伊勢海老は、日本の岩礁の海に住む、大型のエビです。太く長い触角と、全身をおおうトゲが目印で、大きなハサミはもちません。夜に岩のあいだから出て、貝やウニなどをとらえます。背の曲がった姿から長寿の象徴とされ、正月の縁起物や高級食材として親しまれてきました。
分類と学名
伊勢海老は、軟甲綱の十脚目のなかの、イセエビ科に含まれる甲殻類です。学名は Panulirus japonicus といいます。同じ十脚目には、車海老やロブスターも含まれますが、伊勢海老はそのなかのイセエビ下目という別のグループに属します。日本では、房総半島から南の温暖な海に分布します。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 綱:軟甲綱 Malacostraca
- 目:十脚目 Decapoda
- 科:イセエビ科 Palinuridae
- 種:イセエビ Panulirus japonicus
和名・英名
- 和名:イセエビ(伊勢海老)
- 英名:Japanese spiny lobster
名前の由来
「伊勢海老」という名は、三重県の伊勢の海でよくとれたことにちなむという説が知られています。「海老」の字は、背が曲がった姿を、腰の曲がった老人に見立てたものといわれます。英名の spiny lobster は、「トゲのあるロブスター」という意味です。全身のトゲが、その名の由来になっています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長20〜30cmほど(大きいもので35cm前後) |
|---|---|
| 分布 | 房総半島から南の日本近海、台湾など |
| 生息環境 | 浅い岩礁やサンゴ礁の、岩のすき間 |
| 食べ物 | 貝・ウニ・小動物など(夜に採食) |
| 旬 | おもに秋から冬(10〜4月ごろ) |
| 近い仲間 | ロブスター(別の科)・車海老など |
はさみを持たない大型のエビ
伊勢海老の見た目でまず目につくのは、太く長い触角と、大きなハサミがないことです。この姿は、ロブスターと見分ける手がかりになります。

太い触角と全身のトゲ
伊勢海老には、体の長さほどもある太い触角が二本あります。この触角を前にふりかざし、身を守る武器にも使います。全身をおおうのは、硬い殻と鋭いトゲ。ハサミがないかわりに、この触角とトゲが、身を守る役目をはたしています。オスは、メスよりも触角や脚が長くなる傾向があります。

ロブスターとの違い
伊勢海老とよく比べられるのが、ロブスターです。どちらも大型のエビですが、体のつくりや、住む海が違います。
ハサミの有無で見分ける
いちばん分かりやすい違いは、大きなハサミがあるかどうかです。ロブスターには、体の半分ほどもある立派なハサミがあります。いっぽう伊勢海老には、このハサミがありません。ロブスターはアカザエビ科という別のグループで、冷たい海に住む点も伊勢海老と異なります。

オマール海老とロブスターは同じ
「オマール海老」と「ロブスター」は、同じ生きものを指します。フランス語で「オマール」、英語で「ロブスター」と呼ぶ違いにすぎません。どちらも、大きなハサミをもつエビのことです。伊勢海老とは科の違う、別のなかまになります。
岩場の夜の暮らし
伊勢海老は、昼と夜で行動が大きく変わります。日中はほとんど動きません。夜になると、いっぺんに活発になります。

昼は隠れ、夜に出る
伊勢海老は、昼のあいだ、岩やサンゴのすき間に隠れて過ごします。日が暮れると、すみかから出て活動を始めます。夜行性のため、日中に姿を見かけることは多くありません。同じ場所をすみかにし、夜ごとに近くを歩き回ります。
何を食べるか
伊勢海老は、貝やウニ、小さな動物などを食べる雑食よりの肉食です。長い脚で海底を歩きながら、餌をさがします。硬い殻や、ウニのトゲも、口や脚を使って器用に食べます。岩のすき間をのぞきこむようにして、隠れた獲物も見つけ出しています。
脱皮して大きくなる
伊勢海老は、脱皮をくり返して体を大きくします。硬い殻はそのままでは大きくなれないため、古い殻を脱いで、新しい殻に入れかわります。脱皮したばかりのときは、殻が柔らかく、身を守る力が弱まっています。この時期は岩のすき間に深く隠れ、殻が硬くなるのを待ちます。成長のための脱皮。しかし、身を守る力の落ちる危険な時期でもあります。
音を出して身を守る
伊勢海老には、音を使った身の守り方もあります。敵におそわれたとき、音を出して相手を威嚇します。
触角の付け根の発音器
伊勢海老の第二触角の付け根には、音を出すしくみがそなわっています。ここをこすり合わせて、「ギイギイ」という強い摩擦音を出します。天敵のタコや魚におそわれたとき、この音で相手をひるませるのに役立つと考えられています。触角をふりかざす動きと合わせて、身を守る手段の一つになっています。
長い旅をする幼生
伊勢海老は、一生のうちに長い旅をします。生まれたばかりの幼生は、親とはまるで違う姿をしています。

透明で平たいフィロソーマ
卵からかえった幼生は、「フィロソーマ」と呼ばれます。透明で、木の葉のように薄く平たい体をしています。長い脚をもつその姿は、親の伊勢海老とはまるで別の生きもののようです。この平たい体は、海の中を漂って暮らすのに向いています。
黒潮にのる一年の旅
フィロソーマは、海流にのって外洋へと運ばれます。日本の沖を流れる黒潮などにのり、長い距離を漂います。そしておよそ一年をかけて、ふたたび沿岸の海へと戻ってくると考えられています。数mmの幼生が、外洋をめぐる長い距離を移動することになります。
プエルルスへの変態
フィロソーマは、成長しながら何度も脱皮をくり返します。孵化のときには2mmにも満たない体が、やがて数cmほどまで育ちます。そして変わるのが、親に近い姿の「プエルルス」。プエルルスは沿岸にたどりつき、岩場に住みついて親と同じ暮らしを始めます。
縁起物としての伊勢海老
伊勢海老は、日本では古くから縁起のよい生きものです。とくに正月には、飾りや料理に欠かせない存在とされてきました。

長寿と厄除けの象徴
伊勢海老が縁起物とされる理由は、その姿にあります。曲がった背中や、硬い殻に、めでたい意味が重ねられています。
背中が曲がった姿=長寿
伊勢海老の曲がった背中は、腰の曲がった老人を思わせます。ここから、長生きの象徴とされるようになりました。「腰が曲がるまで長生きする」という願いが、この姿に重ねられています。正月飾りに使われるのは、こうした縁起にちなみます。
硬い殻=厄除け
全身をおおう硬い殻とトゲにも、意味がこめられています。硬いよろいのような姿から、災いをはね返す「厄除け」の象徴とされてきました。赤い色も、めでたい色として好まれます。長寿と厄除けをあわせもつ姿が、縁起物として重んじられてきました。
高級食材として
伊勢海老は、味のよさでも古くから知られています。刺身や、焼いた料理、汁物などで食べられてきました。秋から冬が旬とされ、この時期に多くとられます。火を通すと、鮮やかな赤い色。三重県や千葉県など、各地の名産としても知られています。祝いの席に出される、日本を代表する高級食材の一つです。

参考
- イセエビ Panulirus japonicus(Wikipedia日本語版)分類・形態・生態
- 三重県「イセエビの生態」フィロソーマ・回遊・生態
- 各水族館・研究機関の解説 発音器・幼生・縁起物
画像の出典
- アイキャッチ(一尾の伊勢海老):Syced, CC0, via Wikimedia Commons
- 水揚げされた伊勢海老:Katorisi, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- かごに入った伊勢海老:Miketsukunibito, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- 夜の岩場の伊勢海老:Togabi, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 伊勢海老の姿造り(刺身):merec0, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- ロブスター:OAR/National Undersea Research Program (NURP), Public domain, via Wikimedia Commons
- フィロソーマ幼生の図:William Thomas Calman, Public domain, via Wikimedia Commons
- 伊勢海老の日本画:石崎融思(Ishizaki Yūshi), Public domain, via Wikimedia Commons


