ケンプヒメウミガメは、世界でいちばん小さく、そしていちばん絶滅が心配されているウミガメです。すみかはメキシコ湾を中心とした海だけ。しかも、たくさんのメスが昼間にいっせいに上陸して卵を産む「アリバダ」という、めずらしい産卵をすることで知られています。一度は絶滅寸前まで数を減らしましたが、国をこえた保護によって少しずつ回復してきました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:爬虫綱 Reptilia
- 目:カメ目 Testudines
- 科:ウミガメ科 Cheloniidae
- 属:ヒメウミガメ属 Lepidochelys
- 種:ケンプヒメウミガメ Lepidochelys kempii
和名・英名
- 和名:ケンプヒメウミガメ
- 英名:Kemp’s ridley sea turtle(ケンプス・リドリー・シータートル)
名前の由来
「ケンプ」は、このカメを紹介したアメリカの漁師リチャード・ケンプさんの名前からきています。「ヒメ」は小さくてかわいらしいという意味で、体が小さいことをあらわしています。属の名前 Lepidochelys には、姉妹のような近い仲間として「ヒメウミガメ(オリーブヒメウミガメ)」がいて、この2種だけが「ヒメウミガメ属」の仲間です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲羅の長さ 約60〜70cm・体重 約35〜45kg(ウミガメで世界最小) |
|---|---|
| 分布 | メキシコ湾を中心とした大西洋の西側 |
| 生息環境 | 浅い沿岸の海。産卵は砂浜(子ガメの時期は外洋) |
| 食べ物 | おもにカニ。貝・エビ・クラゲ・魚なども食べる |
| 寿命 | 野生でおよそ30年以上と考えられている |
| 保全状況 | IUCN:深刻な危機(CR)/ワシントン条約 附属書I |
世界最小で、いちばん希少なウミガメ

ウミガメの中でいちばん小さい
ケンプヒメウミガメは、甲羅の長さが60〜70cm、体重は35〜45kgほどしかありません。世界のウミガメの中でいちばん小さい種です。大きいものだと200kgをこえるアカウミガメと比べると、その小ささがよく分かります。甲羅は上から見るとほぼ丸に近い形で、色は灰緑色。おなか側は白っぽい黄色をしています。この丸っこい甲羅も、見分けるときの目印になります。
世界でもっとも絶滅が心配されている
ケンプヒメウミガメは、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで、いちばん危険なランクのひとつ「深刻な危機(CR)」に指定されています。じつはウミガメの中で、もっとも絶滅が心配されている種なのです。20世紀の中ごろ、卵の採取や混獲によって数が激減し、産卵にくるメスがほんの数百頭にまで減ってしまいました。そこから、国をこえた保護によって少しずつ数を取りもどしてきた、回復のシンボルのようなウミガメでもあります。
昼間に、みんなで産む「アリバダ」

産卵地は、ほとんどメキシコの一つの浜
ケンプヒメウミガメの産卵は、とても場所がかたよっています。世界のメスの大多数が、メキシコのタマウリパス州にある「ランチョ・ヌエボ」という一つの海岸に集まって卵を産むのです。ひとつの浜にたよっているため、そこが台風や開発の被害を受けると、種全体があぶなくなります。だからこそ、この浜を守ることが保全のいちばん大切な仕事になっています。
いっせいに上陸する「アリバダ」
アリバダ=「みんなで到着」
ケンプヒメウミガメは、たくさんのメスが同じ日にどっと上陸して、いっせいに産卵します。これを「アリバダ」といい、スペイン語で「到着」という意味です。同じときに大勢で産むことで、卵やヒナが天敵に食べられても、全部は食べつくされずに多く生き残れると考えられています。1947年の古い映像には、1日に何万頭もが産卵する様子が記録されていました。
昼間に産む、数少ないウミガメ
もうひとつめずらしいのが、産卵する時間です。多くのウミガメは夜に上陸して産卵しますが、ケンプヒメウミガメは明るい昼間に産卵します。昼に卵を産むウミガメは、この仲間(ヒメウミガメ属)くらいで、とてもめずらしいことなのです。
卵からかえって、大人になるまで

卵は45〜60日でかえる
メスは砂浜に穴を掘り、1回に100個ほどの卵を産みます。卵は45〜60日ほどで赤ちゃんガメになり、砂の中からいっせいにはい出して海をめざします。ほかのウミガメと同じように、赤ちゃんの性別は卵のときの砂の温度で決まります。生まれてすぐの赤ちゃんは、カニや鳥などにねらわれるため、無事に育つのはほんのわずかです。
メキシコ湾流に乗って旅をする
海に入った赤ちゃんは、あたたかい「メキシコ湾流」に乗って旅をします。一部の子ガメは大西洋をわたり、遠くアメリカ北東部の海まで運ばれることもあります。大きく育つと、メキシコ湾など浅い沿岸の海へもどり、大好物のカニをさがす暮らしを始めます。強いあごを持ち、かたいカニの殻もかみくだいて食べる、りっぱなハンターです。
見分け方と、日本での記録
ヒメウミガメとの見分け方
ケンプヒメウミガメは、近い仲間の「ヒメウミガメ(オリーブヒメウミガメ)」とよく似ています。どちらも小さく丸い甲羅を持ちますが、ケンプのほうが甲羅は灰緑色っぽく、ヒメウミガメはより濃いオリーブ色をしています。すみかも大きく違い、ケンプヒメウミガメはメキシコ湾を中心とした大西洋側だけ、ヒメウミガメは世界中のあたたかい海に広くすんでいます。
日本ではまず会えないウミガメ
ケンプヒメウミガメは大西洋のウミガメなので、太平洋にある日本では、まず見ることができません。日本の海で見られるウミガメは、アオウミガメ・アカウミガメ・タイマイなどが中心です。けれど世界には、このケンプヒメウミガメのように、遠い海で暮らすウミガメもたくさんいます。一度は絶滅寸前まで減りながら、国をこえた保護で数を取りもどしつつある、大切な仲間の一つです。



参考
- IUCN Red List「Lepidochelys kempii」(深刻な危機CR・ワシントン条約附属書I)
- NOAA Fisheries「Kemp’s Ridley Turtle」(世界最小のウミガメ/産卵地はほぼメキシコのランチョ・ヌエボ一か所/昼にいっせいに上陸するアリバダ/おもにカニを食べる/20世紀に激減し国際協力で回復途上)
- Wikipedia「Kemp’s ridley sea turtle」英語版(甲長58〜70cm・体重36〜45kgで世界最小かつ最も絶滅危惧のウミガメ/昼に産卵する数少ないウミガメ/ヒメウミガメ属=姉妹種はヒメウミガメ)
画像出典
アイキャッチ画像: U.S. Fish and Wildlife Service Southeast Region, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons


