ビーバーは、川をせき止めてダムをつくる、世界で二番目に大きなげっ歯類です。鋭いオレンジ色の歯で木を倒し、川をせき止めてダムと巣を築く、半水生の動物です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:齧歯目 Rodentia
- 科:ビーバー科 Castoridae
- 属:ビーバー属 Castor
和名・英名
- 和名:ビーバー(海狸)
- 英名:Beaver
2種のビーバー
現在生きているビーバーは、北アメリカに住むアメリカビーバー(Castor canadensis)と、ヨーロッパからアジアにかけて住むヨーロッパビーバー(Castor fiber)の2種です。見た目や暮らし方はよく似ていますが、種としては別々の近縁どうしに分かれています。カピバラに次いで大きなげっ歯類です。大きな体と平たい尾、水辺を作り変える力が、どちらの種にも共通する特徴です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長 80〜120cm/尾 25〜50cm/体重 11〜30kg(大きな個体は50kgほど) |
|---|---|
| 分布 | 北アメリカ、ヨーロッパ〜アジアの川・湖・湿地。日本には自然分布しない |
| 生息環境 | 森に囲まれた川・池のほとり |
| 食べもの | 木の樹皮や形成層、水草など(植物食) |
| 寿命 | 野生でおよそ10〜20年 |
| 分類 | 齧歯目ビーバー科(ネズミやリスのなかま) |
オレンジ色の歯と木を倒す力
鉄を含む丈夫な歯
オレンジ色の理由
ビーバーの前歯(門歯)は、鮮やかなオレンジ色をしています。これは汚れや着色ではなく、歯の表面のエナメル質に鉄分が含まれているためです。鉄を取りこんだエナメル質は、ふつうの白い歯より硬く、酸にも強くなります。木をかじり続けても欠けにくい、丈夫な刃物のような歯です。
伸び続ける門歯
ネズミやリスと同じげっ歯類のビーバーは、門歯が一生のあいだ伸び続けます。歯の裏側は柔らかく、表側の硬いエナメル質だけが削り残るため、使うほどにノミのような鋭い刃先が保たれます。木をかじる作業は、同時に伸びすぎる歯を削る役割ももっています。かじるものがないと歯が伸びすぎて食べられなくなるため、かじり続けることは生きるために欠かせません。

木を倒して食べる
ビーバーは、鋭い門歯で木の幹を少しずつかじり、直径20cmを超える木でも倒してしまいます。倒した木の樹皮や、皮のすぐ内側にある柔らかい形成層を食べ、残った幹や枝はダムや巣の材料に使います。好むのはヤナギやポプラ、カバなどの柔らかい木です。餌の少ない冬に備えて、秋のうちに枝を水中に蓄え、氷が張っても水の下から食べられるようにします。

川をせき止めるダム作り
ダムを作る理由
池をつくって身を守る
ビーバーは、倒した木や枝、泥を組み合わせて川をせき止めます。こうしてできた流れの上流に、水をたたえた池をつくり出します。陸の上では動きが鈍く、キツネやオオカミなどに狙われやすい動物です。まわりを深い水で囲むことで、天敵が近づきにくい安全な住まいをつくり出します。水位を一定に保つために、ビーバーは水の流れる音を手がかりにダムを直し続けます。

水中に入口をもつ巣
池の中には、木の枝と泥を積み上げた「ロッジ」と呼ばれるドーム型の巣をつくります。ロッジの入口はすべて水面下にあり、陸からは入れません。天敵は水に潜らないと巣に近づけず、中の部屋は水面より高い乾いた場所に保たれています。冬には泥が凍って石のように固まり、外から壊すのがいっそう難しくなります。
宇宙から見える最大のダム
ビーバーのダムは、ときに人の想像をこえる大きさになります。カナダのアルバータ州にある世界最大のダムは、長さがおよそ850mにもおよびます。あまりに大きいため、2007年に人工衛星の画像(グーグルアース)でたまたま発見されました。何世代ものビーバーが少しずつ広げてきたもので、一頭の力ではなく、群れと時間が積み重ねた建造物です。

水中を泳ぐための体
平たい尾の役割
水面を叩いて仲間に知らせる
ビーバーの尾は、うろこに覆われた平たいしゃもじのような形をしています。危険が近づくと、ビーバーはこの尾で水面を強く叩き、大きな音で仲間に警報を送ります。音を聞いた仲間はいっせいに水中へ潜って身を隠します。静かな水辺に響く尾の音は、群れ全体を守る合図になっています。
舵や脂肪の貯蔵にも使う
平たい尾は、泳ぐときの舵の役目も果たします。水中で向きを変えたり、体を安定させたりするのに役立つ大切な器官です。尾には脂肪を蓄える働きもあり、餌の少ない冬を越すためのエネルギーをためこみます。木を倒すために後ろ足で立ち上がるときは、尾を地面につけて体を支えます。
水に潜る工夫
ビーバーの後ろ足には水かきがあり、力強く水をかいて泳ぎます。目には透明なまぶた(瞬膜)があり、水中でも目を守る働きをしています。潜るあいだは、鼻の穴と耳の穴が自然に閉じる仕組みです。密に生えた毛は水をはじき、体を冷えから守ります。ビーバーは肛門近くの腺から出す「海狸香(かいりこう)」という分泌物を毛に塗り、防水の手入れをしています。

「バニラの香り」の正体 ― 海狸香
バニラに似た香りの分泌物
ビーバーが毛づくろいに使う海狸香(カストリウム)は、甘いよい香りをもつことで知られます。この香りがバニラに似ているため、「バニラの香りはビーバーのお尻から作られる」という話が広まっています。たしかに20世紀のはじめには、海狸香がバニラのような香料として食品に使われたことがありました。
今はほとんど使われていない
ただし、今の食品でこれが使われることは、ほとんどありません。海狸香は一頭からわずかしかとれず、手間もかかります。そのため、現在市販されるバニラ香料の大半は、石油などから合成した「バニリン」でつくられています。「身近なバニラの正体がビーバー」というのは、昔の一部の例が大きく広まった俗説に近く、現在の実態とは異なります。
湿地をつくる生態系のエンジニア
ビーバーがダムで水をせき止めると、そこに池や湿地が生まれます。新しくできた水辺には魚やカエル、水鳥や昆虫が集まり、周りの生きものの種類が増えます。こうして環境そのものを作り変える動物は「生態系のエンジニア(キーストーン種)」と呼ばれ、ビーバーはその代表として知られています。いっぽうで、人の田畑や道路を水びたしにしたり木を大量に倒したりして、害獣とみなされることもあります。こうしてビーバーは、生態系を豊かにする働きと、人との衝突の両方をもたらします。
毛皮の乱獲と復活
ビーバーの歴史は、毛皮とのかかわりを抜きには語れません。防水性が高く上質なビーバーの毛皮は、帽子やコートの材料として高値で取り引きされ、北アメリカの開拓時代には毛皮を求めて奥地の探検が進みました。その結果、かつて数千万頭以上いたとされるビーバーは、乱獲によって各地で激減しました。20世紀に入って保護が進むと個体数は回復し、いまでは北アメリカに数百万頭が住むまでに戻っています。現在は多くの地域で、保護のもとに数を保っています。
家族で暮らす
ビーバーは、オスとメスのつがいと、その子どもたちからなる家族(コロニー)で暮らします。春から夏にかけて数頭の子(キット)が生まれ、家族みんなでダムやロッジの手入れを行います。子は2年ほど親のもとで暮らして巣づくりを学び、やがて独立して自分のなわばりをかまえます。大がかりなダムづくりは、こうした家族の協力と、世代をこえた積み重ねによって支えられています。
参考
- Wikipedia「Beaver」(分類・歯・ダム・半水生の適応・生態系)https://en.wikipedia.org/wiki/Beaver
- Wikipedia「Castoreum」(海狸香と食品香料の歴史)https://en.wikipedia.org/wiki/Castoreum
- Wood Buffalo National Park(世界最大のビーバーダム)https://en.wikipedia.org/wiki/Wood_Buffalo_National_Park
画像出典
Steve from Washington, DC, USA, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons | https://commons.wikimedia.org/wiki/File:American_Beaver.jpg


