タイリクバラタナゴ

魚類

タイリクバラタナゴは卵を二枚貝の中に産みつける淡水魚です。雌は伸びた産卵管を貝の出水管へ差しこみ、貝のえらに卵を預けます。中国から食用魚に混じって渡ってきた魚で、その後さまざまな経路で全国へ広がり、在来のニッポンバラタナゴとの交雑が進んでいます。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:条鰭綱 Actinopterygii
  • 目:コイ目 Cypriniformes
  • 科:タナゴ科 Acheilognathidae(コイ科 Cyprinidae に含める扱いもあります)
  • 属:バラタナゴ属 Rhodeus
  • 種:バラタナゴ Rhodeus ocellatus
  • 亜種:タイリクバラタナゴ Rhodeus ocellatus ocellatus

和名・英名

  • 和名:タイリクバラタナゴ(大陸薔薇鱮)
  • 英名:Rosy bitterling

「バラ」は婚姻色から

種小名の ocellatus は「小さな目をもつ」という意味です。和名の「バラ」は、繁殖期の雄が紫や鮮紅色の光沢を帯びることに由来します。この色をバラ色と見たてたものです。

バラタナゴには2つの亜種があります。日本在来のニッポンバラタナゴ Rhodeus ocellatus kurumeus と、大陸から来たタイリクバラタナゴです。2001年には両亜種が遺伝的に大きく異なることが示され、分類の再検討が必要だと指摘されています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長6〜8cm。雄のほうが大きくなり、英語圏の資料では雌約4〜5cm、雄5〜8cmとされる
原産地中国南部・台湾・朝鮮半島
日本での分布全国に移入。環境省の生態系被害防止外来種リストで重点対策外来種(2015年に発展的解消された旧「要注意外来生物」から移行)。日本生態学会の「日本の侵略的外来種ワースト100」
生息環境河川の中・下流域の緩やかな場所や用水路の緩流域。ため池・湖・沼にも住む。止水域を好む
食べ物付着藻類などの植物食が主。仔稚魚期はワムシ類やミジンコ類、小型の底生動物も
繁殖3〜9月に二枚貝へ産卵。ピークは4月下旬〜6月上旬
寿命約1年で成熟し、自然下ではおよそ2年
保全状況IUCN: DD(情報不足)

産卵管を二枚貝の出水管へ差しこむ

産卵管を伸ばしたバラタナゴの雌
産卵管を長く伸ばした雌。この管を二枚貝の出水管へ差しこむ。AJC1, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

雄が貝を守り、雌を連れてくる

貝のまわりになわばりを作る

産卵の相手に選ばれるのは、ドブガイ類などのイシガイ科の二枚貝です。繁殖期になると雄はその二枚貝のまわりになわばりを作ります。そして十分に成熟した雌を貝まで誘導し、産卵をうながします。

雌は貝の様子をのぞきこむ

雌はすぐには産みません。二枚貝の様子をのぞきこみ、タイミングを見計らいます。そのうえで産卵管を貝の出水管に差しこみ、貝のえらの中へ卵を産みつけます。

受精も貝の中で起きる

雌が産みつけた直後、雄は貝の入水管の上で精子を放ちます。貝は水を吸いこむときに、そこへ混じった精子を体内へ取りこみます。こうして受精は貝の中で起こります。

受精卵は電球のような形をしています。大きさはタイリクバラタナゴで3.2×1.5mm、ニッポンバラタナゴで2.75×1.8mmと記録されており、タイリクのほうが細長い形です。

貝の中で育ち、夜明け前に泳ぎ出る

吐き出されないための突起

卵は1日から3日で孵化する

受精卵は1日から3日で孵化します。孵化した直後の仔魚は、タイリクバラタナゴで全長3.4mm、ニッポンバラタナゴで2.8mmと記録されています。

卵黄が翼のような形に変わる

前期の仔魚は卵黄が翼のような形に変わって突起を作り、二枚貝のえらから吐き出されるのを防いでいます。

7mmから8mmで貝を出る

仔魚は貝の中で育ち、全長7mmから8mmになると外へ出ます。出ていくのは主に夜から夜明け前にかけてです。

二枚貝に産卵することには、貝の中の卵と仔魚が生き残る割合を上げる意味があると解されています。加えて、ある程度の生活力をもった状態で出ることで捕食者から逃れられます。条件のよい場所で餌をとったり移動したりもできます。貝を出たあとの生き残りも上がる、という見方です。

婚姻色と、全長を超える産卵管

婚姻色が出たタイリクバラタナゴの雄
婚姻色が出たタイリクバラタナゴの雄。目が赤く、体高が高い。book74, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

雄は紫と鮮紅色に変わる

普段の体は銀色ですが、虹色の光沢があります。繁殖期の雄はここに紫や鮮紅色の光沢が乗ります。体は平たく、体高が高い形です。口ひげはありません。

稚魚と未成魚は背びれの前のほうに黒い斑がはっきり出ます。この斑は雄では成熟するにつれて消えていきます。

産卵管は体より長くなることがある

雌の産卵管は長く伸びます。産卵期に伸びたときには全長を上回ることもあります。

ニッポンバラタナゴとの見分け

側線有孔鱗と腹びれの白線を赤丸で示したバラタナゴ
赤丸が見分けの手がかり。上が側線有孔鱗、下が腹びれ前縁の白線。下の目盛りは1mm。Book74, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

腹びれの前の白い筋

タイリクバラタナゴの腹びれの前端には、グアニン層による白い筋が入るとされます。ただし雌では不明瞭だったり、無い個体もいます。原産地の中国でも地域差が大きく、浙江省の個体群には白線が無いとされます。

側線有孔鱗の数

もう一つの手がかりは側線有孔鱗の数です。タイリクバラタナゴは2枚から7枚で、最も多いのは5枚です。ニッポンバラタナゴはおよそ0枚から5枚で、最も多いのは0枚とされます。

ただし両亜種は容易に交雑します。しかも交雑した個体は代々子を残せるため、交雑した集団が広がっていきます。そのため形だけで両者を判別するのは難しく、遺伝情報の解析が必要になります。

食用魚に混じって渡ってきた

ソウギョ・ハクレンの導入に紛れて

タイリクバラタナゴが日本へ来たのは第二次世界大戦中です。侵入年代は1942年とされます。中国から食用のソウギョやハクレンを導入する際、その種苗に混じって関東へ運ばれてきたと言われます。最初に入ったのは主に利根川水系でした。

その後は複数の経路で全国へ

魚の放流、貝の移動、ペット流通

20世紀後半には分布が全国に広がります。経路は一つではありません。挙げられているのは、イケチョウガイなど淡水産二枚貝の移動・琵琶湖産アユの放流・琵琶湖や淀川水系からのヘラブナの移殖・ペットショップでの流通・飼育していた個体の放流や遺棄です。

琵琶湖へは貝といっしょに

琵琶湖へ入ったのは1960年代とされます。霞ヶ浦で養殖されたイケチョウガイとともに卵が運ばれたと推測されています。二枚貝に産卵する魚なので、貝が運ばれれば卵も一緒に動くことになります。

2001年に公表されたミトコンドリアの遺伝子解析では、少なくとも2系統のタイリクバラタナゴが日本へ侵入したことが示されました。

数字で見る繁殖力の差

ニッポンバラタナゴの雄
在来のニッポンバラタナゴの雄。腹びれが黒く縁取られる。Book74, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

在来種の産卵回数

大阪産のニッポンバラタナゴでは、雌は1回の繁殖期に9日から12日の周期で3回から5回排卵するとされます。1回に排卵するのは約10個です。産卵行動1回あたりに産みつけるのは1個から3個で、2日から3日かけて複数のドブガイ類に産み分けていきます。

栃木産のタイリクと比べる

周期・回数・数・期間のすべてで上回る

栃木産のタイリクバラタナゴを大阪産のニッポンバラタナゴと比べた研究では、次の差が出ています。

  • 排卵の周期は2倍速い
  • 1繁殖期あたりの排卵回数は4倍多い
  • 1回の排卵数は1.5倍多い
  • 繁殖期は3倍長い

つまりタイリクバラタナゴは、ニッポンバラタナゴより成長が早く繁殖期も長い魚です。産卵数も多くなります。移殖された地域では、産卵に使う二枚貝や生息場所をめぐって他のタナゴ類と競合すると言われます。

生まれた年のうちに産卵する個体もいる

産卵期の初めに生まれて成長のよい個体は、その年の秋までに成熟して産卵することがあります。これはタイリクバラタナゴに多いとされます。

在来種との交雑

ニッポンバラタナゴは1940年代には琵琶湖以西の本州の瀬戸内海側、香川県、九州の北部から中部に広く生息していました。その後タイリクバラタナゴの移殖にともなって亜種間の交雑が進み、分布域は年々狭まっています。

純系を保つのが難しい

交雑した個体が子を残し続けるため、ニッポンバラタナゴが純系を維持するのは極めて厳しい状況にあります。上皇は天皇であった2007年12月の記者会見で、ニッポンバラタナゴを日本の淡水魚の中で最も絶滅の危機にあるものと思う、と述べています。体の大きいタイリクバラタナゴとの生存競争でニッポンバラタナゴが弱い立場にあることにも触れています。

タナゴと二枚貝とヨシノボリ

魚が貝に卵を、貝が魚に幼生を預ける

ニッポンバラタナゴを守るには、産卵先であるドブガイ類が繁殖できる環境が要ります。そのドブガイ類は、幼生の時期にヨシノボリ属などの底生魚のひれに寄生して育ちます。魚が貝に卵を預け、貝が魚に幼生を預ける関係です。

このため保護の条件は「ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類が、同じ場所で繁殖できる環境」とまとめられています。1種だけを守っても成り立ちません。

外来の捕食者を入れない

あわせて、オオクチバスやブルーギルなどニッポンバラタナゴを捕食する外来生物の侵入を防ぐことも、保護の条件に挙げられています。

影響と、地域ごとの規制

国立環境研究所は影響を受ける在来生物として、ニッポンバラタナゴとゼニタナゴを挙げています。内容は交雑と、産卵に使う母貝をめぐる競合です。防除の方法としては池干しが挙げられています。

法的な扱いは地域によって違います。滋賀県では条例の指定外来種、佐賀県では条例の移入規制種です。

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