カワヨシノボリ

魚類

カワヨシノボリは、日本の渓流や河川上流に暮らす全長4〜6cmの小型ハゼです。ヨシノボリ属の他種と違い、稚魚が海に降りず一生を淡水で過ごす「陸封型」の生活史を持つ点が最大の特徴とされます。胸鰭の条数が15〜17と他種より少なく、この形質でヨシノボリ属の中で識別されます。渓流の石の下で雄が卵を守り、繁殖期には黒い婚姻色をまとうことでも知られる淡水魚です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:条鰭綱 Actinopterygii
  • 目:ハゼ目 Gobiiformes(旧・スズキ目 ハゼ亜目)
  • 科:ハゼ科 Gobiidae
  • 属:ヨシノボリ属 Rhinogobius
  • 種:カワヨシノボリ Rhinogobius flumineus(Mizuno, 1960)

和名・英名

  • 和名:カワヨシノボリ(川葦登)
  • 英名:定型和訳の英名は普及しておらず、しばしば Rhinogobius flumineus の学名で扱われます

名前の由来と学名の意味

属名の Rhinogobius は「Rhino(鼻)+ gobius(ハゼ)」で、頭部に鼻の突起(吻部)を持つハゼの意味です。ヨシノボリの「葦登」の由来には諸説あり、葦を登る意とする説などがありますが、実際にヨシノボリ類が葦の茎を登る行動は一般的には観察されていません。種小名の flumineus はラテン語で「川の・川に属する」を意味し、河川性の本種を表す命名と考えられます。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約4〜6cm(ヨシノボリ属の中では小型)
分布日本固有種/本州・四国・九州の河川上流域
生息環境渓流・河川上流の礫底、湖岸に流入する冷水域
寿命野外での正確な追跡例は乏しく、飼育下では2〜3年程度の記録が知られます
生活史陸封型(両側回遊を行わず一生を淡水で過ごす)
保全状況環境省レッドリストでは掲載なし/地域によっては県レッドリストに記載

姿と見分けかた

カワヨシノボリの形態図解
DataBase Center for Life Science (DBCLS), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

全長4〜6cmと胸鰭の条数

胸鰭条数15〜17がヨシノボリ属で最少

カワヨシノボリの最大の識別点は、胸鰭の条(じょう=ヒレを支える骨状の筋)の数が15〜17本と、ヨシノボリ属の中でもっとも少ないことです。他のヨシノボリ属では18本以上を持つ種が多く、胸鰭の条数を数えれば本種と他種を確実に区別できるとされます。フィールドでの外見識別が難しいヨシノボリ類の中で、数値で判別できる貴重な形質です。

吸盤化した腹鰭で川底に張り付く

ヨシノボリ属全般の共通の特徴として、腹鰭が左右つながって皿状の吸盤を作ります。この吸盤で川底の石や護岸に張り付けるため、流れの速い渓流でも押し流されずに定位できます。カワヨシノボリはこの吸盤を使って渓流の礫の上を這うように移動します。

体色と雄の婚姻色

頭部の赤褐色線

体色は淡い灰褐色で、体側にはヨシノボリ属共通の縦帯状のまだら模様が入ります。頭部には赤褐色の細い線が入る個体が多く、他のヨシノボリ属と共通する形質です。石礫の川底に静止すると体色が石の間にとけ込み、慣れないと見つけるのに時間がかかる保護色となっています。

繁殖期の雄は黒い婚姻色

繁殖期の雄は体全体が黒っぽくなる「婚姻色」を示します。頭部・体側・ヒレまで濃い色に染まり、平時の淡い体色とはまるで別種のような姿になる時期です。婚姻色の雄は繁殖期の初夏〜夏に石の下で雌を待つ姿が観察されます。

陸封魚 ―海に降りないヨシノボリ

一生を淡水で過ごす

ヨシノボリ属の多くは、孵化した仔魚が海に降りて海洋期を過ごし、成長してから川に戻る「両側回遊性(りょうそくかいゆうせい)」の生活史を持ちます。カワヨシノボリはこれとは対照的に、仔魚が海に降りず一生を淡水域で過ごす「陸封型(りくふうがた)」の魚です。ヨシノボリ属の中では珍しい生活史で、山間の渓流に閉じこもった個体群として進化してきたと考えられています。

大きな仔魚を少数だけ産む

陸封型の本種は、海に降りない代わりに卵と仔魚が比較的大きく、産卵数が両側回遊性の他種より少なめとされます。海洋期の栄養に頼らず淡水域で発育を進める戦略で、大きな卵に多くの栄養を託して確実に育てる方向に進化した形です。両側回遊性のヨシノボリ属他種と比べて、繁殖戦略の違いがはっきりわかる典型例となっています。

ヨシノボリ属の他種との見分けかた

トウヨシノボリとの違い

もっとも混同されやすいのが同属のトウヨシノボリ(Rhinogobius sp.、いわゆるトウヨシノボリ複合種群)で、体色や体型がよく似ています。決定的な違いは生活史で、トウヨシノボリは両側回遊性が典型(一部陸封個体群あり)なのに対し、カワヨシノボリは陸封型で一生を淡水で過ごします。フィールドでは胸鰭条数(本種15〜17/トウヨシノボリ18以上)で判別されます。トウヨシノボリは湖沼〜河川中下流に多く、カワヨシノボリは河川上流の渓流域に多い分布の違いも識別の手がかりです。

他のヨシノボリ属との違い

ヨシノボリ属には他にも識別ポイントを持つ種が複数います。

  • オオヨシノボリR. fluviatilis):全長12cmに達する大型種。カワヨシノボリの倍以上のサイズで区別しやすい。
  • シマヨシノボリR. nagoyae):頬に細かなミミズ状の模様が入る種で、頬の模様で識別。
  • ルリヨシノボリR. mizunoi):全長7〜10cm程度で頬に瑠璃色の斑点が並ぶ種。
  • クロヨシノボリR. brunneus):体色が黒っぽく、南方の島嶼にも分布。

いずれもフィールドでの外見識別は難しく、胸鰭条数・頬の模様・生活史(陸封か両側回遊か)を組み合わせて判別されます。

分布と生息環境

本州・四国・九州の渓流

カワヨシノボリは日本固有種で、本州・四国・九州の河川上流域に分布します。水温が低く流れの速い渓流を好み、川底が石礫(せきれき)で構成される環境に多く見られます。冷涼な水質を必要とするため、平地の水温が高い川では見られず、湿った山あいの流れの中で暮らす渓流魚のひとつです。

砂利底のカワヨシノボリ
Joseph Aubert, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

石礫の川底に張り付いて生活

吸盤化した腹鰭で川底の石に張り付き、流れに逆らって定位します。石と石のあいだの隙間や、大きめの石の下面に潜んで水生昆虫を待ち伏せするのが典型的な暮らし方。石の陰や礫の隙間に潜む底棲魚で、フィールドの観察では石の下から姿を現す個体が確認される種です。

食性 ―肉食寄りの雑食

水生昆虫やエビ類が主な餌

カワヨシノボリの食性はほぼ肉食で、次のような小動物を幅広く捕食します。

  • 水生昆虫:カゲロウ・カワゲラ・トビケラの幼虫など
  • エビ類・小型甲殻類
  • 他の小魚の卵や稚魚

川底のデトリタス(生物由来の破片)や藻類を食べることもあり、完全な肉食というより肉食寄りの雑食です。

石の隙間で獲物を待ち伏せる

採食は待ち伏せ型で、石の隙間や川底でじっと動かず、目の前を通り過ぎる小さな動く獲物を吸い込むように口で捕らえるスタイルとされます。俊敏な追跡型ではなく、渓流の隙間に潜んで待つ底棲魚らしい採食方法です。

繁殖 ―石下の巣穴と雄親の卵保護

石の下に巣穴を作る

雄が平たい石の下に営巣

繁殖期は主に初夏〜夏で、雄が川底の平たい石の下に巣穴を掘って雌を誘引します。婚姻色の雄が石の下で待ち構える姿はヨシノボリ属に共通の繁殖行動のひとつです。

卵は石の裏側に張り付く

雌は石の下面に卵を産み付け、卵は石の裏側にびっしりと並んで固定される形になります。石の陰に隠された位置で、上を石にふさがれ天敵の目に触れにくい産卵場所とされます。

雄親が孵化まで卵を守る

鰭で新鮮な水を送り酸素を供給

産卵後、雄は雌を巣穴から追い出し、単独で卵の世話を担います。鰭で新鮮な水を送って酸素を供給し、外敵から卵を守る雄親型の子育てで、孵化までのおよそ2〜3週間を巣穴で過ごすとされます。

淡水魚の卵保護行動の代表例

雌雄の役割分担が明確な種で、雄が孵化まで巣に留まり卵を保護する行動は日本の淡水魚の子育て行動として観察対象になってきました。ヨシノボリ属に共通する繁殖形態を、陸封型の本種で観察できる点も研究上の価値のひとつです。

寿命

野外での正確な寿命の追跡例は乏しく、明確な数値は不明とされます。飼育下では2〜3年程度は生きた記録が知られており、小型ハゼ類としては標準的な寿命の範囲です。

飼育下での特徴

カワヨシノボリは陸封型のため、他のヨシノボリ属と異なり海水を経由しない完全淡水環境で生活史を完結できる種です。飼育例では、渓流の水温(およそ20〜25℃)と川底を模した石礫、溶存酸素の多い水質のもとで飼育下の生活が成り立つとされます。餌は水生昆虫を模した冷凍アカムシやイトミミズが利用され、人工餌にも慣れる例が知られています。ただし本種は肉食寄りの雑食性で、メダカなど小型魚と同居させた場合には捕食対象となる可能性があります。また、地域個体群の遺伝的分化があり、他地域への移入は在来個体群への遺伝的攪乱の要因になるとされます。

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参考

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