マガキ

甲殻類・軟体動物

マガキは内湾や河口の岩に貼りついて暮らす二枚貝です。左の殻で固着して一生ほとんど動かず、そのかわりに大量の海水を濾して餌をとります。旬が秋から春に偏るのも、年によって雄と雌が入れかわるのも、この暮らし方と結びついています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:二枚貝綱 Bivalvia
  • 目:ウグイスガイ目 Pterioida
  • 科:イタボガキ科 Ostreidae
  • 属:マガキ属 Magallana
  • 種:マガキ Magallana gigas

和名・英名

  • 和名:マガキ(真牡蠣)
  • 英名:Pacific oyster

「カキ」という名は、岩から「かきおとす」ことに由来するといわれます。太平洋牡蠣、日本牡蠣、長牡蠣といった別名もあります。

学名の由来と、動いてきた分類

この種の学名は Crassostrea gigas として長く使われ、現在は Magallana gigas とされます。命名は1793年のツュンベリーによるものです。

カキの仲間はくっついた土台の形に合わせて殻が育ちます。波の当たり方によっても形が変わるため、外見からの分類が難しく、野外では属さえ判別できないことがあります。分類には混乱が残っており、DNAの解析による整理が進められています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさカキ類としては中くらいの大きさ。細長く伸びた個体では全長34cmの記録がある
分布日本の北海道から九州、朝鮮半島・中国・樺太。養殖のため南北アメリカ・ヨーロッパ・オーストラリア・アフリカへも移された
生息環境内湾から河口。潮の満ち引きで水面から出る場所から、その少し下まで。栄養の豊富な海域や塩分の低い水域を好む
食べ物植物プランクトンとその破片。エラで海水から濾しとる
繁殖7〜8月、水温19〜23℃で産卵。雌1個体が5千万〜1億個を放つ
秋から春(夏が旬のイワガキとは逆)

左の殻で岩に貼りつき、右の殻がふたになる

マガキの殻を外面・側面・内面から見たところ
外面には紫褐色の放射状の模様が出る。右端が内面で、黒く見えるのが貝柱の跡。H. Zell, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

窪んだ左殻と、平らな右殻

岩に貼りつくのは左側の殻です。この殻は内側が深く窪み、体を収める器の形になります。外を向く右側の殻は左殻より小さく、ほぼ平らなふたとして働きます。

順調に育った個体では、殻の縁に沿って薄い板のような突起が発達します。表面には紫色の放射状の模様が出ることもあります。

内側にひとつだけある貝柱の跡

殻の内側は白く、貝柱の跡が1か所だけ残ります。アサリのように貝柱を2つ持つ二枚貝とは、この点で違います。跡の部分は紫色を帯びます。

方解石でできた殻

殻はおもに方解石という鉱物でできています。土台の形しだいで殻の形が変わるため、同じ種でも見た目の差は大きくなります。殻から年齢を推定する確かな方法は見つかっておらず、成長の速さもはっきりしていません。

全長34cmに達した記録

大きく育つ個体もあります。細長く伸びた殻で全長34cmという記録があり、この個体の身は飯茶碗に山盛り一杯ほどあったと伝えられます。かつてエゾガキ、ナガガキと呼ばれて別種とされたこともありましたが、現在はマガキと同じ種と考えられています。

1日に400リットルの海水を濾す

餌をとるのも呼吸をするのも、体を通り抜ける海水が担っています。自分では動かず、水のほうを動かす暮らし方です。

餌をとるのはエラの役目

食べているのは植物プランクトンとその破片です。エラが海水を吸いこみ、そこに浮かぶプランクトンを濾しとります。食事は昼も夜もほとんど休みなく続きます。

広島市農林水産振興センターの解説によると、カキ1個が濾す海水は1時間で約10リットル、ポリバケツ1杯分に達します。

広島湾を5日で濾す計算

1日で浴槽2杯分

水産庁は1個のカキが1日に濾す海水を約400リットルとしています。家庭の浴槽2杯分ほどに当たります。

養殖のカキは筏からカーテンのように吊るされるため、海水を効率よく濾します。同庁の資料では、広島湾の海水を約5日で濾しきる計算になるとされます。

沿岸の富栄養化と二枚貝

沿岸の海は、生活排水に含まれるチッソやリンが流れこむことで栄養がたまりすぎる富栄養化の影響を受けています。カキやアサリのような二枚貝が海水を濾し、プランクトンや有機物を餌にする働きは、その環境を保つ側面も持ちます。

水産庁の資料で紹介されている千葉県内湾水産試験場の実験では、7kgのアサリを入れた水槽の濁った海水が、開始から1時間ほどでほぼ透明になったとされます。

動かない体は筋肉が減り、内臓ばかりになった

殻を開いたマガキの軟体部
黒い縁は外套膜(体を包む膜)、縞に見える部分がエラ。Glaoadare, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

くっついてからはほとんど移動しません。そのため筋肉は退化し、体の大部分を内臓が占めるようになりました。殻を開いたときに見える白っぽい身は、その内臓とエラです。

干上がっても1週間生きる

マガキは干潮になると水面から出てしまう場所にも住みます。体内にグリコーゲンという糖を多く蓄えているため、水のない状態でも1週間ほどは生き延びられるとされます。

殻をぴたりと閉じて水分を保ち、潮が満ちるのを待ちます。

1億個の卵と、年によって入れかわる性

産卵期は7月から8月、水温が19度から23度になるころです。雌は5千万個から1億個もの卵を放ち、雄が精子を放って水中で受精します。

泳ぐ時期を経てから貼りつく

受精から1日で、幼生は殻を作りはじめます。しばらくは水中を泳いで過ごし、やがて硬いものを見つけて貼りつきます。成体になれば移動しないため、分布を広げる役目はこの時期が負います。

雄と雌が入れかわる

マガキは雌雄が別の個体に分かれています。ただし性は固定されていません。今年は雄だった個体が翌年は雌になることがあり、その逆も起こります。

生殖期が終わると一度中性の状態になり、そのあとの栄養状態が良ければ雌に、悪ければ雄になるとされます。餌の量が性別を左右することになります。

産卵期に痩せるから、旬は秋から春

卵と精子を作る間、マガキは体にためた養分をそちらへ回します。産卵を終えた夏の個体は痩せてしまいます。

旬が秋から春に偏るのはこの周期のためです。

夏に出回るイワガキと三倍体

夏が旬とされるイワガキは、同じカキと呼ばれても別の種です。丸みのある個体が多く、大きなものは20cm・1kgに達します。

近年は品種改良で作られた三倍体のカキもあります。産卵しないぶん卵に養分を取られないため、夏でも痩せません。

日本で見られるカキの仲間

国内で生産されるほかのカキ

イタボガキとスミノエガキ

国内ではイタボガキやスミノエガキも生産されています。いずれもマガキと同じイタボガキ科に属します。

オランダから来たヨーロッパヒラガキ

ヨーロッパヒラガキは1952年にオランダから持ちこまれ、2000年ごろまで北海道から宮城にかけて養殖されていました。効率の面から撤退が進みましたが、三陸の海には現在も一定数が定着しているとされます。

英語の oyster は日本語の「カキ」より広い範囲を指します。岩などに付く二枚貝で、形が不定形で表面が滑らかでないものはおおむね含まれ、日本ではカキと呼ばないアコヤガイ類も pearl oyster と呼ばれます。

干潟を作り替えるカキ礁

磯の岩に付着したマガキ
磯の岩に付着した個体。まわりにはカサガイなども見える。Tim Binns from Tomahawk, Australia, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

普段は岩や杭に付きますが、干潟では泥の表面に集まって広い面を作ることがあります。これをカキ床、あるいはカキ礁と呼びます。

殻の下で泥が黒くなる

カキが表面を覆うと、その下の泥は酸素が届かなくなります。泥は真っ黒に変わり、それまでの干潟の生き物は生きられなくなります。

かわりに、岩場に付く生き物や、酸素の少ない環境で暮らせる小さな生き物の場所へ変わります。外来種が入りこみやすい場にもなるとされます。日本の干潟ではカキ礁の増加が指摘されており、環境の変化として懸念されています。

日本原産の貝が世界中で養殖されている

カキの養殖施設
フランス・ルカットの養殖施設。H. Zell, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

マガキはもともと太平洋のアジア沿岸を原産とします。ところが養殖用に持ち出された結果、今では南北アメリカやヨーロッパ、オーストラリアやアフリカにまで広がりました。

ヨーロッパ生産の75%はフランス

マガキ属は水産物としては世界最大級の生産量を持つとされます。ヨーロッパでは国別にフランスの生産量が大きく、全体の75%を占めます。フランスでの近年の生産量は年に4万トンとされます。

消波装置に付いて起きた不具合

固着する性質は人の設備にも影響します。海に置かれた消波装置にマガキが集まり、動作不良を起こした事例が報じられています。2021年の東京オリンピックでは、ボートとカヌーの会場でこの問題が伝えられました。

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