia)と呼ばれる短い剛毛状の突起が密に並ぶ/放散状の骨針で補強される(ビロード状の見た目)
触角・鰓触角(rhinophore)は黒白の縞模様で耳のように立つ/二次鰓は約11葉の単純羽状
分布日本(北海道〜九州南岸の太平洋沿岸)/フィリピン/パプアニューギニア/タンザニア/セイシェル/レユニオン
生息環境岩礁の礁縁や砂泥底/水深10〜20m前後/温帯〜熱帯
食性Chalinidae 科(ヨワカイメン科)の毒カイメンを食べる
寿命数か月〜約1年(裸鰓類全般)
保全状況IUCN未評価。分布域では観察例が多く、個体数は安定と見られる
ゴマフビロードウミウシが指の上に載る・スケール感
Christophe Cadet, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(指の上の個体・スケール感)

背中は微小な突起カリオフィリディアで覆われる

羊の毛に見える突起は骨針で補強された微小な柱

カリオフィリディアという特殊な突起

ゴマフビロードウミウシの背中を覆うビロード状の見た目の正体は、カリオフィリディア(caryophyllidia)と呼ばれる裸鰓類特有の短い剛毛状の突起です。ツヅレウミウシ科の多くが持つ構造で、突起の1本1本は放散状の骨針(スピキュール)で補強された小さな柱になっています。この突起が密に並ぶことで背面全体がビロード(velvet)のような滑らかで柔らかそうな質感に見える仕組みです。

柔らかそうな見た目とは違う硬い骨針の集合

手触りの良さそうな見た目に反して、カリオフィリディアは骨針で補強された硬い突起の集合です。触ってみるとふさふさというよりザラザラした感触で、この硬い突起が捕食者にとっての物理的な防御にもなっていると考えられているためです。動画などでピンセットで触ろうとしても、指では判別できないほど微細な硬さが伝わる構造になっています。

黒白の触角がウサギの耳のように立つ

触角は縞模様で耳のように立つ

頭部からは1対の触角(rhinophore)が耳のように立ち上がります。黒と白の縞模様が入り、先端に向けてやや広がる形状で、ウサギの耳を思わせる姿になります。SNSで「うさぎに似ている」と話題になった最大の決め手がこの触角で、化学物質を感じ取る化学受容器としても機能する感覚器官になっています。

二次鰓は約11葉の羽状

体の後方には二次鰓(gill)が約11葉、単純な羽状の並びで開きます。触角と同じく黒い脈が入り、危険を感じるとすばやく体内に引き込める構造です。体後方に開くその位置がウサギの尻尾を思わせることから、SNS画像でも触角と鰓の対比が象徴的に取り上げられてきました。

ゴマフビロードウミウシ(静岡県大瀬崎の観察例)
Izuzuki Diver, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons(静岡県大瀬崎)

体色は白・淡黄・稀に緑まで幅がある

体の地色は白色型がもっとも一般的ですが、淡い黄色や稀に緑色を帯びる個体も知られています。どのタイプにも共通するのが背面全体に散る黒い胡麻粒状の斑点で、この斑点は突起(カリオフィリディア)の先端に色素が乗ることで作られるものです。地色が黄色い個体では黒斑が浮かび上がって見え、白色型では触角と二次鰓の黒縞のコントラストが際立つなど、色によって印象が変わる種になります。国内の観察例では白色型が多く、フィリピンやインドネシアの熱帯域では黄色型・オレンジ型もよく見られます。

ゴマフビロードウミウシの黄色い体色バリエーション
Steve Childs, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(黄色型)

毒カイメンを食べて防御物質を取り込む

Chalinidae 科の海綿を選んで食べる

ゴマフビロードウミウシはツヅレウミウシ科の多くと同じくカイメン食性で、主にヨワカイメン科(Chalinidae)の海綿を選択的に食べます。餌となる海綿の多くは化学的な防御物質(テルペノイドやアルカロイドなど)を持つ毒性の高いカイメンで、ほかの動物が手を出しにくい餌を独占する形の食性ニッチを持つ種になっています。

取り込んだ毒を防御に転用する

カイメンから取り込んだ毒物質は消化されずに体内に蓄えられ、外敵に襲われたときの化学防御として働くと考えられているためです。イロウミウシ科の派手な体色は警戒色として機能する例が知られていますが、ゴマフビロードウミウシの黒い胡麻斑もまた「毒を持つ」ことを捕食者に伝える控えめな警戒色として役立っている可能性があります。派手さは控えめでも、毒の裏付けを持つ食物連鎖の中の一員です。

2015年にSNSで「シーバニー」として世界的にバイラル

日本のTwitter投稿から海外メディアへ

「うさぎに似ている」の投稿が起点

2015年、日本の Twitter ユーザーが投稿したゴマフビロードウミウシの写真に「うさぎに似ている」というコメントが付き、海外メディアが「Sea Bunny(海のうさぎ)」として取り上げたことで一気に世界的な話題になりました。BBC や Buzzfeed など大手メディアが動画を紹介し、YouTube 上では合計1000万回以上再生された動画も出ています。

マイナー種から知名度上位のウミウシへ

それ以前は水中写真愛好家しか知らないマイナー種でしたが、この現象を機にもっとも知名度の高いウミウシの1種として定着した種です。写真映えする体色と羊のような触角の組み合わせが、SNS時代の生き物ブームを象徴する例として、その後もたびたび取り上げられています。

雌雄同体で数か月〜1年の短い命

裸鰓類の例にもれず、ゴマフビロードウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時には Chalinidae 科の毒カイメンに寄り添うように白いリボン状の卵塊を岩肌に貼り付け、羽化した稚ウミウシがすぐ餌に辿り着けるようにします。孵化したベリジャー幼生は数週間プランクトンとして流された後、Chalinidae 科(ヨワカイメン科)の毒カイメンが多い岩礁の礁縁に着底し、稚ウミウシとして胡麻粒状の斑を少しずつ増やしていきます。寿命は短く、北海道〜九州の沿岸から熱帯まで広い分布域で世代交代を繰り返すため、地域ごとに繁殖期がずれるのがゴマフビロードウミウシの生活史の特徴になっています。

北海道から九州、大瀬崎の温帯ダイビングでも会える

タイプ産地は紀伊国、分布は太平洋沿岸に広い

タイプ産地は紀伊国(現和歌山県)で、日本国内では北海道南部から九州南岸まで太平洋沿岸に広く分布します。伊豆半島(大瀬崎・獅子浜)/三重県尾鷲/和歌山県/高知県などの温帯ダイビングポイントで観察例が多く報告されています。海外ではフィリピン・パプアニューギニア・タンザニア・セイシェル・レユニオンなどインド洋〜西太平洋の広範囲から観察されている汎熱帯亜熱帯種です。

近縁はブッシュドノエルとクロスジリュウグウ、体色で見分ける

ゴマフビロードウミウシ属(Jorunna 属)にはインド太平洋を中心に十数種が知られており、いずれも背面にカリオフィリディアを持つ小型のツヅレウミウシです。日本近海には近縁の Jorunna rubescens(ブッシュドノエルウミウシ・大型で赤茶色)や Jorunna funebris(クロスジリュウグウウミウシ・白地に太い黒帯)などが分布し、体色や大きさで区別できます。ゴマフビロードウミウシは属のなかでも特に小型で、白地に黒い胡麻斑という配色から一目で見分けがつく種になっています。

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「Sea Bunny」呼称と2015年前後のSNS拡散

Twitter を中心に広まった経緯

本種は英語圏で「Sea Bunny(海のうさぎ)」と呼ばれ、2015年前後に日本語圏の投稿写真が Twitter を介して英語圏へ広く拡散したことをきっかけに、国際的な話題となったと伝えられます。頭部にある一対の嗅角(触角)がウサギの耳のように立ち上がり、白い体地に黒い斑点が並ぶ姿が擬人化しやすく、短期間のうちに海外のニュースサイトや動物系まとめメディアが記事化しました。日本の海洋生物の写真が海外SNSで大規模に拡散した初期の事例の1つとして紹介されることもあります。

拡散が生んだ観察需要と誤情報

SNS拡散の影響で、ダイビングや潮だまりでの観察需要が急に高まり、和名「ゴマフビロードウミウシ」を初めて知る一般層が増えたとされます。一方で、拡散画像とともに「ペットとして飼える」「触っても安全」などの誤情報も一部で流布し、水族館や研究者側から生態と分類の解説を発信する契機にもなりました。バイラル化の年月は投稿単位で差があるため、断定的な特定は避けられていますが、2015年前後を中心とした期間の出来事として広く扱われています。

参考

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