メレンゲウミウシは、体長5〜12cmの熱帯西太平洋の裸鰓類です。純白色の体に橙金色の縁取りを持ち、外套膜が大きく波打つ形がお菓子のメレンゲそっくりに見えることから、日本のダイバーの間で親しみを込めて呼ばれてきた大型種です。学名は Ardeadoris egretta。1984年、オーストラリアの裸鰓類研究者ウィリアム・B・ルドマンがグレートバリアリーフのヘロン島(Heron Island)で採集した個体をもとに記載し、メレンゲウミウシ属(Ardeadoris)の模式種にあたる位置づけの種です。日本では沖縄・奄美・伊豆半島南部の潮通しの良いサンゴ礁で観察できるダイビング人気種になります。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:軟体動物門 Mollusca
- 綱:腹足綱 Gastropoda
- 目:裸鰓目 Nudibranchia
- 下目:ドーリス下目 Doridoidei
- 科:イロウミウシ科 Chromodorididae
- 属:メレンゲウミウシ属 Ardeadoris
- 種:メレンゲウミウシ Ardeadoris egretta
和名・英名
- 和名:メレンゲウミウシ
- 英名:Ardeadoris egretta(英語圏では学名で呼ばれることが多い)
別名と名前の由来
和名の「メレンゲ」は、純白の外套膜が大きく波打って広がる様子を、卵白を泡立てて作ったお菓子のメレンゲに見立てた呼び名です。学名の属名 Ardeadoris はラテン語 ardea(サギ)と doris(海の女神ドーリス)を組み合わせた造語で、白いサギを思わせる白色基調の外套膜に由来します。種小名 egretta は白鷺の属名 Egretta にちなむ命名で、タイプ産地であるオーストラリアのヘロン島(Heron Island/サギの島)の地名と、白色の外套膜に橙金色の縁取りが入る配色がクロサギ(Egretta sacra)の白色型を思わせることの二重の意味を持つ命名になっています。1984年、ウィリアム・B・ルドマンがグレートバリアリーフのヘロン島で採集した個体をもとにメレンゲウミウシ属を新設した際、その模式種として本種を記載しました。
大きさ・生息などの基本データ
| 大きさ | 体長 約5〜7cm(大型個体では10〜12cm・最大記録120mm) |
|---|---|
| 体色 | 全身純白色/外套膜周縁の内側に不透明白色の帯/外縁は鮮やかな橙金色の細帯/縁が大きく波打つ |
| 触角・鰓 | 触角(rhinophore)は半透明の白色で褶葉に白い縦線/二次鰓も半透明白色で軸に白線が入る |
| 分布 | 熱帯・亜熱帯西太平洋/オーストラリア(グレートバリアリーフ・タイプ産地ヘロン島)/インドネシア/パプアニューギニア/フィリピン/日本(沖縄・奄美・伊豆南部など) |
| 生息環境 | 潮通しの良いサンゴ礁の礁縁・礁斜面/水深5〜30m前後 |
| 食性 | カイメン食(イロウミウシ科の一般的な食性) |
| 観察期 | 春〜秋(日本近海・水温が高い時期) |
| 寿命 | 数か月〜約1年(イロウミウシ科全般) |
| 保全状況 | IUCN未評価。分布域では観察例が多く、個体数は安定と見られる |

純白のフリルと橙金色の縁取り
幅広く張り出す外套膜と典型的な波状の縁
幅広く張り出す縁が典型的な波状
メレンゲウミウシの外套膜は幅広く張り出し、縁が典型的に波状に折りたたまれます。動いているときも止まっているときもこの波打ちがはっきり見え、白色の帯と橙金色の細帯が交互に重なって、まるで泡立てた卵白のような立体感を作ります。この形状が和名「メレンゲ」の直接の由来です。
不透明白帯と橙金色帯の二重縁取り
外套膜の縁のすぐ内側には、外套膜腺(mantle gland)が集まった不透明な白色の帯が走ります。その外側に鮮やかな橙金色の細帯が最外周を縁取り、白と橙の二重縁取りが本種の識別ポイントです。橙金色の色調は個体によって深い黄金色から明るいオレンジまで幅があります。
触角と二次鰓は半透明の白
触角は白色で褶葉に白い縦線
頭部から立ち上がる1対の触角(rhinophore)は半透明の白色で、褶葉(ラメラ)の1枚1枚に白い縦線が細く走ります。触角(rhinophore)は半透明の白色で褶葉1枚1枚に白い縦線が入り、体色の純白と一体化した控えめな見た目でありながら、水中の匂いを鋭敏に感じ取る感覚器官です。派手な色を持たないぶん、外套膜の橙金色との対比が際立ちます。
二次鰓は房状で軸に白線
体の後方に開く二次鰓(gill)も半透明の白色で、羽状に開いた葉の中央を通る軸に白い線が入ります。羽根のような房が背中の後方に開く姿は、ダイビングの水中写真で本種を選ぶ理由の1つになっています。危険を感じるとすばやく体内に引き込める構造で、外敵に対する物理的な防御を兼ねています。

属の模式種として1984年に新設
本種は1984年にウィリアム・B・ルドマンがメレンゲウミウシ属 Ardeadoris を新設した際の模式種で、この属の基準になる存在です。それまでイロウミウシ科の中で Glossodoris 属などに分類されていた白色系の中大型ドリスをまとめる目的で新属が立てられ、本種の学名にちなんで属名も「白鷺のドーリス」と名付けられました。属名の Ardeadoris が本種の姿から生まれた造語であるため、メレンゲウミウシは属の顔ともいえる位置づけの1種です。

サンゴ礁のカイメンを食べる大型ドリス
メレンゲウミウシはイロウミウシ科の一員として、サンゴ礁の海綿(カイメン)を食べて暮らします。餌のカイメンから取り込んだ二次代謝物質を体内に蓄え、大型のわりに動きが鈍く目立つ純白の姿を維持できるだけの化学防御を持つと考えられているためです。派手な白と橙の配色も、この化学防御を捕食者に知らせる警戒色の一種と見られる色使いで、色鮮やかなイロウミウシに共通する戦略に沿った配色です。水深5〜30mの潮通しの良い礁縁で、日中でも活発に岩の上を這う姿が観察できます。

近縁アカテンイロウミウシとの見分け方
同じメレンゲウミウシ属のアカテンイロウミウシ Ardeadoris cruenta と本種は、白色を基調にした配色を共有します。ただしメレンゲウミウシは外套膜全体が純白で赤斑を一切持たないのに対し、アカテンイロウミウシは白帯の内側に鮮赤色の点列が並ぶ点が最大の違いです。体の大きさも本種は7〜12cmと大型化するのに対し、アカテンは2〜4cmの小型どまりで、水中で並べて見れば体格差からもすぐ区別できます。「純白の大型/赤斑を持つ小型」の対比が、同属2種を見分ける近道になります。
雌雄同体で白い螺旋卵塊を産む
裸鰓類の例にもれず、メレンゲウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時には成体の大きさに合わせて長い白いリボン状の卵塊を礁縁の岩肌に残し、外套膜の橙金色縁とは対照的に卵塊自体は純白で目立たない意匠になっています。孵化したベリジャー幼生は数週間プランクトンとして海中を漂った後、潮通しの良い礁縁のカイメン上に着底し、稚ウミウシは白い体地に橙金色の外縁を少しずつ発達させていきます。寿命は短く、水温が高い春〜秋にかけて成体が礁縁に現れて産卵し、大型個体でも1年前後で世代交代するのがメレンゲウミウシの生活史です。
沖縄・伊豆の潮通し良好な礁縁で会える
沖縄・奄美から伊豆半島南部まで分布
亜熱帯サンゴ礁が主な観察地
日本近海では沖縄本島・八重山諸島・奄美大島などの亜熱帯サンゴ礁域が主な観察地で、伊豆半島南部(大瀬崎・IOP・神子元など)や高知・和歌山など温帯域の潮通しの良いポイントでも観察例が報告されています。黒潮に乗って北上した個体が越夏していると考えられているためです。
水深10〜25mの礁斜面が定位置
潮通しが良く水深10〜25m前後の礁斜面で、カイメンの多い岩の側面などが定位置です。日中でも活発に動く種で、水温が高い春〜秋のシーズンは複数個体が同じ岩に集まる観察例も報告されます。
大きさと純白の目立ちやすさで人気
体長7〜12cmとイロウミウシ科の中では大型で、白と橙のコントラストが海中でも遠くから目立つため、ダイビングガイドが被写体として指し示すことの多い定番種になります。フリル状に大きく波打つ外套膜が独特のシルエットを作り、水中写真では白飛びに注意しつつ橙金色の縁取りを活かす構図が定番です。奄美大島や慶良間諸島などのポイントでは繁殖期に複数個体が同じ岩に集まる様子が観察されることもあります。

関連


参考
- 世界のウミウシ: メレンゲウミウシ Ardeadoris egretta
- 鳥羽水族館 生きもの図鑑: メレンゲウミウシ
- 沖縄美ら海水族館 生き物図鑑: メレンゲウミウシ
- 沖縄海の生き物図鑑: メレンゲウミウシ
- iNaturalist: Ardeadoris egretta


