アカテガニは、赤いはさみをもつ、陸で暮らすカニです。海岸近くの林や石垣に住み、水の中よりも陸の上での生活に向いています。夏の満月の夜に、海へ下りて子(幼生)を放つことでも知られています。
分類と学名
アカテガニは、エビやカニと同じ十脚目のなかの、ベンケイガニ科に含まれます。カニのグループである「カニ下目(かにかもく)」に属する、本当のカニの仲間です。近い仲間には、クロベンケイガニやベンケイガニなど、海辺で見られるカニがいます。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 綱:軟甲綱 Malacostraca
- 目:十脚目 Decapoda
- 下目:カニ下目 Brachyura
- 科:ベンケイガニ科 Sesarmidae
- 種:アカテガニ Chiromantes haematocheir
和名・英名
- 和名:アカテガニ(赤手蟹)
- 英名:Red hand crab(赤い手のカニ)
名前の由来
「アカテ(赤手)」は、赤く色づいたはさみにちなみます。とくにオスの成体は、はさみの上面が鮮やかな赤になります。漢字では「赤手蟹」と書き、英名の Red hand crab も「赤い手のカニ」という意味です。どの名も、この目立つ赤いはさみから付けられています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲羅の幅3cm前後(オスのほうが大きい) |
|---|---|
| 分布 | 本州から南西諸島まで。中国東部・台湾・朝鮮半島にも |
| 生息環境 | 海岸や川辺の林・石垣・土手・湿地など(陸上) |
| 食べ物 | 動物の死がい・植物・小魚・昆虫など(雑食) |
| 寿命 | 数年〜十数年ほど |
| 幼生の育ち | 海の中でプランクトンとして成長 |
赤いはさみと体
アカテガニは、名前のとおり赤いはさみが目を引くカニです。四角ばった甲羅には、顔のように見える赤い模様も隠れています。オスとメスで、はさみの大きさや色の濃さにも違いがあります。

和名どおりの赤いはさみ
アカテガニのはさみは、左右がほぼ同じ大きさです。オスの成体では、はさみが大きく発達し、上面が鮮やかな赤色に色づきます。指の部分は黄白色で、赤とのコントラストが目立ちます。いっぽう、メスや若い個体は、体もはさみも全体に色が淡いのが特徴です。
微笑むような赤い線
甲羅の中央には、まるで口が微笑んでいるように見える赤い線があります。しかし、これは本当の口ではありません。カニの口は体の腹側にあり、この赤い線は模様にすぎません。見る人がつい顔に見立ててしまう、アカテガニならではの特徴です。甲羅の色は灰褐色が基本ですが、上部が黄色や橙色に彩られた個体もいます。
陸で暮らすカニ
アカテガニは、カニのなかでも陸での生活によく適応しています。海岸ぞいの林や石垣、土手などに住み、水の中よりも陸の上で多くの時間を過ごします。

乾燥に強い体
少ない水で呼吸する
カニはえらで呼吸するため、ふつうは水がないと生きられません。ところがアカテガニは、えらを通した水を口から吐き出します。その水を体の脇に伝わせて空気に触れさせ、ふたたび体に取りこみます。この水の循環が、わずかな水での呼吸を可能にしています。ただし、この呼吸を繰り返すうちに水は減っていきます。体液が混じって粘りけが出ると、口から泡を吹くようになります。長く水に浸かると、かえって溺れてしまうほど、陸の暮らしに向いた体です。
木にも登る
アカテガニは、乾いた場所にも強く、標高の高いところまで進出します。近い仲間のクロベンケイガニやベンケイガニよりも、乾いた環境に強い種です。木によじ登ったり、春から秋には人家に入りこんだりする姿も見られます。冬は、温度の変わりにくい巣穴の底にひそんで冬眠します。
夜に活動する雑食
アカテガニは、昼は巣穴や物陰に潜み、夜になると活動します。食べ物は幅広く、動物の死がいから植物まで何でも食べる雑食です。落ちた生ごみに群がったり、素早い動きで小魚や昆虫をとらえたりもします。敵に出会うと、大きなはさみを振り上げて威嚇し、近くの隠れ家へすばやく逃げこみます。決まった巣や縄張りはもたず、いちばん近い隠れ家へ飛びこむのが、このカニのやり方です。天敵は、イノシシやタヌキ、サギの仲間などです。はさみをつかまれると、自分でそのはさみを切り離して逃げることもあります。切れたはさみは、脱皮をくり返すうちに、また生えてきます。
満月の夜の放仔
陸で暮らすアカテガニも、子を残すときだけは海が必要です。夏の夜、多くのメスがいっせいに海をめざす光景は、アカテガニのもっとも知られた生態です。

海へ子を放つ
大潮の満月の夜に集まる
春から夏に交尾を終えたメスは、0.5mmほどの小さな卵をたくさん腹に抱えます。卵は育つにつれて、黒っぽい色に変わっていきます。卵を抱えたメスが海岸に集まるのは、7月から8月の大潮の夜です。大潮は満月か新月と重なり、満潮の水位がふだんより高くなります。潮が大きく満ちるこの夜に合わせることで、放たれた幼生は沖へ出やすくなります。ふだんは陸にいるカニが、この夜だけは水ぎわに列をなします。
幼生を海へ放つ
海岸に着いたメスは、体の半分ほどまで海水に浸かります。体を細かく震わせ、腹を開いたり閉じたりすると、卵の殻が破れて幼生がいっせいに飛び出すのです。煙のように広がった無数の幼生は、引き潮に乗って海へと旅立ちます。この、海へ子を放つ行動が「放仔(ほうし)」です。ひと晩に多くのメスが海岸へ向かうため、道路を横切る途中で車にひかれてしまう個体も少なくありません。鎌倉などでは、この時期にアカテガニを見守り、海へ渡す手助けをする取り組みも続けられています。
海から陸へもどる
幼生は海で育つ
海へ出た幼生は、プランクトンとして海中を漂いながら育ちます。3〜4週間のあいだに何度も脱皮をして、しだいにカニらしい姿へと変わります。この時期の幼生の多くは魚などに食べられ、生き残るのはごくわずかです。たくさんの卵を放つのは、この厳しい時期を乗りこえる子を残すためと考えられます。
小ガニで陸へ上がる
秋の10月ごろになると、成長した幼生が沿岸に近づきます。甲羅の幅が4mmほどの小さなカニになると、海から陸へと上がります。上陸してからの1〜2年は全身が淡い色ですが、育つとはさみが赤く色づきます。2年目には繁殖に加わります。こうして親と同じ陸の暮らしが始まり、寿命は数年から十数年におよぶとされます。
人とのかかわり
アカテガニは、海辺の町では身近なカニです。とくに夏の放仔は、各地で見守られてきた季節の風物になっています。
身近な陸のカニ
アカテガニは、海岸に近い町や林でよく見られ、人の暮らしのそばで生きています。春から秋にかけては、石垣のすきまや草むらで見かけることが多くなります。赤いはさみが目立つため、ほかのカニと見分けるのはやさしいほうです。適度な水分があれば陸で飼うのは比較的やさしいカニですが、幼生を育てるには海水が必要なため、飼育下での繁殖は難しいとされます。ふつうは食用にされませんが、かつて一部の地域では、すりつぶした汁を薬として用いる民間療法も伝わっていました。
似た仲間との違い
アカテガニの住む海辺には、よく似たカニも暮らしています。クロベンケイガニは、全身が灰褐色でがっしりとしており、性質が荒いことで知られます。ベンケイガニは見た目がアカテガニに似ますが、はさみが赤ではなく橙色で、複眼の下に小さなとげがあることで見分けられます。いずれもアカテガニより、水ぎわの湿った場所を好みます。
関連ページ



参考
- アカテガニ(ja.wikipedia.org)分類・形態・生態・生活環・類似種
- Chiromantes haematocheir(en.wikipedia.org)分布・生活史
- ベンケイガニ科・アカテガニ属の分類(甲殻類図鑑・種解説)


