タツノオトシゴ

硬骨魚類

タツノオトシゴは、馬のような頭を持ち、体を立てて泳ぐ変わった魚です。うろこの代わりに骨の板をまとい、巻きつく尾で海草につかまって暮らします。もっとも知られているのが、メスではなくオスが子を産むという不思議な習性です。竜の落とし子という名のとおり、その姿は昔から縁起のよい生きものとして親しまれてきました。

スポンサーリンク

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:条鰭綱 Actinopterygii
  • 目:トゲウオ目 Syngnathiformes
  • 科:ヨウジウオ科 Syngnathidae
  • 属:タツノオトシゴ属 Hippocampus
  • 種:タツノオトシゴ Hippocampus mohnikei(日本の代表種)

和名・英名

  • 和名:タツノオトシゴ(竜の落とし子)
  • 英名:Seahorse

名前の由来と「何類」なのか

属名の Hippocampus は、ギリシャ語で「馬」と「海の怪物」を合わせた言葉です。馬に似た頭の形が、そのまま名前になっています。和名の「竜の落とし子」も、伝説の竜の子を思わせる姿に由来します。見た目からは想像しにくいものの、タツノオトシゴは背骨を持つれっきとした魚の仲間です。同じヨウジウオ科には、細長いヨウジウオや、海藻そっくりのシードラゴンも含まれます。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体長 約1.5〜35cm(種によって差が大きい)
分布世界の暖かい浅い海(日本では各地の沿岸)
生息環境海草の茂み・サンゴ礁・岩場など
食べもの小さな甲殻類(アミやプランクトンなど)
寿命およそ1〜5年(種による)
仲間の数タツノオトシゴ属で約46種

魚には見えない体

尾を海草に巻きつけるタツノオトシゴ
Hans Hillewaert, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

立って泳ぐ変わった魚

馬のような頭と直立の姿勢

タツノオトシゴは、頭を体と直角に曲げ、まっすぐ立った姿勢で過ごします。ほかの魚のように横向きではなく、縦になって泳ぐのが大きな特徴です。この立ち姿は、細長い海草の茂みにまぎれて身を隠すのに向いています。左右の目は別々に動き、あちこちを同時に見張れます。まるでカメレオンのような目。長い管のような口を海中に向け、じっと獲物を待ちかまえます。獲物を見つけると、口をすばやく振り上げて一瞬で吸い込みます。

尾びれのない遅い泳ぎ

多くの魚が持つ尾びれを、タツノオトシゴは持っていません。その代わり、背中の小さなひれを1秒間に30回以上もふるわせて進みます。胸のわきのひれで向きを変えますが、泳ぐ速さはとてもゆるやかです。世界でもっとも泳ぎの遅い魚の一つとされ、嵐の日に疲れ果てて命を落とすこともあります。

うろこのない鎧と巻きつく尾

骨の板でできた輪

タツノオトシゴの体には、ふつうの魚のようなうろこがありません。代わりに、骨でできた硬い板が輪のように並び、鎧のように体を守ります。この輪の数は種によって決まっていて、見分ける手がかりにもなります。頭の上には冠のような突起があり、これも種ごとに形が異なります。この硬い体は乾かしてもくずれにくく、昔から標本や飾りにも使われてきました。

尾で海草につかまる

尾の先には、ものに巻きつけられる力がそなわっています。泳ぎが苦手なぶん、海草やサンゴに尾を巻きつけて体を固定します。潮に流されないよう、しっかりとつかまって獲物を待つのが日々の暮らしです。巻きつく力は強く、流れの速い場所でも同じ海草に何日もとどまります。ときには相手と尾を絡め合い、はぐれないようにする姿も見られます。

色を変えて隠れる

タツノオトシゴは、周りの色に合わせて体の色を変えられます。海草の茂みでは緑がかり、サンゴのそばでは赤や黄に近づけます。住む場所に合わせて、体のトゲを伸ばしたり縮めたりする種も知られています。泳ぎが遅いぶん、見つからないことが身を守る何よりの手立てになっています。

歯も胃もない食べ方

タツノオトシゴには歯がなく、獲物を口で吸い込んでまるのみします。小さな甲殻類やプランクトンを、長い口でストローのように吸い上げます。胃を持たないため食べたものは早く通り抜け、栄養をためておけません。小さな体でも一日に何千匹ものアミを食べることがあり、たえず食べ続けなければ生きていけない体です。

オスが出産する(育児嚢)

腹のふくらんだタツノオトシゴ
Cliff, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

メスがオスに卵を預ける

オスの腹にある育児嚢

タツノオトシゴのオスは、腹に「育児嚢」という袋を持っています。繁殖のとき、メスはこの袋の中に卵を産みつけます。オスは袋の中で卵に精子をかけ、そのまま体の中で育てます。卵には酸素や栄養が送られ、まるで母親の子宮のように守られていきます。メスが卵づくりに力を注ぎ、オスが子を守る役目を担うことで、より多くの子を残せると考えられています。

稚魚を「産む」オス

およそ2〜4週間たつと、オスは袋を収縮させて稚魚を外へ産み出します。生まれてくるのは、親を小さくしたような姿の稚魚です。一度に数百から、多いときには千匹をこえる子が放たれます。出産の多くは夜に起こり、オスは数時間のうちに次の卵を受け取ることもあります。生まれた稚魚は、しばらく海面近くを漂って広い海へ散らばります。しかし外にはたくさんの天敵がいて、生き残っておとなになれるのはごくわずかです。

毎朝あいさつを交わすつがい

多くのタツノオトシゴは、決まった相手と長くつがいを組みます。毎朝、つがいはたがいに体の色を変え、尾を絡めて泳ぎ回ります。この短いあいさつのようなふるまいが、二匹の結びつきを保つと考えられています。産卵の前には、数時間から半日にもおよぶ長い求愛のダンスがくり広げられます。

いろいろなタツノオトシゴ(種類)

サンゴに擬態するピグミーシーホース
Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

小さなものから大きなものまで

タツノオトシゴの仲間は、世界に約46種が知られています。もっとも小さなピグミーシーホースは、体長1.5cmほどしかありません。サンゴの小さな突起にまぎれ、色や形までそっくりに似せて身を隠します。あまりに小さく擬態も巧みで、専門家でも見つけるのが難しいほどです。いっぽう、オオウミウマのように35cm近くに達する大型の種もいます。

日本で見られる仲間

日本の沿岸にも、数種のタツノオトシゴが住んでいます。単にタツノオトシゴと呼ばれる種のほか、大型のオオウミウマなどが知られています。よく似た仲間には、細長い体のヨウジウオもいます。海藻そっくりのリーフィーシードラゴンも同じ科の魚で、飾りのような突起で藻に化けます。

人とのかかわり

縁起物と、お守りの意味

「竜の落とし子」の名を持つタツノオトシゴは、古くから縁起物として大切にされてきました。オスが子を産む姿から、安産や子宝のお守りにされることもあるほどです。西洋でも、幸運や忍耐の象徴として、船乗りや装身具のモチーフに使われてきました。海の竜の子という名が、めでたいイメージを長く支えてきました。

漢方薬としての需要

いっぽうで、乾かしたタツノオトシゴは、漢方薬の材料として使われてきました。乾燥したものは高値で取り引きされ、重さあたりで金にも迫るとされます。この需要のために、世界では年に数千万匹ものタツノオトシゴが捕られています。薬用だけでも、年に2000万匹ほどが捕られているという推計もあります。観賞用や土産物としても、多くが海から持ち出されてきました。

数を減らす海の妖精

捕りすぎに加え、海草の茂みが減ったことも数を脅かしています。多くの種が数を減らし、2002年からは輸出入がワシントン条約で見張られるようになりました。飼育もできますが、繊細で餌の世話も難しい魚です。近年は卵から育てる養殖も進み、野生に頼らない道が探られています。

参考

  • Wikipedia(英語版)「Seahorse」― 分類・形態・遊泳・食性・オスの妊娠・保全の各節
  • Wikipedia(日本語版)「タツノオトシゴ」ほか― 日本産の種と生態
  • 各水族館・海洋保全団体の解説― 育児嚢での出産・漢方需要とワシントン条約

画像出典

サムネイル画像: H. Zell, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

タイトルとURLをコピーしました