ミズタマウミウシ

ミズタマウミウシの側面・橙水玉と黒斑・触角と後方突起 ウミウシ類

ミズタマウミウシは、体長15〜30mmの世界の温帯・亜熱帯海域に広く分布する裸鰓類です。半透明の白色の体に橙色から黄色の水玉と黒い点々が全身に散らばります。頭部には角のように立つ触角、背中の後方には羽根のように尖った1対の突起を持つ小型種です。学名は Thecacera pennigera。1815年、イギリスの博物学者ジョージ・モンタギューがデヴォン沖のイングリッシュ・チャンネルで採集した個体をもとに Doris pennigera として記載し、種小名 pennigera はラテン語で「羽根を持つ」という意味です。日本では日本海側の佐渡から太平洋岸の伊豆・紀伊半島まで温帯域で観察され、姉妹種にはウデフリツノザヤウミウシ(別名ピカチュウウミウシ)がいます。

スポンサーリンク

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 上科:フジタウミウシ上科 Polyceroidea
  • 科:フジタウミウシ科 Polyceridae
  • 属:ミズタマウミウシ属 Thecacera
  • 種:ミズタマウミウシ Thecacera pennigera

和名・英名

  • 和名:ミズタマウミウシ(水玉海牛)
  • 英名:Feathered nudibranch(羽根のあるウミウシ)/学名 Thecacera pennigera で呼ばれることも多い

別名と名前の由来

和名の「ミズタマ」は、半透明の白い体に散る橙色から黄色の水玉模様に由来する呼び名です。学名の属名 Thecacera はギリシャ語の theca(鞘)と cera(角)を組み合わせた造語で「鞘のある角」の意、種小名 pennigera はラテン語 penna(羽根)と -ger(帯びる)を合わせた「羽根を持つ」という意味です。背中の後方に伸びる1対の突起と、羽状に開く二次鰓が羽根のように見えることが命名の直接の由来になっています。1815年、イギリスの博物学者ジョージ・モンタギュー(George Montagu)がイングランド南部デヴォン沖のイングリッシュ・チャンネルで採集した個体をもとに Doris pennigera として記載し、後にフジタウミウシ科のミズタマウミウシ属 Thecacera へ移されました。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約1.5〜3cm(15〜30mm)
体色半透明の白色地/全身に橙色から黄色の水玉と黒い斑点が散在/大西洋型と太平洋型で色調に違い
頭部触角(rhinophore)は触角鞘から立ち上がり先端は黄色/頭部両側に短い皮弁(口触手)
後方突起二次鰓の後方に1対の長い羽状突起(postbranchial process)/白い先端に橙斑
分布世界の温帯〜亜熱帯/大西洋両岸/地中海/南アフリカ/ブラジル/日本/韓国/パキスタン/オーストラリア/ニュージーランド
生息環境枝分かれ状のコケムシ(Bugula 属)群体上/岩礁帯・水深10〜36m
食性コケムシ食(Bugula plumosa などブグラ属に特化)/餌のコケムシ群体上に産卵
観察期春(水温が上がりコケムシが繁茂する時期)
寿命数か月〜約1年(裸鰓類全般)
保全状況IUCN未評価。世界的に広く分布し、個体数は安定と見られる
ミズタマウミウシの側面・全身(イタリア地中海)
Roberto Strafella, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(イタリア・地中海)

白地に橙水玉と黒点、羽根のような後方突起

半透明白地に橙水玉と黒点の二重ドット

橙〜黄色の大きな水玉が全身に散る

体の地色は半透明の白色で、その上に橙色から黄色の大きな水玉模様が全身にランダムに散ります。水玉の大きさは1mm前後で、体の側面や背面から触角の先端や後方突起にまで及びます。「ミズタマ」の和名はこの橙水玉に由来し、水中写真の被写体としても目を引く配色です。

橙水玉の間に細かい黒点が散る

橙水玉の間には、より細かい黒い点々が散らばります。橙のドットと黒のドットが二重に重なる配色は本属の特徴で、内蔵の橙色と別に体表の色素で作られる構造です。大西洋型と太平洋型で色調が異なる報告があり、隠蔽種を含む複数種の集合体である可能性も指摘されています。

角のような触角と羽根のような後方突起

触角鞘から立ち上がる先端黄色の触角

頭部からは1対の触角(rhinophore)が立ち上がり、根元は「触角鞘(sheath)」と呼ばれる筒状の構造に収まります。触角の先端は鮮やかな黄色で、水中の化学物質を感じ取る化学受容器として働く感覚器官です。頭部の両側には短い口触手(oral tentacle)に相当する皮弁が張り出し、餌のコケムシを探索する感覚器の役割を担います。

二次鰓の後ろに1対の羽状突起

体の後方には二次鰓(gill)が羽状に開き、そのさらに後方から1対の細長い突起(postbranchial process)が伸び上がります。この後方突起が種小名 pennigera(羽根を持つ)の直接の由来で、突起の先端も橙〜黄色の水玉が散る配色です。イロウミウシ科の裸鰓類には見られない特徴で、フジタウミウシ科ミズタマウミウシ属の識別点になります。

ブグラ属コケムシに特化した食性

枝分かれ状のブグラ属を這って食べる

Bugula plumosa をはじめとするブグラ属に特化

ミズタマウミウシは枝分かれ状のコケムシ(Bryozoa)を選択的に食べるコケムシ食性で、特に Bugula plumosa をはじめとするブグラ属の群体を主食にします。餌となるコケムシの枝の間を這い回り、ポリプ(個虫)を1つずつかじり取る食べ方が観察されています。

白い体は餌のコケムシ群体に紛れる保護色

白い体に黄橙のドットが散った姿がコケムシ群体の色に紛れる保護色にもなっていると考えられているためです。産卵時も餌となるコケムシ群体の上に直接白いリボン状の卵塊を貼り付ける行動が知られ、餌のコケムシが春〜初夏にかけて繁茂するため本種の観察例もこの時期に集中します。

同属のウデフリツノザヤウミウシとの色彩の違い

同じミズタマウミウシ属には、別名「ピカチュウウミウシ」で知られるウデフリツノザヤウミウシ Thecacera pacifica がいます。両種は触角鞘や後方突起という属の基本構造を共有しますが、体色が明確に異なります。ミズタマウミウシは半透明白地に橙水玉と黒点、ウデフリツノザヤウミウシは黄色地に黒縞という配色で、写真で並べればすぐに区別がつく種です。分布もミズタマウミウシは世界的な温帯種であるのに対し、ウデフリツノザヤウミウシは西太平洋の熱帯種で、日本近海では観察できる海域と時期が異なります。

ミズタマウミウシ・ゴカイBranchiomma luctuosumと同居
Roberto Strafella, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(同じ岩に住むゴカイ Branchiomma luctuosum と)

雌雄同体で餌のコケムシ上に卵を産む

裸鰓類の例にもれず、ミズタマウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時には Bugula plumosa などの枝分かれ状コケムシ群体の枝の上に直接白いリボン状の卵塊を貼り付け、稚ウミウシが孵化直後から餌にありつける「餌の上に産む」戦略を取ります。孵化した幼生(ベリジャー幼生)は数週間プランクトンとして海中を漂ったのち、餌のコケムシに近い場所に着底して稚ウミウシに変態するのが基本の発生様式です。寿命は数か月〜約1年と短く、餌のコケムシがある時期に集中して繁殖するのが本種の典型的なライフサイクルです。

佐渡から伊豆までの温帯域に春に出現

日本海側と太平洋岸に広く分布

日本近海では新潟県佐渡(琴浦など)の日本海側から、伊豆半島(大瀬崎・IOP・八幡野)/紀伊半島/和歌山/四国/九州にかけての太平洋岸まで広く分布します。世界的にも大西洋・地中海・南アフリカ・ブラジル・オーストラリア・ニュージーランドと温帯〜亜熱帯の海に分布する汎存種で、日本近海の個体は西太平洋型として大西洋型とやや色調が違うと報告されているためです。

春の3〜5月にコケムシ繁茂に合わせて出現

本種は水温が上がる春(3〜5月)に餌のコケムシが繁茂する時期に合わせて個体数が増え、観察例もこの時期に集中します。伊豆半島の大瀬崎や八幡野など温帯のダイビングポイントでは、春先の観察報告が毎年繰り返され、ガイドが被写体として紹介する種の1つになっています。水深10〜25m前後のコケムシ群体上を探すのが観察の基本です。

関連

ウミウシ【総合】
貝殻を失った巻貝の仲間で「海の宝石」とも呼ばれるウミウシ。世界に2000〜3000種以上、色とりどりの姿・多様な食性・雌雄同体の繁殖など、ウミウシの全体像と代表的な種をまとめた総合ページです。

参考

画像出典

タイトルとURLをコピーしました