インターネットウミウシ

インターネットウミウシの側面・長い突起と黒放射状網目 ウミウシ類

インターネットウミウシは、体長最大120mmの熱帯・亜熱帯インド太平洋の裸鰓類です。灰青色〜乳白色の体地に長い突起が並び、突起間を黒い放射状の網目が繋ぐ姿がコンピューターネットワーク図を思わせることから、生物名としては風変わりな和名がついた大型のツヅレウミウシです。学名は Halgerda okinawa。2000年、アメリカ・グアム大学のクレイ・カールソン(Clay Carlson)とパティ・ジョー・ホフ(Patty Jo Hoff)夫妻がタイプ産地の沖縄で採集した個体をもとに新種として記載し、種小名 okinawa はタイプ産地に由来します。和名の「インターネット」は1999年、益田正一(Masaichi Masuda)氏のガイドブックで「網目模様がインターネットのネットワーク図に見える」ことから命名された、20世紀末の時代性を反映した命名として知られる種です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:ツヅレウミウシ科 Discodorididae
  • 属:Halgerda 属(ヒオドシウミウシ属またはモザイクウミウシ属)
  • 種:インターネットウミウシ Halgerda okinawa

和名・英名

  • 和名:インターネットウミウシ(1999年 益田正一氏による命名)
  • 異名:オキナワヒオドシウミウシ(沖縄緋縅海牛・中野理枝氏による標準和名の提唱)
  • 英名:学名 Halgerda okinawa で呼ばれることが多い

別名と名前の由来

和名の「インターネット」は1999年、水中写真家の益田正一氏がガイドブックで初めて公表した命名で、背面の突起と黒い網目模様がコンピューターネットワークの図式に見立てられました。インターネットが日本の一般家庭に普及し始めた1990年代末の時代性を反映した、生物名としては極めて風変わりな命名として広く知られています。一方、海洋生物学者の中野理枝氏は種小名 okinawa と旧属名ヒオドシウミウシ属を組み合わせた「オキナワヒオドシウミウシ(沖縄緋縅海牛)」を標準和名として提唱し、両方の名称が並立する状態が続いています。学名の種小名 okinawa はタイプ産地である沖縄に由来する命名で、2000年にグアム大学のクレイ・カールソン(Clay Carlson)とパティ・ジョー・ホフ(Patty Jo Hoff)夫妻が新種として記載しました。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約7〜12cm(最大120mm・大型種)
体色灰青色〜乳白色(時に黄色みを帯びる半透明)/背面に長い突起が並び、突起間を黒い放射状の網目が繋ぐ/突起の先端は黄色
触角・鰓触角(rhinophore)は白色で褶葉の先端が茶褐色/二次鰓は白色で軸が茶褐色
分布インド太平洋/日本(八丈島・伊豆大島・伊豆半島〜琉球列島)/インドネシア/フィリピン
生息環境深めの岩礁域/水深30〜76m/春頃に浅場へ上がって交接・産卵
食性カイメン食(ツヅレウミウシ科の一般的な食性)
寿命数か月〜約1年(裸鰓類全般)
保全状況IUCN未評価。分布域では観察例が報告されるものの、深場が多く出会う機会は限られる
インターネットウミウシの上からの姿・黒網目模様
Bernard DUPONT, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

ネットワーク図のような黒い放射状の網目

背面の長い突起と黒線の網目

灰青〜乳白色地の背面

体地色は灰青色から乳白色までの寒色系で、時に黄色みを帯びる半透明の個体もいます。他のイロウミウシ科の派手な色使いとは対照的な控えめな地色ですが、後述の黒い網目模様が強いコントラストを作ります。体表は柔らかく、指で触れると弾力があります。

長い突起が並び黒線が繋ぐ

背面には円錐状〜円柱状の長い突起が並び、突起と突起の間を黒い放射状の線が繋いで独特の網目模様を作ります。突起の先端は黄色に色づき、白い体地・黒い網目・黄色の突起先端という3色のコントラストが本種の視覚的特徴です。この網目パターンがコンピューターのネットワーク図に見立てられ、和名「インターネットウミウシ」の直接の由来になりました。

白い触角と二次鰓に茶褐色のアクセント

触角は白色で褶葉先端が茶褐色

頭部から立ち上がる1対の触角(rhinophore)は白色で、褶葉(ラメラ)の1枚1枚の先端に茶褐色の色素が乗ります。触角は細長く伸び、水中の化学物質を感じ取る化学受容器として働く感覚器官です。伊豆半島産の個体では突起先端が黒っぽくなる地域差も観察されています。

二次鰓は白色で軸が茶褐色

体の後方に開く二次鰓(gill)も白色で、羽状の葉の中央を通る軸に茶褐色の線が入ります。触角と同じく白+茶褐色の配色で、体表の黒網目とは別のアクセントを作ります。危険を感じるとすばやく体内に引き込める構造です。

インターネットウミウシの側面・別角度
Bernard DUPONT, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

「インターネット」と「オキナワヒオドシ」の名称争い

1999年に益田正一氏が「インターネット」と命名

1999年、水中写真家の益田正一氏がダイビング向けのウミウシガイドブックで本種を紹介する際、「背面の網目模様がインターネットのネットワーク図に見える」ことから「インターネットウミウシ」の和名を提唱しました。インターネットが日本の一般家庭にADSL回線などで普及し始めた時期にあたる命名で、当時の時代性を色濃く反映した和名です。生物名として現代技術の用語を採用した稀な例として、ウミウシ愛好家の間で話題を呼びました。

「オキナワヒオドシウミウシ」を標準和名として提唱

その後、海洋生物学者の中野理枝氏は「和名は学名の情報を反映すべき」との立場から、種小名 okinawa と Halgerda 属の旧和名「ヒオドシウミウシ属」を組み合わせた「オキナワヒオドシウミウシ(沖縄緋縅海牛)」を標準和名として提唱しました。「緋縅(ひおどし)」は鎧の縅(おどし)技法の1つで、Halgerda 属の網目模様を鎧の縅糸に見立てた命名です。両方の和名が現在も並立し、ダイビング界では「インターネット」、分類学の文脈では「オキナワヒオドシ」が使われる場面が多い状況が続いています。

インターネットウミウシ(静岡県大瀬崎の観察例)
Izuzuki Diver, CC BY-SA 2.0 jp, via Wikimedia Commons(静岡県大瀬崎)

2000年に沖縄で新種記載された大型種

カールソン&ホフ夫妻による2000年記載

グアム大学のカールソン夫妻

本種は2000年、アメリカ・グアム大学の裸鰓類研究者クレイ・カールソン(Clay Carlson)とパティ・ジョー・ホフ(Patty Jo Hoff)夫妻がタイプ産地の沖縄で採集された個体をもとに新種として記載しました。カールソン夫妻はグアム大学で長年にわたり太平洋地域の裸鰓類分類学に貢献した研究者ペアで、前年1993年に記載したテンテンウミウシ Halgerda brunneomaculata と同じく Halgerda 属の日本近海種として本種を発表しています。

Halgerda属最大級の120mm

体長最大120mmと Halgerda 属の中でも大型の1種で、他の Halgerda 属より突起が長く、網目が明瞭な点で識別できます。属内では際立って大型で、水中で見つかった際の存在感が強い種として知られています。

カイメン食のツヅレウミウシ科

インターネットウミウシはツヅレウミウシ科の一員として、サンゴ礁や岩礁のカイメン(海綿)を食べて暮らします。インターネットウミウシは大型で目立つ姿を維持できるだけの化学防御を餌のカイメンから借り、水深30〜76mの深場でも捕食者に襲われにくい存在になっています。灰青地に黒網目という控えめな配色は、深場の暗い環境で岩やカイメン群体の色に紛れる保護色として機能する可能性があります。水深30〜76mの深場が主な生息域で、Halgerda 属の中でも特に深い水深に生息する種類です。

春に浅場へ上がって交接・産卵

裸鰓類の例にもれず、インターネットウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。伊豆半島の観察記録によれば、春頃に交接と産卵のためやや浅場(水深30〜40m)に上がってくる季節性が知られています。産卵時には春頃に水深30〜76mの深場から浅場へ上がり、白いリボン状の卵塊を岩やカイメンに残す独特の垂直移動が観察されます。孵化したベリジャー幼生は数週間プランクトンとして漂流した後、水深30m以深の岩礁域のカイメン近くに着底することが多く、浅場に姿を現す春先の産卵期にのみ稚ウミウシから成体までを観察できる限られた機会が生まれます。

八丈島・伊豆から琉球列島までの深場に分布

日本近海の観察は伊豆半島の水深30m前後

日本近海では八丈島・伊豆大島・伊豆半島(大瀬崎・IOP・八幡野・神子元)から紀伊半島・四国・九州・奄美大島・沖縄本島・八重山諸島まで幅広く分布します。伊豆半島の大瀬崎では水深32〜35m前後の深場で観察された記録が多く、通常のダイビングでは届きにくい水深に生息する種です。伊豆海洋公園(IOP)では春に水深35m付近で交接個体が観察されるなど、季節と水深がリンクした種として愛好家に知られています。

海外分布とHalgerda属の同属種

海外ではインドネシア・フィリピンなど東南アジアのサンゴ礁域からも観察例が報告されており、インド太平洋の深場に広く分布する種と考えられています。Halgerda 属はインド太平洋を中心に約40種が知られ、日本近海には本種のほかにテンテンウミウシ Halgerda brunneomaculata、ヒオドシウミウシ Halgerda carlsoni などが分布します。インターネットウミウシは属内でも特に大型で、長い突起と黒い放射状網目の組み合わせで一目で識別できる種です。

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