シオマネキは、オスの片方のはさみだけが甲羅ほども大きくなる、干潟のカニです。オスがその大きなはさみを振る仕草が、潮を招いているように見えることから、この名がつきました。河口の泥の干潟に巣穴を掘って暮らしています。
分類と学名
シオマネキは、エビやカニと同じ十脚目のなかの、スナガニ科に含まれます。カニのグループである「カニ下目(かにかもく)」に属する、本当のカニの仲間です。「シオマネキ」は、オスの片方のはさみが大きくなるカニ(シオマネキ類)の総称でもあり、日本ではそのなかの一種にこの和名が当てられています。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 綱:軟甲綱 Malacostraca
- 目:十脚目 Decapoda
- 下目:カニ下目 Brachyura
- 科:スナガニ科 Ocypodidae
- 種:シオマネキ Tubuca arcuata
和名・英名
- 和名:シオマネキ(潮招・望潮)
- 英名:Fiddler crab(バイオリン弾きのカニ)
名前の由来
和名の「シオマネキ(潮招き)」は、オスが大きなはさみを振る姿が、潮を早く満ちるように招いているように見えることにちなみます。英名の Fiddler crab の「フィドラー」はバイオリン弾きのことで、こちらもはさみを動かす仕草を弓を弾く姿に見立てたものです。中国でも古くから「招潮子(潮を招くもの)」と呼ばれ、満潮を待って穴から出て、はさみを挙げるようすが記録に残されています。どの土地でも、潮とはさみを結びつけて名づけられてきたカニです。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲羅の幅3.5cmほど(日本のシオマネキ類で最大) |
|---|---|
| 分布 | 静岡県以西の本州太平洋岸・四国・九州・南西諸島。朝鮮半島・中国・台湾にも |
| 生息環境 | 河口の泥質干潟(ヨシ原の付近など) |
| 食べ物 | 砂泥に含まれるプランクトンやデトリタス |
| 保全状況 | 環境省レッドリスト:絶滅危惧II類(VU) |
| 仲間 | ハクセンシオマネキ・ベニシオマネキなど(シオマネキ類) |
オスの大きなはさみ
シオマネキのいちばんの特徴は、オスの片方のはさみが、けたはずれに大きくなることです。もう一方のはさみは、メスと同じように小さいままです。

甲羅ほどもある片方のはさみ
オスとメスの極端な違い
オスの大きなはさみは、体の甲羅とほぼ同じくらいの大きさにまで発達します。表面には細かいつぶが密に並び、くすんだ赤色をしています。いっぽうメスは、両方のはさみが小さいままです。これほど大きさの違う雌雄は、カニのなかでも珍しいといえます。大きなはさみは重く、餌を食べるのには向きません。そのためオスは、小さいほうのはさみだけで砂泥をつまんで食べるのです。両方のはさみを使えるぶん、食べる速さではメスのほうが勝るとされます。
右利きと左利きがある
大きくなるはさみは、右のこともあれば、左のこともあります。つまり、シオマネキには「右利き」と「左利き」の個体がいるのです。どちらのはさみが大きくなるかは、個体によって決まっています。小さいほうのはさみは、砂泥をすくって口へ運ぶのに使われます。
潮を招くウェービング
繁殖の季節になると、干潟のあちこちでオスが大きなはさみを上下に振ります。この動きは「ウェービング」と呼ばれ、メスを呼び寄せるための求愛の合図です。多くのオスがいっせいにはさみを振る光景は、まるで潮を招いているように見えます。この仕草こそが、和名や英名のもとになりました。ウェービングの振り方には種ごとの特徴があり、メスは相手のオスを選ぶ手がかりにするとされます。また、この大きなはさみは、なわばりに近づくほかのオスを追いはらう武器にもなります。
干潟での暮らし
シオマネキは、河口の泥の干潟に巣穴を掘って暮らしています。潮の満ち引きに合わせた、独特の生活を送るカニです。

巣穴を掘って住む
満潮線ぎりぎりの巣穴
巣穴は、潮が満ちたときの水ぎわ(満潮線)の近くに多く掘られます。大潮の満潮には、巣穴が海面の下になるかならないか、という高さです。潮が満ちているあいだは、巣穴の中でじっとやり過ごします。そして潮が引くと、いっせいに地表へ出てきて活動を始めます。巣穴は自分で掘り、掘り出した泥を運び出すので、干潟の表面には小さな穴が点々と並ぶのです。
長い眼柄で見張る
シオマネキの目は、細長い柄(眼柄)の先についています。地表に出ているときは、この柄を立てて、周囲を広く見渡します。天敵のサギやシギ、カラスなどを見つけると、素早く巣穴へ逃げこみます。太くて力強い歩脚をもち、逃げ足の速いカニです。
砂泥から餌をこしとる
シオマネキは、砂泥に含まれるプランクトンやデトリタスを食べます。小さいほうのはさみで砂泥をつまみ、口へ運びます。口のなかで、餌になる小さな粒だけをこしとり、残った砂泥は丸めて外へ出します。食べ終えた砂泥は、小さな団子のようにまとめられ、巣穴のまわりに置かれていきます。干潟の表面をきれいにしながら、泥の中の栄養を利用しているのです。こうしたはたらきは、干潟の物質の循環を支える役目もはたしています。
なかまと保全
シオマネキのなかまは、世界の暖かい海辺に数多くいます。日本にも、色や大きさの違うさまざまな種が住んでいます。

いろいろなシオマネキ
西日本で見られる3種
九州から本州にかけての西日本では、おもに3種のシオマネキ類が見られます。もっとも大きいシオマネキのほか、白い扇子を振るように見えるハクセンシオマネキ、そしてホンコンシオマネキです。ハクセンシオマネキは、シオマネキよりだいぶ小さく、河口の砂まじりの干潟に住みます。オスのウェービングが、白い扇子を振って踊るように見えることが、その名の由来です。
南西諸島の色とりどりの種
南西諸島には、より多くの種が住んでいます。大きなはさみが真っ赤なベニシオマネキ、甲羅が鮮やかな水色をしたルリマダラシオマネキなど、色あざやかな種がそろいます。マングローブや砂泥の干潟など、種ごとに好みの場所がわかれています。
干潟とともに減っている
シオマネキは、干潟の埋め立てや干拓・水の汚れなどによって、住める場所が各地で減っています。環境省のレッドリストでは、絶滅のおそれのある「絶滅危惧II類」に指定されています。その風変わりな姿から、干潟の自然を守るシンボルとして扱われることもあります。いっぽうで、2015年には東京湾でも生息が確認され、分布が北へ広がっている可能性も指摘されています。
人とのかかわり
シオマネキは、その姿から昔の人の目にもとまり、名前や食文化のなかに残されてきました。干潟を代表する、なじみ深いカニの一つです。
潮招きと人の暮らし
有明海の沿岸では、シオマネキはほかの干潟のカニとともにとられ、「がん漬(がんづけ)」という塩辛にして食べられてきました。地方によっては、タウッチョガネなどの呼び名でも親しまれています。潮の満ち引きとともに暮らすその姿は、干潟に親しむ人びとに古くから見守られてきました。
関連ページ

参考
- シオマネキ(ja.wikipedia.org)分類・形態・生態・保全・日本産の種類
- 環境省レッドリスト(無脊椎動物)Tubuca arcuata の評価(絶滅危惧II類)
- 三宅貞祥『原色日本大型甲殻類図鑑 II』(保育社)形態・分布


