ユキウサギは、旧北区の北方に広く分布する冬白化ノウサギの代表格です。日本には北海道の亜種「エゾユキウサギ」として在来し、日本産ウサギ類のなかでは最大の種として知られます。夏は茶褐色、冬は真っ白に変わる大きな換羽と、雪の上を沈まずに進む幅広い後脚が特徴です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:ウサギ目 Lagomorpha
- 科:ウサギ科 Leporidae
- 属:ノウサギ属 Lepus
- 種:ユキウサギ Lepus timidus
和名・英名
- 和名:ユキウサギ(雪兎)
- 英名:Mountain hare、Snow hare、Blue hare(英国の呼称)
別名・学名の由来
種小名 timidus はラテン語で「臆病な」を意味し、警戒心の強さと素早い逃走行動をそのまま示す命名です。英名の「Mountain hare(山のノウサギ)」は主要な生息地が山地・北方林であることを、Scotlandでの呼び名「Blue hare」は夏毛から冬毛への換羽期に見える灰青色の中間色から来ています。日本の北海道亜種は Lepus timidus ainu(亜種小名はアイヌ語に由来)という学名で、和名の「エゾユキウサギ」として親しまれてきました。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 46〜65cm、体重 1.6〜4.0kg(雌がやや大きい) |
|---|---|
| 耳の長さ | 約8〜10cm(ノウサギ属のなかでは短めで、寒冷適応の一つ) |
| 体色 | 夏毛は茶褐色、冬毛は白色(耳先の黒は残る)/尾は一年中白 |
| 分布 | 旧北区。フェノスカンジアからシベリア東部・モンゴル・日本(北海道)まで連続分布。アルプス/アイルランド/ポーランドなどに孤立個体群 |
| 生息環境 | タイガ・落葉樹林・高山ヒース・岩石帯・北方の低地 |
| 食性 | 植物食(草本・小枝・樹皮・冬芽・地衣類) |
| 活動時間 | 夜行性〜薄明薄暮性 |
| 繁殖 | 雌は年1〜3回、1〜4頭を出産(子は早成性) |
| 寿命 | 野生でおよそ3〜5年 |
| 保全状況 | IUCN 軽度懸念(LC) |
姿と体色 ── 夏茶色から冬の白へ

夏毛の茶褐色
短めの耳と大きな後脚

夏毛は茶褐色から灰褐色で、腹側は白く抜けます。同じノウサギ属のヨーロッパのヤブノウサギに比べると耳が短く、後脚が長く発達している点が寒冷地仕様です。耳の長さ約8〜10cmはノウサギ属の中では短めで、寒冷地の熱放散を抑える体形の特徴として知られています。
年中白い尾
尾は一年を通じて白いままで、他のノウサギ属(尾の上面が黒〜褐色になる種が多い)と識別する際の分かりやすい特徴です。この白い尾は走行時に振られて仲間や敵に位置を知らせる合図として機能するとも考えられています。
冬毛の白化

耳先の黒だけを残す
秋から初冬にかけて全身の毛が白く生え替わり、耳先の黒だけをはっきり残す姿になります。雪原に伏せると視認がきわめて難しく、キツネなど視覚に頼る捕食者から身を隠す保護色として機能します。換羽期には茶と白のまだら模様が観察でき、英名 Blue hare の由来となる灰青色の中間色を見せる時期もあります。
光周期が引き金

白化のスイッチは気温ではなく、日照時間の短縮(光周期)が主な引き金と考えられています。近年の温暖化で降雪期がずれると、白い毛のまま雪のない地面に取り残される「不釣り合いな白」の個体が観察されるようになり、捕食圧が高まる懸念が指摘されています。アイルランドの亜種のように冬毛でも茶褐色を保つ集団もあり、白化の程度は分布北端と南端で大きく異なります。
エゾユキウサギ ── 北海道の在来亜種

日本産ウサギ最大
北海道に分布する亜種エゾユキウサギ(Lepus timidus ainu)は、体重3〜4kgに達する個体もあり、日本のウサギ類の中では最大の種として知られます。本州以南のニホンノウサギ(1.3〜2.5kg)よりも一回り大きく、寒冷地に適応した「ベルクマンの法則」(同種でも寒い地域ほど大きくなる)の典型例のひとつです。
北海道全域が生息地
平地から2000m級までの垂直分布
生息地は北海道全域の森林・草原・河畔林など幅広く、平地から標高2000m級の高山まで垂直分布も大きい種です。積雪期には雪面をラッセルする幅広い後脚を活かして自由に移動でき、他の在来哺乳類が動きにくい深雪の斜面でも観察されます。
市街地周辺への進出
近年は市街地周辺での目撃も報告されており、里山と森林の境界を活用する適応性の高さがうかがえます。札幌市郊外や大学キャンパスなど人の生活圏の近くにも姿を見せる例が知られ、雪原の在来種としては人と接する機会の多い部類に入る種です。
雪の上を歩く後脚 ── かんじき効果

ユキウサギの最大の特徴は、幅広く発達した後脚です。同じサイズの他のウサギに比べて足裏の面積が大きく、体重を分散させることで新雪の上でも沈まずに歩ける「かんじき効果」を持っています。逃走時は時速60kmを超える速さに達し、雪深い斜面では体格差以上に有利になる構造。足裏には粗い剛毛がびっしり生えており、氷や凍った雪の上での滑り止めとしても働きます。エゾユキウサギの足の大きさは日本のウサギ類の中で最も顕著で、雪原を移動する在来種のなかでも特に効率の良い体の造りとされます。
食性 ── 冬は樹皮と冬芽で凌ぐ
植物食で、夏は草本の葉や芽・花・野生の果実を、冬は雪の下から掘り出したり若木の樹皮を歯で削って食べたりして凌ぎます。スカンジナビアやシベリアの厳冬期には小枝と樹皮の割合が高く、逆に降雪の少ないアイルランドでは通年で草類が主食。分布の南北で食性の中身が大きく変わる、地域差の大きな種です。冬の樹皮食は幼木の環状剥皮につながることがあり、林業被害としての側面もあります。
繁殖と天敵 ── 雪原で生き延びる工夫
年1〜3回の出産
繁殖期は春から夏。妊娠期間はおよそ50日で、1回の出産で1〜4頭を産みます。子は毛が生えそろい目を開けたまま生まれる早成性で、地表の窪みで数日を過ごした後には自力で歩き回れるようになります。ノウサギ属に共通する巣穴を掘らない子育て様式です。
キツネと猛禽が主要天敵
ユーラシア全域ではアカギツネ・オオヤマネコ・イヌワシなどが主要天敵で、日本の北海道ではキタキツネ・イヌワシ・エゾフクロウ・オオワシなどが挙げられます。逃走時は時速60km前後に達する俊足がまず一つの守り。加えて視界の悪い深雪では冬毛の白化が視認性を下げ、保護色と俊足の組み合わせで北方の暮らしを支える形になっています。
ホッキョクノウサギ・カンジキウサギとの違い
冬に白くなるノウサギは他にもおり、北米にはカンジキウサギ(Lepus americanus)、極地圏にはホッキョクノウサギ(Lepus arcticus)が分布しています。この3種は「冬白化ノウサギ」として並べられがちですが、いくつかの点で分けられます。
| 種 | 分布 | 主な違い |
|---|---|---|
| ユキウサギ | 旧北区(北海道・シベリア・北欧・アルプス) | 3種の中で中間サイズ。夏茶褐色〜冬白。分布最広 |
| カンジキウサギ | 北米亜寒帯の森林(アラスカ〜アパラチア) | ユキウサギよりやや小型。オオヤマネコとの10年周期変動で有名 |
| ホッキョクノウサギ | カナダ極北・グリーンランド | 最大級。冬毛はほぼ全身白いまま夏も維持する集団あり |
人との関わり ── 毛皮・狩猟・観察
北方の狩猟対象
ユキウサギはユーラシア全域で古くから狩猟の対象で、毛皮・食肉ともに利用されてきました。日本でも北海道亜種は狩猟鳥獣に指定されており、猟期を通じてワナ猟・銃猟で捕獲されます。北海道の一部地域ではジビエ食材として市場に出ることもあります。
動物園と観察スポット
国内の動物園では旭山動物園・円山動物園などにエゾユキウサギの展示例があり、夏毛と冬毛の変化を実物で確認できる貴重な場になっています。野生の観察は冬期の北海道各地の森林で可能ですが、白い個体は雪原と溶け込んで見つけにくく、足跡やフンから存在を追う痕跡探索の対象としても親しまれる種です。
関連ページ



参考
- Wikipedia日本語版「ユキウサギ」(分類・分布・体色・亜種)
- IUCN Red List: Lepus timidus(LC評価と分布動向)
- Wikipedia (英語版)「Mountain hare」(光周期と白化・地域差)
- 阿部永 監修(2008)『日本の哺乳類 改訂2版』東海大学出版会(エゾユキウサギの形態・生態)
画像出典
- NadezhdaKhaustova, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Ian Capper, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
- Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Kjetil Fjellheim from Bergen, Norway, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- Правительство Волгоградской области, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- Koolah, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- Kjetil Fjellheim from Bergen, Norway, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons


